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24話 中身は謎のままで

ご覧頂ありがとうございます。

 “あちら側”と“こちら側”を『この世に無い風景』と呼ばれる“絵”と、『最新式の六ドア』の“冷蔵庫”がひょんな事から繋がった事が始まりで。

 今度は更にその繋がりを強化しようと、俺と師匠で媒介とする割符にソウル文字を刻んだところ、師匠の割符には『ラーゼス』と読める文字が光る線で書き込まれ、俺の持つ割符には『アキート』と読める物が現れた。

 俺はこれが『ソウル文字』なのかと感心した反面、『あきひと』で無かった事にギギギギギと音が鳴りそうな、ぎこちない動きでハイライトの消えた瞳を師匠に向ける。


「……師匠俺の目には、刻まれた文字が『あきひと』ではなく『アキート』に見えるんですが、どうしてかな? 確か七歳を過ぎれば変わらないとか言ってたよね?」


「オホン、ワシは確かに七歳を過ぎて“揺らぎが”なければ定着されて、変わる事は無いと行った筈じゃ! お主はソウルに揺らぎが在りどこかふらふらしとったんじゃろ。それにソウルを刻むときもどこか適当だったしの。それはワシの責任ではありゃせんわい!」


 と、俺から気まずそうに目をそらすと、一息にそう怒鳴る。

 逃げた! このジジイ自分の言った言葉に責任を持ちやがれー! とは流石に言えず、師匠も別に悪気があってした訳でなく、寧ろ俺を引いてはその熱を出した子供を助ける為の行動だった訳で、何処にも責める謂れは無いのだが、望んだ結果と違った俺は釈然としない。


「ハァ、もういいですよ兎に角俺のソウル名はアキートで固定されちゃったみたいだし。これで繋がりが強くなったんなら、試してみて大丈夫ですよね?」


「まあ、刻まれたものは仕方あるまい。それでは今度はその割符を交換する事で、刻まれたソウルが縁として残る。そうする事でお主とワシの繋がりが増え、繋がる確率は大幅に上がったのは間違いない筈じゃ」


「それじゃ交換して、この割符を持たないで開ければ普通の扉に戻るのかな? まあこうして繋がるのに二日もかかったし、大丈夫かな? それじゃ一度閉めますね」


「うむ、兎に角ワシも急いで一度薬草の種を分けてもらいに行くんでの、アキートも都合が良い時にその割符を握りしめ扉を開くがよい。それまでにはお主も薬を用意しておいてくれ、頼んじゃぞ」


 その師匠の言葉を最後に俺は冷蔵庫の扉を閉めた。

 思わず吸い込んだ息を深く吐いたが、なんだか一気にドッと疲れた気分だ。

 だが、俺が無理矢理冷蔵庫の中に入り通ろうとした為に、取り出して台所に置いた要冷蔵の食品群を眺め、もう一度今度は溜息を吐いた俺は、割符を鞄に入れて急いでその場を片付ける事にした。


 俺は本気で今月の電気代を心配しながら、すっかり温くなってしまった豆腐とプリンを仕舞う。

 そうやって出した物全てを仕舞い終わり、居間のソファーに座って一息ついたころに、家の玄関の鍵がガチャリと外れる音が聞こえ、母さんと明恵が帰ってきた。

 ギリギリセーフ、何とか母さんが帰る前に済んだ。


「おかえり。結構早かったね」


「そう? ただいま明人、頼んだ買い物はもう冷蔵庫に仕舞ったかしら?」


「ん、お兄ただいま。……変わった?」


 母さんが明恵を先頭に入ってきてそう聞いてくるが、明恵の一言で俺はドキッとする。

 別に俺の外見は変わった気はしていなかったが、どこか変わったんだろうか? 俺は挙動不審に頭や顔に肩など自分の体をペタペタ触って焦るが、鏡でも見ないとその変化には気が付けない。

 なんてこった! ソウルが活性化すると見た目が変わるのか!? 俺はゴクリと唾を呑み込む。


「もう、変な明人ね。妹が可愛いからってそんなアワアワしないの、全くそんな焦らずに誉めてあげればいいじゃない」


「お兄、似合う? ……変じゃない?」


 そう言って苦笑する母さんと、上目遣いで俺を見る明恵に俺はやっと合点がいきホッと息を吐く。

 どうやら俺の勘違いで焦ってしまったが、明恵の「変わった?」の一言は自分の服装の変化での感想を聞きたかっただけのようだ。

 全く我が妹ながらヒヤヒヤさせられたぜ、お前は十分可愛いぞ。


「うむ、そうやってスカートを履いて御淑やかだと、普段の倍は麗しく見えるな。うむうむ、自信を持って誇るが良い我が妹よ。いや~良い仕事をしてくれますな、うちの母さんは」


「でしょ~? なんと言っても素材が良いし私の娘だからね。ちっちゃい頃なら明人にスカート履かせても嫌がらなかったのに、今じゃ無理でしょ~明恵もスカートをあまり履いてくれないし、今日はめいっぱい私の趣味で買ったわ~」


 そう母さんと話しつつ明恵の頭をくしゃくしゃっと撫でてやると、ニヘ~と笑いテテテと台所に行き冷蔵庫に向かった。さっそくプリンを食うらしい、勝利のプリンか?

