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34話 代償

ご覧頂ありがとうございます。

 秋山にネクタイを引っ張られたまま歩くのは、流石に勘弁して欲しいところだが、嬉々としてやっている三人には俺の願いは通じなかった。


「さっ石田、あんたも観念してキリキリ歩くのね。また逃げ出そう何て考えないように、確り体に教え込んであげるわ! 二人共そうでしょ」


「それは問題ないのだけれど、何処に向かって歩いているのかしら? 普段この道を車で通り抜ける私には、あまり馴染のない所だから案内して欲しいわ」


「そう、お勧めは“天海屋”のフルーツタルト。季節毎に色々な果物が山盛りで美味しく、他にも種類が豊富。ポイントカードもある」


「あ、それ採用! 逃げようとした罰でここは一つ、石田の奢りって事はどうかしら? ……随分と1人だけ良い思いもしてそうだし、勿論構わないわよね?」


 急に三人から感じるプレッシャーが高まり、ネクタイが絞まった訳では無いのに息苦しさを覚える。俺に容易く脅威を覚えさせるとは、ちぃ、中々やる。この3人ニ○ータイプか!?

 何て冗談は置いといて、実際早く何とか普通に歩かせて貰わないと俺の命がピンチなのは変わりない、仕方が無いのでここは素直に頷いて、せめてネクタイだけでも離して貰えるよう交渉しなくてわ。……いや、腕は別に話さなくても良いのよ?


「はいはい、俺が悪うございました。それで天海屋のフルーツタルトで良いんだな? ったく分かったから、そろそろネクタイを離してくれ。流石にお前が偶然躓いた拍子に、首が絞まってそのままお陀仏、何て笑えん冗談になりたくないからな。秋山も明日の新聞の一面を飾りたくはないだろ? “女子高生が帰宅途中に男子高校生を絞殺”なんて見出しの記事、俺は勘弁だぜ」


 俺がそう言ってやると、慌てて秋山はネクタイからパッと手を離し、手の平を前に広げてワタワタしているが、ほんと何時絞まるかとヒヤヒヤしていた。

 そんな様子を両隣の女二人は楽しそうに声に出して笑う、星ノ宮は別として黒川が声を出して笑うのを見ると、少しは気分転換になったようで何よりだが、俺の命を張ったブラックジョークで、こうも楽しそうに笑われると結構複雑な気分だ。





 ――結局あの後俺達四人は、商店街近くに在る天海屋で季節のフルーツタルトを注文、店内にある飲食コーナーで飲み物も頼み、暫し歓談となったのだが。

 天海屋の人気商品でもあるフルーツタルト以外に、明恵と母さんのお土産も購入して合計三千百二十円なり……え? 親父の分? 甘い物より親父は辛い物の方が好きだから、今度練り辛子でも買ってやるさ。


 昨日稼いだ冷蔵庫資金が3分の1に減ってしまった、またKADOYAにでも行って稼ぐか? ただあまり頻繁に行ってもカードの値段も下がりそうだし、バンバンとレアばかり引いていれば、流石に怪しまれそう。

 それに何だか俺だけが得している気がして、気が引けると言うか少し罪悪感を覚えてしまうのも、間違いなく確かなのだ。


 会計で懐が少し寒くなった俺は、甘味に舌鼓を打ちながら美味しそうにタルトを食べる三人に、この後の予定を聞くと時間的に、星ノ宮は店を出れば車を寄越して帰るそうで、秋山も駅に向かうからここでお別れとなり、自然と帰る方向が同じな黒川と一緒に帰宅となった。

 しかし、何も話さずに誰かと一緒に歩くなど最近していなかったので、どうにも落ち着かない気分になる。

 無理に話そうと思えば話題には事欠かないが、どうも黒川が隠して置きたかったであろう、あの画像データを見てしまった俺としては、若干口が重いのだ。


「タルト、酸味と絶妙な甘みが合わさって美味かったな。黒川は天海屋へ良く行くのか?」


「偶に。母さんも天海屋のタルトが好きで、前は良く食べに行った」


 なんだこの会話は、普段の俺じゃねぇ! 何が美味かったなだ! 他に話す事とか無いのかと、周りをキョロキョロと見る俺は、傍から見ると不審人物この上ないだろう。

 何か、何か無いのかと焦っていると、そんな俺をやはり不信に思ったのか黒川が口を開いて聞いてきた。


「……トイレ?」


「ちっがーーーう! 何故そこでトイレって発想に繋がるんだ! 確かに少し落ち着き無かったかも知れないが、そうアレだ! 何となく変な視線を感じたからだ」


 思わず黒川の質問に否! と力強く答えなおかつ出鱈目な事を言ってしまったが、何故か黒川の視線も同じようにキョロキョロと、辺りを見ているように感じる。

 俺の言った出鱈目を本気にしたのか、動作はゆっくりだが慎重さが窺えるのは何故だろう?


