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73話 波長の合う遭わない

ご覧頂ありがとうございます。

「それで最初の話に戻るけど、何故僕がお嬢ちゃんの事が分かったかと言う理由はね。これから少し変わった話になるから、一応最後まで聞いてくれるとありがたいかな。僕が分かる事と言えばお嬢ちゃんは、他の人が普通に持つ陽気がとても希薄で、何て言うか生者のそれよりも、どちらかと言えば死者の持つ陰気に限りなく近いんだ。そう言ったズレた気を持つ人を、何人か見てきたから分かったんだよ」


 小父さんは懐から小型のラジオを取り出すと、スイッチをONに切り替え、あらかじめ合わさっていたラジオ局の番組の司会が、リスナーからのリクエスト曲を伝える声が聞こえる中、小父さんは更に説明を続ける。


「ちょっと良く分からないと思うから、例えで説明するね。まずこのラジオだけど放送局から流れる電波に、摘みを捻って周波数合わせる事で内容が伝わる。この摘みの調節の仕方で聞こえる放送が変わり、雑音交じりになったり全く聞こえなくなったりするよね?」


 そう言って固定の周波数に合わさり、ラジオから流れていた先程のリクエスト曲の最新の流行曲が、摘みを回すことで雑音交じりの聞き取りにくい物から、更にザザっと言う耳障りな単なる音の集合に変わった。

 言っている事は簡単だ、聞こえていた筈の曲が聞こえ難くなるか、単なる音に成り下るかの違いだ。


「要は、お嬢ちゃんの発する気が病気か怪我で死に掛かった為にズレてしまい、今のラジオの番組みたいに、他の人がお嬢ちゃんを認識する際にズレが生じているんだ。もっともこの違いに気が付ける人は、あまり居ないと思うけどね」


 小父さんはラジオの摘みを絞り、ギリギリ聞こえるか聞こえないかで摘みを止める。

 認識……私が誰か分からなくなるって事だろうか? でも、他の誰かに間違われた事は無い。どちらかと言うと相手にされない事の方が多くて、結局最近までクラスに馴染めてなかったのは確かなので、頷く。


「お嬢ちゃんは目の前に居るのに“君がそこに居ないかのように”振る舞われた事はないかな? その理由も意地悪からでなくそれが理由だ。相手には悪気はないけど、そこに居る事に気が付かないんじゃなく、“気が付けない”からだね」


 言われてみて、私が事故に在ってから急に友人が去って行ったのも、中学までは一人の方が楽だったしあまり気にしてなかった。だけど、高校に入ってもあまり話しかけられたり、相手にされなかった理由がそこに在ったんだと思うと、息を吸うのがとても苦しく感じた。

 でも、頭に浮かんだのは仲間の皆だ。

 ここ最近はそんなことは無かったような気がして、胸が少し楽になる。


「うん、その表情からすると良い友人が居るようだね。何事にも例外って物はあるさ。きっとお嬢ちゃんの周りに居る子は、他の人よりも広い受信チャンネルを持っているに違いない。それか、極端に偏った想いをお嬢ちゃんに持っていたかだ。その想いが好意とかなら構わないのだろうけど、人はそれ以外の悪意に流されることの方が、残念ながらとても簡単にできてしまうからね」


 小父さんはそう言って苦笑しながら締めくくり、ラジオのスイッチを切って懐に仕舞い込むと、また扇子を使いパタパタと扇ぎだした。

 ……何か分かったような気がしないでもないけど、腑に落ちないので首を傾げる。


「あ~、やっぱりよく分からないかな? どうも僕は説明が下手でね」


「そうじゃない、何故そんな事が分かるの?」


 説明は別に問題は無かった、だけど何故私の気配にズレが在る事が分かるのか? 説明の中でも“違いに気が付ける人は居ない”と自分で言っていた筈だ。

 そう考えて発言したつもりの私は、妙に自信満々で胸をはっているこの人を見て、更に首を傾げる。


「ふふ。とても不思議そうな顔をしているよ? 何故分かるか、それはね僕がそう言った類の事を研究して生業にしているからさ。お蔭で娘に嫌われちゃって、追いかける破目になっているから、自業自得なんだけどね」


 理由としては分かったけれど、いったい本職は何をしている人なんだろう……。

 急にシュンとして肩を落とすのを見ていると、私にはもう居ないが世に居る娘を持つお父さんと言うのは、皆こんな風な感じなのかなと考える少しだけ可笑しく思った。


「まあ、だからこれ以上追うのを辞めた方が良いと僕は思うよ? お嬢ちゃんもあの人集りで聞いたと思うけど、そのカメラで写していた事を考えると、この先にも在ったらしい壊された物を追いかける心算だよね? 危ないよ」


