7話 歪んだ友情
ご覧頂ありがとうございます。
※今回の話は女性の方が読むと、とても不快な気分になられる方が居るかも知れません。そう言った負の要素の話が苦手な方は、読まない事をお勧めします。
2/14 加筆&修正致しました。
「はなーー! って、あれ? ここどこ?」
秋山のパンチを躱せた俺は……俺はどうなったんだっけ? それに息苦しい。
目を開けて視線を動かすが、ベッドに寝かされていたので起き上がると何となく分かっていたが、やはりここは保健室だった。
息苦しいと感じた鼻の違和感の正体は、今はもう止血しているがどうやら鼻血が割と出たらしく、触ってみると右の穴だけ綿? が詰めてあり触らなくても鈍痛がする。
壁にかかっていた時計を見ると十時十三分一限の数学は潰れたか、今からだと二限の英語……授業も何だかやる気が出ないので、寝転がり『トレード窓』で色々と見るが軽く眠気がわいたので目を瞑ってみる。
目を開くと十一時過ぎに時間がワープしていた! 二度寝怖い!
そう改めて自覚していると、天井から下がる白いカーテンがシャッと開き、凛とした鈴を転がすような声が掛かる。
「あら、漸く起きたのね。随分と良く眠っていたけど寝不足かしら? 一度だけ女の子と、あなたを運ぶ手伝いをしてくれた男の子が見に来ていたわ。いい友達ね」
「あ~、それ片方が俺を伸した奴ですよ。毎回俺の鼻ばかりを狙いやがって、何の恨みがあるってんだ奴は……」
「ん~きっとあなたのその顔に嫉妬でもしたのかしら? なんてウソ。男同士、顔の事なんかで喧嘩なんてしないわよね」
「いや~これが非常に言い難いのですが、俺の顔に拳をぶち込んだ奴はその男じゃなくて、女の方です」
「今の空耳かしら、……私には女の子があなたを倒したって意味に聞こえたんだけど、冗談よね?」
「分かりやすく言うと、あの女の右拳は世界も狙えるかもしれない。と言う事でして、目で追えても残念ながら避けれません」
そう俺がキリッとした顔でハッキリと宣言すると、養護教諭の里中先生は若干引き気味で、笑顔だったほっぺがヒクヒクしてる。
「この話は、もう止めましょ。それであなたの運ばれた状況だけど、鼻血は止まっても気絶したままだから、救急車を呼ぼうかと思ったけど頭は打ってないそうだし、寝息だったからそのままベッドで様子を見ていたのよ。今は授業中だけど次の教科は何かな?」
「あ~、えっと今の時間だと体育ですね。出ても……その顔だと参加しないほうが良いですね」
「違和感とか、気持ち悪いとかそういった感覚はないかしら? もしそう言った事があるなら、もう少しだけ様子を見るわ」
口元にあった笑みを消し、真面目な顔で俺に確認してくる。
いい先生だよな~って、生徒の事を心配するのも仕事の内なのかな? そんな穿った考えは失礼だったと思ったので、俺も真面目に答えた。
「口の中がちょっと気持ち悪いくらいで、後はまだ鼻に鈍痛がしますね。寝てた方が良いですか?」
「終わるまで寝ていても良いけど、そうね念のため今日は暫く安静にしてね? その様子なら今から授業に出ても構わないわ。ただし、大丈夫そうでも体育は見学でもしておく方が無難かしらね」
「了解です。石田明人、授業に戻ります! そんじゃお世話になりました~」
俺はそう言ってニカっと笑うと、鼻に詰まっていた綿(トレードで見たら止血用のコットンだった)をゴミ箱に捨て保健室を後にした。
体育の授業に向かうべく廊下を歩き、鼻のグラつきを指でつまんで戻しつつ前方の曲がり角から、俺のネクタイと同じ色のリボンをした同学年の女生徒が見えた。
授業中に廊下を歩くなんて、俺みたいに保健室にでもいて休んでいた……って事は無いか、俺が出てきたばかりだし中で他の生徒に会ってもいない。
ハテ? と不思議に思い目で追ってみると、どうやら室内プールから教室の方へ向かっているようで、もしかすると案外遅れた合同授業のCかD組の生徒辺りかな。
この室内プールだが、うちの学校の水泳部は中々に力を入れていて、以前から地区大会、県大会ときて、インターハイも競泳の自由形で2回程出場しているらしい。
俺はあまり興味が無かったので良く知らないが、そう言えば5月くらいから何か泳いでいた記憶がある。
とまあ、プールの事は置いといて……今から教室に戻るのは何でだ? 何だかフラフラしているし病気か? あ、あの女の子転けた。
『もうどうして良いか分からない。自分が助かりたいが為に、私は他人を犠牲にしようとしている』
廊下をフラフラと歩きながら、こんな事をしている不安と恐怖で周り全てが私を見張り、責め立てているように思えてしまう。
