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26話 酷い詐欺だ!

ご覧頂ありがとうございます。

 宇隆さんに言われた「不思議だったのだ」の一言と黒川の視線、それに星ノ宮の憎たらしいあの顔を見て、返事に変に間を開けすぎても不振がられると思った俺は、いっそ開き直って『窓』の事を喋ってしまおうかと考えたが、そのまま話しても“頭がおかしくなった”としか受け取られない筈だ。


 そこで誰もが不思議に感じるが、ある意味納得できる誤魔化し方を思いつき、俺はそれを実行する事にした。


 先ほど皆に見せたmicroSDカードを、三人に見せつけるように右の掌に載せ、握った後クルリとそのまま手の甲を上返し、数秒間を置き左手で叩くと同時にパッと開いてそれを“消して見せた”のだ。

 古今東西昔から人の目を楽しませる手段として、また目の錯覚や仕掛けを施し欺く広く知られている技術、そう館川がパスワードに使っていた“trick(手品)”で先ほどのmicroSDカード同様、あの時も下着を消した様に見せかけただけと説明する。


 宇隆さんと黒川はテーブルの上に手の平を広げて見せ、瞬く間に消して見せた手際を間近でみて驚き、俺がもう一度同じ動作の後microSDカードを出して見せると、手を叩き喜んで納得したようだ。

 これは勿論『窓』を使って手の中から、交換枠に移し消えた様に見せただけで、解除すればまた元の手の中に戻ると言う寸法だった。

 星ノ宮だけは微妙な表情を浮かべ俺を見ていたが、俺は腕を組んで目を瞑り「凄い手品だろ? だけど種は秘密だ」と得意そうに言って、内心の焦りを見せないように努める。


「ふ~ん、手品ね。貴方が居ない間に一応黒川さんには聞いたのだけど、彼女は貴方が知っているとしか言わなくて困っていたのよ。貴方の言い分だと仕方なくその技で盗みなど無かった風にに見せたようですが、既にやってしまった物は仕方ありませんから。それでいつ返していただけるのかしら?」


「あ~すまんな、あの時はああする他に助ける手立てがなくて。勿論星ノ宮の下着は必ず返すが、持ってきてないし流石に今すぐ返すのは無理だ」


「私は今あなたが持っていたとしても、驚かないし軽蔑もしない。私を助けてくれた事には変わりないし、咄嗟に消したのだから隠す間も無かったと思う」


「いや、仮に今もこの場に持っていたとすれば黒川よ、普通はかなりドン引きすると思うぞ私は。紳士に返却しようと言う気持ちは当然だが、持ち歩くなど言語道断だ。例え星ノ宮様がお許しになろうとも、私が許さなかったであろうな」


 返すとは言ったが実際の処、俺はあの時交換して手に入れた星ノ宮の下着が“何処にあるのか”分かってないので内心酷く焦っていた。

 それと言うのも俺の持っていたジャージと交換したのだから、教室に置きっぱなしになっていた袋の中に入っていると思ったが、四限の終わりに教室に戻ってみると、館川の手で廊下に放り出された俺のジャージが、綺麗に机の上に畳まれて置いてあり(静雄が運んでくれたそうだ)、再び袋に仕舞った際に確認してみた中に下着は無く、空っぽだったからだ。


 その後は昼食やら職員室呼び出し更に、隠しカメラ探しなど色々盛りだくさんで、俺の所有になったとは思っていたが、何度か考える機会が在ったのに、何処に消えたのか今の今まですっかり頭から抜けていた。


「それでは、一日の間だけ貴方に貸出する事を許すわ。見るなり嗅ぐなり触るなり“手品の小道具なり”お好きなように使っても良いわよ。だから、そのmicroSDカードは黒川さんに預けて“中身の事は忘れて”頂戴。よろしいかしら?」


「例のカメラを壊してくれるなら、中身は私が責任を持って調整しておく。大船に乗ったつもりで私に預けて欲しい」


「……全く、この短い間に星ノ宮様の信用をこうまで勝ち取るとはな。しかも黒川も私も同じく信用しているのだから、お前は私の思うよりも凄い男なのかもしれんな」


 最初は茶化して言っていたが、言葉には緊張が含まれていた。

 星ノ宮はまるで念を押すかのように、妙に俺の顔を見つめてそう確認をする。

 元々下着は返すつもりだったし、三つのデータに関しては再生させる機械も無かったから、忘れるも何も館川から奪った証拠のカメラの時以外、盗撮された画像を見てもいない為、俺が嘘を付く必要もない。

 更衣室のカメラに関しても、カードを戻す際に簡単に壊すつもりだ。

 だが、信用されていると言う宇隆さんの話に俺は、そこのお嬢様は『どうだかな~?』と言う気分である。


「はいはい、見ちゃいないが忘れると言って約束すれば安心だろ? 誰かさんにはこれでも信用されてるのか怪しいが、今日のところはこの辺でお開きにしないか? 俺もそんなに暇じゃ無いんでね。……あまり遅いと俺の好物が妹に食われてしまう」


