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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第三章 長い長い時を経て、《悪魔》の中で何かが変わり始めていた
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第五話 海溝

「全ては海から始まった。始まったほうが良かったのかどうかは、分かんないけどね」


「悲観的ね〜ふふふ」


「美海は黙ってて!」

 ニュクス殿が、帰ってきた。

 朔殿が、そして、拙者らが――ずっと待ち望んでいた結末。

 しかし、これはまだ、元に戻ったというだけに過ぎぬ。拙者らは、必ずや時の魔王を討ち倒し、平和な世界を取り戻さねば――。


 「ラギン、昨日は――ううん、今までも、ありがとう」


 昨日はニュクス殿が戻られ、皆で大騒ぎしていた拙者らであったが、次なる幹部戦を迎えた早朝には、また緊張感と静けさが戻ってきていた。


 「拙者と朔殿は、あまり話すことはありませんでしたな」


「東京で奴らと闘って、喧嘩したぐらいだな、はは」


「その最中に、ニュクス殿が」


「ああ、そうだったそうだった――なあ、ラギン」


 朔殿が、真剣な瞳で拙者を見据えた。


「今まで、ごめん。俺は今まで、家族に捨てられた気がして、勝手に父さんに対抗心を燃やしてて――だから、親父のもとにいたラギンのことが気に食わなかった。だけど君は――ずっと縁の下から、僕たちを支えてくれてた。生意気なことを言って、本当にごめん」


朔殿が頭を下げた。拙者は、この星の歴史――かつての英雄に、思いを馳せていた。


 「かつて――貴殿の祖父、炸人殿と、我ら忍者の師、コロウ殿は敵同士であったとお聞きした。そして、この星の創世記に記された《感情》の関係も――炎と水は、敵対関係にあり申す。先祖代々、能力者の関係とはそのようなものでござるよ。拙者は、何も気にしてはござらん」


