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54話 終に口にしたアレ

ご覧頂ありがとうございます。

 結局話し合いの後、ふくれっ面をしていた星ノ宮と宇隆さんは、日曜に参加と言う事で、今日の所は迎えに来ていた車に乗り帰って行った。

 残りの俺達はと言うと、下見も兼ねて一度瀬里沢の家を訪ねる事になり、彼を先頭に俺と静雄に秋山それと黒川の四人は、案内されるまま件のお宅拝見となる。





 ――瀬里沢の家はひしめき合う住宅街とは逆に、“高級”と言って差支えない所謂“御屋敷”と呼べるような、そこそこの高さのある立派な白い塀に囲まれた大きなお宅で、塀の内側にその屋敷とは別に建っているアレは倉だろうか? 後で本人に聞いてみようと思う。

 個人宅に和風の門が在るって事も凄いし、車も出入りできるその大きさは圧巻だった。


 前に静雄の家に遊びに行った時も、家の敷地に道場があって面積は広かったけど、家はここまでデカくない。

 ……今はまだ日が出てるから良いが、もう少し時間が経つと何か出て来ても、不思議では無い歴史を感じる建物だ。


「瀬里沢、ここ本当にお前の家? どっか別のお偉いさんの家とかじゃないよな?」


「え? 間違いなく僕の家だけど、家族以外に居る人なら、通いで来て働いてる須美さんくらいかな?」


 スミさん? 家族以外に居る? 働いているスミさんって一体何の事だ?

 お前の家はどう見ても従業員を雇うような店には見えん、最も旅館って言われれば納得しちゃいそうではあるが。


「石田、あんた急にポカーンとしてどうしたの? ほらアレよアレ! 『家政婦は見ていた!』って奴」


「ああ、家政婦さんね。いや、家政婦云々は分かったけど、秋山は少し落ち着いたほうがいいと思うぞ? 別に殺人事件とか起きる訳ないし、アレはフィクションだからな」


 静雄は特に感想は無いようで、門をくぐり庭(?)へ進む、何気に黒川は秋山の話にコクコクと頷きながら、開いた門を通して屋敷を持ってきていたデジカメで撮影している。

 一応撮影するなら許可を……瀬里沢は笑っているし、変に気にしてるのは俺だけか?


 何だかお宅拝見と言うより、修学旅行で見学に行くような寺でも見に来てる気分にさせられるが、瀬里沢の後に続きながら靴を脱ぎ、それじゃあと中へお邪魔する。

 そうすると、直ぐ近くの部屋の中から中年の女性が出て来て俺達を見るなり、テキパキとスリッパを人数分用意すると瀬里沢に「坊ちゃんがお友達を家に呼ぶなんて珍しい。今お茶をご用意しますね」と言って廊下を戻っていく。


「瀬里沢って、普段坊ちゃんって呼ばれているのか?」


「そうだね。須美さんには小さい頃から来て貰っているから、全く敵わないよ」


 瀬里沢はそう言って特に照れた様子も無く、それが当たり前とでも言うように振る舞っていて、これが庶民との差かと思うのは俺だけでは無い筈だ。

 そのまま少し廊下を歩き、左手には綺麗な庭が続き右側には座敷や茶の間、他にも何部屋か通り過ぎた後、先程より少し広い部屋に通される。

 どうやらここは客間らしく、大きなテーブルに座布団が用意され、俺達は適当に座り部屋の中を見回したり、黒川がデジカメで撮影した物を見るなどして、緊張を解していた。

 須美さんと呼ばれていた女性が、お茶と茶菓子を用意して「ごゆっくり」と言って出て行ったのを皮切りに、瀬里沢が口を開く。


「さて、今は両親とも家に居ないから、その間に祖母の部屋近くまで案内するけど、他に確認したい所とかは在るかな?」


「瀬里沢の家って、由緒正しい家柄って奴だったのか? さっきチラッと見えたけど、倉とか何個か見えた気がするんだが?」


「うーん、武士と言うか家臣? 後に庄屋だったらしいよ。倉庫になっている倉の中は流石に見せられないけど、僕の部屋代わりになっている倉は後で案内するよ。他に聞きたい事とかあるかな?」


 さらっと流したけど、本当に武士つーか侍? の家系だったらしい。

 それの子孫が何でまたあんな変……いや、人の信仰する宗教と趣味にはケチつけるなって、俺の親父も言っていたし、家柄とかは関係ないか。


 集まって開口一番に瀬里沢の家柄が分かった後、俺は皆と同じく席に座りどんな話が瀬里沢から出て来るかは分からないが、皆の質問を大人しく聞く事にした。

 

