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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第三章 長い長い時を経て、《悪魔》の中で何かが変わり始めていた
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第十一話 栄光

「《愛情》といってもいろいろあるんだよね。例えばラギンとダグラの師弟愛。朔と咲夜の兄妹愛。そして――」

「あいつらには兄妹愛なんてないぞ」

 「咲夜、なつみは」


 心配そうな声で、お兄ちゃんは言った。その眼に、《情熱》はない。今は普通の、同級生を心配する男の子だ。


「とりあえず医務室に運んだよ。意識は戻ってないけど、今はパパが診てる。お兄ちゃんも来る?」


「いや、僕は消火活動に専念する。ニュクスとヘメラさんも行ったんだろ? ダグラさんとエアはどうした」


「探しているんだけど、二人ともいないの――どこに行ったんだろう」


 お兄ちゃんが、目を伏せた。


「幹部戦は――終わったん、だよな――」


 そう。私たちと、影の封印者(シャドー・シーラー)の幹部戦は終わった。最後は、明日、ネクロ―とこっちの「残っているメンバー」の闘いだ。


 残っているメンバー――研究所の回復装置でも一日で復活できないほど負傷しているのは、なつみ先輩だけだ。だから、「残っている」のは、なつみ先輩以外のすべてのメンバーと言える。


 数で言えば私たちの方が圧倒的に有利だ。だけどネクロ―は、私たちの手数を上回るほどの力を持っている。


 それに――ニュクスは、ネクロ―と1対1でやりたいだろう。


――どちらにしても、明日のことだ。今はとにかく、いなくなった戦士の捜索、植物の森の消火、そして、なつみ先輩の様態の方がずっと大事だ。


「行って、お兄ちゃん。ラギンや銀太先輩と、うまくやってね」


「うまくやっても――元には戻らない」


 お兄ちゃんの悲痛な声。《力》を使っていなければ、私の兄は、マイナス思考で、頼りなく――そして、現実的な人だ。


 「そうだね。でも、ニュクスはどうしても火を消したいんだよ。あの森の先には――昔、ニュクスとヘメラ、エアが暮らした家があるから」


 神寺宮炸人と、一緒に。


 私は、闇の国から動かずに、エアとダグラさんの捜索に行ってくれたママからの連絡を待った。しばらくすると、携帯が鳴った。


 「もしもしママ? いた?」


「いや、いろんな国を探したがまだ見つからない。だけど、ダグラの居場所の見当はついてるよ。あいつがいじけたとしたら、きっとあそこに行くさ」


「いじけた? ダグラさんはなんでいなくなったの」


「なつみのことで相当ショックだったんだろう。今から向かってみる。エアは、戻ってないか?」


 ママの声は明るい。絶望的な状況でも、笑顔を絶やすなと言われたのだろう。


 《絶望》の、使徒から。


 「まぁとにかく、ネクロ―との闘いは明日なんだから、咲夜はなつみちゃんのことを心配してあげなよ」


 その時、遠くから強い邪気が迫って来るのが分かった。ママに救援を頼もうかとも考えたけれど、間に合わないだろう。私一人で相手をしないといけない。この《力》――ネクロ―と同等だ。


 「やっと俺の出番だ。さぁ、殺されたい奴はどいつだ?」


白い翼をはためかせ、華麗に着地をした男。初めて会うけれど、ニュクスから話は聞いている。《天使》を呑み込んだ、いわばニュクスの対極にいる存在――。


 「クライム――」


「一人か? 他の仲間はどうした? 妖精は? 《悪魔》は?」


 下卑た顔で私を挑発するクライム。毅然とした態度で、答える。


「今は誰もいないわ。それより、どうしてこのタイミングで出てきたの? ニュクスの話では、45年も地球で息を潜めていたらしいじゃない」


「魔王様のお許しが出たんだよ。思う存分、暴れていいってな」


 時の、魔王――。あの日、どこかから聞こえる声を聴いただけで、その正体は何も知らない。幹部をすべて倒したというのに、私たちは結局魔王に踊らされているというの?


