表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第一章 そよ風がはこぶ冒険の物語
12/120

第十二話 小悪魔《しょうあくま》

昔話をしよう。61年も前の話だ。


**


 私と神寺宮炸人、そして旧姓安藤美海との出会いは、さびれた廃工場だった。

私は当時、いわゆるストリートチルドレンで、家を持たず、家族もなかった。廃工場で、まだ使えそうな金属を集めては、専門店に売りに行くという生活をずっと続けていた。10歳の子どもにしては、よく頑張ったと思う。


 そんな時、世界を救った英雄が、私に声をかけてきたのだった。


「家、ないのか」


 特徴的な栗色の髪。毛先はかなりはねて、変な寝癖のようになっている。細い眉にはっきりとした目鼻立ち、そして、大きく口を開けてはっきり話すところに、私は惹かれた。


そして彼の隣にいる女性は、この廃墟に不似合いな、汚れひとつない白い日傘をさしていた。影になってよく見えないが、髪色ははっきりとした黒。ストレートロングヘアで、非常に清楚な印象を受けた。日傘と同じくらい白いワンピースの中央で、大きな胸が自己主張をしている。


 「家、ないのか」


「うん……」


しゃがみこみ、私に目線を合わせてそう尋ねる彼。それに対して、私は小さくつぶやいた。彼は少し、困ったという風な顔をしたが、すぐに女性に目くばせをして、


「いいよな?」


と聞いた。女性は何も答えなかったが、優しく目を細めた。すると彼は大きな声で、


「よし! 俺たちの家に連れてってやろう!」


と言って立ち上がった。 


「え? でも……」


「いいんだよ、美海がいいって言ってんだから。遠慮することはないさ。名前は?」


「ネクス……」


「俺の名は炸人! よろしくな、ネクス!」


 私は、いつ女性がいいと言ったのだろうと疑問に思いながら、どこかで聞き覚えのある名前の男の手に、触れた。


 2人は優しかった。私は時間さえあれば、私を捨てた親を探しに行こうと思っていたのだが、そんなことが気にならないほど、仲睦まじい夫婦は私を家族としてみなしてくれた。森の奥にある小さな小屋に2人きりで住んでいたらしい。家族が増えてうれしいとさえ言ってくれた。



**


 たまに男性が遊びに来ていたことを、よく覚えている。彼はラグレムといった。何でも、炸人さんの一番の戦友らしい。


「新しい家族の、ネクスだ」


炸人さんは、屈託なく笑いながら、私のことを紹介した。


「ほぉ~?」


 ラグレムさんは私をじっくり覗き込むと、


「素直でいい子に育ちそうだな。よろしく!」


と快活に笑った。


 ある時、炸人さんは私に、シーボルスの仲間の生き残りがいることを教えてくれた。


「まぁ、大した強さじゃないとは思うんだけど……大将を討ち取っても、まだわんさか仲間がいるもんなんだなぁ」


「大将ってまさか、炸人さんがシーボルスを?」


「ん、あぁ、そうだよ。聞いたことない? 『英雄 神寺宮炸人』って」


ああ、だからどこかで見たことがあったのか! それに気づいたのは、ともに暮らしてから1ヶ月ほど経ってからだった。



**


 ある日、ニーナという名の若い女が訪ねてきた。私と年が近いような気がしたので年齢を尋ねてみると、17だと言った。かなり離れているが、彼女の童顔は実年齢を簡単に打ち消してしまう。


