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96話 慢心と後悔

ご覧頂ありがとうございます。

 どうぞこちらへと、須美さんの声に続き先程門で出会った二人がこの二十畳はある居間へと入って来た。


 静雄達はそれまでしていた会話を止め、その二人に視線を集中する。

 ボソッと「あんま似てないわね」と秋山の余計な一言が漏れるが、それをスルーして瀬里沢が俺に対してしたような挨拶で迎え入れ、それぞれ俺ら学生組を紹介していく中で、菅原の娘さん(以下恭也さん)の視線は俺に向いた後目を開き驚いた様子のまま、不機嫌そうな表情の父親である菅原のおっさん(以下兼成さん)へ移ると、一瞬目を逸らした。

 恭也さんの隣に居た箱根崎って人は、何故か俺を睨んで来るので首を傾げるばかりだ。


「初めましてと言わなくても、僕の事は既に皆さんご存知の様子。ですが念の為名乗らせて貰います、僕の名前は菅原恭也。横の彼は一応助手……兼なんだろう、事務員? の箱根崎烈君だ。じゃあ早速だけど今どういう状況なのか、説明を聞いても良いかな?」


 恭也さんから紹介された横の男性は若干その頬を引き攣らせながら、「助手っす! なんで疑問形なんすかっ! 箱根崎っす、よろしくっす」とペコリと頭を下げる、どうやらこの人の緊張した様子から兼成さんの事も知っているかもしれない、あの無理矢理浮かべた笑みで俺はそう思った。

 そうして一通り自己紹介が済んだ後で、瀬里沢の口から今回起きた事が語られ所々を、秋山や俺そして兼成さんが抜けている所で補填し、説明している最中に星ノ宮に宇隆さんが到着。


 遅くなった理由は、途中の交差点で事故を目撃し遅れたそうだ。

 全員が揃い一時間半程話したところで、事のあらましは話し終えた――





「……だいたいの所は分かりましたが、正直あまりの内容に頭が着いて行きません。そもそもあなた方が、本当に単なる学生って事が信じられないです。いえ、嘘だと思っているわけでは無くて、そこの君は安永と言っていたが良くその程度の怪我で済んだね。人死にが出て無いのが不思議なくらいだよ」


「む? この包帯は家の爺さんのせいで、実際に負った負傷は肩と胸に少々の切り傷と腹の打撲位だぞ? 後はそこの明人も左肩の背中側に一撃、今は入院した瀬里沢の父親……は俺のせいか?」


 話を一通り聞いた後で、恭也さんは話の整理をしていたようだが、俺達がただの学生で、別に彼女の父である兼成さんの指導が在った訳では無い事を聞いて、混乱しているようだった。


「えっと、君のお爺さんって……いや、今は関係ないね。瀬里沢君のお父さんは操られていたと確か言っていたね。その時に?」


「そうそう、ビックリしたわよね。でもあれって助けようとして、結局ポッキリしちゃって痛そうだったわ」


「あれは事故、宇隆さんは悪くない」


「くっ、それを言われると面目ない」


「あ~、なんか大変だったんすね……」


 黒川がフォローを入れているが、名前を出した時点で実は止めを刺している。

 それを哀れに思ったのか聞いていた箱根崎さんも、地味に慰めていた。


「あの、よろしいかしら? 結局瀬里沢さんが頂いたと言う御札ですけど、私達が聞いた効果の程ですが、最初は良かったけど二回目に貰った時直ぐに剥がれたって理由に何か心辺りはあって? それが悪いと言う訳ではないのだけど、どうしてなのか話を聞いていても、よく分からなかったのよね」


「それは僕も大いに興味のあるところだね、本当に確りと合った物を作ったのか……瀬里沢君、悪いがその件の札がまだ無事ならば、ここに持ってきてくれるかな?」


 星ノ宮も疑問に思っていたのか、そう質問すると兼成さんもそれに追従して瀬里沢に要請する。

 それを聞いて「何であのおっさんは偉そうなんすか?」と箱根崎さんが秋山に聞いていたので、予想と違いこの人は兼成さんと面識が無いのかもしれないと思いなおした。


 確かに星ノ宮の言う通り、俺が昨日見つけた時はその効果を正確に発揮していたのに、何故二度目の時は勝手に剥がれてしまったのか? 星ノ宮としては、あの札を文字通り『手札』の一つとして使えると考えているのなら、その効果はとても気になるのも当然だ。

 なんせ一度星ノ宮も、操られていたとは言え瀬里沢の両親に襲われている訳だし、効果が見込めるなら対抗手段は手元に欲しい所だろう。


 暫くして瀬里沢は例の札を持ってきて、テーブルの上へ置くと徐に兼成さんがそれを手に持ち調べて行く。

 書かれている文字や、込められている力によって効果が表れるんだろうが、一般人は俺の様に『窓』でも使わないと普通はただの紙切れにしか見えない筈だ。


「力の込め具合に差があるんじゃないかな? 特にこちらの《結界符》の出来が《迷宮符》と比べ今一の様な気がする。恭也、これはいったいどういう事だ?」


「おっさん、恭也さんをいきなり呼び捨てはどうなんすか? それにあんたが見て何が分かるんすか? どちらかと言うとそっちの学生さんの方が分かるんじゃないっすかね。その札だってキチンと力は籠められてるし、恭也さんが間違える筈ないっすよ!」