そもそも何で私がこんな目に合わなくちゃならないの……。
学年が上がり親友だった子とはクラスが別れて、誰にも迷惑を掛けずに新しい教室の端の席で、やっとクラスの中にも友達が数人できて馴染んできたのに。
私は悪い事なんて今までは何一つした覚えなんて無い。
だけど、いつの間にかあんな写真を撮られていたなんて悔しくて涙が出る。
あの事は母や先生、ましてや友達には恥ずかしくて絶対に相談なんてできやしない。
始まりは先週の体育のプールの時間。
私は子供の頃車の事故で体に小さくはない傷跡と手術痕が残っている為、あまり人には肌を見せたくないので、許可を貰って着替えの時間をずらしていた。
いつものように職員室で更衣室の鍵を借り、他の皆がプールに入る頃に着替えを始める。
ただ、普段鍵が掛かっている筈の更衣室は何故か鍵が開いていて、私は最後の子がかけ忘れたんだと思いながら一人で着替えを終え、その日は何事もなく過ぎた。
……この時不信に思って、もっと良く確かめていたらと後悔する。
次の日、登校すると私の下駄箱の中に簡素な白い封筒が入っており、一瞬『まさか、私にラブレター?』と考え、誰にも見つからない様にこっそりと鞄へ仕舞う。 その時の私は少々、ううん。とても浮れていたと思う。
午前の授業が終わると、天気が良く気温も高いので風が心地よい屋上のベンチへ移動し、お弁当を食べて残りの休み時間にドキドキしながらその封筒を開けた。
……私は別の意味で先程よりも心臓が止まる思いを味わい、浮ついた気持ちは地面の底へと叩きつけられ踏み潰される事になる。
封筒の中には、顔だけは黒いマーカーで塗りつぶされているが、そこに写っている体には記憶から忘れたくても、決して消すことのできない私だとハッキリ分かる証拠が刻まれていた。
その小さな胸の間には醜い縫い目が走り、まるで電車の通る線路だ。
震える手で写真を握り潰し、誰がこんな写真をと怒りが湧いた。
だが封筒には写真の他にメモも入っていて、その紙にはプリントされた字で『校舎内に後三つ、顔を塗りつぶしてない物を同封し隠した。見つからない事を祈れ。ヒント一 貯水槽』私は目の前が真っ暗になったような錯覚を覚える。
休み時間の残りも少なく、急いで屋上の上にある貯水槽へ梯子を登り必死で探した。
確かに封筒が貯水タンクの底の隙間で見つかり、中には写真とメモが同封され残りの二つのヒントが何処なのか、目を皿のようにしてそれを読む。
『ヒント二 旧館の三階男子トイレ』
旧館!? 私は予鈴が鳴り響く中で午後の授業を無視して移動しながら、誰も利用者の来ない時間帯に探す事が出来て良かったと思う反面、犯人が誰なのか考えていた。
だけど探偵でもない、ただの学生の私に分かる筈もなかった。
何とか男子トイレの流し台の下から、テープ貼りされた封筒を剥がし取り、中を確認する。
中身は変わらず、メモにはこう書かれていた。
『ヒント三 掲示板』
「掲示板!? それじゃあもしかして、あの封筒が朝からあそこに張り出されてたって言うの!?」
怒りと焦りで何とか我慢していたが、今度こそ私は床に膝をついて涙を零した。
掲示板は正面玄関の前に大きく設けられており、白い無地の封筒なんて目立つ物なんて、当然既に誰かに見つかり、私の裸と醜い傷跡は犯人以外の目に晒されているかもしれない。
そう考えると死にたくなった。
それでも、ただ一縷の望みをかけて私は立ち上がり、力の入らない体をどうにか動かし、五時限目が終わる前に正面玄関前の掲示板へと辿り着き、血眼の目と頭を動かし封筒を探した。
……そこにはまだ白い封筒が貼られたままで、この時だけは私もその奇跡に感謝した。
助かった、そう思い封筒を引き千切るように剥がすと、フラフラと教室へ戻って安堵し、兎に角私は肉体的にも精神的にも酷く疲れ果て、そこで暫く眠ってしまった私が家に帰れたのは夕方の六時過ぎだ。
部屋に入ってノロノロと制服を着替え、ポケットから例の封筒が零れ落ちて視界に入ると怒りが再燃する。
未開封だったそれを破り捨てようとし、封筒を力任せに引っ張ると新たな写真とメモが出てきて、其処にはこう書かれていた。
『助かったと、本当に思った? 次はもっと素敵な写真を送ろう。止めて欲しければ、次の2クラス合同のプールの授業で「星ノ宮奏」の下着を盗ってこい。“他の”全ての写真と交換だ。それが嫌ならこれを誰に送るか分からないよ?』
手に取った写真は今までの物とは違うアングルで撮られた物で、私は犯人に触れられても無いはずなのに、酷い吐き気と嫌悪感で皮膚が粟立ち。
まだ悪夢は終わってない、むしろ今から始まったと絶望した。
つづく