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74話 合流

ご覧頂ありがとうございます。

 電話の後KADOYAまで走り、入り口近くに立つ静雄を見つけて駆け寄ろうとしたのだが、その格好を見て回れ右したくなった。


 ……今の静雄は遠目だがどこからどう見ても、某格闘ゲームの腕から波動を放つキャラクターみたいな服装をしている様に見える。

 あの恰好で本当に電車に乗った上に走ってきたのだろうか? “幽霊”なんかよりよっぽど“凶悪”だ。

 それにあの体格で強面な分、パッと見どこぞのボスキャラみたいに見える。

 遠巻きに見てコソコソしている奴は、きっと同じ高校の人間か俺と同じように“畏怖”を感じた者に違いない。俺、逃げようかな。


 そんな風に考えていると、静雄の奴がそんな周囲の人間の視線を無視して、俺に気が付くとごく自然な足取りで近寄って来る。

 ええい! そんな為りで俺に寄って来るんじゃない! 俺まで同類に見られるだろ!


「明人、準備はそれでいいのか?」


「……あ~、うん。静雄はそれで良かったのか?」

 

 遅かった……ヒソヒソと囁く声を耳が拾う、パシャッって勝手に写メとるんじゃねー!!

 俺は顔を引き攣らせながら、静雄を上から下まで間近で見て肩をガックリと落とした。


 頭には鉢巻の代わりに鉢がね、着ている物は以前見た事のある静雄の家の道場の白い胴着、それプラス内側に妙に艶の無い鎖帷子とでも言うべきか、鎖で編んだようなシャツと両腕には同じ鎖で編んだ五つ指の手袋(?)に、使い込まれた赤いグローブ……、小さ目のスポーツバッグと足元の頑丈そうなブーツが酷い違和感を与えてくる。これで裸足だったら完璧?

 よく見ると、そのシャツと手袋からは微かに昨日師匠から受けた“火”の要素を感じ取ったのだが、どこでそんなモノ手に入れるんだ? 


 普通の人から見れば、なんちゃってコスプレイヤーの出来上がりだが、残念ながら見た目で例えるとリ○ウの恰好したサンダー○―クみたいで、要はリ○ウにしては彫りが深すぎる顔なのだ。


 まあ、本人が何ともないなら俺が気にしても仕様がないが、流石に瀬里沢の家までこの格好で一緒に歩くのは勘弁なので、手を上げてタクシーを捕まえ乗り込む。

 運転手のおっちゃんは静雄の方を見て一瞬固まったが、俺が行き先を告げるとこちらを向き一言。


「お客さん方、ひょっとして……殴り込みですか?」


「「違う(います!)」」


 そう答えると、おっちゃんは車内にかかっていたラジオの音量を少しだけ上げて、黙って静かに車を発進させた。

 どうしてそんな発想につなが……静雄の格好考えると当然か? 確かに今の静雄ならそう捉えられても不思議じゃないと思うけど、俺はいたって普通のどこにでもいるような服装の筈だけどね。

 そう思っていると、俺が何を考えていたのか分かったのか、静雄は俺に向かって首を振る。

 自分でも気が付かないうちに、何かそう感じるような雰囲気でも醸し出していたのだろうか? それとも俺も怖い顔になってたとか?


「明人からは、ピリピリとした緊張感が伝わってきていた。だからだろう」


「……さいですか。だってお前、相手はアレだぞ? 静雄は普段から家でも人外魔境と居るから平気だろうけど、お前だから正直に言うけど俺ははっきり言えば行くのが怖いの!」


 俺はそう静雄の返事に答えて、黒川から届いたメールを見せついでに一緒に添付されていた、真っ二つの自動販売機の画像を見せる。

 流石の静雄もこの画像には驚いた様に見えたが、顔を顰めたのは画像の方じゃなく「爺さんが聞いたら怒るぞ?」と爺さんの機嫌を悪くすると俺の一言に反応していた。

 ……もう何なの、この勘違い一族。


 この黒川から届いたメールで、アレがあの後も暴れていたって事が分かったけど、よくもまあ夜中に襲ってこなかったと思う。俺の代わりに撃退した静雄と、このことを教えてくれた黒川には本当に感謝だな。

 いつもならこういった情報に関しては、二年に上がって秋山の奴がどこからか仕入れて、静雄と一緒に絡んでくるから俺が人に訪ねる必要は皆無だった。

 今回ばかりは秋山は俺じゃなく静雄の方に連絡を入れていたお蔭で、瀬里沢との連絡が途絶えている事が分かった訳で、この二つの事を考えると遅くはなったが多少でも、風の要素を使えるようになった事は、師匠の言う通り“幽霊”にも通用するのなら十分な対抗策になる筈だ。