 兼成さんの対応に腹を立てたのか箱根崎さんにそう言われて、兼成さんは突っかかって来た本人では無く、恭也さんの方をジロリと見た後俺の方に札を寄越し「見たまえ、君なら何か分かるんじゃないかな?」と言って押し付けてくる。

 分からない訳じゃないけどこの状況は何なんだ……? そう困惑しつつもソウル文字を見るように意識を集中する。

 まだ一応効力はあるようだが、『水』に比べ『風』の方は既にその力を失いかけている様に見えた。

 これもソウルの器を解放されたお蔭だし練習と思って試したけど、『窓』を使う方が楽だったかも。


「えっと、確かにこっちは弱いかな。だけど昨日は効果が出ていたお蔭で倉の扉を守れていたし、瀬里沢もその効果は十分体験していたよな」


「僕にも見せて貰えるかい? 自分で作った物とは言え、手抜きがあったなんて思われては困るからね。……ん? この札は」


 どうやら俺と兼成さんの指摘通り間違い無かったようで、恭也さんはメガネを外すと、右手で両目を押さえるようにして「申し訳ない」とはっきり言った。


「ちょっと待ってくれよ、なんなんすか? あんたら二人揃ってネチネチ。効果は有ったって言ったくせに、きっと剥がれたって事も偶然に決まってるっす。だいたい、最初に相談された霊障だって音と気配だけの雑魚だった筈じゃないっすか! 恭也さんも何で謝ってんすか」


「いいから、……キミは暫く黙ってくれるかな」


「っ!?」


「本当に申し訳ない。これは僕が相手の力を見誤ったせいだ。確かに音と気配だけの小さな雑霊の仕業と思って様子を窺いはしたけど、その後の対応が出来ておらず、こんな事になってしまい申し訳御座いません。謝って済む話では無いですが、どうかお許しください」


 そう言って恭也さんは瀬里沢に対して頭を深く下げたが、ピリピリとした空気の中俺達のやり取りを見守っていた奴は、すっかり焦り逆に恐縮して「いや、何と言うか……」と言葉を濁して困っていた。

 人が良いと言うか、被害者なのにアワアワしている姿を見ると緊張が解け、それを黙ってみていた珠麗さんが前に出てきて、口を開く。


「恭也さん、確かに貴女の言う通りの事が起きてしまったわ。だけど、本当に最初はあの御札のお蔭で安心して眠る事が出来て、私の体調も回復したしとても助かったのよ? それに、一度あの札を剥がしてしまった責任も私達にはあるの」


「ですが、それは言い訳でしか……」


「例えそれが貴女の想定していなかった事とは言え、私達も間違った扱いをしてしまった。だから、今回怪我はしたけどそれ以上の事は起きなかったし、元々の原因は私達の家にも問題があったという訳で、反省点を踏まえてより一層これからも頑張るって事で如何かしら?」


 珠麗さんがにこやかにそう告げるが、兼成さんと箱根崎さんはその事に納得してないのか、不満がありありと分かる表情を浮かべていて折角の執り成しが台無しだった。自重しろよおっさん方。


「本当に、……それだけで許して頂けるのですか?」


「許すも許さないも、これからの貴女の頑張り次第よ。お願いしますわね」


 瀬里沢の奴もホッとしたように、うんうんと頷いている。

 そう恭也さんに答えた珠麗さんは、恭也さんがもう一度深く頭を下げている隙に、チラッと兼成さんを見てほんの少し笑ったように見えた。

 ……珠麗さんは何か知っている? いや兼成さんを含め二人とも何かを確かめたのか?


「……どうやら御札の効力事態は問題無いようですわね。では何故アレが出てきたのかしら? 仮に最初に剥がされないままだったら、アレって今も出てこないまま燻っていたとするなら、私はそちらの方が怖いと思うわ。だっていつ破裂するか分からない風船を、気付かずに持たされている様なものでしょ?」


「うわ~、それって突然パンッ! て破裂するんだし、身構える事も出来なくて

そっちの方が危なそうね。まさに油断大敵って感じ?」


「ふむ、あらかじめ来ると分かっている物より、知らぬ間に近寄られ隙を突かれるとなれば、そちらの方がより脅威なのは間違いないな」


「確かに星ノ宮様の言う通りかと。秋山の良く使う諺で例えるならば『怪我の功名』ともいえるかも知れぬな」


「災い転じて福と成す」


「もおー! 宇隆さんも舞ちゃんも私の専売特許の真似をしないでよ~」


 何だか星ノ宮の発した言で一気に和やかな雰囲気に変わって、やっと一息ついた気分となった俺は、出されたお茶を啜るがすっかり冷め大分渋くなっていた。

 俺は口直しに茶菓子の煎餅を一つ齧ると、何となく札を調べた後単なる失敗とするには様子が変だった恭也さんが気になり、『窓』を開いて皆の興味が薄れたテーブルの上の札をもう一度確認してみた。

 『水』の属性を感じる札と違い、『風』の札をよく見ると書かれている文字は、とても似ているが製作者は“菅原恭也”ではなく、なんと“箱根崎烈”になっている。


 流石に込められた力の強弱の違いは分かっても、その質の違いまでは俺にはまだ分からない。

 そのせいで金曜に見た時は『水』の札の方ばかりで、文字もほぼ同じだったので同じ物だと見ていたけど、剥がれた訳は分からないが力の差はこれが原因とみて間違いない筈だろう。

 珠麗さんと兼成さんは実はこの事に気が付き、誰の仕業かは分からなくても大凡の事は予想していたんじゃないかと、今更ながら思った。



つづく

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