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207話

ご覧頂ありがとうございます。

 師匠から服装についての事や、余計な事まで教えて貰い命名式が始まる前に精神的に疲れ、学校に行っていた方が余程楽だったなと思ってしまう。

 後は村の主だった人との挨拶等があるけど、基本的に師匠を間に挟んでの紹介も兼ねた物らしいので、あまり心配する必要は無いそうだ。


「それを聞けてホッとしたかな。正直何か聞かれても困る事の方が多いだろうし、よく考えれば言葉だって違うしね」


「うむ、そこはかなり遠方の方の出身と話しておいたからの、言葉の違いなど当然な事じゃわい。どうしても話さなければならない時は、最悪ワシがこの『疎通の指輪』をお主に渡せば問題無かろう」


 そう言えばそんな便利な物も在ったっけ、師匠も指輪が無いとシャハの話していた呼吸音みたいな声での会話は、流石に片言になるらしい。

 聞いて意味は分かっても、やはりあの独自の発音は此方がするには難しいそうだ。例えるならモールス信号ので音で、無理矢理会話する様な感じ?


「じゃあ、それは良いとして、この冷蔵庫越しの対面とか大丈夫なのかな? 流石に額縁から顔だけってのは、かなりおかしいと思われない?」


「そこもあまり気にせんでも良い。お主は今ワシの店を構えるアカフシオンの、出店準備をしながらの対応だと伝えておるからのう。“遠見の水瓶”なら似たような事が出来るし、……まあ問題無いわい」


「遠見の水瓶ねぇ、予想だと水面に遠くの見たい物を映すって感じだろ? けど、俺の場合映すだけじゃなくて触れる上に、物だって一応渡せるんだよな……本当に大丈夫? 師匠の話しだと、村の人以外にも来るらしいんだろ?」


 少しばかり不安も感じ念を押す様に訊ねると、「うむむ」と唸って髭を扱きながら何やら考えだすが、ポンと手を打つ。しかも余程良い案でも浮かんだのか、晴々とした様な笑顔をしている……?


「そこはホレ、アレじゃよ。どうせこの絵自体も、元を辿れば借財の形として押し付けられたものじゃし、何か言われた場合そちらに訊ねてくれと言えば済むしの!」


「……何だか今度は随分とニヤニヤして、そんなに自信満々なのが気になるな。その相手と後で何かあっても、俺は知らんからね?」


 師匠の態度に少しばかり用心しつつ口を開くと、一瞬師匠の頬が引き攣ったのを俺の眼は捉えたが、見なかった事にする。此処でこれ以上訊ねてしまうと、問題が起きそうだと勘が告げていたからだった。






 銃を持った相手、仮にそんな者と対峙する事になれば、戦うまでも行かずとも逃げる事くらいは出来る筈だ。

 実際、銃を向けられ直ぐに体の方も反応したが、その後に感じ取った石田の怒気と自動車を微塵にした技を目にして冷汗を掻いた。


 田神とも少しだけ話をしたが、石田を相手にした場合、とても奏様を守れる自信はなく、石田は安永の様に武術の心得も無いので力の加減が効くと思えず、感情のままに暴れる事は無いとは考えても、これ以上奏様を石田と関わらせる事に不安が無いと言えば、嘘になってしまう。

 先程も別れ際に私や奏様に感謝はしていたが、簡単に人を癒したり壊したりもできる石田の事を、初めて“不気味”に感じたからだ。

 田神の運転で学校に向かう間、その様な事を考えて奏様の「エリザ」話も何処か上の空で聞いていたが、件の話の事となると別だった。


「――で、怪我をしていた二人だけど、田神を追っていた事よりも“お化け”に襲われた事と事故の方がとても強烈に心に残っていて、田神の事なんて殆ど忘れてしまっていたわ」


「そう、でしょうね。危うく死にかけもしていたようですし、石田が居なければ確実に助かるような怪我では無かった筈です。……原因もまた、石田のやった事が理由ですが」


 田神と一緒に確認した、あの車の破壊痕を見て、幾ら刀を持てば鉄をも斬れる自信は持っていても、到底真似など出来ない技だと今思い出しても肝が冷える思いだ。それを石田は手も触れずに遣って退けたのだから、思い悩むのも当然だろう。


「私はあの二人よりも、逃げた方が気になるわね。取りあえず調べるのは田神に任せるわ。真琴も一緒に見たのでしょ? ナンバープレートをメモしていたのは私だって気付いたもの。それと、恭也さん達の持つ符を覚えてと頼んだのは私達とは言え、石田君がどんどん人間離れしてきて、ちょっと危なっかしくて目が離せないわね。ねえ真琴、貴女も彼の事が怖い?」


 やはり奏様には見破られてしまうか、とは言っても倒れた男達を探ったような力など使わずとも、奏様には筒抜けだったようだ。

 だから躊躇なく素直に頷けたし、何故ああも思い悩んでいたかの理由も、奏様に改めて聞かれた事で、私は“不気味さ”に置き換え誤魔化していたが、石田の事が“怖かった”のだと今はっきり自覚した。

 しかし、次に奏様の言われた事で驚いてしまう。


「真琴、私はね瀬里沢さんのお屋敷の件を兼成さんに“観させて貰っていた時”に、あの力があれば簡単に人を殺せてしまう。単純に石田君の事を怖いと、既に思っていたわ」


「な、ならば何故です!? 石田はその力を、ついに人に向けてしまったのですよ? 理由はあれどそれが何時、奏様や私に向かないなどとは言い切れないでしょう?!」


「じゃあ聞くけど、別にあんな力なんて無くたって、私も真琴も人を殺そうと思えば出来るでしょ? さっきだって石田君は、私達の為(・・・・)にあんな風に怒ったのよ。なら逆に私達で止めれる筈よね? だから石田君を誰かのせいで人殺しなんかにさせないし、私はその為なら星ノ宮の力(・・・・・)を使う事も迷わないわ」


