3話 なんとかとハサミ
ご覧頂ありがとうございます。
2/11 話し方や表現を加筆&修正致しました。
パシッと軽い音が辺りに響いて、周りの道行く人も俺たちに視線を送り始め、それに驚いたのか一旦その子供の涙は止まった。
秋山に後頭部を叩かれた勢いを殺さず、俺が大げさに転んで見せたからだ。
「石田ふざけないで! あんたこんな小さい子を何泣かしてるのよ! ねえ大丈夫? ゴメンね。私がこのバカをキッチリとお仕置きしておくから何も心配いらないわ。……安永君、この子に飴玉くれる気持ちはありがたいけど、悪いんだけどちょっと離れてね。怯えちゃうから」
「む、そうか……すまん」
静雄はどこから取り出したのか、懐かしいデザインの缶入りドロップ飴をその大きな手に持っていた。
どうやら駄菓子屋で俺の知らない内に購入していたらしい、一瞬コイツは中身が四次元なポケットでも持っているかと思っちまったぜ。
「いや、あの俺は泣かせるつもりなんて別に、ただ……」
しどろもどろになって声を出すが、秋山の剣幕に俺も上手く言葉が出てこない。
別に何か悪気があって話しかけた訳じゃなく、夕方の商店街でちっこい子が一人で居たのが目に入って、それでつい話しかけたんだが逆にそのせいで驚かせたのか泣かせてしまった。
転んで見せたのは完全に悪ノリだったので、ちょっと反省する。
秋山はしゃがんで子供に目線を合わせて話しかけ、落ち着かせようとしているが上手く行ってないようで困った顔をしている。
先ほどから泣き止む気配の無いこの子の言う事は要領を得ない、話の主語が所々抜けており、単語を泣きながら言うので発音が聞き取り難く良くわからないからだ。
俺の妹の明恵も一度泣き出すと、落ち着くまで発音が曖昧になり言いたい事がうまく喋れない様子を知っているので、たぶんこの子も同じ様な具合なんだろう。
所々聞こえる言葉を拾うと「ママ」「お家」「知らない」ふむ、つなぎ合わせて考えるに迷子っぽい。
別に俺が何かしたせいで泣いたというよりは、母親が居なくなり不安が募っていたところに俺に話しかけられて、泣いたのもその切っ掛けに過ぎなかったみたいだ。
……えらいとばっちりだぞ謝罪を要求する、なんて言ったら秋山に殺されるな。
「私は茜って言うのよ、あなたのお名前は何て言うのかな? お姉さんに教えてくれない?」
俺と話す時とは大違いな優しい声で、ゆっくりと話しかけている秋山を見ると別人みたいだ。
静雄は先程近寄ると子供が怯えると言われ、少し離れて心なしか肩が下がりへこんでいるように見える。
相変わらずこの辺のメンタリティが弱い、大丈夫だお前は少し強面なだけで良い奴だぞ! と俺は心の中で言う。
「なあ秋山、もう少しその子が落ち着くまで待ってやると良いと俺は思うぞ。今はその子話したくても上手く話せないようだし」
「なるほど、明人は妹が居たな。それでわかったのだな」
「何よ、そもそもあんたが原因じゃない。……けど、そうね少し私も焦っていたかも。ごめんなさいね、ゆっくりで良いからね」
俺達の雰囲気も先ほどより落ち着き、子供もしゃくりあげて泣いていたが徐々にそれも納まってきた。
これなら少し待てばもっと確かな話を聞けるはずだ、まあ迷子は確定だろうしちょいとこの子の持ち物でも『トレード窓』で見てみるか。
俺は「トレード開始」と二人に聞こえないように呟くと、この子が握って皺くちゃになっている帽子や服等に視線を固定し窓を開く。
ちっちゃな可愛らしいデザインの帽子のアイコンをつんつんして、所有者名を確認……ふむふむ名前は「三島佳代」四歳か、それから俺は秋山が静雄からドロップの缶を受け取り、子供に飴を食べさせている間に他もつんつんして情報を手に入れていく。
帽子の所に小さく黒いペンで書かれた名前も確認できた。
更にうまい具合に購入履歴でこの子の母親の名前もゲットしたので窓を閉じる。
秋山から飴を貰って涙も止まり、鼻水も拭いてもらって少しは不安が和らいだのであろう佳代ちゃんは、最初に比べ瞳に力があり年相応の可愛らしい顔に戻ってきていた。