「今は高校2年生なんだ」


「7年前、一緒にシーボルスと闘ってたなんて想像もできないよな」


 炸人さんは、慣れた手つきでニーナのためにコーヒーを作りながら言った。


「えっ、ニーナさんもシーボルスと!?」


「そうだよ! 私だけじゃなくて、ラグレムさんや、コロウさん、あともちろん、ダグラもね」


「あっ、そうそう。最近ラグレムから聞いたんだけど、お前ダグラと付き合ってるんだって? まさかお前がな~」


炸人さんは、若い娘にセクハラ発言をする親父のようにニヤつきながら尋ねた。


「う、うるさいな~! ダグラだって、すっごくいいとこたくさんあるんだよ? それに私、本当は――」


 少し黙り込んだ後、一瞬美海さんを見て、ニーナはその先の言葉を飲み込んだ。


 結局、彼女はその後すぐにダグラと結婚し、子を遺した。ニーナは、炸人の住む日本にちなんで、日本的な名がいいと、その男の子をクサナギと名付けた。



**


 ある日炸人さんは、戦友、コロウさんのことを教えてくれた。


「あいつはシーボルスを倒して1年くらい経った後、死んだんだ。ほんと、鬱陶しいライバルだったよ」


 その後1度だけ、ダグラが私たちの家にやってきた。低身長な男で、髪の毛はハリネズミのように1本1本とがっている。驚くほど色が白く、不似合いな丸メガネをかけていた。


「今更だけど、コロウのこと、残念だったな」


彼は非常に聞き取りにくい小さな声で、炸人さんの表情を慎重にうかがいながらつぶやいた。


「ああ。まぁ、死んだものは仕方がねえ。だが問題は、あいつほどの手練があっさり殺されるような奴がまだ生きてるってことだ。そっちは何も聞いてないか?」



「ああ。何も情報は入っていない。ただ、コロウはあの戦い以後、森に住む子供たちに稽古をつけていたらしい」


「あいつが? 嘘だろ?」


 神妙な顔つきだった炸人さんが、まるで面白いものを見つけた子供のように、テーブルから身を乗り出した。


「本当だ。なんでも、忍者の末裔らしい」


「忍者!? この世界にも、忍者がいるのか! 初耳だぜ!!」


「あれを忍者と呼んでいいのかはわからないが、とにかく素早い能力者の一派らしい。その子供たちに、水の魔法を教え続けていたと」


相変わらず聞き取りにくいが、ダグラは冷静に対応した。


「へぇ~。じゃあもしやばいやつが来ても、そいつらがいるから安心だな!」


「ああ。これで俺も隠居できる」


「隠居ぉ? 何言ってんだ。お前、ニーナと付き合ってるんだろ? いろんなとこ連れて行ってやれよ!」


またニヤつきながら励ます炸人さんを、ダグラは鬱陶しそうに見つめた。


「でもほら――昔のこともあるし」


その言葉を聞くと、炸人さんは今までに見たことがないような神妙な顔つきになり、


「昔のことは誰も気にしてないさ。もちろん俺もな。だから、お前もあんま抱え込むなよ。だがもし何かあったときは――頼む」


 不意に手を差し出されたダグラは少し戸惑ったが、かたい握手をした。


しばらくお互いの手の感触を確認するように握り合っていた二人だったが、急に思いついたように炸人さんがニカッと笑った。


「お前ら、早く結婚しろよ!」



**


 私は、炸人さんと出会ってから、彼が殺されるまでの1年間、彼に稽古をつけてもらっていた。あの1年間は、私の人生、そしてこれまで、これからの悪魔としての暮らしを含めても最高の1年間だったといえる。しかし、今思えば、私の闇が彼が殺される半年前から現れていたこともまた事実だ。


炸人さんと出会って、半年ほど過ぎたある日、その手紙は届いたのだった。


「よし、今日はここまでにしよう」


組み手を終えた私たち2人の体は、健康的な程度に疲れていた。1まわり以上違う大人の男の人と特訓することは簡単ではなかったが、着実に強くなること、そして炸人さんに褒められることが嬉しくて、私は修行を続けていた。


「だいぶ強くなったじゃねえか。偉いぞ」


炸人さんが私の頭を撫でてくれる。一生分の幸せがつまっていると感じていた。そしてそれは、間違いではなかったのだ。


「手紙が届いてるよ。ネクスに」


家に戻ったとき美海さんに言われて、私は驚いた。私に手紙をくれる人なんて、見当もつかない。


「クロネって書いてあるわ。女の子の友達かしら」


「ほぉ。よくネクスがここにいるってわかったな」


「郵便屋さんが、この国中を駆けずり回ったって言ってたわ」


「誰かに俺がネクスを引き取ったことがばれてたんだな? まずいかな」


 楽しそうに会話する二人に混ざる余裕はなかった。クロネ――その女の子らしい名を嫌っていた男子は、私に一方的に好意を向けていた男の子だったのだ。

私は正直、恋愛など興味もなかったし、早すぎると思っていた。彼もそこまで本気にはしていないだろうと思っていたのだ。でも。


 その手紙には、「君に会うために、ぼくは願いを叶えます。闇の秘宝を使って」


と、書かれていた。


「炸人さん。闇の秘宝って、知っていますか」


「嘘だ」


 仲睦まじい夫婦は同時にそう言った。その顔は私と同じぐらい、蒼白になっている。


「そ、それをどこで」


慌てふためく炸人さん。私の手紙を覗き込む。


「あれは、シーボルスが死んだあとダグラが封印したはずだ」


「噂は本当だったんだ。何でも願いを叶えてくれる、魔法の力」


「ダメよ! あれは使用者の魂を悪魔に売り渡す行為。それが2度とないよう、ダグラはあの秘宝を封印したの」


美海さんは、今まで聞いたことのないような大きな声で叫んだ。


「もし本当なら、この子を止めなきゃ。手紙にはなんて書いてある?」


「えっと」


私は続きを読んだ。それは、以後60年以上続く因縁の始まりだった。


「ぼくはその秘宝を持っている人の仲間に入りました。『シャドー・シーラー』という人たちです」


「なに? 『シャドー・シーラー』って」


美海さんが不安げな声で尋ねた。


「分からない――だがダグラの封印を解いた連中だ。クソ! また世界を破滅させようっていうのか!」


 炸人さんは大声で叫ぶと、手紙をぐちゃぐちゃに握りつぶした。


「あ――悪い」


炸人さんのその言葉を聞き終わる前に、私は倒れ込んでしまった。



**


 ひどい熱が出たらしい。私はその後ずっと寝込んでいた。


「ねえ、起きて、起きて」


誰かが呼ぶ声がする。どこかで聞いたことのある声だ。そう、自分の声。


「誰――?」


大きな布団の横に、私とうり二つな少女が立っていた。彼女はポニーテイルで、美海さんと同じような白いワンピースを着ていた。


「私の名前はヘメラ。混沌が分離してしまったみたいなの。今日からあなたは闇の能力者、そして私は、光よ」


私を労わるような微笑みは眩しく、私を焼き尽くしてしまうのかと思うほどだった。


※追記(2016.8.7)

時系列に問題が生じたので変更を加えました。


まず、ニュクスの回想はシーボルスを倒してから「7年後」ということに変更しました。

それに伴い、ニーナの年齢を18から17に。


そして、コロウですが、ニーナが訪れてから(シーボルスが死んで7年後)死んだのではなく、シーボルスの没後1年で死んだ(英雄の章 コロウを参照ください)ので、そのあたりに関係するセリフを変更しました。


修正が必要な長編となっており、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。

今後はこのようなことがないように努めます。


他も現在の設定と異なる点がありますが、それは節目の時にまとめて変更したいと思っています。


今後とも、この作品をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