 俺は帰って来てそのままだった制服をそろそろ着替えようと、部屋へ戻ろうとして母さんに捕まる。


「あ、明人もう部屋に戻るの? 後で通帳返して頂戴ね。それと少し休んだら晩御飯のおかず作るから、あなたは今日お風呂掃除頼むわ、明恵は昨日掃除したし疲れている筈だからお願いね」


 その声に後ろ手に手を振って階段を上る、俺だって今日は色々あって疲れたけど言っても分かんない……いや、言えるわけないか。

 部屋に戻って着替える時、何とはなしに鏡を見たらあの変色していた顔は、何事も無かったように普通の肌色に戻っていたので、鼻に手をやるとグラグラはするが痛みも消えている。

 さっき師匠に貰った薬の効果は、こっちにある薬よりもスゲーと思った。





 ――着替えも終わり、頼まれた掃除を片付け居間に戻った俺は明恵に「プリンがぬるい」とブチブチ文句を言われれながら、そろそろ師匠も種を入手した頃だろうかと、早く連絡を取らなければと考えソワソワしていた。

 そんな時、俺のスマホから着信音が鳴り、番号のみの着信表示が目に入る。

 きっと星ノ宮からの電話に違いないと思った俺は、一度部屋へ戻り深呼吸をすると電話に出た。


「……石田君の電話で間違いないかしら? 大丈夫のようね。メールを見て電話を掛けたのだけど、今よろしいわよね? それで貴方にお願いした事に進展はあった? こっちはついさっきまで警察で参考人として話をしていたんだけど、館川の御両親とも迎えに来て私達に頭を下げて行ったわ。だけどそれで済む話じゃないからこれからが大変そうね」


「いや、何でそう大変そうって他人事なんだよ……お前も被害者の一人だろ。それでこっちの話になるが、何とか五限が終わる前に上手く更衣室に入れたんで、探し回ったら黒川の言うように、在ったよ」

 

 俺がそう言うと電話の向こうで星ノ宮の吐く溜息と、宇隆さんとたぶん黒川も一緒なんだろう声が聞こえた。

 そりゃ予想はしていても実際に隠しカメラが仕掛けられ、知らない内に自分が隠し撮りされていたなんて分かれば、気持ち悪いだろうし腹も立つに違いない。

 俺も見つけるまでは時間が迫って焦っていたが、後で考えて気分悪かったしな。


「……少し待って。そう、ありがとう感謝するわ。館川の取り調べではこれ以上の事は“やって無い”ような話をした後は、黙秘を続けていたそうよ。けれども被害範囲が広いし、あのカメラだけでは無いと考えた警察は、そのまま家宅捜索をする気らしいわ。そうなると間違いなく学校にも着そうね」


「ああ、そこは俺も考えた。だけど今すぐには来ないと俺は思う。それと更衣室で見つけたカメラは、固定されていて外し方が分からないんで、データの納められたmicroSDカードだけを抜き取って回収してきた。だから警察が調べる前に少々カメラの電源周りを壊して、カードをまた戻せば問題ないんだが……」


「だが何かしら? 貴方にしては歯切れが悪いわね? 私も宇隆も黒川さんも貴方を信用したから頼んだのよ、今更何を言われても問題ないわ。……二人も頷いているしね」


 そこで一旦話を区切り溜息を吐く。

 俺もこんな事言いたくねーけど、言っておかないと俺の事を信じてくれた3人の信用にかかわるからなぁ。


「抜き取ったこのカードは三枚あって、たぶんきっとこの中に色々と不味いデータが入ってると思う、それですぐ連絡が欲しいとメールを打ったのは、データの中で“残ってちゃ都合の悪い”部分を消すには、俺が中身を見なきゃならん」


「あら、そう言う事。フフ良いわよ私達は貴方を信じてお願いしたんだもの、例えだけれども“既に中身を見ていたり、間違ってコピーを盗っていた”としても私達にはそれを確認するすべもないし。それを貴方がどう使おうと、他の誰かに迷惑をかける事が無ければ別に、構わないわよ?」


 電話越しに「えっ!?」とか「星ノ宮様いったい何を!?」等の声が聞こえるが、星ノ宮の笑い声と残り二人の声が飛び交い何を言っているか良く聞こえない。 こちらの声はスピーカーモードで三人共に聞こえているらしい。

 賑やかな事だが、他の誰かに聞かれたらどうするんだ?


「えー大変魅力的な話だがーそれは流石にーできん。……お前の冗談は心臓に悪いぞ? 兎に角これを黒川に頼んで上手い事やって欲しい。カメラにカードを戻す時は俺が三人と立ち合いでやれば、間違も起きないし問題ないだろ?」


「どうしてそこで棒読みなのか、後でじっくり聞きたいところだけれども。私も宇隆も黒川さんも、それほどゆっくりできる時間が無いから、カードを此方に持って来て下さる? 今私達が居る場所だけど、警察署のある……」


 俺は電話で居場所を聞き、三人の待つ喫茶店へと足を運ぶべく玄関に出ようとすると、母さんに晩御飯がもう直ぐだから遅くならないようにと言われ、明恵には「遅いとお兄の分を食べる!」と怒られた。……何と理不尽なんだ我が妹よ。

 今日のおかずは俺の好物の揚げ出し豆腐に、ピリリと辛味と酸味の聞いた中華そばだ! 遅くならないように急いで帰ってこよう。

 師匠にも家族の隙を見て種を受け取らないといけないし、やることが一杯だぜ。

 俺は玄関を出て自転車を引っ張り出すと、一気に街へ漕ぎ出し加速した。


つづく


10/24 修正しました(汗)

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