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25話 誘惑

ご覧頂ありがとうございます。


4/18 加筆&修正致しました。

 ――星ノ宮達の待つ喫茶店までは商店街の前を通り、線路を跨ぐ大きな橋を渡らなければならないので、割と距離があるんで徒歩じゃ厳しい。

 ゼーハー言いながらやっと着いて中に入り、店内を見回すと然程人は居なく、直ぐに三人が何処に居るかが分かる。

 奥の方で呑気にケーキなんて食ってやがった……まあ、俺が着くまでの間は暇だろうし、何より何も頼まずに入り浸る事は難しいだろう。


 宇隆さんが立ち上がり手招きしてくれたので、ウェイトレスさんは「いらっしゃいませ」とだけ言って、テーブルまでの案内はしない良く分かってらっしゃる。

 そこは店の奥の角に在り三人の座る席まで行くと、星ノ宮はカップを手に取り口を付けるが、その動きは滑らかでいてどこか気品を感じられた。

 けど、カップを静かに置いて、早々こっちをチラッと見て「ご苦労様、だけど私達少し待ちましたわ」って、これでも結構急いだんだけどさ、俺怒って良いよね?


「星ノ宮様、石田は今回の事の功労者ですよ、その様な物言いは些か失礼かと存じます。我ら家の者とは違うのですから、車での移動などしてはいないでしょう。きっと急いで走ってきたに違いありません。……すまんな石田、星ノ宮様は随分とお前を気に入ったようで、少々我儘を言ってらっしゃるのだ」


「いや、別に宇隆さんが悪い訳じゃねーし。どうせこれも星ノ宮的ジョーク、だよな?」


 俺は深呼吸し、さっきまでの荒い呼吸を落ち着けジトーっと星ノ宮を睨む。

 かなりイラッとはしたが、宇隆さんに頭を下げられると強く言えんし……つか、アイツは何処のお嬢様だよ! って、星ノ宮の奴はれっきとしたお嬢様だったか。


「ごめんなさい。あなたには迷惑ばかりかけている、学校に居た時も今も色々頼んで。けど、あなたが心強くて頼ってしまった。ありがとう」


 続けて黒川まで俺に頭を下げてそんな事を言う、ここまでされたら流石に不機嫌さを出すのも大人げないと言うか、格好悪い。……チョロイとか言うな。


「そうね、石田君ありがとう。それで電話ではあまり時間が無いと私言いましたわね? 実はあの後此方も少々手間を取りましたが、時間を作れましたのでもう少し詳しくお話しません? 色々と黒川さんも、そして私も貴方に聞きたい事なども御座いますので、よろしくて?」


「そう言う訳だ悪いが石田、五限の時間の間のお前の行動など話して貰えると助かる。それと周りに聞こえないようこのテーブルを選んだが、座る席が足りないな……通路側に椅子を用意させるから、お前はそこに座ってくれ」


 宇隆さんがウェイトレスさんに椅子を持ってくるように頼み、ついでに俺は飲み物を頼むと追加された席に座った。

 位置的には家族で食事に来た際、乳幼児専用椅子で食事をする子供みたいで、少し恥ずかしい気がするが、一席分を荷物置き場にされ右手側に黒川、左手側に星ノ宮と宇隆の組み合わせだ。


「そうそう何故私の携帯に貴方ではなく、秋山と言う方からメールが届いたのかも教えて頂けるかしら? この文面から相手の方は女性のようだけど、この秋山と言う方とはどのような御関係ですの?」


「星ノ宮様、直接この石田からメールが届いた訳では無いのですか? 先程はそのような事、私達には仰られなかったではないですか!」


「……秋山茜、一年の頃から有名。去年は新聞部と放送部両方で活動、今は新聞部にのみ幽霊部員として在籍している筈で、一年から三年まで幅広い人脈を持っている」


 どうやら星ノ宮は詳しくは話さず、俺との会話だけをスピーカーモードで聞こえるように会話をしていたらしい、それと黒川? お前の方が色々知っているように感じるのは、俺だけでしょうか?


「黒川詳しいな、俺同じクラスだがサッパリ知らなかったぞその情報。それと宇隆さんは落ち着けって、ここは学校じゃ無いんだから静かにしないと店から出されるぞ。なぜ秋山が出てきたかに関してはちゃんと説明するから、じゃあ初めから離すが俺が職員室を出て……」


 俺は五限の間に三人に頼まれた隠しカメラを見つけるまでと、その際同じクラスメイトの秋山と偶然会い、余計な事は喋らない奴だと親友の静雄も信用する女で、まあ俺も少しはその意見に納得しているので(例の本の事とか)、女性ならではの視点で物を考えられると思い、そのまま更衣室の探索の手伝いを頼み。

 そのおかげでこうして、三枚のmicroSDカードを手にすることが出来た所まで話し終えた、ああ長ったらしい。


 話している間に、一度ウェイトレスさんが俺の頼んだ物を持って来たので中断し、一口飲んだりしたが、水が来た後にまた飲み物を飲むって、微妙に思うのは俺だけかな?


