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203話

ご覧頂ありがとうございます。


202話 加筆修正&分割した話です。


 横穴に入って来た二人の男は、互いに縺れ合い腐敗して崩れた鼠の死体に塗れ、凄まじい色合いに服を染め上げている。臭いも同等な状態なのは予想できるので、近寄る気にはなれず、少し離れ三人目を待ち受けていたのだが一向に現れない。


「……もしかして、さっきの声を聞いて怖気づいたかな? まあ聞こえたなら余程の事が無い限り、入って来ようなんて思わないわな」


 取りあえず“念動力”で二人を順にズリズリとずらし、足場を作って穴から出ると、俺を待っていたとばかりに上から声が掛かる。

 幾らライトが在ったとは言え、外の明るさとは比べようも無く、その眩しさに目を細め声の主の方へ頭を向けた。


「中でいったい何が起きたのだ? 野太い声が反響して外にまで聞こえて来たぞ。まさかとは思うが、石田、殺して(ヤッて)ないだろうな?」


「フフ、最初に手加減出来ないって釘を刺したのは石田君でしょ? する筈がないわ。それよりも急いで用事を済ませて下さる? あの声でもう一人の方、逃げてしまいましたの」


 うっかり星ノ宮と目が合い、ニンマリとチャシャ猫のような笑みを見せた。思わず『引っ掛かっちまった』と心の中で自分を罵り額を押さえる。

 こうなればもう一度も二度も関係ない堂々と見て……無理、心臓がもたん。

 何より首筋と頬がカッと熱くなった為、誤魔化すように咳払いをして早々に側溝の上に戻る。星ノ宮の奴見られても本当に平気な……あれ? 少し顔赤い?


「プッククッアハハ、貴方の顔ったらもう真っ赤よ? 見てご覧なさい真琴。相変わらず可愛いわよね」


「可愛い……? 本当にどうしたのだ石田? 急に日の当たる場所へ出て来て、血の巡りでも良くなったか? この暗証番号と鍵でコンテナを開けて、少し冷ますといいぞ。それくらいなら時間も大丈夫な筈だ」


「そうね血の巡りが大変そう……。一部に集中しちゃって真っ赤だし、真琴も結構言うわね。自覚が無いのが余計に追い詰めるのに」


 笑いを堪えただけで……ただの見間違いだった。勘弁してくれと頭を項垂れながら、宇隆さんから預かった暗証番号と鍵でコンテナを開け、氷る寸前まで冷やされた空気が一気に外へ吹き出し、その冷たさで一息つく。

 心なしかサッパリした気分になり、頭も冷えた。一人逃げ出した奴が、別の奴らと合流してきても面倒なので、さっさと中にあった荷物を転送するとコンテナを閉める。外に出ると宇隆さんが表情を硬くし、携帯で誰かと話していた。


「……そうか、いやそれならば撒いた方が安全だろう。暫くこちらに来ない方が良い。隠れる場所は在るし、様子を見て大丈夫そうなら此方から連絡する」


「何か進展在りか? 電話の相手は話の内容から、田神さんだろ?」


「ええ、どうやらさっき聞こえたクラクションは、田神を追う車が出したみたいなのよ。しかも今車三台に追われているみたいで、私達を拾う事が出来ないって律儀に謝罪して来たところ。いっそコンテナの中に、三人で隠れちゃう?」


 星ノ宮の案を頭の中で素早くシミュレートする。

 確かに見つからなく外からは身を守れるとしても、暗証番号と鍵はスペアかマスターが在るだろうし、あんな刃物を持った奴らが居たんじゃ、倉庫を貸しているここの会社も完全に信用できるかと言えば、沢山の人間が集まっている以上絶対はない筈だ。

 現に監視カメラはただの案山子も同然だったし、内部に仲間が居るのかも知れない。面倒な事になったけど、こればっかりは避けられなかった事だと、諦めるしかないな。色々と思い付いたが、反対する意見を述べる。


「それはどう考えても悪手だ。外の様子は窺えないし、何時出られるかも分からないだろ? そうなりゃ学校は先ず間に合わない上に、下手すりゃ閉じ込められる」


「ふ~ん。私の案に即ダメだしをするのだから、石田君には勿論私も納得できるような案が在る訳よね?」


「あ~ちょっとだけ時間くれ、流石にぽんぽんアイデアなんて出やしないんだ。もしそんなに頭の回転が良けりゃ、今頃『東洋に蘇ったホームズ』ってくらい有名になってるだろうさ」


「ははっ、石田がホームズと言うなら、差し詰め安永はワトソンか? どちらかと言うとお前らは、印籠を持ったご隠居一行だろう?」


「それじゃあ石田君は、一人で何役もしなくちゃ。うっかり八兵衛に情けない八兵衛と優しい八兵衛でしょ? オマケでたまーに印籠その物になっちゃうのよね?」


「……お前ら、八兵衛が三人もいたら世直しの旅が、たちまち元禄グルメ旅行記になるだろ? それに誰が八兵衛だ! せめて弥七か助さんで」


「安永が格さんか? そうなると配役はお前だけ浮くのではないか? 瀬里沢辺りが八兵衛だとしっくりくるだろうな」


 少しばかり表情が晴れなかった宇隆さんも、話に乗って来てそこそこ元気になったようだ。しかし星ノ宮を納得させる案とか急に言われても、大した事を思い付かん。

 またあの森に近い草叢と林の中に逃げ込む、一応電波は届くから連絡は可能で、外から見つかる恐れも無い。

 問題は逃げ込むって発想からして、既に負けてるし何か違うんだよな。そもそも俺は家に戻らんと不味いから、何か車の他に移動手段があれ……そう言えばアレ(・・)、まだ確認していなかったし、いい機会だし試してみるか。


