表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/213

2話 トレード開始

ご覧頂ありがとうございます。

 ――放課後、授業が全て終わるとその開放感で体に朝とは違った活力が湧いてくる。

 周りのクラスの連中も早々に帰る支度をし、部活に入ってる奴は教室を飛び出していくのを俺はボーっと眺めていた。

 暫くは教室に残って仲の良い奴同士話で花を咲かせたり正に自由な時間だ。


 と言っても今日の授業中の俺は、突然湧いて出た不思議な力『トレード窓』を弄る事に集中していたので、普段の様な授業後の疲れや眠気も無くむしろ興奮して目が冴えてるくらいだ。

 ボーっとして見えるのはポーズだけ、おかげで大分このトレード窓の使い方も分かってきたと思う。

 その分授業中は上の空で先生の話を聞き流していたので、後で真面目に黒板を写している静雄に頼んでノートを借りなければ成らないが、大丈夫だろう。

 俺より背の高い静雄が前の席に座っているので、本当に黒板が見えない部分もある為、割とノートは頻繁に見せてもらっている。

 ……黒板が見えない原因でもあるが静雄には感謝だ。

 そんな事を考え俺は苦笑いを浮かべると、胸いっぱいに息を吸い込み両手を上げて伸びをする。


「さーて、それじゃあ商店街でも行って色々見てくるかな」


「明人、商店街に行くなら俺も行こう。丁度書店に用事がある」


 コキコキと小気味良く首を鳴らし、そう呟くと前の席の静雄がそれに反応する。

 コイツは本よりボールやボクシンググローブでも持ってる方が似合いそうだが(偏見である)、部活動は一切せず学校では静かに本を読んでいる事の方が多い。

 本人の一年の頃からの言では、静雄の爺さんが家で合気道の道場を開いているので、其処で十分だそうだ。


 体育の授業では静雄もそれなりに動くが何せ、そこに居るだけで威圧感があるのでボールを使った競技では、当然主力になり同じチームだと心強いが敵となると半端ない強敵に早変わりだ。

 入学早々に運動系部活動の勧誘が激しく多かったのは俺も見たが、全て断ったらしい。理由を聞くと「面倒」の一言だった。

 俺も静雄と同じく部活関係はどれもパス、……勧誘なんてされたことないけどな! 別に悲しくなんてないんだからね! 別に人付き合いが苦手って訳でもないし、静雄と同じく「面倒」に賛同したんだ!


「俺は適当にぶらぶらするけど、それでも良いか?」


「構わん、今日は特に用事は無い。見たいCATV(ケーブルテレビ)番組もタイマー録画済みだ」


「いや、お前のCATV事情は別にどうでもいい。本屋も寄ってくのは了解だ」


 そう静雄と話していると、静雄の隣で帰らずに話に聞き耳立てていたのか秋山が混ざってきた。


「ねえ、本屋さんに行くなら私も行っていいかな? 今日発売の本なんだけど、朝よったコンビニにはまだ入荷してなかったのよ」


「何でお前も来るんだよ、別に一人で行けば良いじゃねーか。俺ら本屋以外も行くんだぜ?」


「私は安永君に言ったのよ、あんたはオマケよ。オ・マ・ケ。仕方が無いから一緒でも我慢するわ」


『が、我慢? それにオマケだと!? お前こそ後からきてオマケじゃねーか!』って言いたいところだが、今日の俺は機嫌が頗る良い。

 これくらいの暴言は寛大な心で許してやろう。

 それにここで時間を食うよりも、俺はトレード窓を使って色々実験してみたいことがあるし、その為に商店街をぶらぶらして色々と買ったりするつもりだ。


「……静雄が良いなら別に良いけどよ」


「ん? 俺はお前に付いて行くと決めたからな。秋山は好きにすると良い」


「それじゃあ一緒に行きましょ。時間は有限急がば回れよ!」


「お前それ、使うところ全っ然違うからな言っておくけど」


「うっさいわね! いいのよ何か速そうじゃない」


「フッ」


「静雄、お前も笑ってないで突っ込め。分かり難いんだよお前の笑いは」


 俺達3人はギャーギャー言いながら、騒がしく商店街へと移動することにした。





 ――少し時間は逆戻るが、昼間の購買であの混雑の中『並ばずに』焼きそばパンもカツサンドもトレードを使って購入した。

 いや、出来てしまったという方が正しいのかもしれない。


 どうも普通に販売している物なら、触るか視線を合わせてトレードを開始すれば選んだ物のアイコンがポップされ今のところ選択出来るようになるようだ。

 例の如くつんつんして調べると、品名の横に(販売中)と表示されていた、そこで俺の交換枠で品物の値段分金額を打込むと(最高額の表示は、今俺の財布の中身の金額と同じだった)決定の文字が点滅。

 後はそのまま交換を終了すると、視線で選んだ焼きそばパンとカツサンドがご丁寧に紙袋に入って、俺の腕の中に納まっていたって寸法だ。


 レジの横に在るワゴンから忽然と人気商品が一点ずつ消えたのに、購買のおばちゃんも周りの生徒も特に変わった様子は無く「焼きそばパン、カツサンド売り切れで~す」の声で並んだ生徒は落胆していたが、これも節理なのだよ。

