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203/213

202話

ご覧頂ありがとうございます。


今回の話には、グロテスクな表現が含まれます。

気分を悪くされる方は、読まない事をお勧め致します。


6/19 肝心な文が一列抜けてたので、慌てて挿入致しました。申し訳ないです。

6/20 更に加筆修正&長いので分割致しました。

 俺達の前にあった柵は、“念動力”で枝を足場にして越える事が出来た。

 試しに大股で五歩離れると枝は落下し、効果範囲もそこそこで支えられる重さも“第三の腕”だけに、自分の体重だけで軽い疲労を感じるから無理は出来ない。

 それにしても二人とも無頓着と言うか、スカートのまま平然と柵を越えて来て、幾ら水泳部で慣れていたとしても、俺に羞恥心を感じないのだろうか?

 そう思うと途端に自分の存在がちっぽけに感じられ、瀬里沢ほど(ツラ)が良い訳でもないので、少しだけ憂鬱になる。

 ただ星ノ宮には、前にスカートの中が見えた事を気付かれたので、頭があがらん。


「フフ、石田君は何を黄昏てるのかしら? まだ今日は始まったばかりよ?」


「お前がそれを言うのかよ。俺だって、そんな気分の時もある」


「奏様はもう少しお静かに。石田、お前も何か策を考えろ。急がないとこの後学校や授業も在るのだぞ? しかし、……ここでは何が起きているのだ」


 俺をおちょくる星ノ宮を適当にあしらうと、宇隆さんは真面目に俺達を注意するが、ここのコンテナ群は以前聞いた『お得意様』専用の場所らしく、守られている話は間違い無いようで、柵を越えてから三人揃って隠れている状況だ。

 理由は簡単、監視カメラが設置されているのは勿論、何故か人相の悪い堅気ではなさそうな御方達が、警備員宜しく歩いているからである。

 あんな相手に見つかれば、どうなるか想像に難くない。

 寧ろ隠れているのに、楽しそうに俺を構う星ノ宮がおかしいだろう。


「策なんて簡単に思い付くかよ? 分かるのは三人揃って動くのは目立つし、俺だけ行くのが無難って事ぐらいか」


「確かに暫く動けそうもない、今の内に奏様と合流したと田神に伝えておこう。半ば予想済みだとは思うがな」


「ねえ、ちょっといい? 監視カメラが在るのに、とても警備員には見えない方が普通に歩いている。二人は変だと思わないかしら?」


 宇隆さんが携帯を取り出した所で、まるで『なぞなぞ』でも出題するかのように喋り出す星ノ宮。おかしいのは分かるが、だからこそ厄介な訳であり、だいたい監視カメラが在るのに、何のアクションも無く厳つい輩が歩きまわ……うん?


「あ、なるほど。ちょっと確かめてみるか」


「石田、どういう事だ?」


「それじゃあ任せたわ。お手並み拝見ね」


 まだよく分かって無い宇隆さんは置いといて、男達が通過した後で、少し遠くに在る監視カメラに狙いを定め、《アフ=カ・アーフ》を唱えて風の刃を飛ばす。風の刃は本体後ろのコードを断ち斬ったので、少し様子を見る。前は木の枝位が精々だったけど、気が付けばやたら威力上がってんだよな……。

 直ぐにスマホを確認。朝の五時二十一分、それから五分ほど待ったが何も起きず、先程見た男達が怠そうにまた前を通り過ぎる。


「……行ったな。どうやらカメラは飾り? それとも今だけ(・・・)効果なしなのか分からんが、さっきの答えは解けたな」


「なあ石田、お前の妙な呪いで、あの者達を倒せんか? もっと楽になるぞ」


「真琴の言う通りね。六分くらいであの方達は戻って来るから、目安にして隠れるか倒してしまえば、これから移動は楽に出来るんじゃなくて?」


「言い難いんだけど、悪いが倒すのは最終手段で。どうも手加減が効かないみたいでさ、下手すると人体輪切りマジックを……種なしで出来ちまうんだわ」


「「……危ないから却下(だな)ね」」


 それから近場の監視カメラは“念動力”で強引に向きを変え、届かないのはサックリ切断。違う顔ぶれの警備員擬きを途中在った大きな看板に隠れてパスし、目的の場所まで来たところで車のクラクションらしき音が一度大きく鳴り響く。

