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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第三章 長い長い時を経て、《悪魔》の中で何かが変わり始めていた
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第七話 奔走

「弱いところを補い合う、強い関係。そういうの、ボクは嫌いじゃないよ」

 「負け惜しみはいいんだよ! この一撃で消えろ!! 激龍波鬼(トーレ・ドラコーン)!!」


 水龍の口から放たれた激流が、一直線に向かってくる。しかし――拙者は、もう迷うことはない!


「はっ!」


 印を結び、水の膜を張って攻撃を受け流す。


「ハッ、バカの一つ覚えのバリアかよ!! 《悪魔》の好きな戦術らしいな、調べはついてるんだ!」


「ただの防御壁と思ってもらっては困る……」


「なにっ――バリアが膨れ上がっていく……まさか、水龍の攻撃を吸収したのか!?」


 新たな水を得て、どんどん膨れ上がる水膜を確認し、思い切り下に潜る。すると、自ら張った膜から抜け出すことができた。


 「ま、まさかお前……これがバリアだってことすらフェイクだったってのか……」


「左様。お返しでござる!!」


 拙者は下から巨大な水の膜――いや塊を支え、そしてそのまま水龍の腹に投げつけた。


「巨大――エネルギー弾……」


 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


悲痛な叫びをあげ、水龍は腹から決壊し、そのまま大きな音を立てて海底に倒れこんだ。《力》による維持が不可能になったのか、海の水と混ざるようにして消えていった。



 「ば、バカな……いや、落ち着け――ここは海。水源ならいくらでもある……!! 何度でも、立て直せる!」


 鬼は、また水のエネルギーを集中させ始めた。隙だらけの今が絶好の攻撃の機会だが、またしても、息が限界を迎えていた。


 水面に上がろうとする拙者を、鋭い声が劈く。


「ハッ! 大口叩いておきながら、やはり人間風情はその程度! 自ら矮小な存在であることを、証明してるじゃねえか! いいか? この世に『時間』なんてもう必要ない! 絶対的な《力》だけが、この世界を統べるのに必要なものさ!」


「……」


もはや、話にならない、無視して進もうとすると、背中を思い切りつかまれた。


「がほっ……」


「もう水龍の完成を待つ必要はねぇ! このまま金棒で殴り殺してやる! ――あの時のようにな」


鬼が金棒を振りかざした。しかし、鋼の剣がそれと相対した。


「剣だと……そんなものどこから――チッ、具現化か!」


 一瞬の時間稼ぎのうちに、一気に陸へとたどり着く。そう、拙者は《冷静》だけの術者ではない! コロウ殿、ダグラ殿――様々な人々の想いを受け継ぎ、今ここに立っている!



「せっかく来たはいいけどさ」


「ん?」


「海中で闘ってるんじゃあ、俺ら見れなくね?」


「心配すんな。必ずあいつらはあがってくる。海中なんかで小ぢんまりと終わっちまうほど、奴らの闘いは簡単じゃない――ほらな」



 「て、てめぇ……一般の水属性が使えないはずの《絶望》の《力》、なんでお前なんかが……」


「鬼畜には分からぬかも知れぬが――『人間』は、一人では生きられぬ。教えを請うたのでござる。闇に」


「へっ、矮小は矮小なりの生き方をするってわけか――いいだろう、じゃあ『選ばれた能力者』の、最高峰の具現化能力で消し去ってやる! 来いっ!」


 鬼がそう叫ぶと、巨大地震かと思われるほどの、轟音――海鳴りが水の国中に響いた。そして、海から現れたのは。


「双頭の……水龍……!!」


「私も進化してんだ。この龍は、さっきまでとは訳が違う。さあ行け! あの猿を叩き潰せ!」


 「感じる……あの龍、近くにいるだけでやばい部類だ」


「大丈夫なのか?」


「ああ、あいつは負けないさ」


 拙者に向かってくる右側の龍の首。拙者はそれをかわしながら、鬼への攻撃の機会を窺う。


そうだ。水龍を倒せずとも良い。あくまで狙いはあの鬼畜。龍の攻撃をかいくぐりながら、一閃を試みれば――。


 「逃がすかよォ!」


龍の攻撃をさけ、後退し続けていた拙者であったが、左の首に後ろを取られてしまった。


「なっ!?」


「あの首、あんなに伸びるのか!」


「グルルルルル……」


 メキメキ、と痛々しい音を立てながら、拙者の首が後ろから締まる。長い首によって、拙者の首だけでなく手足の自由も奪われてしまった。


「……!」


「神山、やばくないか」


「大丈夫だ」


「どうしてそう言い切れる」


「だって、あいつ――これだけ追い込まれても、《冷静》だ。それに、目が燃えてる」


「それって――」


 「あはは! あっけなかったな! まるで死刑囚だぜ、てめぇ!」


「……」


「さて、お前に死に方を選ばせてやろう。このまま左の龍に絞め殺されるか、右の龍の激流を受けて死ぬか、私じきじき殺してやるか――3択もやったんだ、10秒で選べ。10」


