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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第三章 長い長い時を経て、《悪魔》の中で何かが変わり始めていた
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第二話 影①

「ごばんめの こどもは ぜつぼう と なづけられた

よんばんめの こどもは ぜつぼう を きりひらく ちからをみせた」


――『ハーノタシア星創世記』 第三章 第五節

朔は楼閣の私に向かって、気功波を放った。いままでの私の――いや、私たちの戦術では、最初の一手でバリアを張り、様子をうかがうことが多かった。今回だって、朔は私がバリアを張ってくると読んでいるだろう。だが――。


諦めの闇(パラドズィ・スコトス)


「なに、打ち返してきた!?」


ふん。朔相手に、何を今さら「様子をうかがう」必要があるだろうか。私は知っている。この男は、かつての英雄よろしく、まっすぐで不器用で、それでいて悪くない男だ。


「ぐっ」


 朔が目を伏せた。2つの気功波が、ぶつかり合って激しい光を放つ。お前の《情熱》と私の《絶望》、どちらが上か真っ向勝負と行こうじゃないか。


 真っ向勝負、か――。つくづくあの男には似合っているが、私には似合わない言葉だ。私は、こそこそと隠れてばかりだった。人目につかない場所で、他人のことなど考えられず、ただ自分一人が生き延びるためだけに必死な人間だった。


 それは悪魔になった今も、変わっていないのかもしれない。


暗くてじめじめして、誰とも打ち解けることのない存在――。


「それが、私だ!」


 右手に力を込めると、私の気功波が朔の気功波をどんどんと押していった。


「ぐっ……くそっ……うわあああああああああああああ!」


 大きな爆発。続いて、小柄な朔が吹き飛ばされた。あまり外へ出たがらないのだろう、白い柔肌が、赤黒く傷ついている。


「……」


 私には、何も話せることなどなかった。《感情》を殺し――いや、正確には《絶望》以外の《感情》を殺し――早くこの戦いを終わらせたかった。


 赤い閃光を無数に放つ。身体中を想像もできない痛みが襲うだろう。なのに――。


「ぐっ……くっ……次はどんな技でくるんだ? へへっ」


 傷ついた右腕をかばいながら――なぜ笑っている?


「朔……右腕が動かないのだろう? それでは気功波が撃てない――もう降参しろ。ならお前を殺さずに済む」


「はぁっ!」


朔は赤いバリアを生成し、閃光から身を守った。しぶとい。


「降参なんか――するかよ。お前がちゃんと答えを見つけて、俺と向き合ってくれるまで、俺は――」


「向き合う……? 他人のことを心配する前に、自分と向き合ってみたらどうですか?」


突然、朔の前に黒いもやが現れた。あれは……なんだ? 新たな能力者?


「いけませんねえ。自らの《影》に向き合わずして、あたかも負の感情などないように振る舞っていたのでは、ね……」


「だ、誰だ、お前は……俺とニュクスの闘いの、邪魔をするな!」


 黒いもやの輪郭がはっきりとしてきた。その姿は、黒装束に身を包んだネクローにそっくりだ。大柄で、顔は小さい。だが、声が違う。


「私の名はファントム。以後お見知りおきを。とはいえ、あなたはここで死ぬのですがね」


 ファントム――? どこかで聞いたことがある。そうだ。あの日――45年前、ニーナとダグラの家を焼いた人物……。そいつはクライムにファントムと呼ばれていたと聞いた。あの、ファントムか!


「俺がここで死ぬ? 何適当なこと抜かしてんだ! お前、さっき《影》がどうこう言ってたな! お前も魔王の仲間か!?」


「仲間――? 仲間とは不確かな言葉を使う。仲間、友達、親友――。そんな言葉に、飽き飽きしてはきませんか? 地球で普通の若者をしていたあなたなら、なおさら」


「な、何を言っている……?」


 ファントム。奴は完全に、朔を(もてあそ)んでいる。少しずつ論点をずらし、挑発して、こいつのやりたいことはなんだ――?


「ひとつ、いいことを教えてさしあげましょう。不確かな関係性の中で悩み、怯え、疲れることのないように、この世で最も必要なのは拘束、そして主従関係です」


「主従……関係?」


「そう。主従関係ならば、彼は本当に仲間なのか、友達なのか、親友なのかと悩む必要がない。私はそんな生き方のほうが好みでね。私は魔王様の仲間ではなく、しもべです」


「……」


 朔。奴の言葉に耳を傾けるな。これはネクローが私にしたような、洗脳術の一種。ならば奴は、私たちと同じ闇属性――。


「あなただって、不確かな人間関係に悩んでいたのでしょう? だからこそ、あなたは大学に行けなくなった」


「黙れ……」


「おうちに籠ってやるゲームは楽しかったですか? 結局そこで築いた関係もすべてはかりそめ。私からすれば、あの銀太という少年とあなたは、ネット上だからこそうまく行っていたように思います」


「黙れ……!」


「あなたは『現実』というものに立ち向かう勇気がなかった。ハーノタシア星(ここ)では《能力者》として、『英雄』として猛威を振るうことができます。でもそうでなければ、あなたはただの社会不適合者であり、『英雄』を気取っていても、結局は――」


「黙れええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


「あなたにもあるのですよ、《影》が!」


 奴の言葉に耐えかねて、朔が絶叫した。憎しみに顔を歪ませながら、激しい炎を天に放出させている。そして、その炎から、青い何かがもやもやと現れはじめた。


もやは、ファントムと同じようにだんだんと輪郭をはっきりとさせてゆく。あれは――朔。朔の《影》――。


「なんだ……これは……!?」


「僕は……家族と平和に暮らしたかっただけなのに……なんで《能力者》なんていう面倒事に巻き込まれなくちゃならなかったの? 地球に帰りたい。帰って平和に暮らしたい。僕の部屋は快適だ、危ないことに巻き込まれないから。ずっとあそこでゲームをしていたかった。なのに、なのにニュクスのせいで――」


「……」


「ち、違う! 俺はこんなこと――」


 朔の《影》が、私を睨み付けた。一方、朔は何かを訴えるような哀しい目をして私にすがりつく。


「嘘をついてはいけません。これはあなたの《影》。すなわちあなたの裏の感情であり、本心なのです」


「でたらめを……い…うな……」


 朔はそこまで言うと、地面に倒れ込んだ。ファントムが蔑むような目で朔を見ている。


「ふん、脆弱(ぜいじゃく)な……大方、《影》に力のほとんどを持って行かれたのでしょう」


そして奴は、私に視線を向けた。


「いかがです? 所詮『英雄』と言えど、この程度。やはり《悪魔》、あなたは我々を選ぶべきです」


「お前、そのためにここへ――」


「さあ、何をしていらっしゃるのです? この愚かな『英雄』に、とどめを刺すのです。ああ、《影》の処理は私がいたしましょう。慣れていますからね」


 私は倒れた朔とその《影》を見比べる。確かに朔は脆弱で愚かかもしれない。だが――。


「英雄たちも、群れをなすお前たちと同じだ。一人で――闘っているわけじゃない」


「なんですって?」


 「朔から離れろ!」


 DTをし、鋭い目つきでファントムの眼前に対峙する能力者。この子は、まるで私たちの《情熱》と《絶望》の間をとりもつように、私たちの前に現れた。


 この星の《能力》には、相関性――相性がある。《情熱》に焼かれるも、《絶望》には強い《感情》、それは――。


「あなたは……」


 《愛情》だ。


読んでいただきありがとうございました。波乱の幹部戦はまだまだ続きます!

次回、傀儡(かいらい)。お楽しみに!

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