 結構な一人独演会な長い話を終え、すっかり喉がカラカラになった俺は届いていたジンジャーエールを口に含んだが、氷が解けて混ざりその甘さは薄くなっていた。


「概ね分かりましたわ。ですが私が最も聞きたいのは、更衣室で黒川さんが手にして何処かへ消えてしまった物。そう石田君、あの時貴方が私達に介入する切っ掛けとなった物よ。私が本来身に着けている筈の“もの”が無いので、警察署では随分恥ずかしい思いをしたわ。アレはどこに消えてしまったのかしらね、石田君?」


 一瞬星ノ宮の目が光ったように感じたが、星ノ宮は急に胸を下から持ち上げるように腕を組み直し“たゆん”と揺れるのが斜め隣に座る俺の目に入ると、星ノ宮は舌先をチロッと出して唇を舐めニヤっと笑う。


 その艶めかしさに目を逸らそうとすると、胸を強調させる腕を組んだまま左手をゆっくりと動かし、自分のスカートの端を抓み徐々に引き上げ、俺にその組んだ足を露出させていく。

 それ以上引き上げると、非常にマズイと言うかお前その胸と言い足と言い、さっきの“恥ずかしい思い”ってもしかして“履いてない”のかよっ!?


 宇隆さんは星ノ宮の左に座っている為、その動きは見えてないが困惑する俺が、視線をあちこちに動かした際、黒川にはそれが見えているせいか、チラッと奴の顔が窺えたけど、あの目つきはヤバ過ぎる。

 俗に言う“目が坐っている”状態で、顔の表情筋も変に笑顔で怖い。

 俺は星ノ宮の謎の行動と黒川の殺人的視線で、緊張し口に含んでいたジンジャーエールを中途半端に飲むが、そのせいで気管に入り盛大に咽て噴き出した。


「ゲホッ、気管にっグホッ入っ、鼻っ、にもエッホ、ゴホッ」


「おい! 石田どうした!? 確りしろ! 星ノ宮様も笑ってないでそのおしぼりを渡してやって……黒川、お前も笑っ……てはいないな。兎に角石田これを使え」


 宇隆さんはおしぼりを此方に投げて寄越し、黒川は星ノ宮をジーと見ながら黙々とテーブルの上を掃除、星ノ宮だけはケタケタと腹を押さえて笑って、目の端に涙まで浮かべて一人楽しそうにしていた――





「ン゛ン゛ン、クソッ鼻痛ぇ、本当今日は厄日に違いない。鼻ばかり今日で五回目か? 星ノ宮俺をからかうのは止せよ、そんな格好でアホな事すんな! 黒川も俺を睨むなよ普通焦るっちゅーに!」


「星ノ宮様もそろそろ落ち着かれては如何ですか。それで石田お前は何故行き成り咽て噴き出したりなどしたのだ? 行儀が悪いぞ? それと黒川は石田がああなった原因が分かっているのか」


「原因はそこの女、分かっていてやっているから性質が悪い。確り見張るべき」


「いや、その宇隆さんも気が付いてくれ。今の星ノ宮の話で分かっただろ? 警察署でも恥ずかしい思いをしたって!」


「ああ、それか。証拠のカメラを提出する際に館川の奴、黒川が星ノ宮様の下着を盗んだと喚き散らしたんでな、あの甲高い声が廊下にも聞こえたぞ。恥ずかしいに決まっているだろう?」


 はっ? 館川が喚き散らした“だけ?” 俺はてっきり星ノ宮が部屋の中で警察に……。

 宇隆さんから黒川に視線を移すと、酷く不機嫌そうな顔をしていらっしゃる、どうやら俺の考えが読めたっぽい。お前はエスパーか?


「フフ、宇隆そこまでよ。さっき貴方が言ったでしょ? 石田君は私達の“功労者”だって。だからちょっとした“ご褒美”をあげようとしただけだわ。どうやら黒川さんはお気に召さなかったようだけど」


「ご褒美? 良くは分かりませぬがそれは後で、さっきの話で思い出せましたが、あの時見つからなかった星ノ宮様の下着は、いったい何処に消えたのだ?」


 宇隆さんはポンと手を叩き、「不思議だったのだ」と無邪気に黒川と俺に質問して来るが、黒川は視線を俺に寄越したまま黙秘、星ノ宮はニヤニヤと皆の顔を見回している。

 俺はどう答えようかと、また頭を悩ませる事になった。


つづく

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