 私の考えは簡単に見透かされていたようで、こうして公園に連れて話してくれた訳は、元々私を諦めさせるつもりで呼んだのかもしれない。

 でも、原因となるモノの正体は知っているので、小父さんの言う通り止める心算はない。

 それに無理をするつもりは毛頭なく、ある程度まで写真を撮って連絡する事で、もっと石田君の役に立てると思っている。


 昨日は瀬里沢先輩の無事を確かめたが、今はどうなっているか正直分からない。

けど一度撃退した彼と安永君の二人なら、私の事を助けてくれた力で解決できると思ったからだ。





 ――腹も膨れた所で練習の再開をしたのだが、結局付け焼刃な今の俺の力じゃ狙いを慎重に定めても、距離が離れれば離れるほどその命中率は下がり、確実に狙い通りの場所を伐ったりできる距離は二メートルも無かった。


 感覚としては撓りの在る釣竿でも振ってるような気分で、先端部分に行くほど鋭くできるがそこから指の間に物を挟むと、途端に威力はそこで落ちてしまい“斬り”では無く、単なる“打撃”に変わると言った表現が正しいかも。


 そんな訳で、もしアレとガチで相対する事になれば、今の命中率を考えると奴のキルゾーン内で戦う場合、ハイリスク&ローリターンと言う嬉しくない事になりそうだ。

 ……清涼の腕輪さえあったなら、もっと細かい制御ができたのでは? と考えると早く母さんと明恵が帰る事を祈る訳だが、ここにきて重大な過ちを犯していた事に気付く。


 風の要素を扱う練習に一段落ついて思う事は、目の前の惨状をどうするか。

 母さんが丹精込めて整えていた、庭の木の枝がとても酷い事になっている。

 全く、いったい誰がそんな命知らずな事をしたかと言えば、……夢中になって忘れていたが、その命知らずは何を今更って感じだけど、俺なのだ。


 今だけは、アレよりも確実に怒りをその身で伝えて来る筈の母さんと、俺が味わうであろう罰と言う名の御仕置に、血の気が引き恐怖した。

 まさに二律背反な思いを持って、どうしようか悩んでいたが、無駄と割り切り家から出る算段を着けると、早速着替えて先ずは静雄と合流しようとスマホで連絡を取る。


 数秒のコール音の後、静雄に繋がったがどうも聞こえてくる音からすると、道を走っている様に思う。


「……静雄? 今大丈夫か? 何か急いでる感じ? 忙しいなら五分後くらいにかけなおすけど?」


「まて、明人、切るな。丁度良かった」


 ん? 何が丁度良かったって言うんだ? よく分からんが黙って静雄の言葉を待つ。

 走りながら喋っているようだが、全く声にブレが無いのが凄いと内心思った。

 走る音以外に、何かのアナウンスらしき物も聞こえる。静雄の奴もう駅なのか?


「よく聞け、明人。俺はお前が必ず連絡を俺に寄越すと思い、待っていた。だが少々遅かったかも知れん。一応爺さんには何処に行き何をするかは話してきた」


「……全くお前は人の事勝手に決めやがって。それで爺さんは何て言ってた?」


 静雄の爺さんは細かい事を一々気にしたりはしないが、それでも静雄が力を振う事に関しては、かなり厳しく口をすっぱくして言っていた筈だ。

 なので、何て答えたのか気になり自然と緊張し、喉が張り付く感じがする。


「安永の技存分に発揮せよ、だとさ。後の事は任せろとも言ってくれた」


「いや、普通そこで危険だからって止めたり、爺さんが自分で解決に来たりしないのかよ!」


 実は静雄の口から爺さんの事が出た時、ほんの少しだけ期待していたのだが、俺の思いはあっさりと打ち砕かれたようだった。

 何と言っても、静雄の爺さんは当然ながら静雄よりも強い。

 そんなある意味人外だからこそ、加わってくれれば“鬼に金棒”どころかビームサーベルだろう。

 もっともあの爺さんの事だ、何が在っても『修行』の一言で済ませてしまいそうで嫌だ。


「それでだ、急いでる理由としては秋山から連絡が在ったんだが、どうやら瀬里沢と連絡が付かないらしい。何度も電話を掛けなおしたそうだが、一向に繋がる気配は無いそうだ」


「ああ~くそっ! そう言う事かよ! まあわかった。俺も今家を出て駅に向かおうと思ってた所だし、静雄は今どの辺に居るんだ?」


「こちらは駅を出て、もう直ぐKADOYAだ」


「分かった、じゃあそこで合流な。俺も急ぐ」


 そう返事をして電話を切り、ふと昨日の事が過る。

 昨日の秋山の様子ではこの件からは引くと思っていたが、実は他の誰よりも気にしていたに違いない。……だからこそ瀬里沢の事にも真っ先に気が付けたんだ。

 皆が瀬里沢の事を心配していたと考えると、あっさり切り捨てようとしていた自分が、酷く汚い者に思えた。


つづく

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