66話 季節外れの寒風
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「さてと、それでは先ずは簡単に手本を見せる。その眼を開きしかと見るんじゃぞ」
師匠がそう言って手の平の上に、ピンポン玉くらいの大きさの火を生み出したのだが、熱くないのだろうか? 普通の火なら直接触れてないとしても、それなりの熱さを感じると言うか、軽い火傷でも負うに違いない。
「ちょっ! 師匠、手は大丈夫なのか? 火傷とか痛みは? 熱くねーの?」
「ふむ。アキートや、何故ワシが生み出した火で火傷するんじゃ? まだこれは解放してもおらんし、ぶつかってもないから火傷もしなきゃ熱さも左程感じ無いぞ? もう少し大きくしてみるかの」
俺が心配して聞くと、逆に何を言ってるんだ? 的に心配されてしまった。
うーむ、やはり文化と言うか常識が違うからか、基本の差がでるな……。
つか、まだ大きくできるのかよ、スゲーな。
「おお! 本当に大きくなった。そっか、自分で出した火は熱くないのか、まあ確かに師匠は何ともなさそうだしな。で、それからどうすんの?」
「ふむ、このまま更に力を注ぎ火を大きくするか、それともこのまま操作し解放するかのどちらかじゃが、他の要素を足して変化させることもできるの。ただ家の中では危ないのでこのまま消すぞ」
「いや~本当凄い! ……けどさ。そもそも、どうやってその火を出したんだ?」
俺の質問に師匠はカパッと音が聞こえるくらいに大きく口を開けて、とても驚いた顔をするのだが、そんな顔をされても分からない物はどうしようもないと思う。
こっちの常識じゃ火が付くには、適当な可燃物と酸素それに火種が必要な訳で、何もない場所に行き成り火を出すなんて非常識な事は、習ってもいないし出来る訳が無い。それこそSFやファンタジー超能力の世界だ。
俺がそんな風に不思議そうにしていると、師匠はまた“困ったぞ”見たいなしかめっ面で髭をモサモサと弄って考え込んでいる。
師匠は師匠で、こっち側の常識を知らないので比べるのも難しいに違いない。
知らないは知らないでも、何を知っていて何が知らないのか分からないと、説明が難しいのはどの世界でも共通なんだと、改めて思う。
そんな俺に、何とか伝えようとしてくれるのが分かり、師匠が初の別世界第一遭遇者で良かったと、心の底から感謝した。
「あ~、うむ。そうさの、ちょっと待っとれ」
師匠は少し冷蔵庫から離れると、例の如くゴソゴソと何やら取り出し見た事のある布を広げるが、それは昨日俺の報酬として渡そうとした道具を仕舞っていた布に違いない。
また、あの珍妙な道具を取り出してどうする気なのか? と考えたが取りあえず見守る。
「よし、それではこの“清涼の腕輪”を使って、お主のソウルの器から風の要素の力を引き出させ、実際に使用した際の感覚を実践で覚えて貰おうかの」
「えっと、確か前に聞いた時は、道具を使う際にその力が苦手な要素だった場合、道具は発動しないんじゃなかったっけ? と言うか下手すりゃ倒れるとか……」
「うむ、ワシの話をよく聞いていたようじゃの。確かにその通りじゃが動くかどうかで分かった方が手っ取り早く速いじゃろ? さ、遠慮なんぞせず早くその腕輪を嵌めて動かしてみると良いぞ。何、気分が悪くなるようなら止めれば問題ない」
……言ってる事は分かるんだが、これ嵌めちまって本当に大丈夫なのか? 報酬でもらったあの指輪に関しては、要素云々以前に、体の体脂肪と言うかカロリーを搾り取られた記憶しかないので(しかも意識が無い状態)、感覚を掴めと言われても不安しかない。それに手っ取り早くって、もう考える事は放棄したのか!?
