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38話 脱がされたワケ

ご覧頂ありがとうございます。

 流石に昨日は寝たのが遅かったせいで、一度明恵に起こされたにもかかわらず二度寝をしてしまい、懸命に走ったが学校に着いたのは遅刻ギリギリの時間を過ぎて、朝のHRが終わった後だった。

 夏の強い日差しと気温のおかげで、体育の授業を受けた訳でも無いのに既に俺のシャツは肌に張り付き汗だくだ、これだけで今日はもう十分動いた気がする。


 何時もより野郎の声が煩い気がする教室に入ったのも束の間、遅刻のせいもあるだろうが視線が一気に集中した感じを受け、俺は首を傾げる。

 前の席に座る静雄が教室に入ってきた俺に気が付き、クルリとは行かないまでも立って座り直し俺の方を向く。


「おはよう明人、凄い汗だな。お前にしては珍しく二日続けて遅刻とは、まだ体調が戻ってないのか? それと昨日道場で磐梯兄妹に、お前に礼を言っといてくれと頼まれた。何があった?」


「おっす静雄、今日も暑いな。いや今日は単なる寝坊だ……まだ若干怠い気がするけど、それも寝不足のせいかな? 番台鏡台? ばん、だい……兄妹? あ~あいつらか。いや単に昨日静雄が稽古でさっさと帰った事を教えてやっただけだ。んな事より妙に騒がしいけど静雄は何か知ってるか?」


「ふむ、何時も騒がしい秋山なら電話にも出ないお前の事だ、又体調を崩したかと朝から話していたからな。職員室に話を聞きに行ったか、後は何時もの挨拶周り兼情報集めだろう」


「いや、その事を聞いたつもりは無いんだが~お、マジに着信在った。急いでたせいで全然気が付かなかったわ、後で奴のパンチとか飛んでこないよな?」


 静雄に言われて急に何処からか、奴の拳が飛んでくる幻影が見えて寒気がした俺は、秋山の奴を精神的苦痛で訴えても良いんじゃなかろうか? ブルリと首を竦めて左右を見たがまだ奴は現れてない。


「き、気のせいか。それと改めて思ったんだが、チラチラと俺を見る奴が居るのは何でだ? 俺ってそんな……あ、もしかして昨日の事か!?」


「明人、あからさまに挙動不審だと嫌でも目に入るぞ? そう言えば、朝から一部で賑わっている原因だが、今朝学校の校門でこんな物を拾った」


 静雄が机の横に掛けている鞄をわしっと掴んで、中から一枚のチラシ? を取り出すが、相変わらず静雄の鞄の中には色々と食い物が溢れている。

 それを見ていた俺に「食うか?」と聞いてきたが、それを苦笑いで返し渡してくれた先程の紙を、どれどれと目で追い読んでみると……。


 B5サイズのコピー用紙に白黒で印刷されたそれには、ゴシック体の太文字で書かれた見出しが『二年水泳部の星ノ宮様に男の影が!?』と題されて、若干写りが悪く画質も荒いがかろうじて、星ノ宮ぽい女子とそれに腕を組まれた男子生徒の、右半身より少し足りないくらいで画像から切れてしまっている写真が載っていた。

 コレ書いた奴、絶対俺の映ってる部分をワザと切ったよね?


 気を取り直して中身を読んでみると、内容も相手の男子が誰かまでは書かれてないが同じ学年の生徒“らしく”かなり“親しい間柄”で間違いないだろう等と臭わす文章だが、俺に繋がるような事は何一つ載って無い。

 でも、昨日のあの現場を見たことが在る生徒からすれば、いずれ写真の相手が“俺”だった事も広まると言うか、……割ともう広まってたり? コレは非常に不味いんで無いか。


「秋山が居ない原因は、俺じゃなくて絶対これのせいだろ。昨日の今日でもうこんなもん作られてるなんて、恐るべきは星ノ宮の人気だな」


「ふむ、それで明人の事を珍しく聞きに来るやつがいた訳か。この写真だと、まず普通は相手がお前だとは思わん。何故明人だと分かるのかと俺は思うが、奇妙だな」


 自分で言った言葉に首を傾げる静雄だったが、それよりも俺はその相手になんと答えたのかの方が気に成り、静雄に掴みかかって聞く。


「マジか!? それで何て答えたんだ? 静雄君、良い子だから包み隠さず今すぐ俺に教えろ~言え! 教えてくださりやがれ!」


「うむ、落ち着け明人。相手には“ありえん”とだけ言っておいた。そもそもお前と星ノ宮の接点などアレの事以外無いだろう? 隠れてお前が会っていた等も無いしな。だが明人のその様子だと」


 そこまで話していた静雄は急に黙ると、俺から視線を逸らし溜息を吐いたが、なぜ?