 俺は『窓』を操作し枠内の修理済みバイクCBR400Fを、狭間内で魔改造された『日傘』の依代として使おうと思い、両者を一つの枠内に入れて重ねた後に決定ボタンを押す。そうする事でCBR400Fは黒と鋼の輝きを持った、本当のモンスターマシン(半妖+機械)になり、早速呼び出す事にした。


「……ふっふっふ、お前はたった今生まれ変わった。今日からCBR400Fの名を改め、蜘蛛の意匠とその色から唯一無二の存在『ブラックタランテラ』と命名する!」


 依代を得た事で、此方側でもあの輝きと力強い振動を俺に伝えてくれるに違いないのだが、若干昨日よりも確実に大きくなったようだ。

 両者が組み合わさった事で、強化されたとか? 比較対象が既に合体して無い為確かめようがないが、兎に角様変わりしたこの機体に早速跨ってみた。

 シートの独自の触り心地も健在で、心なしか脈打ってる様に感じる。

 キーを回さずともエンジンが鼓動を上げ、「早く走らせろ」と言っていた。


「……石田? お前何時からバイクなんて乗れるようになったんだ? 自転車に乗っているのは見たが、元々免許でも持っていたのか? と言うか何なのだこのバイクは!! いったい貴様はどこから取出したんだ!?」


「こんな物持っているなら、別に私に頼んだりせずとも、車は必要なかったんじゃないのかしら? どういう事なの石田君?」


「あ~、コレ出来たのたった今でな。骨組みと言うか基礎になる大元も、昨日星ノ宮と電話した後に完成(?)したし、ついさっきまでコイツの存在忘れてたんで無理! そもそも荷物乗せられないから、俺は結局星ノ宮を頼ったさ」


 昨日までは排気量400CCクラスだったが、合体した事で大型化し前後に延長、タイヤもライトもマフラーも大きくなり、その総重量は前の倍を楽に超えるだろう。

 ハッキリ言って見た目の意匠は継承しているけど、エンジンガードが追加され計器類やミラーにレバーまで至り、スタンドも杭状だったが地面に差した後、更に蹴って打込む機構まで付いている。ほぼ全てに置いて別のマシンと言っても過言では無い筈だ。

 これなら後ろに星ノ宮と宇隆さんの二人を乗せるなんて楽勝だけど、やっぱり公道走るなら免許取らんと不味いか……。

 運転自体は俺がせずとも、意思を感じ取って走ってくれる優れた相棒で、まさにオートバイクだよな。景気づけにハンドルを掴みクラッチを繋げず一気にアクセルグリップを回すと、マフラーから唸るような重低音の咆哮が応え、このコンテナ群に響き渡った。


「乗れ! 絶対にこけないから安心しろ。今回の運転は俺じゃ無く、コイツがしてくれるからな」


「やれやれ、お前と居ると命が幾つ在っても足りなさそうだな。……石田、ここぐにって動いたが、本当に跨って大丈夫なのだろうな?」


「石田君の案って、隠れる訳でも相手を倒す訳でも無く、こっちから田神に会いに行くって事ね? 不安が無いと言えば嘘だけど、面白そうだし乗ったわ」


 さっきの音を聞きつけて来たのか、それとも逃げた一人が戻って来たのか分からないが、足音が聞こえて来たと同時に俺は一言「突っ走れ」と囁く。

 俺達三人を乗せると軽く車体が沈んだが、後は振動も小さくコンテナを囲む策へと突進して行く。


「ちょっとちょっと! 前! 前だって! そっちは道なんて無いわよー!」


「知らねえな! 道なんてもんは作ればいいんだよ! それよか確り掴ってろ」


「石田、お前性格が変わり過ぎだ!」


 加速したままの勢いで策の方へ進み、俺は《アフ=カ・アーフ》を唱え、途中見たデカい看板を切断するとそれを土台に宙へ飛び上がり、柵どころか側溝も越えその先の地面を深く抉って衝撃が腹にドンと響く。

 俺達を乗せた『ブラックタランテラ』は前輪が浮き少しウィリー走行になり、スイングアームの動きとリアサスが伸びる事で、極限まで着地の振動を減らし、全重量を受け止めた際にGが掛かるが、それすら楽しむオマケでしかない。

 伊周の様に刀で障害物を切ることは出来ないが、前輪の更に延長された牙を模したディスクローターが、カッターの様に立ち塞がる草や蔓に倒木までを斬り裂き、走行の邪魔になる物全てを排除して進む。

 俺達は無免許でノーヘルの上に三人乗りだが、素晴らしく安全な走行を見せながら一般道へと躍り出た。


つづく



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