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52話 七人の学生と妙な依頼

ご覧頂ありがとうございます。

 暫くして、部室棟として使われている此処旧校舎の美術室に、七人の男女が集まる事になった。

 近くに居た静雄に秋山は直ぐに来たのだが、星ノ宮と宇隆さんに黒川はそれより二十分ほど後に合流し、何時もの仲間に瀬里沢が加わっただけになる。

 今日は他に部員や瀬里沢の言う同志も来るのか聞いてみた所、普段は月曜日に活動しているらしく何か在った場合は、連絡網で情報の交換と共有が行われるらしい……既に部活動云々と言うよりか、まるでどっかの組織みたいじゃね?

 学生諜報機関(?)とでも言えば良いのか、まあ集まる情報の正確性や速さに関しては、かなり偏った物しか集めてないのが現状で、俺としては秋山の能力が如何に非凡かを、改めて考えさせられた次第だ。

 

「先ずは急な呼び出しにも関わらず、集まってくれてサンキュ。実は俺だけ居れば済むような話じゃ無さそうで、皆の頭も借りたくて呼んだんだ」


「その前に石田、あんたさ御人好しも良い所じゃないの? この間のビラ、あれを撒いた犯人が瀬里沢だって言い出したのあんたの筈なのに、何で話を聞く事になった訳? そこの所ハッキリさせたいんだけど」


「そうだな、その事はどうなったのか俺も聞きたい。お前から来るはずの連絡が無くて、俺も秋山も大分焦らされた訳だからな。明人、その辺はどうなんだ?」


 あ~そりゃそうだわな、何かもう『撮影部』の活動内容のインパクトのせいで、ビラの事とか誰の仕業か俺だけは分かってたし、本人から聞くのを忘れてた……何て言ったら、瀬里沢から俺に静雄と秋山の矛先が変わるだろうな。

 同じく話を聞いて、顔色を変えた瀬里沢に話させようと静雄と秋山から視線をそらし、これ以上突っ込みが入る前にキラーパスを贈る。


「それは俺が態々話すよりも、本人から説明ある方が分かりやすいだろう。瀬里沢だけでは無くて、『撮影部』の同志の協力の下行ったに違いないからな」


「あら、あのビラを撒いたのって彼等が犯人だったの? その話私は初耳になるのだけれど、石田君は何時から気付いていたのかしら?」


 そう言って目だけが笑って無い星ノ宮は、当然のことながら俺に視線を寄越す。

 折角上手く逃げられたと思ったら、それ以上に厄介な御仁に睨まれてしまった! 宇隆さんは黙して語らず、星ノ宮が動いたので傍に控えているようだが、どちらかと言うと、俺に向けるあの瞳に浮かぶモノをあえて言えば憐憫かも知れん。

 残る黒川は話よりも後ろの撮影機材の方が気になるらしく、チラチラと視線がそちらに向いている。

 そう言えばお前は写真が趣味だもんな、あの機材は気になるわな。

 全く纏まりが無い中、俺は溜息を吐くと瀬里沢に一言「話せ」と言って、顎を使って促した――





 瀬里沢の話の内容としては、大して面白味は無かった。

 それと言うのも瀬里沢個人の感情は関係なく、偶々星ノ宮に張り付いていた同志A(仮)が(誰かは言えないそうだ)、あの写真を撮り連絡網を使い急遽同志一同が集まり、秋山の言っていた通り断固とした“制裁”を行うと多数決で決まったらしい。

 仕方なく機材が揃っている瀬里沢宅でビラを作成、部の代表でもある本人が屋上から撒く事になったそうだが、思ったよりも反響も無く鎮火した為、次の手を考えるのに俺の情報を集めていた結果、『撮影部』にとって俺は“有用”だと言う考えを瀬里沢が力説して、今日呼び出す事になったそうだ。


 まあ、瀬里沢は『撮影部』や同志の為だけでは無く、序に個人的な要件も片付けられると一石二鳥どころか三鳥を狙っていた様だが、結果としては俺に“お願いする”側になった訳だった。

 少々時間を食ったが、その説明を聞くに案外瀬里沢の奴も強かだな位にしか、俺としては感想は無く、静雄と秋山も今の話で瀬里沢個人には悪意は無かったようだと、一応の納得はしたらしい。


「ビラの件は分かった。けど協力する理由は?」


 おっと、黒川お前も話は聞いていたのか。てっきり興味は機材に行っていて聞き流しているかと思いきや、何故かその簡潔な質問は不機嫌そうに聞こえた。

 何か黒川にとって、お気に召さない所でも在ったのだろうか?


