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50話 争いは同じレベルでしか起きない

ご覧頂ありがとうございます。

 倉庫の扉の奥は暗く、どうやら窓は塞いでいるらしく一筋の光さえ入らず、光源は後ろにしかないので中を見通そうとしても、そこは物と布が何となく在る事くらいしか分からなかった。

 瀬里沢の奴、部の本当の姿とか言っていたがこんな暗い部屋に、何が在るって言うんだ? 思わず振り返りそう言おうとした途端、パチっとスイッチを押す音が聞こえ、天井の蛍光灯がチカチカと点滅を繰り返した後に、部屋の中はその明るさを取り戻す。


 目がその明かりに成れて部屋の中がやっと分かる。

 パッと見だと普通の倉庫にしか見えないが、中にある物は壁も含めて全て黒い布で覆われ、“何かが置いてある”事しか分からない。

 入口横に在った部屋のスイッチから手を離し、瀬里沢が倉庫の扉を後ろ手に閉めると、にこやかに笑いかけながら俺に向かって両手を広げ、仰々しく歓迎を表す。


「それではお目に掛けよう。我等同士が集めしその輝かしい功績を!」


 瀬里沢はそう叫ぶと辺りにある布を掴んで引っ張り、バサッと言う音と共にその黒い布が床に零れ落ちると、隠されていた物が俺の前に曝け出された。

 何とも芝居がかった動きだったが、俺はその隠されていた物を目にして固まる。


「こっ、これは!?」


「ふはははっ、これでキミも分かっただろう? 同士石田。いや既にその実力を示しているキミは同士では無く戦士だったな。括目して見よ! これらは全て同じ志を持った仲間が集めし至宝(アーティファクト)だ!!」


「……お前らの言う至宝って、コレ?」


 瀬里沢の随分と大げさなその台詞と、若干興奮しているのか頬が紅潮していて、更にその表情は目が潤みまるで酔っているかの様に見えるが、正直言って俺はその光景にドン引きしていた。

 瀬里沢の言う仲間が集めた至宝って言うのは、パッケージされた女性の数枚の写真と様々な物品、それに数点ケースに入れられた物……それは暈して言うなら服飾品、ハッキリ言えば女性服や小物等、その写真に写る人物の私物だったのだから。


「ふっ、感動のあまり言葉も出ないようだね。そう、これらケースに入った物は全て同士達が集めた、我が部のランキング十位に入る女子(女神)の至宝とその見聞された知識の集大成だ! 他にも在るがケースに入れるのは十位までさ」


「……あ、そう。で? これが俺にどう関係するんだ? 何をどう知ってるかは聞かんが、ハッキリ言ってお前らコレが女子にバレたら、最近在ったある事件のせいでピリピリしてる今、停学どころか共犯の疑いも掛けられるぞ?」


「ある事件? そんな事で誤魔化せはしないぞ! 戦士石田、我等はある筋から情報を得ているんだ。隠しているようだがキミは我等同士の中で、ランキング一位の女子(女神)である星ノ宮さんの下着を持っている筈だ!」


 ハッ!? 瀬里沢に言われて思い出したが、決して故意で無いと断言できるけれど、俺って星ノ宮にまだ下着返してなかったーーーーー!!

 俺は数瞬今までの事が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、どうしてこんな事を忘れていたのか、何故もっと早く返してなかったのかと後悔の波が襲っていた。


「ふふっその様子だと、どうやら九割がた“間違いないと”確信は在ったのだが、キミは“本物”のようだね。もうどう足掻こうと同じ穴の貉だよ? 今更否定しても誰も信じちゃ暮れないね。その情報の出所もこう言えばキミも納得してくれる筈、何故なら我等同士は二年C組にも存在するからだ!」


「な、なんだってー!?」


 くそっ! 俺は預かっていただけで、お前らと同じにするんじゃねー! 何が同士だ! ……って言っても、この今の瀬里沢の勝ち誇った表情、何言っても本当に絶対信じちゃ暮れないだろうな。

 折角静雄と秋山にスタンバって貰っていたが、逆に呼べねーよ! どうにか誤解を解いてここから逃げ出す方法は無いだろうか? 殆ど聞き流しているけど瀬里沢は勝者の余裕なのか、ここにあるブツを手に入れた際の自慢話をし始める。


 俺は少し考えを巡らせポケットの中にあるスマホを操作し、星ノ宮に電話を掛けそのまま切らずに通話させた。

 きっとアイツなら秋山のように猪の如く踏み込んだりせず、この瀬里沢の話を聞いて盗撮犯の館川を誘き寄せた時の様に、対策を考えてくれるに違いないと思ったからだ。

 ……間違って掛けたと思われ電話を切られる恐れもあり、半分以上は賭けに近いが上手くコイツの話を誘導していけば、状況を理解してくれると願いたい。

 聞き流してはいるが、瀬里沢の話はくだらな過ぎてツッコミが追い付かん。


「……と言う訳で、この時は大変だったね。同士の助けも無ければ確実に置き忘れている事を確認は出来なかった筈さ。まあ、傘をコッソリ届けた代わりに雨に濡れた、その瞬間の姿を切り取らせて貰ったけどね。これも全ては皆の結束力の賜物さ、目標を持って互いに協力し合い一つの事に当る。戦士石田、キミのその力が合わされば、更にその目標を高められるに違いないだろう! その偉業を称える為にも、是非キミの持つ星ノ宮さんの至宝を部のシンボルに!!」


