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197話

ご覧頂ありがとうございます。

 友康とここに来る事になった切っ掛けでも在る、《身体再生》の符の術式……と言うか、それの作り方を教えて貰うのを交換条件に、俺は青面金剛の石像を直す事になった訳だ。

 像を壊したのは俺達だから、本当は直して当然の筈なんだけど、まあ細かい事は言いっこなしで……。


 しかし、銀貨を媒介に元の姿をイメージすれば良いとして、よく考えて見りゃ元の姿を知らないんだよな……俺も伊周も良く確かめずにぶっ壊したし。

 確か友康の話だと腕が八本に目が三つ、それで人型をしている像なら良いわけだな? そう考えた所でチラッと千夏の方を見る。

 平安チックな衣装に包まれた千夏は、額の宝石のような小さな分も合わせりゃ目は四つで、腕は六本……ジャストまであと一歩って所だな。

 千夏にもう一対腕を追加させる様な感じで友康に聞いた事を想像しながら、砕けて散らばる石像の欠片を集め終われば、早速開始とばかりに集中した。

 俺の手から銀貨が消えると同時に、台座と足首だけが残っていた像はついにその姿を現す……。


「よしっ! どうやら上手く行ったよ……うだ。あの友康、もし門の認識が失敗したら済まん!」


「くふ、これはどうした訳じゃろうのう? 我そっくりな像が出来たわえ。主様は我がそんなに好きなのかえ? 我はな、勿論主様だけが大好きじゃ!」


「明人、これはどう言った事なのだ!? 何故青面金剛に胸などついておるのだ!! これでは到底門とて認識するかどうか、我にはわか……したようだの」


 そこには三叉戟、弓、矢、剣、棒、法輪、錫杖、羂索を確り持ち、三つ目で足元の邪鬼を睨み踏みつける、千夏そっくりな顔をした美女の像が出来上がり、友康の言う様に滑らかな曲面を見せる胸が輝いている。

 元がどうだか知らないけど、千夏を見て単純に腕と目の数を合わせた結果、随分とセクシーな魔改造をされ、心なしか足元の邪鬼が嬉しそうに見える一風変わった青面金剛となった。


 一応門はこれを青面金剛と認識したようで、俺もホッと胸を撫で下ろす。

 千夏は自分にそっくりだと、とても喜んでいたが友康は複雑そうな表情で「はは、まあ門が認めるなら……仕方なかろうな」と乾いた笑いをしていた。

 許せ友康、青面金剛の特徴が、千夏に似ていたのが悪いのだよ。

 心の中でそう呟きながら、像の出来を見てちょっとだけ俺は満足していた。


 そのままどうせだからと、壊してしまった他の試練の開始場所となる木祠や鳥居を直していき、第一の試練に関しては、符を新たに作るだけで済むそうなので友康にまかせて、全ての修復を終える……これで銀貨の残りは二枚だ。

 序に試練の内容はどんなものかと聞くと、本来ある程度魂を鍛え終わった者が受けるものらしく、第一の試練では例えどんな状況でも誰かを助ける心を試すそうで、だからあの時俺は真っ裸で放り出されたらしい……。

 初っ端からちょっと女性には厳しい試練だし、今の御時勢だとセクハラで睨まれそうな内容だった。


 そのまま子役の式神を背負うと、徐々に重くなるそうだが鳥居まで落とす事無く歩く事で第一試練は終了し、その時背負って来た式神が魂に纏う服へと姿を変えるそうで、言わばボーナスステージみたいなものだ。

 服のデザインに関しては、背負われている間に符が受験者の魂を読み取り作られ、寸法もその時に測られ寸分たがわぬピッタリの服となるらしい。


 第二、第三では、符を使わない場合での術の発動と維持を試され、最後の第四で青面金剛と戦い実力を示せた場合、魂の力の底上げを図れるみたいだが、青面金剛はこの狭間を構成する門によって動いているので、生半可な力ではあっさり終了となり、大抵第三まで行けても第四で落ちる者が大半のようだ。

 それなりにリターン(魂の強化)が大きいので、多少のリスク(寿命の消費)は仕方が無いのだろう。

 友康には悪いが俺はこの話を聞いて、心の底からあのまま一人で進まなくて良かったと思った。


 一通り説明を聞き終わると、俺達はあの神社の境内の様な場所へと戻り、奥に在った社の中を通り幣殿(?)と言う場所に連れて来られ、愈々術式の伝授となる。


 ちなみにここに戻る間に、あの蜘蛛仕様なバイク乗って来たのだが、千夏の記憶には伊周を通して乗り心地を覚えていたのか、物凄い燥ぎっぷりだった事を記して置く。

 運転して(跨って)いる間俺は、背中がバインバインだった事は忘れない。


「さて、我は基本的に何かを治す事に長けた素質を持った術者なので、攻撃はからっきしだが、約束通り明人には《身体再生》の術式を伝授し刻み込もう(・・・・・)


