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92話 文化の違い意識の差

ご覧頂ありがとうございます。

 ――皆が寝静まった頃になってやっと台所に来られた訳だが、どうやら親父は母さんに寝室に入れて貰えずに、今日の所は書斎で寝る事になったらしく、そのせいで結構時間帯が遅くなったのだ。

 案の定夜中に冷蔵庫を開けると向こう側に繋がりはしたが、師匠は昨日の夜と同じように椅子に座りうたた寝をしていた。

 それでも何度か話しかけることで漸く起きたたらしい。


「師匠? 師匠、起きてくれ。俺だ明人だ」


「……ん、おお。アキートか、すまんすまん。またつい眠りこけてしまっていたわ。昼間の一番暑い時間は、消耗を避けるのに部屋の中で寝ておるんじゃが、やはりこの時間まで起きているのは、年のせいか少々堪えるわい」


 目が覚めた師匠は椅子に座りながら伸びをし、体の彼方此方をポキポキと小気味よい音を立て解す。ついでに大きな欠伸までされて、思わず俺にもそれが伝播し、つられて同じような欠伸が出てしまう。

 実は俺もかなり眠く、さっきもコーヒーを飲んで眠気を妨げていた。

 ……親父ももっと早く寝りゃ良かったのに、そんなに一人は嫌だったのかな?

 そんな俺の顔をみて、師匠は訳知り顔で口元に不敵な笑みを浮かべてこう切り出した。


「さて、お主のその様子じゃと、たぶん何事も無く上手く行ったのではないかな? 貸し出した『清涼の腕輪』はどうじゃった? 少しは役に立ったかのう?」


「ああ、何とかなった。これも全て師匠のお蔭だぜ。アレが無けりゃ苦戦する事は間違いなかったし、俺もあれ以上瀬里沢の事情に踏み込んだかどうか……。いやきっと関わり合いになったとして、今ここに立つことができたか怪しいな本当に」


 昨日の段階じゃ風の要素なんて、引き出す事すら出来なかったことを考えれば凄い進歩の筈だけど、代わりに明恵の命を危険に晒したことを考えると、感謝はしても素直に喜ぶことが出来ない。

 元々の原因が俺にあったとは言え、どこかまだ心の中で割り切れて無いので、苦笑いになる。


「昨日から比べると、格段にようなったとワシは思うぞ。なんせ昨日のお主の顔は例えるならば、ワシの住む街で迷子になり困り果て涙する一歩前の幼子の様じゃったからな。その顔には『助けて』と聞くまでも無く書いてあるも同然じゃったわ」


「それは……、俺ってそんな顔していたのか? 確かに困っちゃいたけどな。どっちかと言うと、結果的に明恵が昨日のアレに巻き込まれた事の方がよっぽど参ったよ。そうだ、師匠に聞きたいんだけど、どうやったらソウルの器の輝き? ってのを隠すことが出来るか知らないか? どうもそのことが昨日の夜襲われた切っ掛けになったみたいなんだ」


 確かに何で襲われたかと言えば、『見えた』からだと思い込んでいたけど、菅原のおっさんが言うには『輝きに惹かれて寄ってくる』と断言までしていたのだ。

 そう言った事を生業として生きているおっさんは、それを隠す若しくは緩和する方法を習得しているらしい。

 俺としては弟子入りなんかしたくないので、出来るなら師匠に教わりたいと思うので、瀬里沢の屋敷で言われた時聞いてみる心算だった。


「何で隠す必要があるんじゃ? 襲ってくると言うなら片っ端から片付けて行けばよかろう。お主の風の要素の制御のよい練習になるのではないか? その内最初の祈りの言葉は要らなくとも、発現させられるようになるぞ?」


「あ~、俺は別にいいけどさ。明恵も俺の不注意でソウルの器を解放しちまってるせいで、十分幽霊とか引き寄せる要因になっているかも知れないからさ、どう考えてもあの年で襲われたら、仮に何か対抗手段を持ったとしても危ないだろ?」


 楽しそうな表情から、少しばかり思案顔になった師匠は顎髭を弄りながら「お主の妹か、確かにまだ小さいの」と昨日の明恵の姿を思い出したのか、呟きながら俺に確認してくる。