 もっとも静雄の謎装備と俺の風が通用しないのが分かれば、即逃げる心算。


「ふむ、昨日は何の準備もせず撃退できたのは僥倖。だがそれも、ほんの数時間だけの間だったのだな」


「たぶん、な。もしかするとそのせいで余計暴れたのかも知れないが、あそこで止められなかったら俺はきっと死んでいたし、代わりに瀬里沢の家が今頃どうなっているやら……」


 家や家具が壊れるくらいなら買いなおしたり修繕すれば済むが、この威力で人を斬ったならどうなっているか何て、分かりきっている。

 静雄は顎をさすりながら何やら考えているが、その表情からは何も読み取ることは出来なかった。


「無事な事を祈ろう。先ずは行ってみなければ何もできん」


「静雄の言う通りだが、一つ聞いていいか? 気になっていたんだけど、そのスポーツバッグの中身は? まさか武器とかじゃないよな?」


「ん? これか? これは俺の必需品だ」


 そう言って自慢げにスポーツバッグを俺の方に向けながら開くと、そこには沢山の菓子パンや総菜パン等、コンビニで買ったのであろう食い物が詰まっていた。

 ……うん、もしかしたらって何か凄い物が入っているかもって期待していたけど、やっぱり静雄の家の人間は俺と違う人類に違いない。


 そうやって静雄と話しているうちに、瀬里沢の家の近くに来たので車を止めて貰い、タクシーを降りたが料金を払う際おっちゃんは「ご武運を」と、何を勘違いしたままなのか、そんな事を言って排気ガスと砂埃を残し走り去って行った。


 降りた場所から二分程歩き、昨日瀬里沢本人に案内されてやってきた屋敷の前には見た事のある女性が立っている。確かあの人は昨日家に上がり込んだ時に、俺達にお茶を出してくれた家政婦さんの筈だ、どうして門の前に立ったままで居るんだろう?

 俺、と言うよりは静雄に気が付いたんだろうけど、驚いた顔をしてこちらに寄って来る。


「あの、あなた方は昨日来ていらした、坊ちゃんのご友人ですよね?」


「えっと、そうだけど。須美さんでしたっけ? 家の前でどうしたんです?」


 近くに寄ってみて分かったが、屋敷の門の左半分が切れて地面に落ちていた。

 それには構わずに若干白々しいが、念の為聞いてみる。


「こんな事、突然言ってもお困りになると思うんですが、実は……」


 困惑した表情で須美さんが俺達に話してくれた事は、須美さんが今日もいつもの様に午前九時に瀬里沢の家に行く準備をしていたら、朝早くに瀬里沢から電話が直接かかってきて今日は来なくて良いと言う。

 しかも妙にその声が急ぎ焦っている様に聞こえたので、何かあったのだろうかと思った。


 ただ、須美さんとしては定休であるお休みは日曜に貰っているのと、いくら瀬里沢が雇用主の家の子供だからと言って、勝手にそんな事を言って決めても良い訳が無いので、理由を教えてほしいと聞いても、今日は絶対来るなと言って詳しいことを話してくれない。

 困った須美さんは、それなら瀬里沢の両親のどちらでも良いから話を聞きたいと言ってる最中に、何か重いものが倒れる音が聞こえた後に電話が切れ、直ぐに掛けなおしても電話は繋がらず、時間をおいて電話をしてみても電源が入って無い訳でもないのに、コール音のみが鳴り続ける。


 流石にこれはおかしいと思った須美さんは、瀬里沢の家の縁のあるお宅へ連絡しそれとなく何か知ってないか話を伺ったりしたそうだが、別段変わった事は聞けずに逆に最近瀬里沢の祖母の事を聞かないが、どうかしたのかと聞かれる始末だったそうだ。

 結局時間は挟んでしまったけど、来るなと言われても瀬里沢の事が心配になった須美さんは、こうして屋敷まで来たのは良いが壊れた門を見て、吃驚し警察に電話するべきか悩んでいた最中だったらしい。


 ここまでの話を聞いて分かった事は、瀬里沢の奴は朝の内はまだ生きていて須美さんと電話する事が出来ていた訳だが、話からすると既にその最後の電話から六時間半以上の時間が経っている。

 幾ら自分の良く知る家の中とは言え、はっきり言って俺はあの“幽霊”から六時間半も逃げ切れる自信は無い。

 これは愈々最悪の展開を迎えそうだが、このまま踏み込んでいいものやら……。


つづく

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