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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第一章 そよ風がはこぶ冒険の物語
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第四話 対等

 「フン。低俗な『悪しき闇』の連中が――私たちに手を出そうなどと、愚かしいにも程がある」


 細い眉を吊り上げ、心底憎たらしそうに《悪魔》は言った。肩まで伸びたロングヘアの先は、ところどころ静電気を受けたかのようにはねている。


 「ああ――」


 黒タイツの2人組を見ていた《悪魔》は、僕の方に向き直り笑った。緑色の唇はどこか官能的で、その黒い大きな瞳は、長時間凝視できないほどの威圧感を持っている。


 「お礼がまだだったね。封印を解いてくれてありがとう」


 《悪魔》は、その黒い瞳と対照的な、色白――病的とも言える手を僕の左頬に重ねた。


「君の働きは充分だったよ――お陰ですべてが予定通りだ」


「あ――」


 僕が言葉を失いうつむくと、《悪魔》は甘ったるい声で言った。


「もしかして、私を怖がっているのかい――まあ無理もない。これから少しずつ共有していけばいい」


「共――有?」


「お互いのすべてをさ」


 そこまで言うと《悪魔》は、黒タイツのほうに向き直った。


 「さて――あんな雑魚たちなら私が一瞬で殺してやっても構わないが――そうだな、せっかく日本から来て頂いたスペシャルゲストだ。ここで君の仕事を終わらせるのも惜しい」


 日本――? 《悪魔》は僕が日本から来たことを知っている――? いや、当然か。魔法の教科書は日本語で書いてあったんだから――。


 でもこの人は、僕のことを――僕たちのことを――どこまで知っているのだろうか。


 「あの、《悪魔》――あなたは何をどこまで知ってるんです?」


「ニュクスでいい」


 ニュクスは僕の問いには答えず、すぐ近くで戦っているへメラさんを愛おしそうに見つめた。


 「へメラは、私に比べると非力でね――それに、奴らは闇属性。光の魔法を使うへメラには分が悪い」


「7つの属性の話は覚えているね? あれには相関関係というものがあってね。《絶望》は《希望》を食い荒らすのさ」


 ニュクスは――おそらく自分自身が闇属性だからだろうが――少し楽しそうに語った。


 「そこでだ。君にあいつらを退治して欲しいのだよ」


「え、でも僕はここに来たばかりで――闘いなんか、全然」


「謙遜することはない」


ニュクスは優しく笑った。


 「きみはあの英雄――神寺宮炸人のお孫さんなのだよ」


「あの、その話なんですけど――」


 僕が次の言葉を探していると、急にニュクスの表情が変わった。


 「この気配は――奴か! こんな雑魚どもの偵察とは、ご苦労なことだ」


「ど、どうかしたんですか」


「すまない。私には急用ができた。私はここにはいられないが、へメラを助けてあげてくれないか。すぐ戻る」


 そう言うと、ニュクスはエアと同じように瞬間移動した。


 助けて助けてって――それはこっちのセリフだよ――。



**


 低俗な悪しき闇――奴のしたっぱは、2人がかりでへメラを痛めつけていた――。こんな奴らの処理など造作もない。だが、今の私の目的は別だ。


 「――噂通り、封印が解けたようですね、《悪魔》」


戦闘に参加せず、突っ立っていた奴が口を開いた。


「簡単には破られないよう、厳重な仕掛けをしておいたはずですが――それほどまでに神寺宮の血筋は素晴らしいのでしょうか」


「ああ――神寺宮一族は最強だ」


「フン」


奴はたいそうつまらなそうに鼻を鳴らした。


 「それはあなたの個人的な――すなわち恋慕の情があるからではないですか?」 


「黙れ」


 つくづく面倒なやつだ。地獄に突き落としてやりたい。


「神寺宮炸人は、もう死んだ」


私は、奴を睨みつけた。


 「お前が――殺したんだよ、ネクロー」


奴は、――ネクローは、彫りの深い顔にしわを寄せ、ゆっくりと言った。


「そうですとも――私が、憎いですか?」


私もネクローと同じように、充分な間をとって言った。


「ああ――憎い」


 「場所を変えましょう。ここには先客がいますし、あなたとへメラさんが結託しないとも限りません。1対1、対等にいきましょう」



**


「――ここは」


ネクローが1対1の勝負に選んだ場所、それは彼が神寺宮炸人を殺害した場所だった。


 「嫌がらせか?」


 本当ならせせら笑いでもしながら、冗談混じりで言うべきだったのだろう、しかし今の私にはそんな余裕はない。


 病弱な身体に、冷たい汗が滴る。


 「手加減はしません。一度きりの勝負です」


「――それも嘘なんだろ?」


 ネクローは私の問には答えず、闇の《力》で剣を生成し、私に切りかかってきた。


 「相変わらず単調な攻撃だな――。その攻撃は通らない」


 私は闇の力でロッドを生成し、その先端から出る念力で剣の動きを止めた。


「ぐっ‥‥‥」


「接近戦を得意とするお前じゃ、私と相性が悪いぞ。いい加減――死んでくれ」


「唇が震えてますよ――本当は、あなたと私はうまくやっていける仲ではないのですか」


 だめだだめだ。奴の言葉に耳を傾けてはいけない。


「黙れ――お前は私の師匠を殺した」


「随分彼を慕っていたようですが――彼はあなたを利用しただけかもしれません。容器(いれもの)としてね」


 そう言うとネクローは、動きを止めていた剣を変形させ、形の定まらないもやにした。


「私の闇の力で作れるのは剣だけではないのです。変幻自在、いろいろなものに変わりますよ。たとえば――ほら」


 モヤは、何本かのブヨブヨとした触手に変形して、私のロッドに巻き付いた。


「――!!」


 「接近戦が得意――それは誤りではありませんが――随分昔の話です」


 上品な口調に似合わない巨体を揺らしながら、昔と変わらない美形の男、ネクローはほくそ笑んだ。


 「とにかく楽しみましょう。せっかく今は2人きりなんですから――我が愛しのネクス様」


 「ネクス様――か。随分他人行儀な呼び方だね。ま、昔の名を呼んでくれて感謝しているよ」


 適当にあしらっておかないと、どんどん奴のペースにのまれてしまう。


 私の目的は、奴を殺すこと。それ以外にない。時の魔王のことは、あとからでもどうにでもなる。


 しかし、奴は違う――。奴の目的は殺戮でも死闘でも決着でもない。私の生死など、どうでもいいのだ。奴はー―私と話がしたいだけ。


 でも――私たちの時間はもう永遠に戻りはしない。神寺宮炸人が奴に殺されたように。ニーナが闇に呑まれたように。ラグレムが焼け死んだように。


 「優先順位を考えなくてはいけません――私を殺すことに成功したとしても、何も変わりはしないのです。時の魔王を倒さない限りね」


 ネクローは、私の考えを見越したかのように言った。


 「私たちの時は戻ってこない――善悪など無関係に、無造作に、荒唐無稽に、私たちの時間は終わりを迎えたのです」


 「ならばなぜ、時の魔王に仕えている?」


 冷静さを欠いてきた私の質問に、ネクローは自信を持って答えた。


 「あなたも同じ闇属性となったからにはお分かりでしょう――この星の魔法の原動力――《感情》のキーは各属性ごとに定められていますが、」


 ネクローはそこで言葉を切り、


 「闇属性のキーは、《絶望》ですから」


と短く言った。


 

※校正(16/11/12)

・アスタリスク校正

・段落校正

・《》関係校正


※校正続き(17.1.30)

・誤記修正

・アスタリスク校正

・段落校正


できていなかったところを修正しました。

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