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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第零章 遠く遠く、喪失と忘却の彼方に始まりはあった
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動き出す闇

「それぞれが、それぞれの思惑によって動き出す――世界の混沌のはじまりだった」

俺たちは、檻の中でずっと見ていた。クライムとラグレムの決闘、ラグレムの死、そして、エアの覚醒。


「エアが、小さくなった」


ニュクスが、小声で呟いた。見ると、確かにエアは、5歳児のようになっている。


「どういうことだ?」


「わからない……」


 ニュクスが顎に指をあてて考え始めた瞬間、檻が白く輝き始めた。


「こ、これは……?」


「そうか、クライムが倒されたことで、檻の拘束力が弱まっているんだ! 抜け出そう!」


 俺は炎の熱で檻をこじ開け、身を乗り出した。しかし。


「ぐあああああああああああああああああ!」


 檻から出ようとした瞬間、激しい痛みが俺の体中を駆け巡った。無理して出ようとしたら、出る前に死んでしまう。


「痛ててて……俺は無理そうだ。ニュクス、お前なら抜けられる」


「どうして?」


「俺より、魔力が弱いからだ。小さなほころびから抜けることができる」


 ニュクスは、不安げな顔をしたままだ。俺のそばを離れようとはしない。


「いやだっ! 私、炸人さんとずっと一緒にいるっ!」


 大粒の涙をこぼすニュクス。その顔はぐちゃぐちゃになり、涙は炎の能力者でもないのに熱かった。


「いいか、よく聞いてくれ。ニュクス。俺たちは悪魔をほったらかしにしたせいで、あの男から制裁を受けてるんだ。お前が体内に悪魔を宿してるのも、お前の子供のエアが人間から妖精になってしまったのも、全部俺たちのせいなんだ」


「悪魔なら、私が持ってるよ! だから、炸人さんは、制裁なんて受けなくていいんだよ!」


「そうだ、悪魔の魂はお前が持っている。でも、お前は悪魔じゃない。――お前は」


 嫌がるニュクスを、無理やり変形した檻の隙間に押し込んだ。ニュクスは赤ん坊のように泣き叫んだが、心を鬼にして向こう側に押す。


「泣くなニュクス! お前はもう大人だ! あまり成長することも、年を取ることもないかもしれないが、お前は立派な成人女性なんだ!」


「わたっ、私っ、炸人さんと一緒にいたいよっ!」


「お前は悪魔なんかじゃない! お前はネクスだ!」


「さ、炸人さんっ!」


 ニュクスが、檻を抜けた。向こう側の世界に、行ってしまった。そうだ、これでいい。制裁を受けるのは、俺たちだけでいい。


「炸人さん、一生ここで、ひとりぼっちなの?」


 ニュクスが、織の向こう側から、「正しい世界」から、口を開いた。


「いいや?」


 俺がずっと愛してきた女。俺は、そいつが来てくれると、ずっと信じていた。


そして、その願いは叶う。


「――炸人のそばには、ずっと私がいるわ。だって、妻だもの」


 檻の中に、美海が突然現れた。


「美海さん!? どうやって!?」


「これよ」


 美海が俺に優しく差し出したもの。それは《光の秘宝》だった。


「すべてに届く力――違う部屋に監禁されていたけど、私の身体を炸人のところへ届かせたの」


 三種類の秘宝の効果はあいまいで、実際のところどういった効果が発揮されるのかよくわかっていない。でも、もし《光の秘宝》が、瞬間移動の力を持っているとしたら、クライムが言っていたDT――異次元間移動も、実用的になるかもしれない。


「これでまた一緒にいられるね、炸人!」


美海は快活に笑った。俺は黙ってうなずく。


「たぶんこの檻の中は時間が止められている。俺たちは疑似的に不老不死になったといっていいだろう。腹も減らないかもしれない。でもニュクス、お前はちゃんと、元いた世界で生きるんだ。ほら、子どものところへ行ってこい」


