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199/213

198話

ご覧頂ありがとうございます。


6/16 ご指摘頂き遅れましたが、誤字修正致しました。

 友康は俺と千夏を残し、もう一つの建物の中に入ってしまったが急にどうしたと言うのだろうか? 兎に角「待て」と言われてしまったので、大人しくしているが、千夏の奴が肩に頭を乗せたまま眠そうにしていたので、膝の方に乗せ換えてやり眠る様に促す。


「寝てていいぞ。疲れたんだろ? 何かあったら起こすから心配するな」


「ん、主様の傍は暖かくて眠くなるのう。では少しだけ、な」


 目を擦りながら、俺の言う通り大人しく膝に頭を乗せて千夏は目を瞑る。

ゆっくりと頭を撫で、そのサラサラな髪を梳く。

 こんなにゆったりとしたのは何時ぶりだろうか? そんな風に思いながら静かな時間を俺は感じていた。

 暫くして、廊下をヒタヒタと歩く足音が聞こえ、友康が戻って来る。


「待たせたな……ん? 千夏は眠ったのか、器用な奴だのう。我らと違い魂だけの存在では無く、肉体を持って居るだけに多少は疲れも出るか」


「いやいや、肉体を持ってない(実感湧かないけど)今の俺だって、少しくらい疲れたぞ?」


「ふん、それは精神的な疲れでしか無いわ。千夏の様に肉体にまで影響が出る疲労では無いから、気にする必要は無いであろう。それよりも明人は、その様に大きな器をしていて外では大変そうだの。何もしなくとも、色々と寄って来るモノに困ってはないか?」


 俺が疲れたと言うと、友康は不敵な笑みを口元に作ったが、直ぐに神妙な表情になるとそう話を切り出してきた。

 思い当たる節が在り過ぎて、返答に困る。

 軽く溜息を吐きながら、俺は頷く。


「だろうと思うたわ。多少それを緩和と言うか、ちょっとした試みにはなるのだが、この狭間を作った際の術式の書付、端的に言えば覚書を以前見つけてな。これを上手く使えば、目立つ事も無くなりその器を分け、今よりも更に活用出来るかも知れぬぞ」


「そりゃいいな。だが器を分けるって、俺の魂を割っちゃうって事か? ……目立たなくなるのは歓迎だが、魂を分けたりして大丈夫なのか?」


 突然何を言いだすかと思えば、魂を分けるだなんて急にオカルトめいた事を言われても……って、術式がどうのとか千夏を目の前にすれば今更か。

 ただ俺が心配した事は杞憂だったらしく、俺の質問に対し友康はやれやれと肩を竦めて、筆と硯に紙を狩衣の袖からヒョイと取り出すと、分かり易い様に図に示しながら説明してくれた。


 要は今俺達が居る、この狭間を構築した術式に近い物を応用して、俺の魂と言うか器の起点は変わらないが、位相をずらして(・・・・・・・)分ける事で肉体に備わる魂を、目立たなくさせられると言う内容だ。

 ……理解するのが難しいが、俺の魂を全ての面が同じ大きさの六面体”だと仮定して、普段見えている大きさはそれを観測する者によって変化し、その一面だけを残すように変化させ、他の五つの面を見えなくする。

 そうする事で大きさ自体に変化は無いが、観測できる部分が一面だけに限られるので、結果的に小さく映る事になると言う訳らしい。

 元々観測出来てない者には効果は無いが、対象となるのは観測できる者達へなので十分と言う事になる。


 しかも、利点として残りの五つの面の位置を操作する事で、新たに観測できる場所を指定し元の機能が使える為、とても便利になるそうだ……正直、図で説明されてどうにか分かったが、例えるなら一本百円でサンマが売られているとして、三本なら二百円の特売品このサンマの中から、お金を払わずにタダのサンマだけを貰うのと、大して変わらない発想のとんでも詐欺理論だった。