 少々ドキドキしながら紙袋をわざと見えるように持ち替えたり、飲み物も買って同じ紙袋に入れて貰ったが、別にそれを言及される事も無く。

 俺はホッとし緊張を解くと、そのまま教室まで普通に戻ってこれたと言う話だった。


 余談だが販売中の物は視線で選んで盗る事が出来ないらしい。金額を打込まずに交換が出来ないか試したところ、肝心の決定ボタンが点滅しないし購買からある程度離れるとトレード窓が閉じてしまった。

 ……流石に楽してズルしては出来ない仕様か、まあ出来たら『トレード』では無いよな。




 学校の校門をでて十五分程で商店街に付く。

 この辺りも最近はあまり来る事が無く、理由としてはもっぱら駅前にある大型ショッピングモールで、纏めて買い物を済ますことが多くなったからだ。

 小、中学生の頃は割とお世話になったが、何分品数に限りがあるしネットでの検索でもこの辺りはヒットしない為、欲しい物が確実に手に入るか分からない。

 その辺は店の店主と仲良くなったり、客として常連に成れば手に入る情報が違うのだろうが、俺の家は商店街とショッピングモールどちらからも丁度中間くらいの距離に在るので、簡単に買い物が済ませれる分軍配はどうしても偏る事になる。


 そうこうしている内に、適当に目についた店に入り俺は店の品物を手に取ったり、トレード窓で購入できるか確認して店内をウロウロしていた。

 静雄が見た目重そうな紫香楽焼の狸の置物ヒョイと持って撫でていたり、次に目に入った懐かしい駄菓子屋で、何時から在るのか分からないレジの奥にある色あせた玩具に十万円の値段が付いてて驚く。(トレード窓で確認)

 興奮して二人を探すと、秋山が惣菜屋のおばちゃんと話してコロッケ貰って食べていたので、俺には? って聞いたら指で指し示すのでそちらに顔を向けると、静雄が茶色の紙袋一杯にコロッケを買って頬張っていた。


 それにしてもなんて立ち食いが似合う男だろう。

 近くを歩く人もその姿と濃い目のソースと揚げ物独特の香りに誘われて、立ち止まり買っていくらいだ。

 俺にもくれと言うと、何故か秋山と半分にされたコロッケを貰った。

 ソースとサクサクの衣で、コロッケ美味しいナリィ。


 口の中が空になると俺は静雄と秋山に、さっきの駄菓子屋にあった例の玩具について話す。

 俺の話に半信半疑だったが、「絶対だって、CATVの鑑定番組で見た気がする」と言うと、それなら間違いないなと静雄が頷く。

 お前いつかCATVの通販番組で、衝動買いしそうでお兄さんは心配だよ……。


 秋山は静雄が頷くと「ふーん、まあ……安永君が言うなら本当かも」って、言ったの俺だからな! 静雄は頷いただけだ!

 兎に角気を取り直して俺は駄菓子屋『ちぐさ』の店主橋本ちぐさ(83歳)に話を聞いてみた。

 結果は店主であるちぐささん曰く「あれは、息子(義男)の物でねぇ。何でもこのおもちゃに気が付いて話をしてきた人が居たら、『値段の交渉は受け付けます』と伝えて欲しいって言われてねぇ、悪いけど勝手に売れないのよ。ごめんねぇ」との事だった。

 ちょっとガッカリしたが、そんな事情があるなら『トレード』で勝手に購入できたとしても、話を聞いた後では後味悪くて出来やしない。

 俺たちは残念ながら駄菓子屋を後にした。


「それにしても、石田の言う事も偶には本当の事もあるのね、嘘も方便ね」


「いや、だからさ、お前ことわざの使い方間違ってるから! それじゃあ俺が毎度の如く嘘つい……あれ?」


「フッ」


 静雄お前はもっと喋れ! フッじゃねえよ! 本当に意味わかって笑ってるのか? まあ、もしかしたら大儲けできたかもしれないとワクワクしたが、これも地域密着型商店とのコミュニケーション不足になる、昨今の時勢のせいだろうか。


 もし俺がこの駄菓子屋に昔から通い続けていたなら、アレを俺が自然と買うことが出来たかも知れない。

 便利になった分どこかに歪みが……何て殊勝な事を考えて憂い顔で歩いていたら、秋山に「何か急に黙ったと思ったら、今のあんたキモイ」とか言われた。

 

 フン、ガサツな男女め。お前には分からんのだよって、静雄、何故お前まで顔を背ける? 肩がブルブル震えていますぞ? そうかお前もかブルータス! 俺を裏切ると歴史に習うなら、結局お前も自殺しちゃう事になるんだぞ?


「何と言う事だ! 俺には味方が居ないだと!? そこな子供! 君はどう思う?」


 俺は視界の端に立っていた、ちっこい子供に話しかける。

 その途端ビクッとした子供は俺の顔を見上げると瞳がウルウルしだし、終いには涙を貯めてそれをポロッとこぼれ落とした。


 あれ? 俺って何かマズイ事しちまったか!?


まだ続くんだよ。


2/10 加筆&修正致しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