 一限現国開始の予鈴はまだ鳴って無いから、先生が来た訳でもない。

 訝しげに静雄を見つめるが右斜め後ろから物凄い“気”を感じて、慌てて顔を向けるのと俺の顔面に“誰かの拳が”HITするのが、ほぼ同時だった。

 俺は朝から夜空に輝く星と、流れ落ちる彗星を見た気がしたまま、又も意識を飛ばすことになったのである。





 「――から、ワザとじゃ……」「それにしては随分と……」「酷い……」

 誰だか知らんが、人が寝ているのに頭の近くでゴチャゴチャと煩いな、俺は眠いんだもう少し静かに寝かせてくれよ、まだ怠いし何故か呼吸がし辛く鼻もいた……あれ?

 ゆっくりと瞼を開いて行き、薄目で前を見ると白い空間が広がっている。

 ここが噂に聞くあの世か? それとも魂が行き付くと言われる天界の雲の上だろうか?

 そう言えば俺って、ソウルが解放された時もこんな風に光が差し込んで……眩しっ! どうやらそんな感じに見えただけで、白いのはカーテンと日差しのせいだったようだ。


 ごく最近見覚えのある場所だけに覚醒仕掛けている俺の頭は、ここが学校の保健室に違いないと答えを弾き出していた。

 目だけをグリグリと動かし周りを見ると、視界に映ったのは秋山、静雄、黒川の三人だ。

 さっき聞こえてきた会話は、この三人の話声だったに違いない。


 俺は体を起こさずに、首と視線だけで時計のある位置を見て時間の確認をすると、十三時を切った所で丁度今は昼休みか、俺も随分とぐっすり寝たもんだと思いながら、全然嬉しくない最近慣れてきた鼻の鈍痛に一抹の不安を感じ、そっと指で触れてみる。

 うん、コリコリのクニクニで痛みもそれなりに響くが、まだ折れてたりはしない俺の鼻も頑丈になったもんだ、鼻血は相変わらず出たようだがこの所業は絶対秋山に違いねぇ!

 秋山! 手前の血は何色だ! 俺は鼻も頭の中も真っ赤っかだぜ!

 大体の声の位置を頼りに、そちらをカッと睨みながら顔を怒りで染める。


 怒りでがばっと勢いよく起き上がろうとした筈が、実際にはヨロヨロとしか起き上がれなく、全然迫力のない俺に近くに居た三人が気付き、「まだ、安静に」「無理をするな」「悪かったわね」とサラウンドの様に聞こえてきた。

 静雄に黒川お前たち二人は優しいな、それに比べ何で秋山は加害者の癖に上から目線な感じなの? 流石の俺も泣くよ!? 俺は涙目になって秋山を見る。


「けど、これ以上は私も謝らないわよ。石田がのんびり遅刻して来る間に、例のチラシの相手の噂あんたなのは違いないけど、“偶然”転びそうになった星ノ宮さんが偶々近くに居たあんたを捕まえ咄嗟に“支えられただけ”って事になっているわ。朝から星ノ宮さんに連絡を取って、口裏を合わせたり色々してやったんだから。迂闊なあんたの口を塞いだ私に、逆に感謝しても良い位よね?」


「マジで!? おお秋山よ、お前は何て良い奴なんだ! きっとお前の中には暖かい聖母の様な血が流れているに違いないと良いな」


 かなり秋山は大変だったのであろうその喋りは、マシンガンの如く途切れもせず長々と俺に対し苛立ちを隠さずに言葉をぶつけてきた。

 鼻の件はもう諦めたが、偶には拳で無くもう少し優しくしても良いんだよ?


「明人、先程の顔と視線でそれは無いな」


「石田君、鏡見る?」


「何気にお前ら二人も厳しいな。黒川、鏡ってそんなに今の台詞はダメだったか?」


 黒川は首をフルフルと振り、ポケットから小さな手鏡を取り出すと俺に手渡し「見て」とだけ言うので、素直に鏡で映して見た。

 一昨日師匠から貰った薬で治った筈の色が、今度は紫色になって腫れていてよく見ると、制服の中のシャツにまで血が垂れている。

 ……起き上がるとき妙にフラフラしたのはこのせいか。


「シャツ、脱いで洗った方が良い。専用の洗剤は保健室にあるから」


「まあまて黒川、それもだが先に飯にしよう。俺は空腹だ」


「そうね、あんたは先に食べて減った分を戻さないといけないわね。鞄は持ってきてあげたからありがたく思いなさい?」


 スゲー納得いかないが、俺達四人は保健室で弁当を食う事になったのだが、昨日の秋山が話した通り面倒な事になったもんだ。

 昼食を食べている最中に星ノ宮と宇隆さんまで顔を出し、その後シャツを洗う段階になって、嬉々として俺を脱がそうとする女四人に辟易する事になった。

 静雄も黙って見てないで俺を助けろ! その手に持った盥と洗剤はなんだよ! 用意万端過ぎるだろお前!

 結局剥かれました……俺は病み上がりだぞ、ちくしょう。


 一応今回の件は皆の尽力が在ったおかげで、人に聞かれても上手く逸らすことが出来たが、まだ何か在りそうで俺としては学校で過ごす時間は暫く気が抜けないと思った。


つづくよー

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