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40話 意外な使い道

ご覧頂ありがとうございます。

 あれだけ神妙な顔をして“逃げても良い”的な事を臭わせておきながら、最初っから師匠は俺を逃がすつもりは、実は無かったんではないだろうか? そんな事を考えつつ、昨日渡したポ○リの粉で作った水はどうなったか聞いてみる。


「あれは一体何なんじゃ? 粉末じゃし薬だと思ったんで少しずつしか飲ませなんだが、一口飲むとあの子にもっと飲みたいとせがまれたわい。今は他の熱を出している子供にも少しずつ飲ませとるよ」


「あ~、あれは言ってみれば体に吸収しやすい様に、人間に必要な水分と塩分それに糖を混ぜて摂取しやすくしたもんなんだ。ただの水よか甘みがあるほうが具合に寄っちゃ飲みやすいしな」


 師匠は「甘さ?」と呟いて何か考えているようだ、まあアレも買ってくれば手に入る物だしそれよりも、師匠の話しぶりからすると飲ませたのは子供達だけなんだろうか? もしそうならまだそこそこ残っている筈だし、先に大人用の解熱剤だけでも渡しておこう。

 俺は師匠を残し居間に移動すると、普段からピアノの上に置いてある救急箱から市販の解熱剤と、病院で貰った物両方を持って冷蔵庫へ戻る。


「とりあえず今家に在る分はこれで全部だけど、こっちは大人用だから子供には前に渡した分で頼むわ。で、問題なのはさっき話した“うつる病魔”に心当たりは無いの? あそこまでハッキリ言うって事は、師匠もある程度確信があって口に上げたんじゃね?」


「ふむ……お主には本当にすまん事をした。謝って済む話では無いのじゃが、もうワシも形振り構ってられる段階じゃなくなってるからの。おそらくじゃがワシは既に“うつってる”と睨んどるよ、特に変わった症状はでとりゃせんが、お主の薬を村の物に渡す際、村に常備されてた薬が無くなった原因を念のため一応聞いたんじゃがの」


 師匠は冷蔵庫の前に椅子を持ってきて座ると、今から話す事は少し長いぞと断り師匠が聞いて纏めてきた話を語り出した所で、俺は一応時計の時間を見てまだ大丈夫だと思うが、誰か家に帰って着たら冷蔵庫の扉を一度閉めると断って始めて貰う、師匠の話す内容はこうだった。


 村の薬を扱う者から聞けた事は、どうも二週間ほど前に遡る事になる。

 その日村に立ち寄った商隊の中に居た護衛の一人が、急な熱で倒れたらしく村で看護される事になり、暫くの間滞在していたらしい。

 その護衛の男は自分で持っていた薬を移動の途中で使い果たしていたそうで、仕方なく村で貯めていた物を提供した。

 無論タダでは渡せないとお金を払う約束を取り付け、ソウル文字でその旨を認めた契約をして大人で体力もある護衛だ、暫く村に滞在して治ると護衛に戻るべく商隊を追って、村から出て行ったと言う事だ。


 村にも早々熱で倒れる者も居ないので、護衛に売った薬代でそれなりの臨時収入が入ったと皆喜んだそうだが、結果としてはこの商隊が村に立ち寄ったせいで熱冷ましの薬が足りなくなり、更には病魔まで持ち込まれたのではと師匠は予想を立てた。

 他に分かった事はその熱で倒れた男にも、妙な赤いぶつぶつが体にできていたらしく、最初は熱のせいで汗を掻き出来た汗疹だと思っていたが、師匠と話をしていた村のその男も、熱を出した子共に似たような物が出来ていたと思い出し話した事から、あの熱の原因は“うつる病魔だ”と判断したのが今日だったらしい。


 薬を扱う者と二人で話す事で気が付けたとは言え、その護衛の男とは全く接点の無かった子が熱を最初に出したので、その薬を扱う者も分かるのが大分遅れてしまった感が強かったようだと師匠が話す。

 この話は村の顔役数人と村長だけに相談し、村からは誰も出さないようにと話し合いも既に終わっている事だけが救いだ。


 途中玄関の郵便受けから音が聞こえて、ビクッとしたが明恵も母さんもまだ帰宅はしなかったけど、話を聞いて考えた事は空気感染する未知の病気だったら、俺の家族もヤバイと頭の中をグルグルとループしていた。