恐る恐る渡された腕輪を嵌めて、違和感や変な感覚が無いか確かめる。
うん、よう分からん。使うにしてもどうすれば使った事になるんだ? 感覚って言われたけど、腕輪のひんやり感しか腕には伝わってこないぞ。
「どうじゃ? 動かせそうかの? 嵌めてみて気分が悪いとかは無いか?」
「特に何も……師匠、この腕輪うんともすんとも言わないけど、これって俺に適性が無いって事なのかな? それとも不良品?」
「不良品なぞ誰が扱うか! 全く……それにしてもおかしいのぅ? 確かにこの間アキートはソウルを解放しておったのに。中々見た事のない輝きを放っていたから、間違いなくそれなりの力は持っている筈なんじゃが。さもなければ“幽霊”を見たり、見られたりはしない訳じゃし。まさか本当に壊れたか?」
師匠が首を傾げながら、俺が腕輪を嵌めて師匠に突き出している右腕を触っておかしな点が無いか確認している。
壊れているか確かめるなら、『窓』に入れて確認する方が早いことを思い出した俺は、ポンと手を打ってそのまま『窓』を展開し詳細を表示する事にした。
そうしてみると、どうして腕輪を嵌めても発動しないのか、その理由があっさり分かり俺は師匠に噛みつく。
「師匠? 腕輪を動かすのに条件があった事、俺に説明して無かっただろ。そりゃ使える訳ないよ! もっとしっかり教えてくれよ!」
「おお! そうじゃった。スマンの、なんせワシもそれを手に入れたのは良いが、風の要素を使うのは苦手での。殆ど触りもせずに放り込んでいたし、あまり良くは無いのじゃが、半分死蔵していたも同然だったから、まあ許せ」
そう、この“清涼の腕輪”はただ装備すれば良いと言う道具ではなく発動には合言葉が必要だった。あの“減退の指輪”と違い、今度こそ真面な道具を使えると少しワクワクしていた気分が、微妙に萎える。
師匠に謝られては仕方ないと、諦め一つ溜息を吐き言葉を紡ぐ。
「……アフ=カ・マアーフ」
俺がその言葉を唱えた瞬間、体の中で吸い込んだ空気を吐き出してもいないのに、口や鼻を経由せずにそれを排出している様な、何とも表現しがたい感覚が俺を襲う。
その感覚に逆らうことなく、何かが吸い出される感触を保持すると腕に嵌めた“清涼の腕輪”から微風が発生し、辺りが徐々に冷やされ涼しい風で気温が変化していく。
それにつれ、初めて上手くこの不思議な道具を動かせたことに感動して、俺のソウルの器が歓喜に包まれる。
「うむ、見事じゃ。どうやら清涼の腕輪の使い方が分かったようじゃの。この分だとワシよりも、遥かに風の要素に注ぐ力は上のようじゃ。ただアキートよ、初めて扱う道具じゃ気分が優れんと感じたら、無理はせずにすぐに止めるのじゃぞ?」
「やった、やったよ! 師匠が言うように、俺にもこれを使う事ができた! 本当スゲーよ! まだまだいけそうだ!」
「うむうむ、流石はワシの弟子じゃ、簡単に腕輪の使い方も覚えたようじゃの。どれ、アキートよ、そろそろ止めても良いぞ? この部屋も十分涼まったしの、これで寝苦しさも感じずよう寝れそうだわい」
師匠は笑顔でそう答え、もう腕輪を止めて良いだなんて言ってくるがとんでもない!
そう! まだだ。もっともっと俺は上手く使う事が出来るに違いない。そうだ! この“流れ”の速さを加速させれば、更に強くなれるかもしれない。
俺は力を放出することが楽しくて、どんどんと腕に付けた清涼の腕輪に風の要素を注ぎ込む。
そうする事で腕輪が仄かに光を帯だし、更に纏う風の強さが増していき放出される風の鋭さと温度が急激に冷えて行く。
ヒョォオオオォォォォ
体を通し、流れていく風の加速感と音が心地良い。
とても良い気分だ! この風の流れと研ぎ澄まされていく感覚を味わい尽そう!
そして俺はこのまま風になるんだ!
どうしてか分からないが、一緒に喜んでくれていた筈の師匠が、何か身振り手振りで話しているけど、向こうに流れていく風のせいで良く聞こえない。
師匠もこのまま俺と一緒に風になろうぜ!
「……―ト、確りするんじゃ! くそっ! なんて事じゃ。アキートの奴、力に呑まれて暴走しおった。このままではこの部屋が凍ってしまうわい! よもやアキートにこれほどの適性が眠っていたとは……迂闊じゃった!」
フフ、フハハハハハ! 凄いよ! どんどん加速していく! このまま俺の全てが風になれるんじゃ無いだろうか? もっともっだ更に力を注ごう。そして世界を回るんだ!
正に俺は一つの風になる! もう誰にも止める事なんて出来ない!
轟々と流れる風の音が俺の体を駆け巡る中、誰かの声が聞こえた気がした。
「……にい。おにい、こわいよ。さむい……よ」
おにい? だれだ? おれは? 俺は? 俺? さむい?
ふと、何かが倒れているのが目に入った。
あれは? あれ? だれ? ……寒い。
どうした? 風だ。風が凍らせた。
なにを? あれを。人だ、俺と同じ。
あれは誰だ? アキエ。ソウル文字が光っている。
アキエ? あきえ、明恵、明恵!?
「明恵!? おい、……明恵? 明恵っ!!」
その光景を見て、俺は漸く我に返る。
倒れた明恵が居る台所は一面に白い霜が降りて、辺りは薄く凍り付いていた。
つづく
12/9 アイテム名が別の物になっていたので、修正しました。
×枯渇の指輪→○減退の指輪




