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91話 蛙の子は蛙

ご覧頂ありがとうございます。

 食事が終わって俺はTVをつけながら食器を濯ぎ、明恵が風呂の掃除を終えて中に水を溜めていると、玄関の鍵が開錠される音が聞こえ「ただいまー」と廊下に響く声がする。

 何時もならここで母さんの返事がする訳だが、今日に限ってはそれが聞こえず居間のドアが開き、親父が顎に手をやりながら入ってきた。


「あっ、父、おかえりなさい」


「おっ、明恵~ただいま。風呂の準備か? 偉いぞ~。明人、母さんはどうした? ……もしかして、今朝の事気にして例のいつものヤツか?」


 明恵が濡れた手を拭かずパタパタとスリッパを鳴らし、ニヤニヤしながら親父に飛びつく。

 親父も難なくそれを支えるが「冷たっ! 悪戯好きの明恵は本当大きくなったな~、そろそろ俺もキツイわ~」と言って、照れくさそうに明恵の両脇を擽り笑っている。

 でも、母さんの突進を受け止められる親父の今の言葉は、単なるポーズだろう。


「お帰りな……思い出した! よくも冷蔵庫の事俺がやったって言って逃げやがったな! お蔭で締め落とされたっつーの! でも、今引き籠ってる原因はそれじゃなくて、母さんの大事にしていた庭の木。昼間母さん達が居ない時に俺がアレの枝落とししていたら、ちょっとやり過ぎて~って訳」


「お前、よくピンピンしているな。……まあ、仕事前に母さんの手に落ちる訳にはいかんからな、悪いな明人。それと起きちまった事は今更何を言っても仕方ないが、あまり母さんを悲しませるなよ? な~明恵~?」


 そう言って嬉しそうに明恵を纏わりつかせながら、その両手を万歳させて摑まえ、二人で同じように足を踏み出しながらゆっくりと俺に近付いてくる。

 そんなちょっとした事でも楽しいのか、明恵は凄く満足そうな表情を浮かべ、偶に親父を見上げては声を上げて笑う。

 ……何か負けた様な気持ちになり、かなり悔しい。


「うん、と言うかあれは不可抗力だし、お蔭で二度も沈められたから暫くは勘弁して欲しい。それで冷蔵庫の事なんだけど実は……」


「皆まで言うな明人、分かってるさ。その冷蔵庫だが明日にでもあれを買った電気屋に電話して、まだ保障期間内だから見て貰う心算だ。何ぼか修理代はかかるだろうが、早く直さんと母さんの機嫌もアレだし、美味い飯も食えんからな……お前の犠牲は無駄にはしないぞ」


 親父は俺の話を遮りそう言うと、ヤレヤレと首を振りながら明恵を解放し、寝室では無く父さんだけの書斎兼自分の部屋へ入って行った。

 今両親の寝室のドアは固く閉ざされ天岩戸となり、例え天手力雄神でも開けられはしないに違いない。

 ……天宇受賣命の場合は、きっと覗き見るのは母さんでは無く鼻の下を伸ばした親父だけだろう。

 そんな下らない事を考えつつ、あの冷蔵庫が修理に『出された』場合に非常に不味い事に気が付いたので、晩御飯を食べに戻って来た親父に、昼間難を逃れる為に新しい冷蔵庫を買うと俺が母さんに『約束』した事を告げると、食べようとしていたカップ麺にお湯を注いでいた親父は、そのままタパタパとお湯が溢れるのも構わずに「誰がその冷蔵庫の金をだすんだー!?」と悲壮な顔で俺に向かって叫んだ。





 ――結局、新しい冷蔵庫に関しては既に買うと『約束』をしていた事なので、俺がその購入資金を稼ぐために、静雄と二人短期バイトを今日、明日の二日間肉体労働で手に入れる予定だと話すと、叫んだ後カップ麺が伸びるのも気に留めず放心していた親父は何とか再起動し、伸び切ったそれを不味そうに啜りながら俺に「もう、買う冷蔵庫に関してはお前に全部任せた」とブン投げ確り言質を頂いたので、新しい冷蔵庫が届いた際は元々のあの六ドア冷蔵庫は、俺の部屋へ移動させる事に決定した。


 俺と親父の会話していた横で、ケーブルTVのアニメ専門チャンネルの、体は子供、頭脳は大人な名探偵モノを見ていた明恵は「お部屋に冷蔵庫があれば、いつでもプリンが食べられるね!」とキラキラした目で俺の方を見ていが、そんな事で腹を壊されたり部屋を出入りされては適わないので、俺はニコニコと笑いながら「任せておけ、ノックがあれば持って行ってやるぞ~」と答えると、明恵はその場で「やったー!」と声を上げ嬉しさのあまりか踊りだす。

