表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/213

82話 瀬里沢邸 動く

ご覧頂ありがとうございます。

 折角秋山の事は瀬里沢に押し付け……もとい、役割分担し参謀として作戦内容を説明させていたのに、作戦中に途中で関係ない部署から横紙破りに案を白紙に戻された気分だ。いや、今までもされた事無いけどね。


 それにしても星ノ宮にはワザと黙っていた訳でも無いし、どちらかと言えば昨日倒れたとか宇隆さんに聞いていたから、そっとしておいたって言う考えはどうだろうか? ぶっちゃけると視界が狭くなっていたから忘れていたなんて正直に言えば、タダでは済まされないと思っての、俺の被害を最小限に抑える為のせめてもの足掻きだ。

 もしバレたら何を要求されるやら……特に今は懐にダメージを与えるケーキは勘弁して欲しい所、あれって意外と値段貼るのよ。

 そんな俺の思惑とは裏腹に、瀬里沢が持っていた携帯を渡してきた。

 微妙にホッとした顔をするのは、お前でも嫌だったのか“同志”瀬里沢よ。


「もしもし、俺だ。悪いが今は説明している暇は無いから秋山に聞いてくれ以上!」


 それだけ言って、俺は携帯を瀬里沢に押し返した。

 秋山がだいたいの事知っているし、任せて大丈夫……だよな?

 俺は一つ深呼吸すると困惑する瀬里沢と、裏切り者二名に向かってこう言う。


「さあ、作戦開始だ! とっとこの場所から撤退するぞ! 静雄には二人を任せる。瀬里沢は珠麗さんを背負って案内を頼む。最後に俺は殿に立つ!」


 少々不安もあるがいつまでもここにいて、夜になり逃げ出せなくなっては意味が無いので、出遅れた感は在るけど道順も決まり良く分からないが、秋山達も『助っ人』と一緒に入り口で待つと言うなら好都合だ。

 星ノ宮と宇隆が加わった事で均衡が崩れる前に、こちらから出る!





 私の携帯電話を引っ掴んで、盛大に喚いていた星ノ宮さんと宇隆さんの二人は、ぎぎぎぎぎっと音が鳴りそうな動きで私に視線を寄越して、一瞬だけど目が光った様な錯覚を覚えたのは気のせいよね?

 この二日で知りたくも無かった体験をした事で、何が起きても世の中不思議じゃないって事を嫌と言う程分かった私は、彼女達が例え超能力者だとか、魔法使いだとか言われても、少しくらいは驚きはしても、もう拒絶したりはしないと思う。


「秋山さん、今し方聞いた通りよ。ここで何が起きているのか、後そこに居る高野宮の叔父様と貴女の御関係を詳しく話して頂けないかしら? 勿論拒否権は差し上げませんわ」


「奏様、そこはもっと厳しく言っても宜しいかと。我ら仲間と言いつつこうして除け者に近い処遇だった訳ですから、この秋山を如何様にも扱おうと非は向こうに在ります」


 星ノ宮さんがいつもと違って、何だかとっても厳しい事を言う。

 宇隆さんもまるで石田を責める時みたいに、怖い顔になって一緒になって同調しているし、いつもの凛々しいけどキリっとした笑顔に戻っ……、え゛? そこで私に全部責任が来るの!? 私を売ったわねあんの石田のアホ~!! こっちに戻ってきたら絶対この借りは返させて貰うんだから、覚えてなさいよぉ!


 それにしても、今更なのかもしれないけど宇隆さんが腰に差している物って、どう見ても武器……あれってなんて言うんだったかしら?

 決して二人の視線から逃げた訳じゃないけど、バトンでは無いし警棒も何か違う、知っている筈なのに名前が出てこないってもどかしい。


「ん? 君は随分と変わった物を持ち歩いているね。その専用のホルダーは便利そうだけど、取り出すのに少しだけ手間がかかりそうだ……それにしてもトンファーって、女の子が持つには少々無粋な感じがしないかな?」


 そう、それ! トンファーって、菅原さん調べていた入り口はどうなったの? 横に居た黒川さんに視線を向けるとこっちにデジカメを向けて、カシャって思わずピースしちゃった。じゃなくて!