 そのせいで、通り過ぎると思った男達三人が立ち止まる。


「何が在ったのかしら? 邪魔ね」


「それは分かりませんが、あの者達が邪魔ですね」


「携帯を取り出しているし、何か在ったのは間違い無い……分かったよ」


 二人揃って『邪魔』を強調して俺を見る。

 俺達が居る場所とは見当違いの方向に向かって、“念動力”でコンテナに石を二、三個連続してぶつけ、注意を引き自主的に移動して貰う。

 案の定三人とも「あっちだ、聞き逃しゃしねぇ!」と言って走り出した。

 さて俺達も移動するかと立ち上がった所で、隣から携帯の着信音が鳴り響く。

 うわっと思い、音の発生源をチラ見すると、宇隆さんが泣きそうな顔で慌てて携帯をバシバシ叩いていた。


「す、済まん! 『まなーもーど』とやらにし忘れていた! このっ止まれ!」


「真琴、いいから早くそれを貸しなさい!」


 二人がそんなやり取りをしている中、コンテナ向こうに消えたと思った三人の内一人と目が合い、相手は元々怖い顔を更に顰め睨んで来る。 

 着信音が消えると同時に、俺と違ってまだ見つかって無い二人へ「隠れてろ」と素早く告げ、相手の目を見ながらゆっくりと横に移動し、相手が動こうとした瞬間に、あの因縁の側溝へと飛び込む。


「ガキが居た! 男一人! さっきのは囮に違いねぇ! 先ずは一人捕まえるぞ!」


 随分とデカい声を響かせる。ありゃ叫び慣れてると言うか、俺にも態と聞かせる事で脅しているつもりか。 俺を追って貰わなくちゃ困るので、スマホのライトアプリを起動させ、態と焦った表情を見せた後に横穴へ入る。

 俺的には追ってくる男より、この中の方が余程怖い。

 足元には一昨日の出来事の名残、半ば腐った鼠の死骸がゴロゴロ転がり、羽虫と腐臭を放っていた。


「こっちだ! 追いつめたぞ。お前らも早く来い!」


 言葉通り男の声には、追いつめた弱者を甚振る様な愉悦が感じ取れる。

 中に入ったのは良いけど臭いがキツく、風を操作して打ち消す。更に奥へ少し進み相手と一対一に持ち込めば、って結構速っ! 聞こえて来た足音に慌てて振り向くと、俺を追っていた男は直ぐ傍まで来ていた。


「おい、こんな狭い場所どうやったってもう逃げられねぇぞ。大人しく捕まって着いて来るか、散々殴られて入院するかどっちか選べや?」


「凄い不思議なんだけど、あんまり怖さを感じて無いんだよね? 何でかな? 俺にはあんたよりも、その肩に乗ってるモノの方が余程怖いね……」


「……っ!?」


 暗く狭い穴の中で、ライトに照らされた相手の表情が凍りつき、恐怖を感じたのが分かる。ただでさえ視界が悪いのに、男の肩の上には小さく蠢くモノに臓腑を食われ、とろけた汁を垂れ流す、腐った鼠が粘つく音を立て這い上がって来たのだ。


 この鼠の死体正体は、ゾンビや悪霊では無く“念動力”で俺が動かしたモノ。

 動くソレを間近で直視し、存分に臭いを嗅いだ男は意味を成さない声をだし、必死に振り払おうとする度に、手が汚れるだけで余計酷いに状態になる。

 叩いても払っても肩に貼りつく動く鼠の死体に、気が触れたかのように口の端から涎を垂らし、叫びながら目に着いた俺の方へと男は殴りかかった。


 不自然な体制で猛然と迫って来た右腕を、“念動力”で逆に引っ張り、バランスを崩したその顔に膝をめり込ませ、「ぷふぁっ」と漏れた声を耳が拾う。

 ライトを当て無事かどうか一応確認すると、手を震わせくぐもった呻きを上げて「あゔぅっあぁ゛」と顔を押さえ、だらだら鼻血をだしていた。


「こっちか? おい! 捕まえたの……篠沢!?」


 呻く男にシノザワと呼んだもう一人は、ライターを明かり代わりに中へ入って来る。メガネを掛けた二人目の男の眼が、倒れた男の次に俺の姿を捉え、途端に背中が冷やりとした。

 左手にライター、右手には時代劇や映画で目にする短刀、所謂ドスって奴を取り出し構えると、メガネの奥の目が細まり鋭さを増しついに動く!

 だが、錯乱し倒れているシノザワと呼ばれた男が、メガネの男に気付き仲間と分かったのか、「あ゛あ゛ぁー」と泣き叫びながらその足へ必死に縋りつく。

 腐汁に塗れた男に縋りつかれ、「馬鹿っ! 篠沢、てめぇ離せ!」と言って動きの封じられたメガネ男の肩に、新たな腐り鼠を乗せてやると絶叫の二重唱(デュエット)が穴の中に響き渡った。


つづく

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