「ラギン……ありがとう。この星の創世記って?」


「いずれ貴殿も触れることになろう……この星の、壮大な怨念の歴史に」


「怨念……?」


 そう、過去は尊重すべき、そしてその暗さをも超越すべき宝。拙者はコロウ殿とダグラ殿、そしてホクスイ殿ら同胞のために、勝たなければなるまい――。


 拙者は、皆に一時の別れを告げ、水の国へと向かった。


 「あーっ! てめえか!! 私達の部下をごっそり殺したのは! そのせいで、こっちの戦力は、もうあと幹部と少ししかいないくらいにまで減ったんだぞ!!」


 決戦4日目。お団子頭の鬼は、拙者を見るなり指を指して叫んだ。


「左様。貴殿らの下級戦士らは、拙者らが暗に始末した」


「ったく、本当にやってくれるぜ……まあいい、どちらにしろこの世界は選ばれた少数精鋭しか生き残らない。そういうふうになるはずだ」


「……!!」


 この考えこそ、ニュクス殿と奴等で異なる思想――拙者らは、相容れることはできない――。


 「お、いい顔だな。お前も水の能力者なんだって? あの男よりやるか、試してやるよ」


「あの男……?」


 「でやああああ……はっ!」


 鬼は、不敵に笑うと拙者に突進してきた。上に飛び上がってかわすと、武器の金棒を振りかざし、月形の水の波動で拙者を襲う。


 「烈紋(れもん)!!」


「なにっ……爆発だと……!?」


「貴殿の攻撃が当たる寸前、水の爆弾を生成して迎え撃ったのでござる」


「へえ、やるじゃん」


 地上に降り、印を結び直す。


「今度はこちらの番でござる……」


「お前は印を結ぶために時間がかかる……隙だらけだぜ!」


 再び接近してくる鬼。しかし……


「水を巻き上げて今度は防御を………? へっ、無駄だ! 私の一振りをナメんじゃねえっ! はあっ!」


 水の壁が消え去った。一瞬の静寂が美しい水面を包む。


「へっ……防御壁ごと粉砕しちまったかなあ……呆気なかったな。いや、待てよ――」


 「なぜ、血が出ないのか。それは――」


「なっ、後ろだとっ!?」


「貴殿が殴った拙者の姿は、水面に映った鏡! これが拙者の――」


「なんだ? 空から何か……あれは、無数のクナイ!」


空澄魔鏡(あずまかがみ)!!」


「ぐああああああ!!!」


 水の力を宿した無数のクナイが、鬼の全身を貫く。しかし、手応えはない。


「……」


 鬼は、首だけをゆっくりこちらに向け、狂気に満ちた顔で言い放った。


 「やってくれるじゃあねえか。私が追い込まれたのはこれで二回目だ。でもよぉ」


 鬼が力を込めると、全身に刺さったクナイが弾け飛んだ。鬼の全身から血が出てはいるものの、それほど深い傷ではない。この鬼――恐ろしく頑丈だ。


 「ふう。この闘いの初日はさあ、ここ一帯も、人間共も凍ってたんだろ? けどあの瞬間兄妹――ああ、妹のほうには瞬間の力はなかったか――とにかく、あの妹が勝って、氷も溶けた。この意味、わかるよなあ?」


「拙者ら水の能力者の――専売特許」


「そうだ。海が戻ってきたんだよ! へへ、じゃあ《冷静》同士海でやろうじゃねえか。私の海溝へ――招待してやるよ」


 そう言うと、鬼は金棒を持ったまま海に飛び込んだ。


 「私の海溝……」


 おそらく鬼は、水の領地を自在に操ることができるのであろう。そんな大胆な能力の使い方、拙者にはできぬが――このまま素直に飛び込んでも、鬼の術中にはまるだけ。ならば――


 「烈紋!! 烈紋!! 烈紋!!」


 水上から術を出し、水面を爆破させながら敵の位置を探る。しかし、もうすでに深くまで潜ってしまったようで、反応がない。拙者の技がこの位置から海溝まで届くかといえば疑問が残る。やはり、攻め入るしかないか――。


 拙者は、鬼の興に乗せられているだけかも知らぬ。あの戦闘狂は、自分が圧倒的な力を持つがゆえに、戦闘を愉しむことができる。拙者にはそんな余裕はないが、しかし。


 拙者は、試されている。水中の魚を、鬼を、仕留めることができるか否かを。


 拙者は、かつての英雄、コロウ殿に会ったことはない。ホクスイ殿から話を聞いただけだ。しかし――。


 もしコロウ殿がここにいたら、極めて《冷静》に――。飛び込んだはずにござる。


 拙者も、行かねば。


 水の国は、植物の国、光の国と並んで平和で美しい国とされている。水は澄みわたり、魚は温厚でいきいきとしている。しかし、拙者が飛び込んだ海中は、まるで汚染されたかのように濁り、異臭がした。


 鬼め、 これだけ広範囲の水質を変えられるのか――。


 視界も悪いが、そのまま進むしかなかった。


 突如、暗い視界とは対照的な白い何かが2つ、拙者に向かってきた。あれは――金棒のとげ――? あれは分離して、魚雷のように人を襲うことができるのか。


 「くっ」


 急いで水壁をつくるが、水上でつくった時よりも薄い。水質の問題か、それとも水の操作権自体を鬼に奪われている――?


 魚雷は、拙者の頭をかすめてそのまま直進した。とげはもっとあったはず。残りはこの先に取ってある、か――。


 ふと、海中深くに 膨大な水のエネルギーがあるのを感じ取った。


 「どうしたどうした? 私はもっと深い所にいるぞ。早く来ないと死んじまうぞー!」


 なにかを準備している――おそらく、拙者を倒すための必殺の一手――。それを完成させられたら、拙者に勝ち目は――。


 身体がしびれてきた。 人体に有害な水でここ一帯を支配しているのか。 これでは奴にたどり着く前に――。いや、諦めてはならぬ。必ず突破口を見つけ出す!


 前方に、多数のとげ魚雷が見えた。とにかく、進むしかない。


 「乱河水(みだれがみ)!!」


読んでいただきありがとうございました。

やっと更新できた……。


あ、たまたまやけど明日海の日ですね!!

皆さん楽しんでください!


次回、第六話「改革」。お楽しみに!!

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