「まず一匹!」


 クライムが高速で迫ってきた。臨戦態勢に入ろうとした瞬間、氷のバリアが私を守った。


「なんだ!? 《悪魔》か!?」


「新垣なつみが目を覚ました。面会に行ってやれ」


「パパ……!!」


「誰だ貴様は? ほとんど《力》を感じない――のこのこ死にに来た、というわけか?」


 パパも挑発には乗らず、相手の眼を見据えて冷静に言った。


「生憎お前と闘うのは私ではない――こいつだ」


 パパの頭上に乗っかっていた妖精――エアだった。


「あたちが相手でちゅ」


「エア! 今までどこに行ってたの? 探したんだから!」


「心配かけて、ごめんなさいでち……もう、大丈夫でち。迷い風は――去ったでち」


「迷い風?」


 エアは、私の質問には答えず、早口で言った。


「《力》を、貸してくださいでち」


「えっ、でも……」


すぐそばにはクライムがいる。そんな時間なんて――。


「なんだ? まさかそのチビが、昔俺を吹き飛ばした妖精だというのか――? 妙な真似はさせない!」


 クライムがエアに飛びかかった。やっぱり、ダメだ!


「なにっ!」


 恐る恐る目を開けると、そこには私の見知った後姿があった。


「お助けに参りました。神寺宮、咲夜さん?」


私は、驚きを隠せなかった。そう、確かにあの時、私は――この手で、彼女を殺したはずだった。


「アイス・プリンセス……」


「さぁ、早く手をお繋ぎなさい!」


「あ、う、うん!」


 状況が飲み込めないまま、エアと手を握った。エアは白い光に包まれ、成長していく。通常なら離していい、というタイミングでも、何も言わない。


「ま、まだ?」


すぐそばでは、アイス・プリンセスがバリアを張りながら懸命にクライムの攻撃をしのいでいる。長く手を繋げば繋ぐほど、私のパワーは吸われていく。どちらの意味でも、余裕はなかった。


「離していい」


白い光の中から聞こえたエアの声は、どこか大人びて、ぶっきらぼうに聞こえた。それもそのはず、姿を現したエアは――


「レベル6。人間の見た目で言うと、30歳ってところか」


**


 「入るよ、先輩」


私が部屋に入ったとき、先輩は虚ろな目で天井に手を伸ばしていた。その手は、身体は、包帯でぐるぐる巻きにされている。


「ああ、咲夜ちゃんか」


「何があったのか、憶えていますか」


「私は、誰かにやられた――殺していなかったはずのオータが殺された」


「はい」


「なぁ、咲夜ちゃん。私を攻撃し、オータを殺した奴のこと、憶えているか――いつっ!」


 なつみ先輩は身体を乗り出そうとしたが、できなかった。


「ダメです。まだ動ける状態じゃない。――いいえ、私も憶えていません」


「だけど不自然だとは思わないか、すぐそばにいたはずなのに」


 なつみ先輩の悔しそうな眼。その眼は、お兄ちゃんと同じ眼をしていた。


「今は考えないでおきましょう。とにかく、無事でよかった」


「他のみんなはどうしてる? ネクロ―との対戦は、明日でいいんだよな」


「ええ。でも、今厄介な人と闘っている人がいます」


「誰だ? 私もすぐに回復して――」


 焦るなつみ先輩を見て、私はかえって落ち着こうと努めた。急展開すぎる。そして――なつみ先輩は、何も知らない。


 「先輩、何が知りたい?」


「え……」


 なつみ先輩は一瞬目を丸くした。そして、まっすぐ私をみた。


「私の両親のことと、この星の、すべてを」


「わかりました。私もニュクスからの又聞きだけど、知っていることを教えます。ところで先輩、私、時々思うんだ」


「ん?」


「私たち、本当に英雄なんだろうか、って」



**


 「くらいな!」


私は、天上に手をかざし、暗雲を集め、雷をクライムに向かって落とした。クライムはよけることだってできたのに、わざとあたりに行くようなそぶりを見せた。クライムの頭に直撃する。


「フ、いいエネルギーになった」


「なに?」


「はあああああ!!」


 クライムが両手を広げ、《力》を開放する。私の浴びせた雷撃の数十倍の威力が、私を襲う。


「ぐっ……そうか、クライムは私の雷を帯電して光のエネルギーに変えたんだ……」


 落ちていくさなか、私の身体を白い光が包む。


「どうした? 若返ったじゃないか」


 馬鹿な――! 私のレベル6が、こうも簡単に――!


