表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/213

94話 新たな契約

ご覧頂ありがとうございます。

 今日は当初の予定通り日本を離れていたらしい、菅原恭也さん(女性)が新しい札を持って来る約束の時間が昼間の二時だったので、午前中に親父に冷蔵庫の修理に関してダメ元でもいいから、見て貰う事だけでも頼みたい旨を話す。

 ただし、修理に本体の移送が必要な場合は新しい冷蔵庫を買うので、そのままで構わないと言う事もお願いしておく、流石に修理に行って戻ってきたら別人(別パーツ取り換え等)になって、『あちら』と繋がらなくなっては本末転倒なのだから仕方が無い。


 母さんはまだ引き籠り状態だったので、今朝の食事は白いご飯と適当な缶詰をおかずとした質素な物だったが、親父も家に居るし瀬里沢の家から帰って来る頃には岩戸から出ている事を願う。


 明恵は朝から居間の定位置で、お気に入りの子豚をクッション代わりにしながらTV三昧だ。

 日曜の朝と言えば子供の時間だと決まっているのだけど、俺も純粋にこの手の番組を見られなくなったのは、いつ頃からだろう?

 そんな事をふと思ったが楽しそうな明恵を見て、どうでもよい事だと考え直し苦笑が浮かぶ。

 瀬里沢の家に行く約束の時間までは、まだ暫くあるので昨日『窓』に放り込んだままだった『伊周の刀』を自分の部屋で調べたりしながら過ごす事にした。


 結局昨夜師匠に瀬里沢の家で起きた事を報告し、性質の悪い物を引寄せ……いや惹寄せてしまう原因となる、ソウルの器の輝きを隠す術がないか確認したのだが、思いのほか脳筋な答えしか返って来なく、結果は『襲い掛かる火の粉は蹴散らせ』で、参考にはあまりならなかったのだ。

 最初からそれが出来るなら、相談なんてする必要が無かった訳だしね。


 なので、もう一度瀬里沢の家に集まる事になっているこのタイミングに、なんとかあの菅原のおっさんからその方法を聞き出してモノにしなきゃ、心配をせずに明恵を一人で外に出す事が危なくてできなくなってしまう。

 まさか四六時中明恵に張り付いている訳にも行かないので、本当に困った……もしかすると弟子入り先が一つ増える事になるかもしれない。


 弟子入りしない場合として刀を弄りながら(情報のみ)考えた事は、今までの所有者である瀬里沢の家の人間のみを対象としていた『契約』を、俺若しくは明恵に対象を移した場合は契約した内容次第で『護衛』になりえるのか。

 あの現界した時の性格を考えると無理っぽそうだけど、上手く調教が出来れば……でもコイツはある意味人を喰っている。

 存在する為には必要な行為だったとしても、これまで瀬里沢の家に巣くって、長子以外の子供が十分育った時点で『憑りつき』、事故や寿命に見せかけ結果的に殺してきている訳で、対価としては十二分にその糧となる物を払えるし、問題は無さそうだけど心情的にはあまり受け入れたくない。

 ただ、こうしてある意味封印してはいるものの、所有者である俺とは繋がりが出来ており、今も勝手にエネルギー(?)を吸っているらしく……いつの間にやら所有者=契約者とは、まさに呪われた武器だ。

 しかも契約の内容を確認すると、瀬里沢の家の繁栄から石田家の繁栄に書き換わってやがる! これはちょっとばかりお話する必要があるだろう。

 『窓』を展開して、枠に入れたままで話しかける。


「おい、聞いてるか? 勝手に俺から対価を吸ってんだから契約の内容を変えろ。さもないと消すぞ?」


《クカカカ、面白い。この儂をどうやってこのように閉じ込めたのかは分からんが、触れもせずにどうやって消し去ると言うのだ? ハッタリなど儂にはきかぬわ。それよりも今大人しく儂を解放するのなら、契約通りこの家の繁栄を約束してやろうぞ。さっさと言う事を聞く方が賢いと思わぬか?》


「随分と大口を叩けるな……だけどその様子だと、今自分がどんな状況になってるかぐらい知覚できてんだろ? どうやって俺のソウルの器から力を吸い取ってるかは知らんが、お前動けないだろ? 俺から勝手に対価を得ているのに、新しく体を作りなおしたり出来ないのは何故だ?」


