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20話 等価交換? いいえセコイ儲けです

ご覧頂ありがとうございます。

 静雄はすぐに見つかった、銀行の直ぐそばにあった昨日の惣菜屋さん(兼肉屋だが)の前で、またコロッケを頬張ってホクホク顔してやがる。

 そう言えばさっきも小腹が空いたとか言ってたし、静雄だから仕方ないか。


「静雄~悪いまたせた。……良い匂いだな一つ俺にも寄越せ~」


「む? 明人か。さっき中で話していた人は知り合いか? 話が長そうに感じたのでな、俺はこっちに寄らせて貰っていた。秋山お前も食うか?」


「あ、良いの? 安永君ありがとう。ちょっと聞いて、石田が話していた理由なんだけど。単に言いくるめられて貯金してきただけなのよ、本当単純よね~。いつかコロッと誰かに騙されて、無一文で泣いてる顔まで想像できそうだわ」


「いや~俺が最近泣いてるのは、主にお前からの暴力のせいだと……わっ、待て冗談冗談!(本当お前の拳は冗談じゃ済まねー!)」


「本当かしら? 正直に言えば顔じゃなく、目立たない場所にしてあげるわよ? それともあんたのその顔を、もう少し男らしい容貌に整形がご希望?」


 うっかり口を滑らせた俺に、秋山が拳を構え凶悪な笑みでそう迫ってくる。

 5限の更衣室じゃ可愛らしい一面もあったが、やはりコイツは根本的に俺と相性が悪いに違いない。

 俺は両手を上げながら、秋山に否定するように首を左右にブルブルと振った。

 そうポンポンポンポン殴られてたまるか! 奴の殺気(?)に対し、反射的に距離をとってしまう俺は、悲しいかな危機察知能力だけ(対秋山)上昇している……どうせなら危機その物に遭わない能力が欲しいぜ。


「ふむ。やはり一番美味いのはこの豚カツだな、白い飯が欲しくなる」


「静雄! お前だけ無関係みたいな顔してないで俺を助けろ! それに何1人だけ美味そうに肉食ってんだよ。俺にもそのカツ一切れ寄越せ!」


「あ、安永君それも良いけど、チキンカツもとっても美味しいわよ。私は断然チキンカツを押すわ!」


 コロッと表情を変えた秋山を加え惣菜談義になった俺達は、暫く店先で道行く人に対し知らない内に『肉の丸の内』の宣伝マンになっていた。


 その後、『スーパーミラクル(凄い名前だが、単なる食品小売店である)』へ寄って頼まれていた豆腐と人参を買うと、秋山が昨日買えなかった本を見に行くと言うので、そのまま三人の足は書店へ向く。


 途中で秋山が「今日は佳代ちゃん居ないわね」なんて言ってるが、早々毎度あの子がここに居たらマズイだろ? そんな事になれば母親の綾さんも泣くに違いない。

 「アホな事を言うな」と突っ込みながら、邪魔になる豆腐と人参は鞄に仕舞うふりをして、さっそくトレード枠に袋ごとアイコン化し、枠に押し込み楽ちんの手ぶらである。





 ――ここは昨日も訪れた総合書店『KADOYA』だ。

 商店街にある本屋は顔をだしたが、仕入れの数が少なく売り切れていた為こちらに来る事になった。

 懐の寒い俺としては、丁度良かったので今日も例の場所へ行こうと思う。


「それじゃあ、私は少し見て買うから済んだら出口集合ね。石田、あんたは遅くなりそうなら連絡する事。あと、携帯の電源今度はちゃんと入れときなさいよ」


「明人はどうする? 俺はDVDレンタルを見てくるが」


「あ~俺はゲームでも見てくるわ。ちょっと時間かかるかも」


「もう本当に分かったの? まさか昨日みたいに探させたりはしないわよね? あまり遅いと放って置いて帰るからね」


「はいはい、わーったから。そう怒鳴るな、なるべく早く戻るって」


 そう秋山に釘を刺された後別れ、俺は昨日もお世話になったトレカコーナーへ進む。

 今日もそこそこ客入りが在り、小学生くらいの子供が集まっていて賑やかだ。

 ここの店は自由にカード対戦を出来る場所を設け、販売しているカードの種類も多いので割と力を入れてると言えるだろう。


 展示されているカードも見るからに厳重な、ブロックタイプのカードケースに入れて飾ってあったり、手書きなのか中々上手いキャラクターイラストをパネルに刷って看板にする等、案外ここのショップのオーナーの趣味だとか?

 あまり興味が無かったから、たいして詳しくはないが最近はこういったカードは、セットでも販売しているらしく、適当にそれを手に取り見てみる。


 俺はトレード窓で中身を見て「なるほど」と呟く、中はある程度カードが揃っており、麻雀で言うなら既に自分の手牌となる山の中に、『役』が何種類か構築されている状態で、その『役』があらかじめ分かっている、と考えれば分かりやすいだろうか?