「わかった。また、後で話しましょう」


 俺は、美しい女の後姿を見て、言った。


「一昔のお前に似てる」


「少しの間だけど、一緒に暮らしたものね」


「そういえば、炸亜はどうする? ここに連れてくるか?」


「いいえ、ダグラたちに預けましょう。ヘメラに伝言を頼めばいいわ」


美海は、安心しきった様子で笑った。それは、俺たちが地球へ帰ろうと約束したときの顔とそっくりだった。


「結局、帰れなくてごめんな」


「何をいまさら。私たちは、地球よりもこの星を選んだのよ」


そうだ。そうだった。シーボルスを倒した時、俺たちは決めたんだ。元いた場所より、ここのかけがえのない仲間を選ぼう、と――。


*******************************************************************

「小さくなったでちゅ」


私は、気が動転してエアの言葉が聴こえなかった。


「あ……え?」


「小さくなったでちゅ」


エアは、先ほどと全く同じ言葉を、繰り返した。真顔で。


そうだ、エアが小さくなった。不老不死であり、14歳ごろから成長しなかったエアが、大きくなるどころか、小さくなってしまった。


「ど、どういうこと!?」


 私は泣きそうになりながら、小夜嵐のほうを向いた。


「力を取り込みすぎた反動だ」


  でも、私の質問に答えたのは、小夜嵐ではなく、私のよく知る、私の最もよく知る、私なのだった。


「ニュクス!?」


 不老不死と言っても、その姿は私たちより最も大人っぽい。25歳ぐらいだろうか? ふっくらとした唇が魅惑の色を保っている。


「久しぶりだな、ヘメラ。私より成長が遅いが、大人になったようだな。それに引き換え――」


「びええええええええええええええ! ニュクスぅ! 会いたかったでちゅよおおおおおお!」


 エアは、ニュクスを見たとたん大声で泣き出した。


「馬鹿なやつだ。無茶をするから――」


そう言うと、ニュクスは身をかがめ、エアを抱き寄せた。


「ありがとう、お前のおかげで助かった――」


小さくなって赤髪に変化したエアの頭をやさしくなでるその姿は、まさに母親そのものだった。


「ひっく、ひっく」


 「感動の再会のとこ悪いんだけどさあ、この子、たぶん一生戻らないよ」


 割って入ってきたのは、小夜嵐だ。


「何とかならないのか。あんたも妖精なんだろう?」


「基本的に不老不死っていうのは、悪魔や天使などの、人智を超えた完全に上位な存在がもつ特性だ。それがおかしなことに人間に吸収され、しかもその影響が外部の『人間』――力の残りかすとでもいうべき幼女に伝染した。不老不死の体系が壊れても仕方ないよ」


「力の残りかす、だと? エアはお前なんかよりずっと力が上だった」


ニュクスがすごんだ。こんなところで喧嘩してる場合じゃないってば!


「やめてよ、二人とも!」


私の仲裁を無視して、小夜嵐が話し続ける。


「だから、そのボクより上という力は、キミが引き起こしたことだと言っているんだよ。まあ、力を与えてやれば短期間だけは成長するだろうし、なんとでもなるだろう」


「お前……」


「言っておくけど、ボクは別にキミの仲間じゃない。ボクだって最初は、悪魔に敵意を向けていたしね。諸悪の根源と、そう簡単に仲良くなれるわけじゃない」


 小夜嵐が、殺気立った。ニュクスも負けじと、微弱なパワーを放出する。2人の闇が、衝突する。まがまがしい雰囲気に、吞まれてしまう。


「まあ、今回はヘメラのメンツがあるからこれくらいにしといてあげるよ」


「え?」


「出られてよかったね。帰りなよ、悪魔」


 ニュクスは、きまりが悪そうに鼻を鳴らした。


「ヘメラ、こっちへ来てくれ」


 大声で私を呼ぶ声は、炸人さんだった。


「炸人さんっ!」


「見ての通り、ニュクスだけは助け出せた。たくさんの犠牲を払ったけどな――」


 「美海さん、ラグレムさん――」


 もう私たちの世界に、二度と戻らない戦士たち。私たちの責任は重すぎる。それでも、美海さんは笑った。そう、美海さんはよく笑う人だった。


「あんまり気にしないで。あなたたちは、ちゃんと生きてね。ほら、行きなさい。私の大好きな子供たち」


美海さんが、私の頭を撫でた。私は、涙をこらえるのに必死だった。


「炸人さん――」


 ニュクスも、炸人さんのもとに駆け寄る。炸人さんは厳しい顔つきで言った。


「ネクローには、気を付けろ」


「……はい」


「ネクローなら、ボクが封印したよ」


 得意げに胸をはる小夜嵐。炸人さんは冷や汗をぬぐって冷たく言った。


「――どうかな」


「なんだよ、ボクのことを信頼してないの?」


 美海さんが、あいまいにうなずいた。私たちの溝は、まだまだ深い。


「ヘメラ、炸亜をダグラとニーナのもとへ預けてくれ」


「わかりました」


「ハーノタシア星のやつらがお前たちをまだ狙っているとすれば、あの家は危険だ。引っ越せ」


「……はい」


 炸人さんたちと暮らした家。そこを離れるとなると寂しい。でも、私は非力な分、ニュクスとエアを守らなければならない。その責務は、私が背負おう。


「行ってこい!」


夏の日差しのようにまぶしく、冬の暖炉のように暖かかった炸人さんは、最後にそういった。


「絶対に、絶対にまた来るでちゅ! 英雄しゃんっ!」


 エアは懸命に英雄たちに手を振っていた。


「生きろ、子どもたち!」


そう、私たちは行かなくちゃいけない。生きなくちゃいけない。哀しい過去を引き連れて。


私たちは、《第三の世界》をあとにした。


 「《光の秘宝》の解析に取り掛かろう。俺たちもここを抜け出せるかもしれない」


「前向きね」


「お前がいるからさ、美海。そういえば、《氷の秘宝》はどこにやった?」


「ダグラに預けているわ」


*******************************************************************


「はあ……はあ……」


「こ、ここは? 私はあの妖精に封印されていたはずだが……」


「お、お前がネクローだな……俺がお前の封印を解いてやった……」


「お前は?」


「俺の名はクライム。今は重傷でたいした力を発揮することができないが、俺はクソガキどもに復讐しなければならない――お前、俺と手を組め」


「復讐だと……? そんなことはどうでもいい! 俺はネクスを探しにいく!」


「なにっ、待て! 悪魔を捉えるのは俺だ! それが俺の、天使としての役目――ぐっ」


「まあまあ、いいではありませんか。今この世界で生き残っている英雄は、ダグラとニーナのみ。そいつは私が処理しましょう」


「クッ、保険を用意しておいてよかったよ……お前がいてくれてよかった」


読んでいただきありがとうございました。話がややこしくなってきましたかね?

闇属性がやっぱ多い気がする……。

次回、『植物の英雄 ニーナ』 お楽しみに!

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