「いや、少し落ち着け俺は星ノ宮の下着を盗った事なんて無いし、……強いて言えば下着を預かっているとも言えなくないかも知れないが、それはきっと単なる偶然の成せる奇跡であって、疑うなら本人に直接聞いてやっても構わんぞ?」


 瀬里沢から色々話を聞き出そうと、まあ星ノ宮に聞かせる意味も在る訳だがどうにも長い! かれこれ十五分は喋ってるんじゃね? 流石に疲れてきたので、俺は鬼札である星ノ宮の名前を出して、盗んでいない事を証明するのに瀬里沢に交渉を掛ける。


「バカな!? 偶然で他人に下着を預ける女性が何処に居る! どうすればそんな見え見えの嘘を言えるのか疑問に絶えないが、ハッキリ言ってそんな事を言っても無駄だよ。そもそも僕らは彼女が入学した当初から見張ってきたんだ、今まで彼女に接触してきた人物も調べてあるが、キミの名前など今までどこにも表れてない。そんなぽっと出の他人に女性が下着を預ける? ハッ、全くキミは面白い冗談を言う、ただそのセンスの無さは笑えないがね」


「お前に俺の笑いのセンスを突っ込まれたくねーよ! 人の事を調べるのも俺の事をどう思うのも勝手だが、真実を曲げる事は誰にも出来んぞ? いくらお前らが今までそうやって、沢山の情報から色々な物を手に入れてきたのかも知れないが、結局はお前らの中での価値観の共有だけで終結し、一向にその対象からの考えを受け取れてない。例えるなら饅頭のガワだけ食べ中身の餡を食べずに、その味をさも知ったかのように錯覚しているだけにすぎん!」


 売り言葉に買い言葉って訳でも無いが、いい加減俺も瀬里沢の奴にイラッと来て、かなりエキサイトして言葉が濁流のように流れ出る。

 言っておくが、決して俺の笑いのセンスを貶されたからでは無い。


「なっ!? キミこそ僕らの何が分かるって言うんだ! ガワだけだって? 今まで同士達がどのように思いながら学校生活を送り、そして憧れた女性を見守ってきたか! キミに分かる訳がない!」


「ああ、分かんねーよ! お前らも俺も一方的な考えを押し付け合っているだけだからな! 見守る? ハッ、対話もせずに相手の事を推し量ろうだなんて神様にでもなった気でいるのかよ? 確かに分かる事も少しは在るだろうが、それで分かった気になっているだけで、極論で言うなら“お前ら含めて”誰の助けにもなってねーよ。そもそも学校卒業してもこんな事、お前等続けるのか?」


「……何を言おうとも、キミの力は僕達にとって必要な物だ! どうやったかは知らないが目の前で相手の物をすり替えたと言う手並み、絶対に逃す訳には行かないんだ!」


 俺と対話を続ける瀬里沢の目が、どうも単に俺に下着ドロをさせようとしているだけが理由で言ってる訳じゃなさそうで腑に落ちない。

どうして今まで見守るだけで……多少欲望も垣間見えるが、急に俺の事を求めてきたんだ? 星ノ宮の入学当初からとか話していたからには、正直理解は出来んが瀬里沢達『撮影部』の仲間は、数年間も学校に通いながらその活動を行っていた訳で、特定の女生徒だけとは言え本人達からしてみれば見守ってきた筈。


 逆に言えばその間にもっと、やろうと思えば色々出来た筈なのにそれをしてない。

 つまり、瀬里沢が言った台詞『目の前で相手の物をすり替える』と『絶対に逃す訳には行かない』って事の意味は、“こういう事が出来る人物が急に必要になった”もしくは前から必要だったがそんな事を出来る奴が、今まで居なかったとは考えられないだろうか?

 憶測の域を超える事は出来ないが、こいつの気迫がどうも気になる。

 瀬里沢と睨み合いながらそう考えていると、通話していたままだったスマホから呑気な声が聞こえてきた。


「もしも~し? ちょっと、石田君? 聞こえているのかしら? ……変ね? 宇隆、今この電話って通話されているのよね?」


「星ノ宮様、私はあまり機械の事は……途中から声が聞こえませんが、画面が暗いですし通話が切れたのでは?」


 ……宇隆さん、あなたやっぱりこの前の連絡先交換の時、赤外線通信の事知らなかったでしょ? 画面が暗くても通話は繋がってますよ! それと星ノ宮は本当ブレないな、さっきまでの俺と瀬里沢の会話聞いてただろうに。

 おっと、瀬里沢の奴目を見開いて驚いて……と言うか固まってんなコイツ。

 さてさて、それじゃあコイツの本心を暴くには、何を交換すれば乗るのかな?


つづけ


11/23 脱字が在ったので修正しました。

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