「あ~黒川、今言った事だが気のせいだと思う。すまんな驚かせたか?」


「ここの交差点、毎年事故が起きて死傷者も出ているみたい。あなたは誰に見られたの?」


「へっ?」


 俺は突然黒川の言い出した台詞を、頭が処理できずに間抜けな声を出す。

 黒川は何て言った? 死傷者? 誰の視線? 俺は改めて交差点を見回した。

 確かに、ガードレールの傍に花や何かが供えられ、近くに立つ看板には“交通事故に注意”や“スピード落とせ”に“死亡事故発生現場”と3拍子揃っていた、これは見た目に嬉しくないし、何より不気味だ。

 そう思った瞬間、背中がゾクッとし変に脈が速くなり寒気までも感じる。


「や、やだなぁ。黒川あまり俺を驚かすなよ視線って言っても、そこらの通行人か、猫でも居たんじゃないのか? 気にし過ぎだぜ」


「そう? 私は特に何も感じなかった。だから聞いてみただけ」


 不思議そうに俺を見つめる黒川には他意を感じず、本当に周りを見て目に入った物から質問をしただけのようだ、寧ろ変に捉えたのは俺だけのようでバカバカしくなった。


「そうか、そうだよな。気のせいに違いないさ、それより黒川はここから家は近いのか? どうせだから家まで送らせてくれ」


「別に近くまで来たらそこで良い。大丈夫心配ない」


「いやいやいや、折角だから家まで送る。大丈夫心配は要らん、どうせその後KADOYAに寄って帰るつもりだしな」


「ありがとう……KADOYAに寄るなら正反対の方向、ここで別れるほうが効率的」


「いや、待て。何でありがとうなんだ? 俺はちゃんと黒川を無事家まで送ると言う、大切な使命があるのだ。ここで投げ出すわけにはいかんだろ」


「大切なの? そう。じゃあ一緒に」


「おう、それで良いんだ。別に1人で帰るのが怖い訳じゃないんだからな。勘違いするなよ?」


 それから適当な事を話しながら、少し嬉しそう(?)な黒川を家まで送り届け無事俺も帰宅したが、本当に怖かった訳じゃないんだからね。俺は紳士として女性である黒川をエスコートしたまでに過ぎないのだ、そう思いながら自宅のドアを開ける。


「ただいま~。今帰ったぞ」


 居間の方からドアが開きTVの音が漏れ、その後パタパタとスリッパを鳴らす音が近づいてくる。

 この軽い足音は明恵に違いない、それに玄関の靴を見るに母さんは家に居ないようだ。


「お兄おかえり。……お土産?」


「フッフッフ、控え居ろう。ここにおわすお方を何方と心得る。あの天海屋の名物“とろける焼プリン”様である、頭が高い控え居ろう!」


「はは~……お兄もう良い? 早くちょうだい」


「あ、うん。良いけど落とすなよ? 母さんは出かけてるのか?」


「隣の大園のおばさんに誘われて、明恵は留守番頼まれた。食べていい?」


「ん~いや、食べるなら晩御飯の後にだな。今プリンを食べると母さんに怒られそうだし」


「ん、分かった。冷やしてくる!」


 パスパスとスリッパの軽い音を立てながら台所へ向かう明恵、一応俺の冗談に乗ってはくれるが、最近我が妹のノリが薄い気がしてならない。

 前は楽しそうに一緒になってやっていたのに、兄として寂しいぞと考えながら、天海屋のロゴの入った箱を渡す。

 冷蔵庫にプリンを仕舞う明恵を見て、師匠の事を思い出しタイミング的に開くなら、母さんが帰ってくる前に明恵をどうにかして2階の部屋へ移動させねば。


「明恵~、面白いゲームしたくないか? 遊ぶならゲーム機は好きに使って良いから、俺の部屋で遊ぶと良いぞ。鞄を置くときセットしてやるから、好きな物を選んどけ」


「本当? 今日は遊んでて良いの? じゃあお兄の部屋に行く!」


「よしよし、先に行ってソフトを選んでなさい。母さんが帰って来て呼ばれるまでは、自由に遊んでて良いからな?」


 明恵は俺と一緒にはゲームを遊びたがらない、理由は簡単で“絶対に俺にはまだ勝てない”からだ。協力プレイで遊べるゲームにしても、俺の方が遊び慣れてるので、スコアが高いとふくれっ面に成り機嫌を悪くする。

 そうなると一人で練習する時間が欲しいのか、俺をあまり近寄らせないので、必然的にゲーム機のハードが在る俺の部屋には中々入れない訳だ。


 勝手に俺の部屋に入る事は、両親にも注意されているので、今みたいに誘えばチョロイと言う寸法である。


 明恵がゲームに夢中になっている内に、師匠に会って病気にかかった子の事も聞かねばと、俺は明恵にゲームのセッティングをしてやると台所へと向かった。


つづく

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