「くっ!」


 落ちながらも、なんとかクライムに向かって竜巻を放つ。しかし、奴の炎がそれを阻んだ。


「どうした? その程度か!」


 そのまま火炎を放つクライム。よけられない。


「ぐああああああああ!」


「まずい、また若返っている!」


「攻撃を受けるたびに――弱体化している。何故だ? エアはこれほど簡単に敗れる戦士じゃない」


「私も参戦します! 二人でかかれば、なんとか――」


「いや、無理だプリンセス。あの男は――そういう次元を超えている」


 「くっ……」


 今の私はレベル4。まだ、闘える!


「すべてをなぎ倒す烈風の神よ! その偉大なる進撃によりて、信奉の風に新たな力を! 逆襲の向かい風エクディ・アンタナクラシィ!」


この技でもう一度、あいつを吹き飛ばしてみせる!


「あの時の技か……だが、同じ手は二度もくわない!」


 クライムが炎の壁を出現させた。私の嵐は、壁にさえぎられて進攻しない。それどころか、私の嵐を受け、火勢が強まっている。


「そ、そんな――」


 クライムが光の閃光を放った。巨大な炎の壁を突き抜け、私の腹に刺さる。


「うわああああ!」


白い、光――!


 「私は、私はまだ――!」


「どんどん若返っている――これ以上は危険です! 佐久間さんっ!」


「……」


 「ああっ!」


ついに私は、地面に打ちつけられた。クライムははるか上空で私を見下ろしている。


「はぁ、はぁ……」


 どうして――? どうして私は、こんなにも――。 ううん、まだ、闘える!


私はクライムに向かって、もう一度竜巻を放った。クライムは光の閃光で迎え撃つ。普段なら相手の攻撃をからめとって粉砕する私の竜巻は、閃光を素通りさせた。


「くっ!」


 竜巻に見切りをつけた私は、空を飛んでクライムのすぐそばまで接近した。


「はぁっ!」


 成長して長くなった脚で、クライムを攻める。でも。


「自分の《能力》が《信じ》られなくなったか? だが、肉弾戦でも結果は同じだ」


「!」


 クライムが自分の身体をマグマのバリアで覆った。じかに触れた脚が悲鳴を上げる。


「きゃああああああ!」


また、堕ちてゆく――。そして、白い光が私に残酷な事実を宣告する。


「もう――10歳の姿に……! 黙って見ていろと言うのですか、佐久間さん!」


「私はまだ、闘える――! 闘える、もんっ……!」


 わたしは、また地面にドンって背中をついた。どうしてなんだろう? さっきクライムは、わたしが自分の《力》を信じられなくなったと言っていた。本当かな?


そんなことない、と言いたいけれど、本当は――。


 「ああっ、ついに5歳に戻ってしまった!」


「ククク、ついに何もしなくても弱体化したか。これなら文字通り赤子の手をひねるようなものだな」


 あたちは――自分の力を信じられないでいる――。


あの時と、同じように。


「ハハハハハ! 妖精は終わった! 俺の復讐が完遂する栄光の日は、すぐそこだ!」


「どうするんですか、佐久間さん!」


「心配するな。あれを見ろ」


「え……?」


 「ここまでよく頑張ってくれた。あとは私に任せて、ゆっくり眠るといい。――私の、たった一人の娘よ」


読んでいただきありがとうございました。お盆休みに結構更新できてよかったです。次回の更新は遅れると思いますので、のんびりお待ちください。

次回、第十二話「追い風」。お楽しみに!

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