53話 ちょっとした“trick(手品)”です
ご覧頂ありがとうございます。
誰かの唾を呑み込む音が、耳に届く……って何を隠そう犯人は俺です。
やっぱり俺ってこの手の話は苦手で、今も手や背中に変な汗を掻いてる訳で、それでも瀬里沢の話は続いていて、本当は嫌だけど黙って聞くしかないんだよね。
「だけど、病院での検査結果は何処にも異常は無かった。それから暫くして祖母は異常に暗い所を怖がり、加えて夜に寝る事が出来ず少しづつ衰弱してね。理由を聞いても“寝ていると誰かが傍に来る”って怯えて、仕方なく母が薬を飲ませ眠らせたんだけど。翌朝祖母の様子を見に行った母が、部屋の中に点々と続く土の跡を見つけて、青い顔で本当に誰かが浸入しているって、慌てて無くなった物がないか、それと戸締りの確認もしたんだけど、それ以外異常も見つからないし、警察に相談しても被害が無いせいか、家の鍵を取り換えて様子を見ろって話だけで、全然頼りにはならなくてさ」
「なるほど、それで最初に言った“御札”とやらが関係して来るんだな?」
宇隆さん得意そうに言うのは良いけど、話の腰を折らないでください。
星ノ宮もそう思ったのか、首を振って呆れ顔をしているのを見ると、気持ちは分かるのであえて何も言わず、俺も瀬里沢に首を振って話の先を続けて貰った。
本音で言えば、もう聞きたくは無かったんだけどね。
「結局その奇妙な現象が収まらず、不安になった両親もお寺に頼んでお祓いをして貰ったりもしてみたんだけど、効果が表れなくて困っていた時に、モデルの仕事を受けている事務所の方で何か伝手が無いか聞いてみたら、一件だけ心当たりが在るって、紹介して貰った相手が件の御札を譲ってくれた人でね。最初は一度家に来てもらって具合を見て貰ったんだけど、正式に力を込めた物を作るのに、それなりに手間がかかるからって言われて、一週間後に出来上がった御札を、四枚譲って貰って貼った所、ピタリと止んだんだ」
「止まったんなら問題ないじゃない? それに何で石田にそれを交換をさせる必要があるのよ?」
秋山が不思議に思ったようでそう告げると、星ノ宮と宇隆さんに黒川、それと瀬里沢の四人は少しだけ驚いた顔をして、俺を見て来るがその目は“何で知らないの?”とでも語っているかのようだ。
そう言えば静雄と秋山には、俺の“手品”の事に着いて大した説明をしてなかった。
俺は咳払いをして「続きを」と言うと、何か察してくれたのか瀬里沢が話を再開する。
ただ、静雄は無言だったが秋山と同じく、チラっと俺を見てきたので後で聞かれるんだろうな。
「……その後“止まった”噂を聞きつけたお寺の、お祓いを引き受けた人が家に押しかけて来て、“この御札はインチキだっ!”て言って剥がして帰ったんだ。そのせいでまた例の現象が起き始めて、仕方なく連絡を取ってもう一度御札を貰ったのは良いけど、今度は三日も経たずに勝手に剥がれるし効果も無くて、変だと思い詳しく聞くと貰った御札は、本人で無く“自称助手”が用意した物で、効果が無かったって連絡したら、直接本人の作った物を持ってくるって話になり、結局指定されたのが丁度明後日だ。そこで石田君、キミの出番と言う訳さ。僕が前に用意して貰った御札と、同じ物が貰えるなら問題ないんだけど、もし違う物を寄越された場合、それを僕が指定する物とこっそり交換して貰いたいと言う訳なんだ」
「それで、明後日って事は日曜日だな? そんな場所に俺らが立ち会っても、相手に変に思われないか?」
「そこは僕に任せて欲しい。理由付けなんて簡単だよ? 不可思議な現象に興味を持ってくる人間って奴は絶える事が無いんだ。……そうだね、キミ達は差し詰め僕と同じ高校に通う、『オカルト研究部』の部員と言う肩書で紹介するとかどうかな? 似たような考えを持つ人間って、案外あっさり仲間って思ったりするものだよ」
話し疲れたのか瀬里沢はそう締めくくり、“会議”の前に用意していた飲み物を口に含み嚥下する。最後の仲間と思うって奴は、『撮影部』の同志との実体験を語ったって事だろうか? そんな風に思いながら俺も用意されていた飲み物の蓋を開けて、一口飲んだ。
「フフ、私達が『オカ研』? それに明後日ねぇ。宇隆、そう言う訳だから日曜日は開けておく様に頼むわよ。それと気になった事が一つ、何故“助手”が出張って本人が来ない訳なのかしら? 瀬里沢さん、その事は確認したの?」
「それは聞いたんだけど、どうも菅原さん……御札を作った人は、タイミング悪く日本を離れて今は居ないらしいんだ。だから留守を預かっている“助手”さんが対応してくれたって事さ」
星ノ宮の奴が凄い生き生きとした感じで、宇隆さんに言うけどもしかして、スケジュールの管理もしてるの? 俺だったら星ノ宮の相手だけでストレスで禿げそうだわ。大変そうだけど、その辺良く分からんし頑張ってとしか言いようがない。
さて、瀬里沢が言うには御札の製作者本人は不在で、代わりが“自称助手”でその人も一度失敗してるなら、俺らが合う時ピリピリしてそうだな。
そんな条件下で初めて会う人間に、仲間意識何て芽生えるもんか? 俺の出番が来た所で、はたして上手く“交換”を出来るだろうか?
今ここで悩んだところでどうしようもない訳だが、かなり不安だしここは聞いておこう。
「その本人、菅原さんだっけ? いつ日本に帰って来るかとかは聞いたのか? 助手に不安が在るってハッキリ言うのも不味いんだろうけど、一応知っておいた方が確実性を求めるなら、必要かもな」
「万が一を想定してと言う訳だな? 明人の言う通り俺も賛成だ」
「日曜日に集まる予定としては、菅原さんの助手が来るのが午後二時前後になるって話だったから、その時に聞けるかな? そうだ一度僕の家を下見に来るかい? 今日は流石に時間的に微妙……ん、石田君に安永君の二人は良ければこの後、家に来る? 祖母の寝る部屋には流石に案内出来ないけど、先に家族に紹介しておいた方が、当日になってゴタゴタする事も無いと思うんだ」
確かに、万が一逃げる事になった場合周辺の地理を、先に頭に入れておくのは当然だけど、そんな場所にこれから行くって、どう考えても時間的に夜じゃね? 瀬里沢としては、同じ男なら夜に居ても大丈夫的発想なんだろうけど、俺としてはノーサンキューです!
誰も好き好んでそんな怖い場所、俺は行きたくねーよ!
「あ、でもオカ研って言うなら、当然夜にその現象を見てみたいって発想になるのは、不謹慎かもしれないけど、不自然さは全くないわね」
「うむ、秋山の言う通り事前に調べたりするのは不自然でないな」
「私はカメラを持って、参加する」
ちょっと!? 何故皆さんノリノリなんですか! 星ノ宮は不参加ぽいけど、どっちかと言うと予定が狂うから無理って事らしく、不満顔になっていた。
宇隆さんがどうにか宥めているけど、どう言う訳か子供みたいにほっぺたをふくらまして抗議している。お前は俺の妹の明恵と同レベルか?
……この流れ、俺の意見は聞きいられずに強制参加決定らしい。
俺の頭には世界的に有名な、あの可哀想な仔牛のテーマソングが流れていた。
説明回と言って過言では無い。
つづく