 取りあえず、やってみれば分かると言う事になりさぞ凄い儀式なり生贄を用意したりなんなりするのかと思えば、術式を刻み込むだけであっさり終了。

 後は刻んだこの術式が大元の応用試験と言う事も在って、正方形ではなく四面体にしか出来なかった。

 面の数は減ったけど設置方法を確認する為、ここで一度試し問題なく設置試験も完了となり愈々友康とは別れる事になる。

 途中から起きて一緒に見ていた千夏は、試験(と言うか実験?)の結果から俺の魂の一面がこの本殿に設置されたのを感じ取れるので、「おお、ここに主様をかんじるぞえ!」と空間をペタペタ触るのだが、俺は触れられてないのに、体を弄られると言う奇妙な感覚を味わった。

 その後一通り別れと今後の事を友康と話した後、門を通じ俺の肉体のある元の時間の流れへ千夏と一緒に帰還する。

 門を潜る際にもひと悶着あったのだが、それは割愛させて頂く。





「っと、大丈夫かい? もしかして立ち眩み? まだ夕方の影響が……!? この妖気!! 石田君下がって!」


「んあ、戻った……って! 恭也さんストップ! まって!! 違うんだ!」


「くふ、ここが主様と我の新しい住処え? 随分……なんじゃこの人間は? 何処かで会ったかえ?」


 帰ってきて早々、面倒な事になった。

 恭也さんは流石プロって感じに、即座に俺をベッドに押しやり千夏に向かって構えを取ると、符を取り出し展開する。……この間僅か五秒程度。

 千夏と言えばあの銀貨を変えて作った服は、あちら側(・・・・)では有効だったけど、現世では依代が必要になる為に急遽糸で形だけを真似た物を作り、それを依代にして衣装を整えこちらについて来たのだ。

 なので千夏が突然部屋の中に現れたように見えるので、恭也さんが物凄い威圧感を(プレッシャー)放って、今にも戦闘が起きそうで胃が痛い。


「ストーップ! 二人とも落ち着いてくれ。今何がどうなっているのか説明するから、恭也さんはその符をしま……出していていいから、取りあえず座って下さい。千夏はこっちに来てベッドに「我は主様と一緒ならどこでも構わぬ。ん? 主様、怪我をしておるではないか! 早速友康から覚えた甲斐がありそうだのう。ささ、早う治すのじゃ」……用が済んだ後でね」


「……何だか、随分と仲が良さげだね。キミがこんなに他人を近くに置くなんて、珍しい物を見た気がするよ。それで、この妖怪と友康と言う人物は、キミとどんな関係なんだい?」


「あはは、それにも色々と理由が在りまして、今から説明するけど取りあえず、コレ仕舞います。千夏ちょっとそこ詰めて」


 俺は千夏にずれて貰いながら、まだ油紙から完全に出て無い《身体再生》の符を丁寧に畳む。

 うっかり恭也さんに触られでもしたら、とても面倒な事になるからだ。

 千夏はベッドの柔らかい感触が気に入ったのか、ゴロリと横になり俺に「早う治さぬか」と責付きながら、恭也さんの事などお構いなしに寛いでいる。

 そう言えば符の術式の流れは一通り刻まれてる(・・・・・)訳だし、なぞる感じで力を込めれば行けるかなと、早速試してみる事にした。


「これ、内側観ながら集中するの、肉体に戻ったせいか地味に疲れるな……あ、本来は水属性なんだな、じゃあ発動は俺流で《術式解放》!」


 俺は魂の内側に刻まれた術式をなぞる事で発動させたのだが、普段使っている要素を使う為の呪文を唱えるのとは違い、曖昧なので結構な脱力感を感じる。

 もしかすると、元々必要とする力が多めなのかも知れない。

 まあ兎に角、左腕の傷と昨日鼠に噛まれた手の傷が、じんわりとお湯に手を入れてるような心地よさに包まれ、徐々に皮膚が再生されている反動か、熱さと痒さを感じ少々口から小さい笑い声が漏れてしまう。


「なっ!? どうしてキミが、行き成り符も使わず《身体再生》を行えるんだ! 何が起きたのか、キチンと話して貰おうか!」


「わわっ、ちょっと今こそばゆくて触らないで。ぐ、くくっ今触られると、あはは、腹が、腹が捩れるー!」


「ほほ、主様楽しそうだのう。我も混ぜてたもれ!」


 ギャー! この二人、俺の話全然聞いてないし容赦ねえ! ダメだ、このままでは俺は笑い死にしてしまう!