「ああ、友康よろしく頼……え!? 刻み込む? どういう事?」


「簡単な事だ、第四の試練を超えられぬ者は、術式を受け止める器が出来てないのだ。だから試練を乗り越え魂を鍛え、総量を増やす事でやっと可能となる」


「……だから友康は、先に「得て不得手が在る」なんて言っていたのか、通りで簡単に伝授できると請け負った訳だな」


 あの時あっさりと、友康は自分が出来る事を明らかにし「明人が身に付けられるかはまた別」と言った意味も何となく納得がいった。

 元々魂の総量の事を測る事が出来るらしい友康には、俺が既に術式を受け止められる器が在ると、見越していたのだから。

 でも、場合によっては覚えられない訳だし、寿命削れるような修行は受けるか考えちまうよな。


「別に主様が出来なくとも、我が試してみればよい! そうすればもっと我は主様の役に立てるのであろう? だから、早う主様は試してたもれ」


「お前は本当に良い子だな。でも千夏は十分(癒し的に)役に立っているから、そのまま傍に居てくれるだけで、大丈夫だぞ?」


 何て言うか、千夏が俺のやる事を一緒になってやりたいらしく、率先して意思を告げて来るのを見て、明恵が何でもお手伝いをしたがった頃を思い出し、思わず優しい気持ちになって頭を撫でてしまう。

 本当にこいつは、見た目のイメージは蜘蛛が最初に浮かぶのに、中身はワンコでついハグしてやりたくなる。


「……なあ明人、貴様らもう用は済んだであろう? さっさと帰っても良いぞ。何故か貴様らを見ていると、こう胸に湧き上がるこの黒くドロドロしたよろしくない物が、口からも溢れてきそうでな」


「まて! 友康、お前は今暗黒面に陥ろうとしている、今ならまだ間に合う。そっちに行ってはダメだ、帰って来い!」


 友康が俯き加減で歯を食い縛り、何かに耐える様にして此方を睨んで来る。

 どうやら面倒事が一つどころか二つも解決して片付いた事で、少々気が緩んでいたようだ。

 千夏と一緒に謝り、友康も何処か陰が在った表情がなんとか元に戻る。

 気を取り直して、改めて友康に向き直り《身体再生》の術式を伝授して貰う。


「どうやら、我は未だ精神修養が足りてぬようだな。では気を取り直し、これより汝明人、貴様へ我の知る術式を刻み込む。否か応か答えよ。否であれば即座に我の手を払い除け、応であればそのまま深く受け入れよ」


「……え? ナニコレ。友康、お前の手が俺の胸の中に入っ!?」


「なっ!? 友康! 我の主様に何を「黙って居れ、絶対に我と明人を動かすなよ? ……うむ、やはり明人の中は入り易いようだ。それに大きいから書き込む容量に困らぬし、素晴らしい器だな。これなら癖のある術式でも容易に飲み込むであろう」むぅ、我も主様の中に入れてみたいのう……友康の次に入れてみても良いかえ?」


 凄く聞いていて不安になる会話を、友康と千夏がしているのを耳が拾うけど、俺は友康から流れ込んで来る術式を中に刻まれていて、とても口を開く余裕なんて何処にもなかった。


 その行為を例えるならば、生で直接心臓をグリグリ揉まれながら、術式の文字列一つ一つを指でなぞられているような、何とも表現し難い。

 もっと簡単に言うと、胃カメラ飲んで更に中で動かされる感じ?

 しかも内側に書き込まれる感覚が確かにあるので、エグイ。

 それを元に符を作る場合は、自分の中から発動に必要なだけの力を同時に吐き出すと言うか、汲んで注ぐか筆で塗りたくって行く感じだろう。

 ……分かり難いだろうけど、作成手順を例えるなら目を瞑って眼球を守る瞼に在る、血管内の血流の流れを見て覚え、それを元に絵にする様なイメージだろうか? 兎に角された方の俺はまさに魂で理解した。




 

「……凄かった。としか言いようがないなアレは、取りあえず容量余っている訳だし、友康が伝授できる術式が他にも在れば書き込めないか?」


「まあ少し待て、別に出来ぬ訳ではないが、そんなにいっぺんに入れて大丈夫なのか? 大丈夫そうなら我の見立てで入るか試してやろう。我も久方ぶりの相手が明人のような者だと、色々出来て張り合いが在るしのう」


「主様、我も混ぜてはくれぬかえ? また二人だけで楽しんで我を除け者にするのかや? 一人で待っているのは嫌なのじゃ」


 どうやら千夏は本気で悲しんでいるようで、ムスッと唇を突き出し口元を震えさせ、目が潤みだしていた。

 ああこりゃ泣き出す一歩手前だと悟った俺は、慌てて千夏を抱き寄せ背中を摩ってやると、ポロッと涙を一滴零しそうになって、そっと親指の腹で拭う。

 ……危なかった、危うくギャン泣きさせるところだったと息を吐く。

 千夏は安心したのか、目を瞑り俺の肩に頭を乗せて来た。

 明恵も似たような所が在ったから、直ぐに分かった訳だ。


「こうしてみると明人は、まるで千夏の父親のようだな……。あまり甘やかすのはどうかと思うが、これからも一緒に居るのであれば、苦労するのは貴様だし、まあ好きにすると良い」


「甘やかしてるつもりは無いんだが、そこはお兄ちゃんみたいでも可だぞ?」


 胡坐を掻いて座る友康は、そう言って若干呆れを含んだ表情でそう俺に言いながら、千夏の幸せそうな顔を満更でも無さそうに眺め、腕を組むと「少し待って居れ」と呟き立ち上がる。

 俺は何処に行くのかと目で追うと、ぽつんと在ったもう一つの階段のある質素な作りの建物の中へ友康は消えて行った。


つづく

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