「瀬里沢さんは、他に兄弟とかは居ないんですか?」


「生憎兄弟は居ないね、従兄弟達なら居るけど一緒には住んでないしね」


「ふむ、特に意見が無ければ、先に件の部屋の案内後に御札を見せて貰うのはどうだ?」


 おっと、“依頼”の最終目的である御札も調べておかないとな、流石静雄、冴えてるぜ。

 静雄の提案に誰も反対は無いようで、会話はあっさり終了し瀬里沢の祖母が普段居る部屋へ向かう。

 瀬里沢の家は二階が無い代わりに全て平屋で広い、その祖母の部屋から見える中庭の先には茶室まであるらしく、あまり関係ないが昨今の土地事情を考えると、敷地面積的な物や、倉まで在る事を思うと相続税は凄そうだ。


 中庭を見ながらの移動となった訳だが、途中からどうも妙な気配を感じ、一向の最後尾に居た俺は気のせいだと自分に言い聞かせながら、中庭を撮影している黒川の後に続き、案内されるまま先へ進む。


「この先が祖母の部屋で、御札は部屋の中の四隅に貼ったんだ。結局効果のあった方は剥がされたのが問題だったらしく、ダメになってしまったけどね」


「じゃあ、この廊下に土とかの跡が在ったって事かな? 最初にその跡を見つけたのって誰なんだ?」


「祖母の傍で一晩過ごした母が最初かな? その前の事だと須美さんが掃除の最中に気が付いたらしいけど、ここって直ぐ横が中庭で土が在るから、あまり気にして無かったみたいだよ」


「そうね、猫が中庭を通ってこの廊下に来れば、少しくらい土が着きそうな物よね。それじゃなくても、ここって昼間は開けっ放しなんじゃない?」


「庭の池に鯉が居るから、猫は飼ってないけど絶対来ないって事は無いね。前に見た事あるし。それとここの廊下を閉めるのは、天気が雨や寒くなってからだね」


「防犯の面で考えて、それって大丈夫なのか? 確か戸締りは問題なかったって話ていたが」


「態々高い塀を越えて忍び込む位なら、泥棒の類だろうし一応足跡とか無いか調べたけど、それは無かったね。結局“御札”を貼って剥がされる暫くの間は、平穏だったから泥棒では無いと思うよ」


「あれ? ねえ、そうなると今瀬里沢さんのおばあちゃんって、大丈夫なの?」


 秋山がそう聞くと、少しだけ瀬里沢の瞳が揺れた様な気がした。

 割とおばあちゃん子って奴だったのかな? 念を入れて俺達を懐に入れるくらいだし、何とかしたいと言う思いは間違いなさそうだ。


「あまり良くないね。暗い所と夜を怖がって一番日当たりの良い、今の自分の部屋から出ようとしないし。毎回在る訳じゃないけど、いっそ部屋を代えようと僕が言ったら、母がそれは嫌だってどちらも譲らないんだ」


 うんうん、俺としてもそんな怪しい物には出てきて欲しくもないし、できれば日曜の新しい御札が届くまでは、いっそ現れなくても良い位だ。

 どうもこの場所は良くない気がするので、俺は早く移動できないか考えを巡らせる。

 何回目かのピピッと甲高い音の後に、カシャッと黒川の持つデジカメ独自のシャッター音が響く。


「それじゃあ、その御札を見せて貰えるか? 最初に貰った物と後から貰った奴も合わせて。もしかして今も貼っていたりするのか?」


「剥がれた御札の内1枚は祖母がお守り代わりに持ってて、他の7枚は僕の部屋にあるよ。両親は迷信深くないのもあって、須美さんがお寺に頼んだ時も僕が御札を持ってきた時も、最初から好きにはさせて貰えたけど、余り信じては居なかったしね」


「ふむ。両親『は』なんだな? なら一つ聞くが、暫くの間は瀬里沢もその謎の現象に付き合っていた訳だし、お前の考えとしてはどう思っているんだ?」


 今まで特に何も言わず、黙って着いてきていた静雄がそう瀬里沢に質問する。

 その時デジカメを構えて色々撮影していた黒川も、会話に参加していた秋山と俺も時が止まったように動きを止め、……瀬里沢を待った。

 このまま何も言わず、曖昧に暈して欲しいと願った俺の意図を組んだかのように、どこかの部屋にある、柱時計らしき物が大きな音を五回続けて鳴らす。

 耳から伝わる情報は願い通り曖昧にその音に遮られたのだが、彼の口の動きから読めてしまった答えは、たった二文字、漢字にして一つ。


 簡潔な唇の動きが、その答えを間違える筈も無かった。

 皆も同じくそう思っただろう、その単語は『れい』で、連想するのは数字の『ゼロ』何かでは無く『霊』だ。


 まだそれほど下がって無い気温なのに、今は肌に伝わる風がとても冷やかに感じた。


つづく

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