 簡単なトランプのポーカーで例えるなら、ワンペアやフルハウスが何組か作れ、対戦相手と強い『役』を使い交互に競う感じだ……そう思うと、静雄とやってみるのも意外と面白そうだ。


 そうやって眺めていると、視線を感じたのでそちらを見てみる。

 何か見た事ある様なってショップのエプロンつけてるし、昨日トレカを売った時に買い取りカウンターに居た男性店員だ。


「お客さ~んそれ余り良いカード入ってないから、買うならこっちのデッキの方が良いよ~。そこそこ使えると思うかもしれないけど、ある程度以上の硬いクリーチャーとかで防がれると、直ぐにカード無くなっちゃうから」


「あ~、いやこの箱に書いてある絵を見てるだけで、別に遊ぶ訳じゃないんで」


「あれ? お客さ~ん対戦じゃなくて集める専門でした? 通りで昨日の買い取りカードの状態が良かったわけだ。 それなら丁度新しいパック入ってるけど、勿論買いますよね?」


 ……その勢いに流されるまま俺は、店員さん(胸のネームプレートには「矢島」と書かれている)の勧めてきたカードを、窓で見ながら適当に光る奴を選んで購入。


 店員さんに「はい」とハサミを手渡され開封していき、ニコニコしながらそばで見つめていた彼は、開封するたびに驚きの声を上げて、全てのパックを開け終わると「このカード~是非売ってください!」とその場で言われ、結局購入したカード五パック千四百円から、カード二枚を売った代金(二枚ダブりの内一枚ずつ)が合計九千二百円、全部売るには“集めている”と言った手前、不自然だから売ることを断念。

 結局今回の売買結果は差引七千八百円の儲けで終了となった。


 ……しっかし、詳細を見ないで絵柄と光っているから選んだが、今時のカードはサイン付何て物があるんだな。

 店員さん改め矢島さんの「ありがとうございました~」と言う間延びした声を聞きながら、出口に向かうと既に二人とも揃っていた。


「あれ? お前らもう済んだのか? 俺が遅すぎたか……」


「別に普通じゃないかしら。安永君も今さっき来たばかりだし、あんたがもう少しかかるようなら。そこで立ち読みして待っているつもりだったわ」


「うむ。俺も何を借りるか少々迷ったのでな、明人とあまり変わらん。ようするに秋山が一番早かったわけだ」


「そっかそっか了解、そんじゃ用事も済んだし帰るか~」


 俺がそう言って店から出て、静雄に近寄り小声で「何借りたんだ?」とコソコソ言うと「ふむ、これだ」と言って、俺が折角気を利かせてやったのに、静雄は堂々とその中身を晒す。

 静雄お前はマジ漢だな! と思ってタイトルを見たら『The ring Atlantic』と書かれたロゴと、人型メカがビルを派手にぶっ壊してるカットが描かれたパッケージだった。


「静雄……お前メカ物系好きだったっけ? 俺の記憶だと巨大な人型メカと、巨獣て呼ばれるモンスターのガチバトル物だった筈。どうせなら映画館で見たほうが迫力は在ったのに。3Dとか4Dとかあるだろ?」


「ふむ、明人は見たことがあるのか。……中身は言うなよ」


「うん、まあ楽しんでくれ」


 そう言って俺は帰る方向が違うので、二人と別れようとしたら秋山が、慌てたように俺の鞄を掴んで引き留めるから、『なんでだ?』と思いつつ俺も静雄も一度顔を見合わせて秋山の方を見る。


「えっと、石田? 結局昨日と同じく買い物だけしかしてないけど、microSDカードの件はどうするのよ? 壊さないで、すり替えとか言ってたけど大丈夫なの?」


「あ~、そっか。そうだ秋山お前さ、星ノ宮か宇隆さん、それか黒川と連絡できる? もしダメなら……そうだな直接電話でなく、携帯のメールだけでも良い。ちょいと確認しなきゃ不味い事が在った。すっかり連絡方法が抜けてたわ」


「そう言う事は早く言いなさいよね、まったく。本人に最初に聞けば問題なかったでしょうに。今星ノ宮さんに電話してみるけど、繋がるかしら?」


 そう言いながら秋山は携帯を取り出し、何の逡巡もなく操作すると耳に当て待つ。

 う~ん、やはりこの女の情報網と言うか、横の繋がりは侮れんな。

 ファンクラブまであるらしい、星ノ宮の携帯番号を何のキータッチの遅れも出さず、事も無げにあっさりと電話を掛けやがった。

 耳を澄ますとあの独特のコール音が聞こえるが、出る気配が無いようで秋山は首を振った。

 ……やはり、まだ警察から帰って来てないのだろうか?


「そっか、出ないなら仕方ないわな。それじゃあ悪いがメールを出来るなら、俺の携帯番号を添えて、時間が取れ次第俺に連絡が欲しいと送ってもらえるか? 連絡をくれるなら、遅くても考慮しなくていいと付け足してくれ」


「ん……分かった確かに送ったわ。それじゃあ大人しく帰るけど、詳細は無理でも、言える範囲でも構わないから私達にも教えなさいよね。約束したわよ?」


 そう言うと秋山は静雄を促し駅へと向かい、俺は帰宅しながら、この後星ノ宮から連絡が来た際に伝える事を考えていた、だがここで一つ忘れていた物を思い出す。

 それが頭に浮かんだ俺は、妹の明恵に『お釣りで買う約束のプリン』を慌ててダッシュで買いに戻ったのであった。


つづく。

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