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83話 瀬里沢邸 対峙

ご覧頂ありがとうございます。

 いつの間にそこに現れたのか、全く気配をこちらに読ませることなく辺りに溶け込む様にしてアレが佇んでいた。


 スーッ カキン


 さっき振った時は鞘走りの後も、刀を抜いた音さえ聞こえなかったと言うのに、今はこうして刀を鞘に戻したことが嫌でも分かる。

 抜刀の速さに余程の自信があるのか、静雄にさえ察知させずにいたという自負なのか、あるいはその両方がこうして刀を鞘へ戻すと言う余裕を見せるのだろうか?

 随分と味な真似をするようになったが、前に二度遭った時は明確な意思というものを感じなかったのに、今は動き自体に意味を表しているように思う。


 いや、さっきの斬撃は単に薙いだだけで静雄に当てる気は無かったのか?

 そう思い静雄をの様子を見ると、アレを警戒しながらも担いでいた瀬里沢の両親をそっと下ろしていた。

 瀬里沢も珠麗さんを背中から下して、表情も曇りその額には汗が見える。

 無論熱さでは無く……、そう言えば屋敷の周りを覆っていた妙な感覚が消え、暑さが戻ってきている!? この変化は何が起きたんだ?





「やれやれ、漸く結界に穴が開いたよ。『式』が無効化された時に向こうにも察知されていたと思うけど、随分と粘った物だ。だけど最後は抵抗が妙にあっさり消えたように感じたのは……気のせいかな?」


「いったい何の話をしている? 何故私の邪魔をした? そもそもあなたはここで、秋山達と何をしていたのだ? 瀬里沢の屋敷に何の用があって来ているのだ?」


「私が頼んだ。今石田君達を本当に手助けできているのは、きっとこの菅原さんだけ。私と秋山さんは応援しかできないから、ここに居るの」


 菅原さんは視線は宇隆さんに向けているのに、どこか別の場所を見ている様で宇隆さんの質問には特に答えもせず、その顔には曖昧な笑みを浮かべている。

 私の言った事を聞くと、菅原さんをジロジロと見て宇隆さんは首を傾げるが、分からない人には理解できないのも仕方が無い。

 寧ろ『分からない方が良い』に決まっている。


 それより星ノ宮さんと宇隆さんが、どうやってころ合い良く偶然にここへ来たのかの方が私には不思議だった。

 菅原さんはただ単にそこに居ただけに見えて、他の人にも分からないだろうけど、さっきは邪魔をしてはいけなかった時だったと言うのは私にも分かる。

 

 見た感じ確かに私の思うように特に何かしているようには見えない。

 でも、さっきまで宇隆さんの持っていたトンファーについて話をしていたのは、宇隆さんが壊れた門に気が付いて一歩踏み込もうとしたから。

 下手に中へ入らないように気を反らせただけで、もしあの時『準備が終わって無いまま』宇隆さんが中へ一人で入っていれば、どうなったかなど考えるのも嫌。

 私にも見えないけど感じる事はできた、ここはアレと同じ場所になっていた。


「ありがとう舞ちゃん。もう大丈夫だから入る『だけ』なら構わないけど、僕としては舞ちゃん以外の人が入るのは、あまりお勧めしない」


「それはどういう意味だ? 黒川は平気でも私に勧めないなど意味が分からん。黒川の話を聞く限りでは、石田達が中で苦戦しているのであろう? ならば手を貸すのが道理」


 そうきっぱりと言う宇隆さんは、もう話すことは無いと顔を星ノ宮さんへ向けている。困った、こうなった宇隆さんは私じゃ止められないかもしれない。

 その雰囲気を読み取ってくれたのか、もう一度菅原さんは口を開いてくれた。


「君は宇隆さんと言ったね? きっとそのトンファーを見る限り、君は体を動かすのは得意だと思う。だけど、それが通じない相手にはどうしようも無いよ?

