表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

200/213

199話

ご覧頂ありがとうございます。


6/18 ご指摘頂き修正致しました。

   ×既に日付が変わって既に金曜日に

   ○日付が変わって既に金曜日に

 兼成さんから届いていた手紙には、ある意味爆弾が仕掛けられていた。

 箱根崎から預かった《身体再生》の符は『窓』で調べた当初は“盗品”と表示され、尚且つ何故か似た名前の《身体活性》とは違い水の要素ではなく、空の要素の属性を感じた為、不思議に思っていれば元々《身体再生》の術式を独占していた菅生家(兼成さんが宗主を務める一族の分家)の家宝であり、その存在がばれては俺の首が物理的に飛んでしまうような、超危険物だったのである。


 兎に角出所を探られては不味いので、今は恭也さんの手を治療しながら“菅生が独占している物を、俺達が持っていると知られるのは宜しくない”と単に利益が絡むと厄介だと言う面だけを強調し、釘を刺したところだ。


「――と言う訳で、この事は内密に」


「それは勿論だけど、箱根崎君には“あの符は見なかった”とボクからも言っておくよ。彼、うっかり口にしそうで怖いからね」


「ほほほ、そのように主様へ楯突く輩、全て屠ってしまえば良いのではないかえ? 主様に危害を加えるのならば、我は悉くを食ろうてやるわ」


「千夏はお願いだから無茶しないでくれよ? 目立つのは不味いんだからな」


「くふ、主様は心配性じゃのう。我は主様と一緒に居ると約束したであろう? ただの人間風情に負けなどはせん! 主様は我に一言命じてくれれば済むわえ」


 隣で少々ヤル気を見せると言うか、妙な気配をさせている子がヤバい。

 《身体再生》の術式は余り込める力が強いと、熱と痒みを持つので様子を窺いながら調整し恭也さんの治療をしていた俺は、千夏が暴走しないかが唯一の心配だ。

 治療を受けている恭也さんも、心なしか顔色が悪いし頬が引き攣っている。


 本来なら千夏と恭也さんの立場は、狩る側と狩られる側……どっちがどっちとは言わないけど、一応恭也さんはまだ(・・)何もしてない千夏と争う気は今のところ無い(・・・・・・・)と、狭間で起きた事を話していた時に明言してくれたのだが、その後でこの台詞はちょっと不味いだろう。

 この子には、今の世の常識を知って貰わないといけないな……。


 その後も、色々と在ったが(恭也さんが千夏を挑発して人化させ、幼女になったり、鬼人大王・波平行安の真の主に千夏が認められたり、千夏が俺の姿に化けたり、明恵と千夏どっちの背丈が大きいかで競ったり……等々)一段落着いた所で、手の怪我もすっかり癒えた恭也さんは帰り際に「今日は色々と見せて貰ったけど、学術的検知を目的としたモノだから、別に恥ずかしい事では無いよ」と俺に耳打ちし、不思議そうに首を傾げる母さんに挨拶した後帰って行った。

 ……アレは是非とも忘れて下さい。


 色々突っ込みどころ満載の話だったのに、親父はヤケ酒飲んで今は台所で突っ伏して寝てるし、驚き過ぎて皆思考が正常じゃないのも確かだ。

 そこを恭也さんが上手く話を纏めてくれたのだが、この後どうなるかなんて心配するだけ馬鹿馬鹿しいのかも知れない。

 漸く終わったと時計を見ると、日付が変わって既に金曜日になっていた。





「それで明人、明日学校を休みたいってどういう事なの? 恭也さんからも聞いたけど本当に“千夏ちゃん”の事で必要なのよね?」


「それも含めてかな? 詳しくは分からないけど必要な書類とかは二週間で揃えられるって話だったし、けど母さんこそ本当に良かったのか? 千夏はああ見えて人とは違う存在なんだ」


「なに真面目な顔して言ってんのよ? あの子はあんたの子供みたいなもんなんでしょ? なら母さんの……あら、もしかしてこの歳で御婆ちゃん? ちょっとそれは困るから、まだ当分の間は娘でいいわ。明恵も何だかお姉ちゃん気分みたいだし」


「後はさ、親父の事なんだけど「大丈夫よ。あんな可愛い子手放す訳無いじゃない。もし何か文句でも言うようなら、母さんが父さんにタイガース―プレックス掛けちゃうわ」……手加減してあげてね」


 恭也さんを玄関で見送った後、千夏の事で少し話をして家の中へ戻り、台所で母さんと別れて俺は部屋へ戻った。


 何でこんな風になったかと言えば、切っ掛けは千夏の能力の検証を色々していて、俺の血と髪それと少量の肉を得て千夏が俺そっくりの姿に化け「立つんじゃない!」と言う俺の声で、偶々廊下を通りかかった明恵がどうしたのかと、部屋の扉を開けたからさあ大変。

 部屋の中には俺と俺に化けた千夏、それを見て慌てる恭也さんが居る中々のカオスっぷり。

 驚きのあまり「お兄が増えた!!」と、明恵は二階の廊下で叫び声を上げたお蔭で、下から母さんと親父が階段を上って来て「「夜中に騒ぐんじゃ……明人、あなた双子だったかしら?」おい!?」と両親に即行でバレた。