「……消毒しないと、家の物も触れないよ! とんでもない事になったー! これで俺の家族も病気に成ったらマジに恨むからなっ!師匠」


「……恨んで貰っても構わん。ワシも同じ事になれば、お主と同じ様に考えるじゃろうしの。じゃが一応まだ猶予は在る筈じゃよ、何せ病魔が体を侵しはじめるには期間が必要のようじゃし、それも人によって差がある。と言っても体力の足りない村の命名式を楽しみにしていた子供は、七人全員病魔が取りついたがの。他にも大人が九人更に小さい子が六人熱で寝込んでいるが、まだまだ増える可能性は否定できん」


 そう言って腕を組み、髭を扱く師匠はしかめっ面のままだ。

 って事は、七歳以下の子供は全員揃って感染してるって事か? 話を聞くと潜伏期間があって、子供はほぼ全員アウトに近く大人は数人か、それに汗疹みたいな赤いぶつぶつが出来ると……何かその病気に関する物でもあれば、病院に持って行って調べて貰ったりでき……最近こんな風に調べる事よくあるなって、そうだよ! 俺の『窓』を使えばもっと詳しく分かるんじゃね!?


「師匠! その護衛の男が持ってた物とか使った物、他にも今病魔に侵されてる人の持ち物、何でもいいから俺に貸してくれ!! 兎に角一刻を争うんだろ!」


「急にどうしたと言うんじゃ!? アキート、少し落ち着くがええ。お主も家族の事が心配なのは分かるが、病魔に侵された者の持ち物など普通は恐れて、誰も触ったりなどせんぞ? ……お主ついに狂ったか?」


 俺の興奮した叫びに師匠は慌てて椅子から立ちあがり、冷蔵庫越しに俺の腕を掴んで落ち着けと言うが、これが落ち着いてられるかっての! 上手く行けば対処法が見つかるかもしれないんだぜ! 俺はさっきまでの悩みも吹っ飛びやる気に満ちている。


 と、俺が鼻息荒く師匠にさっさと物を集めてこいと言っていると、玄関の鍵が開く音がガチャリと鳴り俺の耳に届いた。

 俺は慌てて師匠に「また後で!」と言って冷蔵庫の扉を閉め、割符をズボンのポケットにしまい直し、玄関へ行くと「ただいま」と母さんが靴を脱ぐと俺の手を見る。なんでだ?


「おかえりの一言も言えないの~? 母さんが帰って着たのにこの子は。あなたの声が聞こえたと思ったけど、誰かと話していたのかしら? もしかして女の子? 誰なのよ? 明人も、そろそろそういう子が出来た?」


「お、おかえり。別にそんなんじゃねーよ……それに師匠は爺さんだっての、ちょっと電話していただけだよ、大した話でも無くて病気が、病気……あのさ母さん、熱が出て赤いぶつぶつが出るような病気って、何か分かる?」


 母さんはそう言うと、楽しそうに俺の顔を見ながらニヤニヤしていたが、俺が病気の話を切り出すと少しばかり目をパチクリとさせ、頭を少しだけ傾け直ぐに戻すと、途端に詰まらなそうな顔になったが一応俺に答えてくれた。


「なあに? 急に話題を変えちゃって? 熱が出て赤いぶつぶつ? 風疹か麻疹じゃないのかしら? 今頃高校で流行ったりしてるの? 明人は小さい頃に予防接種してるから大丈夫でしょ。けど、おたふく風邪だったらちょっと不味いわね……電話の内容ってその事かしら? 随分色気のない会話しているのね、最近の若い子は」


 そう言ってさっさと俺の横を通って母さんは着替えるのか、二階の部屋へ行くのに階段を上って行った。……あれっ? もしかして師匠とあれだけ話込んだ問題の病魔って、母さんに何となく話しただけでもう正体見えた?


 何だろ、さっきまで解決策が見つかったかも知れないって興奮していたのに、まるで冷たい水を頭からかけられたような、この残念と言うかやる気をそがれて高揚感だけがサッと消え去っちゃって、何と言うか頭だけを強制的に冷静にされ今の俺の心境を何て表そうと思っていると、突然《賢者タイム》って文字が浮かんだ。

 深い意味は無いと思うが、頭の中にそんな残念なテロップが流れた気がした。


つづく

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