助けに行くつもりが足手まといを増やすとなれば、『助っ人』と言われた手前僕としては、邪魔をして欲しくない」


「……邪魔だと? 私の力は不要だと言うのか!」


 穏やかな表情でそう話す菅原さんだけど、宇隆さんには逆効果で振り向いたその顔は無表情になりスッと目が細くなる。

 一気に緊張感が高まったけど、菅原さんは自然体で扇子を仰ぎだす始末。

 暑いはずなのに、ここだけ寒くなった気がした。


「真琴、お待ちなさい。……秋山さんに簡単にですが事情は伺いました。菅原さん、でしたわね? 私はこの宇隆の主である星ノ宮奏と申します。私達の大切な『仲間』を助けて頂いたそうで感謝いたしますわ。ただ、宇隆が足手まといと言う言葉は聞き捨てなりません。訳を教えてくださいませんか?」


 そう言った星ノ宮さんの後ろにはぐったりした秋山さんが見えたが、星ノ宮さんが張り詰めた宇隆さんを抑えて、菅原さんと対面する為に出てきた。

 どうせならもっと早く会話に加わって欲しかったけど、疲れた表情の秋山さんに顔を向けてお礼をするべく頷くと、秋山さんは苦笑いで手を振ってくれる。

 秋山さんは本当に良い人、私は頑張って茜ちゃんと言える様になりたいと思う。


 パチ パチ パチ


 更に後ろから手を叩く音が聞こえそちらへ視線を向けると、大仰な動作でピンと伸ばした右腕を、胸の前で止め頭を下げた後にゆっくりと五秒は数えた頃に、皆の視線を集め車のサンルーフから飛び降りた。

 どうしてこの人はこんな面倒な下り方をするのか、いまいち良く分からない。


 菅原さんの友人と紹介された高野宮さんが、秋山さんへ向けた笑みとは違う酷薄な表情で、何故か星ノ宮さんへ視線を固定している。


「流石は次期星ノ宮本家の当主に成られるお方は、言う事が違いますな。実によく部下を従えているようで、私ども分家の物も見習わなねばと常々思います。まあ、自分の部下くらいは軽く抑えられない様では困りますがね」


 あの軽そうだけど、菅原さんや秋山さんと楽しそうに話していた雰囲気が全然なく、ちょっと嫌な空気を感じる。本家? 分家? 親戚だった? だけどあまり似ている様には見えない。


「はいはい、高野宮君は黙っててね。その年で態々高い所から飛び降りたり、一々ポーズを決めるのは流石に恥ずかしいと僕は思うよ。後で構ってあげるから、少し静かにして僕の邪魔をしないでね」


 菅原さんは大きな溜息を吐くとそう言って、扇子の先で犬を追い払うように二回扇ぐ。流石に学生時代からの友人とは言え、この扱いはどうなんだろう? 男の人同士の友情は、私の心にはとても不思議に映る。





 この狭い中でアレと対峙するのは不利だ。

 もし狙ってやったのだとしたら、随分と賢くなったもんだ。

 しかも、俺でも分かる程の威圧感を放ってきていて息苦しさを覚える。

 瀬里沢もすっかり萎縮して、不安そうに俺と静雄を見ていた。


「明人、俺が前に出る。援護を頼む」


「大丈夫なのかよ? アレには場所の不利は無いだろうけど、俺達には条件がシビアだぜ。周りのコレとかうっかり踏んで、間違って壊したらどうなるの?」


 あんまり歓迎したくない戦いなので、軽口でも叩かなきゃやってられん。

 援護っつっても、俺だって少しは前に出ないと静雄に間違えて当てそうで怖いんだよ! 秋山達は来なくていいけど、『助っ人』って奴はいつになったら来るんだ?


「お二人とも、その様な事心配なさらずとも結構、責任は私共瀬里沢の家に在ります。舜よく聞きなさい、何があろうとも先ずは生き残らねば意味がありません。そうやって瀬里沢の家は代を重ねてきたのですからね」


「はいっ!」


 うむ、珠麗さんから有難い言質を頂いたので、心置きなく動けるのは良いけど、静雄の動きを見て援護となると先ず狙うなら相手の足……はっ? 治ってる!? あの千切れかかっていた足がくっついてやがる!! 通りで例のズリズリザリザリ煩い音が聞こえない訳だ。

 向こうもマジで来ているって訳か、こりゃ冗談抜きに本当に命がけの勝負になって来たな。


「静雄! 相手をよく見ろアイツ足が治っている。今までより踏み込みの速さと、その威力も上がってるに違いない。なるべく全員『命を大事に』で行くぞ」


 そう聞こえる様に言うと、俺も静雄に並ぶように手前に在った箱を蹴飛ばし足の踏み場を作ると、風の要素をいつでも放てる様に集中に入った。


つづく


12/26 加筆&修正しました。無効か→無効化 大仰動作で→大仰な動作で

 頭を下げてた後にゆっくりと五秒数えた後に皆の視線を集め→頭を下げた後ゆっくりと五秒は数えた頃に、皆の視線を集め

 私にはとても不思議に映る→私の心にはとても不思議に映る

 少しか前に→少しは前に


 日付変わって焦りすぎ……色々問題の多い話でした。

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