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80話 瀬里沢邸 集う思惑

ご覧頂ありがとうございます。

 瀬里沢さんの屋敷の前には、昨日中で会った筈の家政婦さん……確か須美さんと言っていたかしら? が何処か不安そうな様子で立っていた。

 石田達の話にはこの人は出てこなかったし、今日は仕事どころでは無い筈なのにどうして此処に? 良くは分からないけど、この人をあまり巻き込んではダメよね。


「こんにちは、あの昨日お会いしましたよね? 私は秋山茜こっちの子は黒川舞そっちの小父さんは……保護者みたいな者です。須美さんはここで何をしているんですか?」


「少々酷くないかな? 僕は菅原とさっき名乗ったと言うのに……。まあ、強ち間違ってないけどね。それにしても、中々に厄介な事になってしまっているようだよ。『式』を飛ばしたんだけど中に入ったら、ただの紙に戻っちゃった」


 舞ちゃんはペコっと頭を下げ、その隣を歩く小父……菅原さんは私の方を見ないでそう呟き、厄介と言いながらもその表情にあまり変化は無く、まるで『遠くの景色を見ていたら遮られた』くらいの軽い様子だったけど、今も「ん~二回ともダメとなると、ケチっちゃダメか」なんて言っている。

 この菅原さんの妙な力はさっき見せて貰ったけど、あの“飛んでいく紙”の事を考えると、そんな調子で大丈夫なのか少しだけ呆れてしまう。


「あ、ええ。こんにちは、坊ちゃんのお友達でしたね。私は……私は屋敷に誰かが勝手に足を踏み入れないように見張っています。今この中に入ってはダメです」


 見張っている? 屋敷の中に入らないようにって事は、須美さんは中で何が起こっているかは分かっているのかな? 最初の挨拶の後、表情を引き締めきっぱりと断ってきた所を見てしまうと、たぶんそうなんだろうな。

 けど、私達だって『はいそうですか』とは行かないの。

 この屋敷の中であのアホや、安永君が頑張っているんだから!


「えっと、私達どうしても中に入らなくちゃいけないんですけど、先に入って行ったアホと安永君、それに瀬里沢さん達が屋敷の外へ戻って来る手助けをする為に!」


「そう、その為に私達は来た。無理はしない、けどただ待つだけでは終わらない」


「うんうん、そうだね無理はいけない。電話の様子だと元気そうに反論してきたくらいだから、もう少し大丈夫でしょ。僕は少しばかりこの入口をこじ開けて維持するよ。だけど、勝手に先に進まないようにね? 約束だ」


 そう私達三人に言われて、須美さんは表情を曇らせ悩んでいるように見える。

 普通なら学生二人に初対面の怪しい男性を、雇主の屋敷へ許可なく通すのは聊か頂けない筈だし、当然だろうなと思う。


 だけど、そんな須美さんを含めた私達の雰囲気を、更にぶち壊すモノが後ろに迫ってきていた。

 車の静かな停止音を響かせ、大きな声が閑静なこの場所に反響する。


「ふはははは! またせたね菅原君! さあ迎えに来たよ車に乗ると良い!」


 そう聞こえて何が起きたのかと振り向くと、白長い如何にも民家の密集する様な場所では小回りの利かなさそうな車のサンルーフから、身を乗り出し左手を顎に当てながら、風に流れる髪を右手で撫でつけポーズを取る、パリッとした白のスーツに赤いシャツを着こなす、随分と派手な小父さんが居た……。





「状況が変わった。あのバカ黒川とその『助っ人』とやらを伴って、本気でこっちに来る気らしい。俺としてはあまり歓迎したくないけど、いつもの病気が発動しちまったらもう止められねぇ。なので出来る限り入口へ最短距離で行きたい。……瀬里沢、そんな抜け道とか無いか?」