《……》


「したくても出来ないのは分かってんだよ、これから俺が新たに見つけた『機能』をお前に紹介しようと思うんだが、さっきの俺の言葉がハッタリかどうか見てるといいぞ」


 俺はそう言って、使わなくなって久しい部屋の隅に転がしていた三キロのバーベルを手に持つ。


「さて、これから見せる『機能』は俺も昨日見つけたばかりで初挑戦だが、その効果の概念は良くしっているんだ。割と使っているから当然だけど、その結果『何処に行くのか』は俺も全く知らないんだけど、まあ物は試しだ。よーく見てろよ?」


 返事は無かったけど俺の動きは伝わっている筈なので、持っていたバーベルを空いた枠に入れ再選択し、指でドラッグしながら『窓』の端っこに在ったデフォルメされた蓋つきのバケツのイラストの上に、半透明になっているそれを持っていきドロップする。

 その途端『ゴミ箱』はぷくりと軽く膨れて、中身が入っている様子の表示を示した。


「さ、準備は完了。これでお前の隣に居た筈のバーベルさんは待機状態となった訳だ。じゃあこの後バーベルさんはどうなるでしょう? 知りたくないか?」


《ええい! そんな事儂が知るか! 何を見せるかと思えば姿を隠しただけではないか。小賢しいマネをして、そんな子供だましで儂は騙されんぞ?》


「おっと、真面目に見えてはいるのか……枠内の表示からは消えて居るけど、まだここに在るって事は知覚出来てるようだな。流石物同士良く分かってるみたいだが、ここからが本番です。俺もこの後どうなるか……実は分からないんだけど、結果は分かってる。早速やってみるか~ポチっとな」


 いつも交換する際に出て来る決定ボタンを押す前に、『このアイテムを削除しますか?』と新たな制度表示が出て来たので勿論YESを決定する。

 俺の頭の中にパソコンで使用した際の、あのガサゴソっとゴミ箱から中身が消去された際に聞こえる効果音が響いた気がした。

 膨らんで表示されていたゴミ箱のデフォルメされたイラストが、元のほっそりした形に戻ると中身のバーベルさんは影も形も無く、その姿を消失させ枠がまた一つ選択可能となる。


《なっ!? き、貴様! どうやった!? そんな奇術には騙されんぞ! 速く儂を外に出さぬか!》


「ふっふっふ、驚いたかな~? これには種も仕掛けも御座いません。俺も何処に消えるのか知らんし、分かる事は二度と戻らないって事ぐらいか? さて次は勝手に俺から搾取する悪い刀を消す番かな?」


《なんだと! まてっ! 儂を脅す気か!? あっ! 何をする! どこに持っていく気じゃ! 待つんじゃ話せば分かる! そこには入りとうない! 止めい、止めぬか!》


「ん~? 聞こえんな~。ではでは~ドラッグ&ドロップ!」


 気分はすっかり悪代官、何かまだ言ってるようだけど、どうやらゴミ箱に入るとそれも聞こえなくなるようだが、こっちの言葉だけは奴に聞こえているらしい。


「さ~て、言う事を聞かない勝手な悪さをする様な刀は当然処分だよね? そもそも主は俺の筈だろ? 勘違いしているのは俺かお前どっちだ? 最期にもう一度話す機会をやるけど、あまり下らない事を言うなら即消すからな?」


 ゴミ箱をクリックして、NOを選ぶと刀は枠に戻って来た……のだが、何か枠が微妙にガタガタと揺れている。もしかして、刀が震えてるのか?


《な、なんなんじゃ、あの場所は!? き、聞く以外の感覚を奪われた筈なのに、何かが、そう何かが儂の足を掴み底に引きずり込もうとするあの恐ろしい気配は、もしやアレが黄泉に繋がる……》


 何かよく分からんけど、刀でさえも恐れる場所らしい。

 と言うか黄泉に繋がる穴って、随分物騒だな……。

 流石にゴミ箱の先が黄泉? だなんて発想は思い付かんかった。

 精々ゴミ粉砕機でガリゴリ分解され消滅くらいに思っていたけど、そんな所に捨ててというか消して、俺って大丈夫なのか……?


「え~、それじゃあ答えを聞こうか? このままお前もバーベル(故)さんの後を追って消えるか、新たに心を入れ替え契約の更新をするか、どっちが良い?」


 答えるまでも無く、刀は俺に屈服し新たに契約を結ぶ事になった。

 石田家の繁栄って言っても、全然具体的じゃないし今まで瀬里沢の家がよくもまあ存続したものだと、変な感心をしながら改めて思う。

 こうして件の呪い(?)の刀は『守り刀』として色々と働いて貰う事になった。


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