「はは、石田はこんなか弱い我らよりも、今晩の食い物の心配か? 全くお前には敵わんな」


 宇隆さんの笑いと俺の台詞が可笑しかったのか、釣られた様に皆も笑い出す。

 やっと心配事が解消されたとでも言うような感じで、妙に張りつめていた雰囲気も薄れ霧消した。

 タイミングが良いのか悪いのか、丁度良くウェイトレスさんが現れ伝票を置き去っていく。

 それを俺が掴もうとすると、スッと星ノ宮が自然な動作で抜き取り宇隆さんへ渡す、それが当然と言う感じで意識すらしてないようだった。


 本当にこの二人の関係は何なんだろうと思ったが、口には出さず俺は素直に奢って貰う事にした、何故なら着替えた時にうっかり財布を置いてきたのに、今頃気が付いたからだ。


「それでは御機嫌よう。そうそうご褒美の件だけど」


 皆で揃って店を出た時、星ノ宮達の出迎えの車らしきものが既に店の前に横付けされており、そこで急に振り返った星ノ宮はペロッとスカートを捲った。

 それを見て驚き固まる俺に“してやったり”とドヤ顔で笑うとこう続ける。


「フフ、さっきはご期待に添えたかは分からないけれど、普段水着姿を舐る様に見られている私に下着くらいで恥ずかしいだなんて、思わせたりは出来なくてよ?」


「……お前は羞恥心と言う言葉の意味を、辞書で調べる事をお勧めするわ。つかそんな格好で堂々とするな俺の方が恥ずかしいわっ! とっととその手を降ろせ!」


「嘘、あなたの視線はさっきもそこに移動していた。……変態」


「星ノ宮様! なんてはしたない格好を! 石田貴様も見てないで後ろを向け!」


 今俺の目に映るのは、下着でも無くまた予想していたものでもなかった。

 奴はとんでもない物をスカートの中に隠していたのだ。

 それは紛れもなく学校指定の色気の欠片もないダサい短パンだったからだ、ただ少しだけ予想が外れてホッとしたのも、残念な気持ちが湧いたのも嘘では無い。

 勝ち誇ったかのように笑う星ノ宮に、俺はまんまと掌で遊ばれていた訳である。

 黒川の突っ込みが秋山と同じとは……ちくしょう! 覚えていろ星ノ宮め!

 

 どうやら黒川もその黒塗りの車で家まで送って貰うらしく、そこで別れ俺は一人自転車を跨ぎ家へとペダルを漕ぎ出した――





 それから二十分ちょいの時間をかけ、戻ってきた俺は遅くなった晩御飯を片付けると(ラップは明恵がしたと胸を張っていたので、グリグリと頭を撫でてやった。愛い奴め)、常備薬のオレンジ色の箱に入った解熱剤を手に取り、母さんと明恵が風呂に入ったのを見計らって冷蔵庫を開ける。

 つい数時間前と変わらず、向こう側には既に待機していた師匠が、部屋に明かりを灯し待っていた。


「ふむ、どうやら割符による縁の強化は問題ないようじゃの。してそちらは大丈夫かの?」


「ああ、問題ないぜ今は俺以外誰もいないからな。それで師匠種は手に入ったのか?」


「ワシを誰じゃと思っとるか! これでも商売でも名をそれなりに知られたマガーヴマト・ホラム・ラーゼスじゃぞ! 種だけではなく薬を納めていた壺も借りてきたわ!」


「いや、そんなん言われても俺知らんし。どうでも良いから師匠はよそれ全部寄越せ」


「お主は本当に師匠のワシに対して遠慮の欠片というか、礼儀がないのう……」


 そう師匠はブツブツ文句を言いながらも、ヒョイと俺に壺と種を渡す。

 まるでそこに壁なんて存在しないような、そんな動きだった。

 俺もそれを当然のように受け取り、師匠の視界から外れて『窓』を開きアイテムアイコン化させ枠に載せると、持っていたこちらの市販の解熱剤と効果を比べる。


 うーむ、成分としては全然中身が違うけど解熱効果はっ……てナニコレ? バジリスクの葉? けったいな名前の種だ、壺の履歴を見ると他にウコンぽい物と酒等を混ぜて調合しているらしく、効果的には確かに熱を下げるようで、その作用を比べるとこちら側の薬も問題なく使用できそうだ。

 窓を閉じて師匠に薬を飲ませても大丈夫と告げ、俺はそのまま用法を説明すると風呂から明恵たちが戻る前に冷蔵庫を閉じる。


 “これであの子も救われるやもしれぬ、また明日の夕方頃に会おう”と別れ際に告げて、師匠が部屋のドアを開けて行くのを見送った俺は、此方に残った種と壺、そして割符と今は無色の透明な石となった“命名の石”を机に並べる。


 ソウルを解放した時のフワフワとした、あの熱に浮かされた様な感覚も収まり、改めて本当に“これは現実”なんだなと俺は実感した。


つづく。

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