 隠そうと思っても、この家の中じゃ遅かれ早かれバレたのは変わらないだろう。


 その後恭也さんが俺と両親の間に立って事情を説明し、千夏は俺の手に入れた刀の化身で娘と言う話になり(強ち間違ってない)、元の姿に戻ると明恵より少し背の低い女の子だった事も在って、直ぐに服を着せられ石田家姉妹決定戦が行われ、最終的に身長の差僅か一.五センチで勝敗が決まる。


 親父は「もう訳が分からん」と早々に脱落し、ある程度免疫(・・)が出来ていた母さんだけが恭也さんや俺との会話を続け、明恵はリアル着せ替え人形が出来て喜び自分の部屋へと()の千夏を連れて行った。

 難しい話には参加しないのは明恵らしいと言うか、まあ無理も無いだろう。


 結局俺と恭也さんは、京都の兼成さんを頼り連絡を取った。

 他にも大人の知り合いは居るが、常識に当てはまらない事で色々な意味(・・・・・)を含め力になってくれそうな人物は、この人くらいしか俺には思い付かなかったのだ。

 帰還して早々に、諸刃の剣になりかねない“あの符の件”の事を持ち出し、千夏の事で何か良い手立てが欲しいと言う思いは在ったけど、至極あっさり恭也さんが「新しい戸籍を用意して下さい」と、取引の条件を言ったのには度肝を抜かれた。

 やはり一筋縄どころか、公文書偽造を躊躇い無く口にするだけに、一般人とはかけ離れた一族だと思う。


 こうして“千夏の戸籍”を、京都から取り寄せて貰える(・・・・・・・・)事になったのだが、大凡話しが決まると恭也さんが、電話を俺に寄越すので受け取ったら「おかえり(・・・・)石田君。結構速かったようだね?」と、兼成さんにこう切り出された。

 まるで近くで見て居たかのような話しぶりに、俺の緊張が高まる。


「どうだった? 僕は中身には余り興味が無かったし、拾った後は放置していて最近まで忘れていたんだ。でも有効活用してくれたようで、僕も安心かな。これで身を守る手段は結構揃ったよね? ご希望の書類の方だけど、流石に二週間は最低でも掛かるから、それまでは余り目立ったりしないで貰えると助かるかな。じゃあそう言う事で、何かあればまたお互い(・・・)連絡しようじゃないか。あ、悪いけどもう一度恭也に代わってくれるかい?」


「はあ、恭也さんに代わりますね……」


 こんな感じで俺は兼成さんとは直ぐに話を終え、何だか借りを返したんだか、作ったんだか分からない具合だが、どうにも引っ掛かる内容で落ち着かない。

 兎に角恭也さんの機転で千夏は“京都の菅原家所縁の一人”として家で預かる事に決まったのだった。


 千夏は明恵に連れられたまま寝る事になったらしく、部屋の中には居ない。

 やっと一人静かな時間になったが、寝る前に明日の命名式の準備も聞きたかった俺は、冷蔵庫を開け師匠に会う事にした。

 案の定、師匠はあちら側で俺の事を待っていたが、今日は遅くなる事を事前に連絡していなかったので、少々愚痴られながら命名式の段取りの説明を聞く。

 だが、いい加減疲れもピークに達していた俺は、適当に相槌打ちながら会話をしていて「アキートよ、大分疲れておる様じゃの?」と言う師匠の声で、ハッと半分寝かかっていた意識が戻る。

 

 何時の間にか腕の中には服と豪華な敷物、それに新たな割符……。

 確か明恵と俺で割って使えと言ってた様な? そうだ! 明日の朝倉庫に預けていた物を、俺の部屋に移動させる案を途中まで話し合っていたんだ。

 そこから全く話を覚えて無い事に気付き、脂汗が流れる。


「もう一度説明するぞ? その服は明日命名式に出て貰う際に来て貰う服じゃ。流石に今のお主の服装じゃと少々問題が有ってな、儂が用意させて貰った。それとその敷物は商人同士で商品を取り扱う際に敷く物でのう、明日はそれを床に敷きその床板を隠して貰えぬか? 割符は先程説明した通り、お主の妹のアキエと交換して、荷物を送る場所を増やすと良いと思うてな」


「ごめん、今日は朝から色々在ってクタクタなんだ。危うく死ぬ目に遭ったし」


「……お主はいったい何をやっておるんじゃ!? もっと自分を大事にせんと周りの者が悲しむぞ? 今は詳しくは聞かぬが無理はいかん。明日も忙しくなる筈じゃし、今日の所はもう睡眠を取り、何かあれば早朝窺うとしよう。ではな」


 師匠は困ったような表情で苦笑いを浮かべ、それでも俺を気遣い今日は早く寝るように言ってくれた。

 明日は学校も休みを貰えて、ついに待ちに待った命名式だ。

 今日の所は師匠の言う通り早く寝てしまって、分からない事はまた明日確認しようと頭を切り替え、目覚ましをセットしてベッドに入り目を瞑ると、俺は直ぐに湧いて来た睡魔に身を任せた。


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