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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第零章 遠く遠く、喪失と忘却の彼方に始まりはあった
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炎と光の英雄 神寺宮炸人

「朔のあの姿――最強の炎と光の融合体――。仕方ない、ここらで語るべきだろうね。かつての英雄たちのことを」

 「やあ」


炸人の中には2人の人格が混在しているが、普段は文字通り一心同体である。だから久々にもう1人の自分から声をかけられた時、炸人は驚いた。


「どうです、最近の調子は」


「良くないさ。やばそうな敵が来そうだしなぁ」


「クロネ、という男の子でしたか」


もう一人の炸人、光の炸人とでも呼ぼうか、彼の、相手が誰であっても、丁重な姿勢を忘れないという心掛けに、炸人は感動すら覚えていた。


「お前、いつもそんな感じなのな」


「ええ、そうですよ、私のいた世界が滅ぼされて以来ね」


光の炸人は、炸人とは異なる完全に白くなった髪を撫でながら言った。


「俺が2人もいるんだ、どんな奴だって楽勝だったらいいのにな」


「そんなこと無理ですよ」


冷静だ、と炸人は思う。こいつは自分のような炎がたぎる情熱なぞ持ち合わせてはいない、と。光の炸人は、いつも冷静に炸人を助けてきた。そしてもちろん、美海も。


「私は基本、シールド専門です。戦闘はあなたに任せるといったはずだ」


「だが、ダグラと闘ったときは光の剣を出してたじゃないか。シーボルスの時だって」


「あれはイレギュラーで仕方なく。だってあなた、そうでもしなけりゃ殺されていたでしょう? あなたが殺されてしまっては、美海を危険から守ることはできない。そう判断しただけです」


「そうだな」


炸人は椅子から立ち上がり大きく伸びをすると、横目で光の炸人を見た。


「美海を守れなきゃ、お前が未来からきて俺と融合した意味ないもんな」


「あのねえ」


光の炸人は、半ば体を炸人のほうへしまいながらため息をついた。


「本来、美海を守るのはあなたなんです。彼女はあなたと結婚したのであって、私と結婚したのではない」


「ああ」


「子をなすつもりはないんですか」


「いつか言われるだろうと思ってた」


観念したかのように、炸人はお手上げのポーズをする。光の炸人は、そんなおどけた様子を意にも介さず、自分の体を完全にしまい込んだ。


「あなたが美海と一緒に、死闘を繰り広げたことは知っています。私だってそばにいたんですから。そしてそれは今も続いている。死んだ仲間もいます」


「コロウのことか」


「ええ。でももうそろそろ、幸せを享受してもいいんじゃないですか」


「……」


「こんなことを言うと嫌に聞こえますが、私たちが今度の戦いでクロネくんに負ける可能性だってあるわけです。その時、美海さんを一人にするんですか」


「ニーナもラグレムもダグラもいるだろうが」


「家族、という意味ですよ。あなたが死んだら、この家はだれが守るんです?」


「うーん」


唸っているが、ろくに考えていないことを、未来からの使者はよく知っていた。これこそ平和ボケなのだ。だらしない反面、うらやましいとさえ思っていた。


あの星が、自分の次元の星が闇に支配されなければ、こんな未来もあったのだろうかと、彼は少し笑った。


「まぁ、考えるよ」


適当に光の炸人の言葉を流した炸人は、エアに声をかけた。


 「なぁエア、修行しねえか?」


「うん、する!」


「ヘメラはどうする?」


「私は、ネクスを看ています。あれからずっと体調を崩していますから」


「わかった」


そうだ。こいつらだっている。そう思った瞬間、2人の炸人は、大きな闇がこちらに向かってきているのを感じた。


「クロネだ」


「私も、闘う!」


「いや、エアは闘わなくていい。あとは俺に任せてくれ」


「炸人さん! このパワーは……」


奥の部屋から、ネクスが顔色を変えてやってきた。ヘメラはそれを静止している。


「お前ら、手ェ出すなよ」


炸人は、決意を胸にどす黒い闇と対峙する。美海と、子供たちを守る。


 小さな木造の小屋の前に、闇が降り立った。


************************************


「やっと会えたよ」


ぼくは、ずっとずっと好きだった人にやっと会えた。ぼくの告白の返事を言わずに、消えてしまったネクスに。


「ねえ、ネクス」


 どうやらネクスはおびえているようだ。どうして? ネクス、君も僕に会えてうれしいだろう? ねえ!