 菅原さんはそのまま宇隆さんに話しかけて、もっと優雅な~とか話し出しているし、矛先が一つ減った分プレッシャーが減ったのは良いけど、アレはもうダメね。

 星ノ宮さんに視線を戻すと、私から奪った携帯電話を握り締めたまま、その肉食獣の様な眼が『早く教えなさい』と物語っていた。

 私はこの時ほど“目は口ほどに物を言う”と過去から伝わって来た諺の意味を思い知る事になる。





 何だか背筋に途轍もない悪寒が走ったが、気のせいだと思いたい。

 今からこの倉を出て、瀬里沢の案内で屋敷の入り口までの近道を進む訳だが、道中静雄の担ぐ瀬里沢の両親が、目を覚まし暴れない事を祈るばかりだ。

 もっともそれ以上に厄介だと思われるアレに関してだが、ここまで追って着て無い所を見ると俺達を見失ったか、さっきの風の要素をぶつけた事が意外にもかなり効果があって、まだ足止めに成功しているかのどちらかだろう。


「瀬里沢、聞く順位のせいで今更だがお前もアレを見たんだから、分かっているだろうけど、アレはお前の祖父で間違いないか?」


「……うん、アレは僕の祖父で間違いないよ。どうしてこうなったのかは分からないけど、今はもう自我は残ってないみたいだし。あんな風に刀を振り回すような人じゃなかった」


「うむ、生前に見た守弘さんは物静かな方だったぞ。俺の爺さんとは違って礼儀正しい方だったと記憶している。道場で会った時に、俺と同じ年の孫が居ると笑顔で話していたからな」


 そう答える静雄の横顔は笑みと寂しさが入り混じったような表情をしていたが、スマン似合わねぇ。

 瀬里沢の奴も嬉しいような複雑そうな顔をしているが、コイツはどんな表情をしていようが絵になるけど、『同志』だと分かっているのでイラッとする。

 この残念美形の背中で話を聞いていた珠麗さんが、今どのような表情で居るかは分からないが、無言を貫いているこの人の心中を慮り、言葉を掛ける事はとても出来なかった。


 倉を出て日も差しているのに、相変わらず妙な雰囲気が辺りに漂い緊張が増してくる。瀬里沢の案内を先頭にして歩きながら俺達は件の物置兼ガレージの横まで着いたが、外から見た時もう一つの倉だと思っていたここは、瀬里沢の部屋として使っていた物よりも当然大きさは異なり、中の空間は結構な広さに違いない。


 一見その横の扉は閂で閉められている様に見えたが、実は違ってそう見える装飾なだけで瀬里沢は静雄と一緒にその扉を開くと、中の明かりを点けようと壁の横にあるスイッチへと手を伸ばした。


 カチッ


 スイッチの入った乾いた音が聞こえるのだが、天井の明かりは点く事が無く瀬里沢のスイッチを弄る音が空しく続く。どうやら蛍光灯が切れているのかヒューズが飛んでしまったのかは分からないが、明かりは点かないようだ。


 仕方なく俺は中へ少しでも日の光が入る様に、片側だけしか開けていなかった両開きの扉を全開にする。

 それなりに掃除はしているのだろうけど、中に積まれた丁寧そうに紐で蓋をされた木の箱に、纏めてある掛け軸や他にも美術品らしき物が所狭しと置いてある。

 両開きに大きく扉を開けたせいで、締め切った空間に入り込んだ空気が細かい埃を飛ばし宙に舞っているのが見える。

 そのせいで瀬里沢の背中に居た珠麗さんが埃を吸い込んでしまったのか、軽く咳き込むのが聞こえた。


「大丈夫? 御婆ちゃん。もう少し奥に進めばガレージに続く扉を抜けて、外に出られるから辛抱してね」


「舜、あなたに言われなくても二か月前に中の物を、須美さんと私それと珠世(みよ)孝明(たかあき)さんに手伝ってもらいながら、陰干したからその辺はあなたよりも分かっていますよ」


 心配する瀬里沢の声に珠麗さんは、呼吸を整えると前に入った時の事を語るが四人で陰干し作業をするって、どれだけ物が詰まっているんだこの物置は? 確かに直ぐ横にも皿や壺なんかも置いている。

 剥き出しの物は少ないが資産価値とか考えると、俺達一般庶民の持ち物とは雲泥の差があるに違いない。

 こんな時なのに、しょうもない考えが浮かぶ自分に苦笑する。


「ふむ、中々に沢山の物があるな。流石古くから麓谷にある家だ」


「おいおい、静雄あんまりその辺の物に触って落とすなよ? 一個でも壊れたらきっとそのとんでもない額に、目玉が飛び出るんじゃないか」


 俺はそう言って少し奥に見える緑色の像に、静雄が手を触れようとしていたのを止めたのだが、それが実は物凄い偶然の幸運で今もう一歩静雄が踏み出していたなら、目の前のに突き立つ刃は静雄の右手を断つか、半ばまで斬っていたのではないだろうかと、冷汗が背中を伝う。

 俺達は戦慄しながら引き抜かれる刃を見送ると同時に、その緑色の像がぬるっと斜めに滑り落ちたのを目で捉えた。


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