 ……別に甘く無いぞ、行き成りドアを開けられては適わないのでこう言っただけだ。

 無論俺と親父が無言で携帯を取り出し、その踊りを動画撮影したのは秘密である。


 とりあえずこれが上手くいけば、親の目を盗んで夜中に師匠に会う事もしなくて済むし、何より時間を気にせず向こうに繋げる事が出来ると想像すると、今までの苦労が報われたと思う。


 そんな明恵の事で気になっていたのが、俺が『清涼の腕輪』で暴走していた時持っていた子豚に、ソウル文字で『アキエ』と刻まれていた事だ。

 明恵は別段誰に教わるでもなく、ソウル文字を刻むことを覚えたのだとしたら、其処ら辺の物全てに自分の名を刻んだりしているのだろうか?

 最近はやる事が多すぎて忙しいのもあって、明恵の部屋にお邪魔したことが無いから、これは一度見に行く必要があるかもしれない。


 と、言う訳で明恵が風呂に入っている間に、こっそりと部屋へ潜入もとい調査を開始する為、こうして足を踏み入れ普通にぐるりと見回した感じでは、ソウル文字が刻まれているかどうかは、実は分かり難かったのだ。

 それと言うのもかなり意識して『視たい』とか『視よう』としないと見える物ではないらしい、他に極限状態や感情の高ぶりで差があるみたいだけどな。


「やっぱり、あの子豚以外にもソウル文字が刻まれていた場合、それに反応して余計なもんを引寄せたら不味いし、その原因になる恐れもある。いい例が半分操られていた守弘さんの御霊が、俺のソウルの器に惹かれて襲ってきた事だな……」


 ただ、今の所分かっている事はそれなりの力を持つ五つの要素が関わった品に『勝手に』刻まれていたり、ソウル文字を扱えられる人だけが行えるのが基本の筈だ。もっとも一概に全部がそうとは決めつけられないが、一番簡単に視る方法が『直接触れながら』視る事なので……って、よく考えれば俺の『窓』で調べて行く方法もあったか。


「触らずに確認できるって、便利だよな~下手に物を弄ったりすれば位置がずれたりで、あっさり相手に感ずかれる可能性も高いしな」


 俺はトレード開始と呟きながら、適当に塞がっていない枠を使って(六枠中半分の三枠は、籠手と短剣に刀が使用)目に入った物から調べて行く。

 数量的にはそれ程の物ではないし、女子更衣室で隠しカメラを見つけるよりも楽な作業だ。





 ――三十分をかけ調べた結果結局ソウル文字が刻まれていた物は、俺や両親がプレゼントした明恵のお気に入りとなっている物の他に、一冊のノートにびっちりとソウル文字が刻まれているらしく、表紙には明恵の性格がでているような字で『にっき』と記載されている。

 ……きっと明恵は俺が秘密の文字って言ったことを確り覚えていたんだな。


 思ったよりソウル文字が刻まれている物は無かったが、自分の名だけでは無く好きに刻むと言うより書いているようで、大してソウル文字を重視していなかったが、俺も少しソウル文字の使い方を考えさせられる結果となった。


「明恵の日記か……引き出しの中だが、『窓』で見れば中身も分かるかな? ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ見るくらいなら大丈夫……」


 そう自分に言い聞かせながら何故かドキドキしつつ、『窓』を操作してログを見ようとするのだが……ログにはこう書かれている。

 『ソウル文字を使用し記載』『ソウル文字を使用し記載』『ソウル文字を使用し記載』(以下続く)つまり、記載したと言うログは残っているのに、そこに『ソウル文字を使用した場合』書いた内容は『記載されない』と言う事が分かった。

 ……意識してやった訳じゃ無いだろうけど、普通の人には視えない分秘密にしたい事はこれでやり取りも、って俺の他にソウル文字が使えるのって今の所明恵だけだし、あまり意味は無いか。

 このくらいなら特に脅威にも成らなそうだし、後で明恵にはあまり使わない方が良いと伝えよう。


 後は、明恵が戻ってきたら俺も風呂に入って、皆が寝たら今日の結果の報告を師匠にしてさっさと寝るか、明日も皆で瀬里沢の家に行く事に決まっているし、件の菅原ってちょっと変わったおっさんの娘も来るそうだしな。

 それに報酬の十万に加えて危険手当って、……どのくらい貰えるもんなんだろ?

 こりゃもう新しい冷蔵庫は確実にゲットしたも同然だな!


つづく

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