「ふむ、死者が眠るのを妨げるのであれば、街から出なければよかろう? そんな子供が街や村から出る場合は、当然何人かの大人も一緒じゃろ? ならばその道中で出会う襲ってくるような輩は、話など聞く必要も無い。地に返すのが通例……、まさかお主の住む地域では違うのか?」


 師匠は話している途中で、その顔に困惑気味な表情を浮かべて俺に尋ねる。

 そもそも、文化や風習からして違うのだから、こういった齟齬があって当然だと言う事がすっかり抜けていた。もしかして割と脳筋?


「前にも話したと思うけど、俺は最初ソウル文字を読めなかったし扱えなかっただろ? つまりはそう言う事」


「……なるほどのう。だからそう言った類の物が、急にお主を襲い始めたと言う訳か。聞いて不思議に思うたんじゃよ、何故襲われたのかと思えば狩る物が居なければ自然と溜まっていても不思議では無いしの。それは確かに危険と言えるじゃろうな、寧ろその一件だけで済んで運が良いとも言えそうじゃな……確かに隠せる物なら、それに越したことはないであろうよ」


 師匠はそのまま街や村の外に出る事で遭遇する、そう言った類の実体を持たない物や、風邪精みたいな魔の物の話をしてくれた。


 とてもじゃないが、普通の現代人で倒せそうな相手じゃないし、仮に倒せたとしても、倒すことで『呪われる』こっちで言うところの祟りに近い物には、中々対処できないと思う。

 それに遭遇した際にそれらを倒すか逃げるかの判断をし、倒せそうなら排除すると言う考えの根本には、拠点を襲われない為という基本的な考えからして違う事が分かった(勿論例外は居るそうだ)。

 なので、こっちの文化と言うかそもそも基本見える人が居ないと言う事や、戦いとほぼ無縁の人の方が大半でそれが普通だと話した所、大いに驚かれたがそんな師匠に対し俺が驚くと言う変な具合だった。


 結局全部明恵の為だと言ったら、その考えは当然だが今から戦う術を教えるというのはどうか? と返って来て、益々考え方の違いに悩む事になる。

 俺に師匠が清涼の腕輪を貸出し、吹き飛ばせと言った言葉もそこから来ているのだと思えば納得だが、明恵はまだ七歳……百歩譲って戦いの術を教えるって事をしても、どう考えてもそれで戦わせるって言うのは、ちょっと無理があるだろう。

 やっぱり菅原のおっさんに聞かなきゃ、隠す方法が分からんって事か? これって俺……弟子入りしなきゃダメ?


 ある程度話し終わり、最後に閉じ込めた刀を『窓』に入れたまま見せたり(やたら興味示していた)村の様子等を聞いて、二時を過ぎた辺りで限界が来た。


「それじゃあ、ワシも寝るわい。腕輪はまだ貸しておくぞ、また明日の」


「ありがとう。そう言えば師匠『アフ=カ』って、どんな意味?」


「ん? 『アフ=カ』はたいてい風に対しての神への祈りの始まりじゃな。ワシが良く使う火じゃと『アフ=ラ』になるのう」


「へ~、じゃあ実際に使う時なんか『アフ=ラ・アーフ』とかになるのかな?」


 師匠は俺の言葉に対し、おや? と言う顔をしたあと髭を扱きながら上機嫌に

返事をする。

 どうやら火の要素も、言葉の組み合わせの違いで発動できるみたいだ。


「うむ、それで間違いは無いの。ワシが良く使うのは『アフ=ラ・アーズ』じゃな。若き頃は火の最高位を目指した事も在るのう……『アフ=ラ・マズダ』天空にある大いなる火とも呼ばれる術じゃが、発動には至らなかったの」


「なんか、どっかで聞いた事が在った様な……?」


「ほっほ、それは素晴らしき事じゃな。世界を越えようとも神への祈りは届いていると言う事かの?」


 その言葉を締めに、俺は冷蔵庫の扉を閉じて二階の自分の部屋へと戻った。


つづく

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