 「悪いけど、ここを通すわけにはいかないんだ」


かたくて大きな手が、ぼくの進路を阻んだ。誰だ、お前は。


「おーおー悪そうな顔だな。けどさ、お前とネクスを引き合わせるわけにはいかないんだ。それより、闇の秘宝、使ったんだろ? 俺に返してくれ」


「誰だ。お前は」


「俺の名前は神寺宮炸人。お前が使った秘宝はさ、俺の友達が必死こいて闇の国の底の底に沈めたんだ。勝手に持ち出されちゃ困るんだよ」


「ぼくのネクスを勝手に持ちだしたのはどこのどいつだ」


 神寺宮炸人と名乗る男は、ハハハと笑ってから、なめきった様子で言った。


「ぼくのネクス、か。しつこいと嫌われるぞ?」


ぼくはだんだん腹が立ってきた。この男の子供を馬鹿にする様子がしゃくにさわる。


「どけ。ぶっ殺すぞ」


ぼくの周りを、黒いオーラが覆う。


「闇の能力者か……そんなに小さいのに力が発現したってことは相当の天才なんだろうな。でもだめだ。力ずくでも返してもらうぞ」


 神寺宮炸人が構える。その時、どこかから声が聞こえた。


「さぁ、約束通りお前の望みはかなえた。おとなしく俺の『器』になってもらおう」


「な、何の声だ!?」


 驚いて振り向くと、そこには太った黒い人間のようなやつがいた。


「だ、誰だお前は――」


ぼくが言い終わる前に、神寺宮炸人が奴と取っ組み合いをしていた。


「わりぃけどよ、もう少しおとなしくしていてくれ」


「それは俺のセリフだ、神寺宮炸人。お前でもいい――と言いたいところだが、お前は闇属性ではない。そのガキを引き渡せ」


 奴は冷静に話している。それに対し、神寺宮炸人の顔には冷汗が浮かんでいた。


「お前は、シーボルスの時の過ちに気付かなかったのか」


「知らんな。俺にとって、この星が消えようとどうでもいい。俺はただ、長く現世に留まるための闇のエネルギーが必要なだけだ」


「何――何言ってんだよぉ! うわあああああああああああああああああああああ!」


 ぼくは突然の事態に混乱して、突然神寺宮炸人に殴りかかった。


「うぉっと、あぶねえ」


神寺宮炸人はギリギリでかわすと、数歩後ずさりした。


「やっぱ、先にお前か!」


そして飛びかかってくる。僕が右のストレートを受けてよろめいていると、奴は変な構えをとった。


「死ぬなよ? バーンストライク!」


高速の火炎がぼくに迫ってくる。ギリギリでジャンプしてかわすと、大鎌を生成して、そのまま振り下ろす。


「おおっと! 元気いいなぁ!」 


神寺宮炸人は、へっちゃらといった様子でそれを軽々と受け止める。


「チィッ」


その時、黒い奴が一つ大あくびをした。


「ふああ。まだかー? 俺は早く誰かを吸収したいんだが。 お?」


神寺宮炸人のせいなんだ。奴が視線の先にとらえたものに気付くのが遅れたのは。


「いい器があるじゃねえか。いただくぞ」


「何!?」


 その一瞬で、黒い奴はネクスの眼前まで瞬間移動していた。そして……。


「本当にいい器だ……混じりけのない純粋な闇……そうか、光は≪影≫としてまた別にあるわけか」


黒い奴はチラと白いワンピースの子供に目を移す。そういえば、あの子はネクスにそっくりだ。


「お前、俺に喰われろ」


そういうと、黒い男はネクスを丸呑みした。


「!!」


「て、てめえ……」


心底悔しそうにこぶしを握る神寺宮炸人。おまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだ。


「うわああああああああああああああああああああああああああああ!」


僕は逆上して、黒い塊を生成する。


「やっべえ……あれを食らったらさすがにおしまいだぜ」


と、その時ネクスを喰った黒い奴が突然呻きだした。


「な、なんだ……ぐごごごごごごげ、ま、まさかお前、俺を吸収するつもりか」


「まさか、ネクスの闇の力が闇の番人を上回っているだと……!?」


突然、闇の番人と呼ばれた男の体が白く輝く。そして、光の中からネクスが現れた。


「ネ、ネクス……」


「そ、その姿は……」


光の中から現れたネクスは、もはや以前までのネクスではなかった。顔面を除いて、ほとんどすべてが黒い肌に覆われ、黒い翼をもち、先がとがった黒いしっぽを有していた。


 ぼくの大好きなネクスは、悪魔に変えられてしまった。


「う、うわああああああああああああああああああああああああああああ!!」


ぼくは逆上して、ぼくのすべての絶望を神寺宮炸人にぶつける。


「やべっ……」


神寺宮炸人のひきつった顔。お前が悪いんだ。死ね死ね死ね死ね死ね。


死ねよ!


ドン、と大きな音がして、ぼくの絶望が消えていく。おかしい、当たったにしては手ごたえがない。


見ると、神寺宮炸人の前に、そっくりな顔をした白髪の男が立ちふさがっていた。


「逃げてください!」


「お、お前……」


「私は、あなた方を守るためにここへ来ました。それが叶ってよかった」


「ち、違うだろ、お前は美海を……」


神寺宮炸人は、泣いていた。


「今度はあなたが彼女を守るのです――私がいなくても。そして、子供たちに、光を――」


「お前、体が闇に――」


「子を成してください。そして未来を――」


そういうと、白髪の男は徐々に肉体を闇に喰われ消えた。


「炸人――炸人ォ!」


神寺宮炸人が自分の名を叫びながら泣いていた。僕には意味が分からない。


とにかく、あいつが死んだことには変わりないのだ。


力を使い切った僕は、床に倒れこんだ。


読んでいただきありがとうございました。この章は、朔のおじいさん世代のお話です。

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