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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第二章 それぞれの想いが、闘いを新たなステージへと導く
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第三話 加工

 暖かい。力が自分の中に流れ込んでくるのがわかる。


「う……い、いったい……?」


「気が付いたかい? よく頑張ってくれたね」


 私の胸に触れつづけていたのは、朔と同じ栗色の髪の毛をしたおばさんだった。


「あ、あなたはもしかして……」


「いつも朔がお世話になってるね」


「やっぱり、朔のお母さん!」


 全身に力がみなぎる。この人が、力を分けてくれたのだろう。


「立てるかい? 悪いけど、もう一度ネクローと闘ってほしい」


「え、で、でも私じゃ、歯が立ちませんよ。お母さんが――」


 私が言葉を言い終わる前に、朔のお母さんは空中に飛び、ニュクスとの臨戦態勢に入っていた。


「私はこっちを相手にしなきゃいけないんだ、悪いね。でも、今度は一人じゃない」


「え?」


 突然、大きな力の流れを感じる。私にはない質のものだ。でも、どこか懐かしい。その力の主は、急いで私に近づいてくる。


「なつみ! 無事か! なつみ!」


 後ろから突然声をかけてきたのは、頭が真っ白けの男性。身長が低く、似合わない黒メガネをかけている。そして私は思い出したんだ、昔父さんから聞いたおじいさんの話を。


「もしかして、私のおじいさん?」


私がおそるおそる尋ねると、その男性は涙を流しながら私に抱き付いてきた。


「そうだ、そうだよなつみ! やっと会えた!」


「わわっ、おじいさん!」


 急に抱き付かれたので驚いてのけぞる。でも、父さんの言ったとおりだった。闇属性だけど、心優しい人だって。


 「感動の再会は済みましたか」


 砂煙の中から現れたのは、顔面を焦がしたネクロー。大柄な体を覆う黒服は、ところどころ破けている。


「許しはしません」


再び、戦慄が走る。暖かい闇を感じながら、私は言った。


「やばそう」


おじいさんは不敵な笑みを浮かべ、一輪の花を具現化させた。


「なに? これ」


「アザミだよ。君のおばあさんが好きだった花のうちの1つさ。花言葉は、安心」


私は、黙ってうなずいた。


「君を危険な目に合わせることになってすまない。おじいちゃんと一緒に、闘ってくれるかい?」


「もちろん!」


「褐色の肌に大きな瞳――本当に君は、そっくりだ」


「え?」


 おじいさんは、慣れていなさそうに笑うと、敵に向き直った。


 「さあ、始めよう!」



**


「いてて……はっ!?」


「情けない息子だねぇ、本当に」


 目覚めた僕が最初に目にしたのは、重い殴打の音を響かせるニュクスと、母さんだった。


「母さん!?」


「ちょっと今手が離せないんでね。簡単に言うよ」


「言うって何を!? 母さん、僕は母さんたちを探すためにここまで――」


「黙ってな!」


「う……」


委縮する僕に、エアが黙って僕の肩に手を置いた。


 母さんはニュクスの攻撃をよけながら、早口で説明を始めた。


「あんたら単体の力じゃ、ニュクスやネクローには勝てない。でも、あんたらの異能を融合させれば、勝機はあるわ」


「異能を……融合?」


「そこで倒れている咲夜は闘えそうにないし、私が力をあげたなつみちゃんはネクローと闘っている。残りはあんたと妖精ちゃんだけだ」


 「なつみ……!」


僕が周りを見渡すと、なつみと黒メガネの男性が戦闘を始めていた。


「くっ……炸亜! 邪魔をするなーっ!」


 ニュクスはロッドから光線を放った。それをエネルギー弾の炎ではじいた母さんは、ニュクスのあばらに膝蹴りをくらわす。


「くはっ……」


「落ちな!」


 母さんはそう叫ぶと、ニュクスごと炎で包み込んでしまった。


「すげえ……母さんってこんなに強かったのか」


「はっ!」


 母さんが叫ぶと、ニュクスはそのまま下へと落ちていった。


「ぐ、ぐう……」


 流石はニュクスだ、比較的低空から落ちたとはいえ、反応は鈍っていない。すぐに起き上がってくる。


「炸亜……炸亜―っ!」


「早く! 今のうちに融合しな!」


 こちらに視線を向けることなく叫ばれた。今戦闘中のすべての人が、余裕がなさそうだ。


「で、でもどうやって融合するんだよ!? エアとさ!」


「私、知ってる」


 エアが小さな声で呟いた。なぜかうつむいていて、その表情を富み取ることはできない。


「いつもと同じだよ――今回は英雄さんに私の力を渡すだけ。私の異能(かたち)がなくなるまで」


「形がなくなる!? それってまさか!」


「大丈夫、時間が戻ると2人に戻るよ」


「え……なんだぁよかった」


 ほっと胸をなでおろした僕だったが、エアはまだうつむいたままだ。


「ただ、私たちが私たちでなくなるのは確か。正直、異能を無理に加工すると、どうなるかはまだ研究不足なの。何が起こるかはわからない」


「異能を、加工する……か」


「で、でも」


 やっと顔をあげたエアが、笑った。でもその笑顔からは、無理しているのが見て取れる。


「しのごの言ってられないよね。ほら、手を握って」


 エアの手は、驚くほど冷たかった。


「エア……大丈夫か」


「平気。それより」


「ん?」


 エアがか細い声で言った。声が震えている。相当怖がっているのだろう。自分の母親と過剰な力で対峙する恐怖を、僕は知らない。


「お礼を言いそびれてた。東京で助けてくれたこと、ありがと。だから――」


「ああ、そんなこと別に。それにあの時は僕もちょっとおかしかったし――」


 僕はこれ以上エアの負担にならないように、何でもないように言った。エアはまた僕から視線を逸らすと、意を決したように、口を開いた。


「大好き」


「え?」


 唇に暖かいものが触れた。握った手が、震える。世界の時が止まったような一瞬だった。異能だとか無能だとか、そんなことどうでもいいように思えた。


 それを祝福するように、僕たち2人の体をまばゆい光が包み込んだ。



**


「あーあ。退屈」


 大あくびをすると、彼女はそのまま伸びをして体をリラックスさせる。


「そんなにお暇でございますか。ならば新たな領地をすぐにでも」


「いや、いいわ。面白いことになってきたから」


「面白いこと?」


彼女は不敵な笑みを浮かべると、漆黒の瞳を肥大化させていった。


「キャハハ! あの2人、キスしたわ。知ってる? 恋心って、時を止めるのよ」


「そんな妄想じみたことが、本当に起こるのでしょうか」


私が異を唱えると、彼女は少女のように笑った。


「ここは魔法の国だもの。もっと厳密に言えば、《影》が出なくなる」


「ああ」


 私は納得して、彼女の席にココアを置いた。彼女はそれをいやらしく舐めた。


「甘い――甘いココア、甘い恋愛、甘い幸せ――そんなことが、永遠に続けばいいのに」


 私は寒気を感じ、引き下がる。


「ここで力を使うのは、おやめくださいませ!」


「続かないのなら――私が時を止めてあげるわ」


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