 拙者には、拙者を支えてくれる仲間がいた。


「9」


 ホクスイ殿に教えを受けた。


「8」


 『守るべきもののために、その形を変化させろ』。継承された、亡きコロウ殿の教えを忠実に守った。


「7」


 ダグラ殿が、コロウ殿の教えを引き継いで拙者らを鍛えてくれた。


「6」


 時の魔王を倒すため、ニュクス殿と共闘することとなった。


「5」


 銀太殿という、拙者の《ポーター》を守るよう仰せつかった。


「4」


 朔殿という、かつての英雄の子孫とも出会った。


「3」


 咲夜殿、ヘメラ殿、なつみ殿――たくさんの仲間と出会い、衝突し、そして分かり合ってきた。そしてそれは、まだ道半ばだ。


「2」


 拙者は、多くの人に支えられ、今ここに立っている。人の世は、決して楽なものではない。新たな壁、信頼に背くような出来事、そして、「死」という絶対不変の人間の(ことわり)――。


「1」


 しかし、だからこそ。


「0! どうだ? 死の希望は決まったか?」


「……」


「返事がねえなら。私が直接殺してやるよォ!」


 拙者は告げる。《冷静》に、自分の《感情》を。


 「確かに」


「あん?」


「銀太殿と朔殿がいなければ――拙者は貴殿に敗れていた。しかしそうはならなかった。それは、銀太殿が、立派な戦士であったからだ」


「バカを言うのもいい加減にしろよ――あいつは《無能力者》だ」


「銀太殿は確かに闘ってくれた」


 そう。銀太殿は言っていた。「まだお前は闘える。俺が闘えるように」、と。


「この星において――否、生きる道において――大切なのは《影》のない、有能な者だけで世界を形作ることではない。不完全でも、己と他者の《影》を受け入れ、それと共に生きてゆくこと。その勇気と覚悟なのでござる!」


「何を言っている……?」


「うたかたは、消えては結び、また消えゆく――だからこそ、拙者らは光を見ようと奔走するのでござる!」


「黙れ! ぶっ殺してやるよォ!」


 鬼がこちらに向かってくる。もてるすべての力を、鬼にぶつける。《冷静》のかたちが、少し変わった。この熱い想い――朔殿と、分かり合えた気がした。


「砲・蒸・気!」


「なにっ、蒸気だと!?」


 拙者の身体が異常に熱くなっていくのがわかった。後ろで拙者を締め付けていた龍は、密着した熱気によって形を徐々に失い、弾け飛んでいき、そしてまた崩れた。


「水属性のお前に、《情熱》が宿ったというのか……? う、嘘だ……完璧な《感情》は、他の《感情》が入り込む余地のない、完全無欠な――」


 拙者の胸に、自然と白い蒸気のエネルギーが蓄積される。そして。


「これまででござる!」


「いっけええええええええええええええ!!」

 

少し離れた場所から、銀太殿の声が聞こえた。蒸気の塊を、鬼に向かって発射した。


 「へへ、そういやあいつも、どこか辛そうだった。だけど誰かのために、頑張れたのかな――」


 鬼は、最期に何かつぶやくと、半身の龍ごと白い光に包まれ、静かに消えていった。


 拙者らは、勝った。



「やったな、ラギン!」


 銀太殿が手を上にあげた。


「銀太殿、それは……?」


「知らないのか? ハイタッチだよ、ハイタッチ」


 銀太殿と手を合わせた。ひどく軽快な音がし、とたんに力が抜けて倒れこんだ。


「うおっと、大丈夫か」


 朔殿に抱き留められながら、心地よい眠りにつく。


 勝ちましたよ、コロウ殿。


「お疲れ様。ラギン、銀太」


読んでいただきありがとうございました。

設定を初期と変えているところがあり、そのせいで時系列に乱れが生じています(また)。

無計画のうちに書き始めてしまい、申し訳ありません。結構重大なところは明日直します。

また、ストーリーの節目で改めてお詫びをさせてください。

次回、第八話「愛」。お楽しみに!

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