33話 幼馴染な兄妹
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星ノ宮達と下校の際、突然呼び止められ現れたのは猿(?)兄妹だった。
しかし、そのまま『さる』は無いだろうから、読み方としてはきっと『えん』に違いない筈、三国志の登場人物で言えば姓は袁、名は紹。袁家の袁本初こと袁紹も『えん』だし他にも袁術とかも居たな。
いや、待てよ……羽柴秀吉も織田信長に『さる』と呼ばれていたくらいだ、顔は整っていて猿っぽく無いけど、案外すばしっこいからそうあだ名がついているとか?
俺はどっちなのか考えこの難問を解くべく唸っていると、宇隆さんが凄くあっさりとその答えを出してしまった。
「星龍、相変わらずお前は誰彼構わず、星ノ宮様の傍に男が居ると絡んでくるな。そう毎回来られると流石に呆れるぞ? 全く。石田、この男は磐梯星龍と言って、その隣の磐梯怜奈の兄だ。家も近く昔馴染みで小さい頃は可愛げもあったが、今はこの通り面倒臭い男になっている」
「なっ! 真琴! 俺のどこが面倒臭いと言うのだ! 怜奈も言ったじゃないか。その男は安永さんと言う男子生徒の腰巾着で、虎の威を借る狐だと……きっとお前と星ノ宮さんに対して、邪な考えを持っているに違いない! だよな怜奈?」
「そうですわ! この男常に安永さんの傍に居て喚き散らし、変な事を吹き込んで道の真ん中でバカな事をしながら、私や話掛けたい他の人を近付けないようにしているんですのよ。その癖馴れ馴れしく肩を叩いたり名前を呼び捨てにする始末、道場でお会いしても、そっと挨拶するくらいしか出来ない私を差し置いて、憎らしいですわ!」
磐梯妹はとても速い口調で喋り語尾の最後に「きぃー」とか叫んで地団駄を踏みつつ締めくくった。
あのままハンカチも取り出し噛んでいたら、まんま漫画の世界の住人だな。
確かにこの二人煩いし星ノ宮が無視と言ったのも、宇隆さんが面倒臭いと言葉を締めくくった理由も分かった気がする。
俺は隣に立つ秋山と黒川の二人に顔を向けると揃って首を振られ、先程の黒川の口パクが“あんあい”では無く“ばんだい”だったのかとやっと理解した。
それと気になるのは、この磐梯兄妹が何故か静雄の事を知っている風な話をし……まてよ道場? もしかしてこいつら静雄の爺さんの道場の弟子か? それで“さん”と敬称つけているのか、まあその辺の奴には静雄に勝てるはずもないし“さん”付けしても不思議じゃ無いが、割とその辺は“まとも”な感覚も持っているっぽいな。
「あ~ちょっと良いか? お前ら静雄と同じ道場に通ってるのか? 確か今日は稽古が在ると言って静雄は先に帰ったけど、二人は行かなくて大丈夫か? 遅れると爺さんの折檻が待ってると言って、静雄はさっさと帰ったぞ」
「「は(え)っ!?」」
「いや、だからお前らも同じく遅れたらヤバいんじゃねーの? あの静雄が恐れて走るくらいだから、相当厳しいんじゃないか? どっちにしても」
一端言葉を切り俺は携帯を取り出し時間をみて、静雄が風の様な速さで消えてから、もう二十分以上は経っている事を確認すると、そのまま教えてやる。
磐梯兄弟は驚いた表情から一転、青褪めてガタガタ震えだした。
「どっ、どどどどーしよぉ。お兄様のせいですわよ! 盗撮されたかも知れない宇隆を安心させるって、玄関で待ち伏せすると言い出すから! このままだと……」
「お前だって“今日の警察の訪問は私のおかげで、このままスピード解決ですわよ!”って、自慢しつつ元気付けるつもりで、星ノ宮さんを一緒に待つって言ったじゃないか。それに今から走ったとしても電車には間に合わない……」
二人共既に涙目で言い争っているが、言ってる内容を聞くと割と良い奴らではありそうだ。
それを見て、星ノ宮と宇隆さんは苦笑いをしている、どうやらこれが磐梯兄妹の本来の姿らしい、けど確かに面倒臭いのは間違いないかも。
つか、さっき態々俺に絡む必要無いよね、これが近くに居るだけで嫉妬の対象って奴? と、考えてる間にそこに居る兄妹は芝居がかった口調で、「もう、戻る事は出来ないのか……」「諦めたらそこで終わりですわお兄様!」とか三文芝居やってるのを、他の道を行く生徒がチラチラと俺達を含め見ている。