「いつもの病気って、秋山君は何か持病でも患っているのかい? いつも元気なあの子にもそんな儚げな一面が、……イイ。凄くイイ!」


 うーん、今まで張り詰めた緊張の中一人で頑張っていた分の反動が一気に来たか? それとも素なのかイマイチ反応に困るな。

 婆さんもとい珠麗さんは豹変した孫を見て、固まっているのも仕方ない。

 普通に考えりゃ自分の孫のこんな姿を目にすりゃ、茫然としてもおかしくない……俺は孫どころか彼女すらいないけどな。

 居るのは愛すべき家族と、大事な仲間に師匠くらい……って十分か。


「むう、瀬里沢の様子がおかしい? これは真逆……アレの精神攻撃か!?」


「こんな状況で……全くコイツは凄いよ。静雄、瀬里沢は勝手にトリップさせとけ。そこに転がしている、奴の両親は意識戻ったか?」


「……いや、丁度良い俺が二人を担ごう。婆さんはどうする?」


「じゃあ、俺が珠麗さんを背負うわ。その方が安心だし」


 斬られた肩が多少痛むが、縫う程斬られた訳じゃないし血も止まっている。

 細い珠麗さんくらいなら、背負って動けるだろう……たぶん。

 そう考えて静雄に返事をしたのだが、トリップしていた筈の瀬里沢が急にキリッと表情を変え此方を向く。


「待たせて失敬したが、それには及ばない。僕が祖母を背負うさ! そして何としても駆けつけよう! 我らを救うと言った嫋やかな花の前に」


 何か一人立ち上がって目を瞑りポーズをつけているが、そっちは誰も居ないぞ? まあ、瀬里沢の奴は見た目よりも一応積載能力はあるらしいから、珠麗さんは任せていいかな? 俺自身ちょっと人を背負って移動できるか怪しかったしね。

 それはそうと、瀬里沢の言う花から連絡が無いがもう屋敷の中に入ったりしてないよな?


 取りあえず分担は決まったので入り口までの道順を話した所、来た通りの道では無く荷物を出すのに物置と兼用しているガレージが在るそうなので、近い分そちらを通り入口へ進むルートを選ぶ。

 その事を伝える為に、秋山に繋がる携帯を瀬里沢に返し説明を頼んだ。

 快く俺の提案を受けた瀬里沢には感謝だ、俺が電話に出れば秋山がまた何か喚く可能性大だからな。


「もしもし、秋山君かい? こっちの準備ができたから、君達は入り口から動かずに僕たちの帰還を待っていて欲しい。必ず戻ると誓うよ! それじゃあどう道順を進むか説明するから、メモの準備はいいかな?」





 ――先程電話で舞ちゃんが菅原さんの友人とかいう人に、居場所を説明していたそうなので、迎えに来たこと自体は別段驚いたりはしないのだけど、あの車と言い服装や言動を考えると、本当に今横で扇子を取り出して「それにしても暑いね」と本人をスルーしながらのんびり扇いで、門を見分している小父さんと友人だとはとても見えない。

 と言うか、初対面なのは間違いないのに何故か軽いデジャヴを感じてしまう。


「おっと、私としたことが名乗るのが遅れたが、高野宮武広(たかのみや たけひろ)と言う、可愛らしいお嬢さん方以後よろしく。そこの彼、菅原君とは古い付き合いでね、今もこうして親交を交わしている訳だよ。学生時代を思い出せば……、はて? 昔からあまり変わった感じはしないな。まあ兎に角少々変わった奴さ」


 変わっているのは小父さ……高野宮さんの方ですとは言い返せなく、舞ちゃんの方を見れば、興味なしとばかりに菅原さんの横で何か聞いている。

 この人の対応をする筈の人はさらっと無視だし、あの登場のインパクトが強すぎたせいか、須美さんはフリーズしたまま戻ってきてない。

 もしかして、私が相手をしなくちゃいけないのかな?

 とても面倒そうで拒否したいけど、誰かが話さないと進まないのよね。

 空を一つ仰ぎ、頬をパシッと叩いて気合を入れて答える。


「あの、どこかでお会いした事ありました? もしそうだったらごめんなさい。私、秋山茜と言いますけど、少しだけ菅原さんをお借りしています。詳しくは説明でき無いので省きますが、実はちょっと困った事が起きていて助けて頂いているので、折角迎えに来たとは思いますが、時間をください」


「なるほど……よく分からないが、菅原君に任せれば万事上手く纏めてくれるだろう。心配はいらないよ、最初から困った事だと言う事は分かり切っていたのさ、菅原君に麓谷への案内を頼まれた時から、どうせまた娘の事だと思っていたからね」


 サンルーフから身を乗り出したままで、何でもない事のように余裕な表情で言うけど、いい加減そこから降りてくればいいのに。

 初対面と言う事を否定されてないから、間違って無くて良かったけど変ね? 知っている気がしたのは気のせいだったみたい。


 それに『また』と言う事は、割と似たような事を起こしているって意味かな? 舞ちゃんもとんだ人に捉った物よね。

 って、着信誰かしら……星ノ宮さん? いったいどうしたのかな?


暫く会話ばかり続いてますが、ご了承くださいませ。


つづく

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