このタイミングなら俺が話しかけても大丈夫だと思い、膝を曲げ屈んで声を掛ける。
「おっ、佳代ちゃん良かったな~お姉さんに顔を拭いてもらったのか~。あと飴はあっちに居るおっきなお兄ちゃんがくれたんだぞ! 顔に似合わず優しいから怖がらなくて良いからな。後俺の名前は明人だ。明人お兄ちゃんと呼んでも構わんぞ」
「ええっ? かよのお名前知ってるの?」
「石田、あんた急に何を言い出すかと思えば何でこの子の名前を知っているわけ? 何か怪しいのよね白状しなさい!」
「……やはり俺の顔は、子供には怖いのか」
静雄気にするな。仕方がないんだし生まれ持ったそのボディに相応しい人相だと俺は思うぞ。それで絶世の美男子な顔とかだったらアンバランスすぎて逆に怖い、と言うか俺なら引くわ~。
それと秋山は俺を何だと思っているんだ? 怪しい? 白状しろ? 流石に俺も怒るぞ。
「ふん、お前は注意力が足りないんだ。キチンと説明してやるから少し待て、佳代ちゃん、ちょっとだけその持っている可愛い帽子見せてもらえるかな? あまり力いっぱい握っちゃうと皺が出来ちゃうから、この皺を伸ばして綺麗にしたら直ぐに返すからね」
「……うん。いいよちゃんと、かよの帽子返してね」
「うっわ~、石田が私の知らないお兄さんに見える。普段はアホなのに……って、私のどこが注意力ないのよ!」
「秋山落ち着け、興奮するとその子が怯えるぞ」
俺は佳代ちゃんから帽子を受け取り、丁寧に皺を伸ばすと生地に書かれた名前を見える位置に直し二人に説明する。
「最初に見かけたときから、もしかしたら迷子かなって思ったんだ。夕方のこの時間に一人で不安そうにしていたし、秋山が話しかけていた時の話の断片から推測して間違いないと考えた。それでこの位の子共の時って持ち物のどこかに、必ず名前や電話番号とか親が書いてくれなかったか? 俺はそれを思い出してパッと見で迷子札は見当たら無かったけど、どこかにそれが無いか探してさっき帽子に書かれたこれを見つけたって訳だ」
「ふむ、確かに分かりやすい説明だった。俺も小さい頃親に名前を書いて貰ったな」
「論より証拠って訳ね。よく言うあんたの変な言い訳よりも、そうやって証拠を見せられる方が分かりやすいわ。……私の注意力が足りないって言う事もね。そっか~あなたは佳代ちゃんって言うんだ、良いお名前ね」
「うん! 帽子のくちゃくちゃもなおったし、お姉ちゃんありがとう!」
俺から帽子を受け取った佳代ちゃんは、それより秋山に名前を褒められた事の方が嬉しいらしく、ニコニコしながら見上げている。短時間で随分と仲良くなったもんだ。
俺としては頑張って流れを考えた屁理屈を自慢したかったが、二人には普通にスルーされた。……それに静雄の話したあいつの小さい頃がどうにも上手く思い浮かべられない。
頭の中では頭身だけディフォルメされた静雄が、名前付の帽子をかぶっているイメージが湧き、ブッと噴き出しそうになり口を押える。
そうして自己紹介を終え、三人とゲスト一名様で佳代ちゃんのお母さんを暫くこの辺りで待ってみたが、一向に現れる気配が無く佳代ちゃんが疲れを見せ始めたので、三人で話し合い近くの店に事情を話して、母親が来たら交番へ移動する旨を伝えてもらう事をお願いし、移動する事に決めた。
「う~ん、仕方が無いわね。佳代ちゃんお母さんも迷子かも知れないから、交番でお巡りさんに探して貰えるようにお願いしに行こうね」
「そうだな、辺りも暗くなってきたし気温も下がる。半袖とスカートではその内冷えるだろう」
「うんうん。佳代ちゃんのお母さんの綾さんもきっと心配して探しているだろうし、案外交番で待っているかもしれないぞ~」
「うん、ママもかよのことさがしてるならいく!」
「よっしゃー! 俺達についてこい必ずママさんに会えるぞ~!」
「「なあ(ねえ)明人(石田)、何でお前は(あんたが)この子の(佳代ちゃんの)母親の名前を分かる(知っているのよ)んだ?」」
「えっ?」
俺は何か根本的な失態をやってしまった様である。
まだ続くんだな