これ、近くに居ると関係者と思われそうだと考え、俺はどうにかしろと視線を星ノ宮へやると、肩を竦めて諦めろ的首振りをするが、仕方が無いと言った感じで腕を組んで何やら考えている。
……慣れてるお前は良いかも知れないけど早く何とかして下さい、一緒に居るの凄く恥ずかしいです。
そしていい案でも思いついたのか、宇隆さんの耳に顔を寄せ何ごとか呟くと、宇隆さんは“はぁー”と溜息を吐きながらまた車の方へ移動する。
「磐梯さん、どうやらとてもお困りのようだから。良ければその道場まで車でお送り差し上げてもよろしいわよ? 私は少し歩くつもりだから丁度良い時間潰しになると思うの。だから気にせず乗って貰えると私も嬉しいわ」
「「ほ、本当かい(ですの)!?」」
「ええ、宇隆も乗せて一緒の方が気兼ねなく寛げると思うし、遅れる事も無いと思いますわ。今宇隆には運転手の田神に説明しているから、遠慮なく」
“その方が私も楽ですし”、と星ノ宮がコッソリ呟いたのを俺の耳には聞こえたが、秋山と黒川にも聞こえたのか、顔を見合わせて「ぷっ」と噴き出し慌てて口を塞いでいた。
宇隆さんご愁傷様です、残念ながらあなたは生贄に選ばれてしまったのだ。
「すまない星ノ宮さん、恩に着る。全く宇隆はあなたの様な素晴らしい主に仕えていて幸せ者だな。そうだ今度一緒に食事でもどうかな? 最近駅前にできた店なんだけど、中々に美味い料理を出すんだよ。まあ、おまけで宇隆も居ても良いしね」
「星ノ宮さん、今回は借りておきますがキッチリ返させて頂きますから、覚えておいて欲しいわ。それとそこの貴方、安永さんにあまり馴れ馴れしくしない事ね。だけど今回は助かったから礼は言わないといけないわね、ありがとう。ただ忘れない事ね、貴方は所詮狐なんだからね!」
「石田、すまんな。こういう奴らなんだ私は車で付いて行くから、星ノ宮様の事は任せたぞ。確りと守ってくれ、おい星龍行くぞ先に乗れ。ではな!」
宇隆さんがそう言って最後に車に乗ると静かに発進し、直ぐに見えなくなった。
本当最後まで面倒臭い奴らだったな、今日と言うか最近気疲れを感じる事が多くなったのは気のせいではないと思う。
そして、本当に俺が星ノ宮の御付兼護衛(?)をしなきゃならんのか? ここは三十六計逃げるに如かず! 俺の逃げ足の速さは伊達じゃないぜ!
「さて、それじゃあ今度こそ帰るか。あ、俺は寄る所あるから先帰るな~アディオース!セニョリータス」
「そう来ると思ったわ。一人だけズルいんじゃないかしらアミーゴ? あんただけ逃げようなんて許される訳ないでしょ! 黒川さん確りそっちの腕を掴んで離しちゃダメよ! こいつ絶対私達二人にあなたを押し付けて逃げる気だったんだから!」
「了解、あなたは絶対逃がさない。道連れ、死なば諸共」
逃げようとした途端、俺のネクタイを素早くつかんだ秋山は俺の首が絞まるのも気にせず、黒川にそう告げると容赦なく更に締め上げて……ギブギブ!
星ノ宮は楽しそうに俺達を見て、空いていた俺の右腕を取ると密着して来る。
右腕に“ぐにゅり”弾力のあるボリュームたっぷりのソレを押し付けると、俺の耳に吐息が掛かる「私達一連托生らしいから、逃がさないわよ」と、茶目っ気を感じる言葉を唇が耳に触れるように囁く。
耳がゾクゾクして気色悪い、昼間の時の黒川はきっと偶々だが、こいつはワザとに違いない!
腕を剥がそうともがくが、余計に首が絞まり“あの時”の苦しさが再現され途端に悪寒が走る、ある意味アレは俺にとってトラウマに近いのかも知れん。
おまけに周りの生徒……特に男子の野太い雄叫びが聞こえ、俺の平穏な明日からの学校生活が脅かされる予感をヒシヒシと感じる。これも星ノ宮の狙った罠か!
もうどうにでもなれっ! て奴だ、秋山にネクタイを引っ張られ連行される俺は、腕から伝わって来る左右の天国とは別に、気分的には死刑囚が処刑台の十三階段を上る心境であった。
別にハーレム何て事は無い。強いて言うなら役得もとい、先払い。
つづく