 そう力強く断言する奏様を見て、石田の力は怖くとも(・・・・・・)それでも尚、傍に居る事に何の戸惑いも無いのを感じ、奏様は“変わった”のだと理解した。

 あれ程忌避していた力も使い方次第だと、奏様は受け入れたのだ。

 ただ、そう決心させた相手が石田だと言う事に、少しだけ苦い思いをする。

 昔から近くに一緒に居た私達より、たった数日前に出会った相手が、奏様の長年の蟠りを超えさせたのだから、きっとこの胸に湧く気持ちは嬉しさと悔しさの両方に違いない。

 ……ならば石田には、いずれ奏様が心配など必要のない、もっと確りした男になって貰わねばと私も決心した。


「そう言う事であれば、不肖ながらこの私宇隆真琴も、奏様の御傍から離れは致しませぬ。共にあ奴を見守り時に鍛え、間違うようならこの身を持って止めてみせましょう!」


「フフ、ねえ真琴、貴女気付いていて? 今の言葉とっても嬉しいのだけど、そんなに畏まって言われると、何だかプロポーズみたいだわね? 真琴は石田君にも同じ事を言うのかしら?」


「なっ!? 行き成り奏様は何を仰るのですか! わっ私は、別にそのような他意は御座いませぬ!」


 全く、折角私も迷いが晴れて口にしたのに、奏様はいつもこうやって私をからかうのだから本当に困ってしまう。

 そんな私を見て、奏様は口元に手を当てながらクスクスと笑いだす。

 性格が悪いと言うか、前から分かっていたが奏様は毎回おふざけが過ぎる。

 だが、そんな所も奏様の魅力の一つなのだと思うと、私も釣られて可笑しくなり、気付けば一緒になって笑っていた。





 ……明人は今日も遅刻か? 奴から借りていた物を返そうと持ってきてはいたが、放課後帰りに寄って様子でも見に行くか。

 もう直ぐ出席を取るのに担任も来れば、遅刻か欠席かはっきりするだろう。

 学校に来る途中コンビニに寄って買ったメロンパンを食べ終わり、週刊誌を置いて時間とメールの確認をしていると、朝の挨拶は済んでいた筈だが、不意に秋山が話し掛けて来た。


「聞いてよ安永君、石田の奴今日も休みらしいわ。全くメールの返事の一つも寄越さないで! ……それで、良かったら一緒に放課後、あいつの家に様子でも見に行かない? えっとほら、舞ちゃん達も誘ってちょっと聞きたい事もあるし」


「ふむ。明人は事故では大して怪我もしていないようだし、今日も休みなのは確かに奇妙だな。俺も見舞いに行くのは吝かでも無いが、秋山、お前の聞きたい事とは何だ?」


 秋山は先日行方不明だった筈の、仲の良かった近所の子供が既に死んでいたと分かり、かなりふさぎ込んでいたが、恭也さんの事務所で黒川達と話す事で持ち直したらしい。だからそれとは関係ない話だと思うが、他に明人へ聞きたい事があると言うのが気になった。

 少々バツの悪そうな顔をして、秋山は俺の疑問に答える。


「……どうせ後で分かっちゃうし、安永君には先に話しちゃうけど、実はこの前あいつに見せて貰った銀貨だけど、少し調べてみてもどこのものなのか分からなかったから、気になって撮影した画像を載せて情報集めをしてみたの。そうしたら、是非買い取りたいって言うコメントが何件か届いて、私の物じゃないしどうしようかな~ってね」


「なるほど、明人もあの銀貨の価値を知りたがっていたしな。で、何処の国で発行された物なのかは分かりそうなのか? 随分綺麗な物だったから、俺の予想だと、何かの記念硬貨辺りなのではないか?」


「それがねぇ、何故か一件のヒットも無かったのよ。変でしょ? 態々あいつの持っている数枚だけを発行する為だけに、鋳型を作ったり削り出しをする筈も無いし、両面見ても年代の刻印も無い。使われた形跡は在るのに、表面の意匠に摩耗がほぼ無いなんて、ちょっと奇妙なのよね」


 秋山は顎に指を当てながら、明人の持ってきた硬貨を思い出しつつ詳しくそう語る。

 俺も多少あの銀貨を珍しい物とは思ったが、秋山がそこまで明確に形状を記憶でなぞらえる事に改めて驚く。明人の持っていた力もだが、秋山は秋山で稀有な能力を持っているものだと考える。

 案外似た者同士が集まっていたのだなと、少しだけ可笑しさが込み上げ口元が緩む。


「ふむ、良く調べたようだな。しかし秋山、お前は少し触ってみただけで、そこまで分かるのは凄いと素直に俺は思うぞ。もし詳しく知りたければ、その買取たいと言う者達ならば、より硬貨の価値を知っている筈だ。だからそこから探ってみればどうだ?」


「あっ! そうよね! 餅は餅屋って言うし、欲しいってコメントを残すくらいだから、少しは知っている筈に違いないわ。ありがとう安永君!」


 秋山はそう言うと、自分の席へ戻り早速調べ始めたのだろう。ノートサイズのタブレットPCを鞄から取り出すのが見えた。

 思い立ったが吉日と言うのだろうか? しかし秋山よ、休み時間でもない時に担任の前で堂々と弄っていると、取り上げられ後で職員室に呼ばれるぞ?


 ……案の定、取り上げられ迄はしなかったが、秋山は後で呼び出しを受け注意されたようだ。


つづく

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