「そうね、私としても話の筋は分かったけれど、私達が協力するメリットは? 石田君も真逆無報酬で、これから瀬里沢さんが話す予定の“お願い”を受ける事なんて、在りえないわよね?」


「いやいやいや、お前ら待てって。先ずは話を聞いてからでも構わないだろ?」


「石田、きっと黒川も星ノ宮様もお前の様な御人好しは、絶対に話を聞いた後でも断ったりはしないと考えて言ったに違いないぞ。そもそもお前は腹が立たないのか?」


 うーん、腹は立たないかと言われても迷惑を被る前に秋山が動いて星ノ宮と一緒に対処しちまって、多少騒がしくはあったが別に何とも思って無いと言うか、そんな事よかお前らに奢った、ケーキ代の方が痛かったって記憶の方が強い。

 ……何て言ったら、俺は明日からこの学校で生きてはいけないだろうな。


 それに師匠と熱を出した村の子や、大人達の事で忙しかったから正直言うと、改めて本人から話を聞いても、多少の妬みと打算で動いていたって聞いたところで、迷惑とは思っても怒りは湧かない。

 これが仲の良い友人にされたとすれば凹むだろうけど、結局俺に被害と言えるような物は、大して無かった訳だしね。

 俺が腕を組んでそう考えていると、瀬里沢が徐に立ち上がる。


「そうだね僕はキミにしかできない事を頼む心算で話をする訳だし、一応僕も学生とは言え仕事をして報酬を貰っている。今から話す事は依頼と言って過言ではないから、受けてくれると言うなら報酬を出すよ。前払いで5万、仕事が済めば残り五万合わせて十万でどうだろう? あと“危険手当”はお互い話し合うと言う事で」


 はっ!? 十万だって!! 正直言ってその報酬額はかなり嬉しいが、その“危険手当”ってなんぞ!? 瀬里沢が俺に頼みたい事って実は危険なの? 真逆犯罪に加担とか無いよね? 俺は館川みたく警察に御厄介は勘弁だぜ?


 何だかとっても話を聞きたくなくなってきたのは、俺だけだろうか? そう思って皆を見回すと静雄は目を瞑り黙ったままで、その隣に座る秋山は「十万だって、何に使う?」とか話しているし、もう貰った気でいるの!? 星ノ宮はキチンと報酬を払うと言ったからか、特に何も言わなかったが、その表情に変化は見受けられない代わりに、目が爛々として楽しそうだ。

 宇隆さんは若干面倒そうに頬杖ついて俺を見てくるが、あれはきっと面倒事に巻き込んだ事を目で訴えているに違いない。

 黒川はと言うと不機嫌そうな感じが抜けず、何か思い込んでいる気がする。

 ……と言っても俺がそう感じただけで、秋山のように提示された十万の使い道でも考えているのかも知れない。


 だけど念の為ここで俺が聞いておかないと、誰も口を開く事が無さそうなので瀬里沢に尋ねる。


「報酬云々は分かった。だけど“危険手当”って何だ? 俺は勿論だが静雄や皆を犯罪に巻き込んだり、あまりにも無謀な事には参加させたりは出来ないし、するつもりも無いからな」


「危険かどうかは僕に判断が出来ないから、話し合いと言ったまでで僕にも分からない。一応今の所“僕には”何も起きてないしされてもいないからね。今から話す事を信じる信じないは任せるけど、僕がキミに頼みたい事はキミにはきっと凄く簡単な事だと思う。キミには“ある紙”を“ある相手の持つ”似たような物と交換して欲しいんだ」


「ある紙を交換? それってつまり“掏りかえる”って事? 石田の言った犯罪に成るんじゃない! 瀬里沢さんはその事分かって言ってるの?」


「秋山、そう興奮するな“掏りかえる”じゃ無く、奴は“交換”と言っている。交換なら犯罪かどうか判断はまだつかん。明人も黙っているし、どういう事か説明を聞こう」


「ありがとう。続きを話させてもらうけど、これはお金とか何かの証券や金銭的価値が在るかと聞かれれば、難しいとしか言えないかな。必要ない人にしてみれば、文字の書かれた唯の紙でしかない物なんだ。一般的な名称で言うと“御札”かな。嘘みたいな話だけどその御札には本当に効果があって、単なる紙以上の力が在った。僕の祖母が二カ月前位から奇妙なモノを見るようになってね、最初は誰にでもある勘違いや、まだ早いと思うけど加齢から来る軽い健忘症かと思って、両親も念の為病院に連れて行って、検査をさせたんだ」


 何だか俺が凄く苦手とする様な話題になった気がするのは、気のせいで無いよな。

 静雄は……お前は何を取り出して食ってるんだ! え? 別に欲しい訳じゃないから俺にも渡そうとするな! 秋山に黒川と宇隆さんは瀬里沢の話を聞いて胡散臭そうな顔をしだすし、星ノ宮だって同じように、アレ? 何か真面目に聞いてる? 実はこう言った話に興味があるとか? 待て早計はいかん! これから診断書とかそう言った物の交換とかに、シフトチェンジしてはくれないかな?

 どうやら、瀬里沢の話はこれからが本番とでも言うように、不気味な雰囲気を醸し出し始めていた。


つづく

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