 《身体再生》が効いているお蔭で、ただでさえくすぐったいのに、傷が再生していく様を間近かで見ようと、恭也さんが俺の腕を確りと掴むので逃げられず、千夏まで混じってもう無茶苦茶な有様だった――






「――そんな事が、あの一瞬の間に起きていたとはね。さっきキミがやった事と、千夏……さん、だったね? 彼女の事が無ければ到底信じられない事だよ。それにしても、何の変哲もないように見えた符に、そんな隠された高次な仕組みが組み込まれてるとは、……持ってきたのが箱根崎君なのが余計に怪しいね」


「そう言えば、何か似たような物を兼成さんから手紙付きで預かってた様な……」


 俺は椅子に座り、深刻そうな表情を浮かべる恭也さんを見て、勾玉と一緒に入っていた兼成さんから、箱根崎を通じ送られてきた手紙を思い出す。

 確かあの時、符の作り方がどうとか安全な場所でとか言ってたよな?

 目の前には恭也さん、左隣には千夏が居てここは俺の部屋の中。

 間違い無く安全なので『窓』を開きちょちょっと操作して、枠に入った鞄の中から小包を取り出し、入っていた手紙らしき物を広げる。


「え~となになに、“この手紙を読んでいるのは石田君だと思うので、要点だけを書いておくね。箱根崎君を京都に連れて行く名目を作ってボコって置いたから、少しは強くなったと思う。彼には予め《身体再生》だと偽って渡しておいた符を持ってるから、いずれ接触して君に渡す筈だ。箱根崎君や恭弥は呪いに近い制約が課されているから、絶対君に頼むだろう賭けても良い”……うっわ、まんまと乗せられてるし、あのおっさんの勝ち誇る顔が思い浮かぶな」


「えっと、一応あれでもボクの父親だって事忘れないで欲しいな。もう今更だけど仕組んでいた訳だね。それで、まだ何か書かれてるのかい?」


 恭也さんは眉間を揉みながら、今にも舌打ちしそうな顔をしていた。

 俺は手紙の内容の先を読む様に促された訳だが、更にヤバい内容が書かれていた為言うべきか悩む、続きにはこう書かれていたからだ。


“あの符は見た目は古臭い《身体再生》に見えるけど、中身は菅生で管理していた言わば一族の宝なんだよ。今から三十年以上前の後継者どうしで、ある妖を封じながら潰し合いをしていた時、菅生の後継者候補が何故かその符を持ち歩いていて、気を失った隙に奪っておいた奴なんだけど、本当に馬鹿だよね? 危なくて僕は使えないけど、君なら大丈夫だと見込んだので預けておく。万が一それを持って居る事が、菅生の者にばれた場合、君はあの分家に総力を挙げ地の果てまで追われる筈だから、注意してくれたまえ。では君が有効に活用してくれる事を祈る”


 こんな内容、とてもじゃないけど恭也さんに話せる訳無いよね。

 それにばれたら総力を挙げて追いかけられるって、たぶん冗談じゃ無く本気だろう。

 魂だけを呼び出し、それを鍛える修行場へ繋がる秘密の鍵だった訳だ。

 家宝なのも充分頷ける価値が、友康やあの試練それに新しい青面金剛にはある。

 だからこそ今まで表に出て来る事が無く、兼成さんが隠し持っていたのだろう。

 俺は恭也さんへニカッと笑いかけると、箱根崎と恭也さんの手の傷を治して欲しいと最後に書かれていたと、大嘘を吐いた。


つづく


因みに図に書いた説明の簡易バージョン。


以前から見えていた普段の魂

観測者          

 ↓

前○→ □    ②

後○→ |・ _ ̄ | ❏④、⑤ 

      ↑ ①   ③  

魂の存在する起点は変わらないので、残りの五面は他で活用可能

分かり難い場合はごめんなさい&見ている機器でズレが生じていたら申し訳ない。


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