表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/213

194話

ご覧頂ありがとうございます。


15R 某蜘蛛の妖さんが、今回も居るのでご注意です。

   気分を悪くされる方は、読まない事をお勧め致します。


6/16 冒頭部分を分かり易い様に修正致しました。

 まさかこんな結果になるなんて!

 俺は射撃では簡単に躱されてしまうと思い、妖の隙を突き接近戦を挑んだのだが、敢え無く失敗に終わり妖の硬質化した体毛で弾かれ、両腕を体と一緒に髪で絡みかれ全く身動きが取れない!

 両手で握った鬼人大王・波平行安もこの状態では全く振る事も出来ず、頭の後ろで腕を組む様な形でギリギリと締め付けられていく。


「ぐっ、友康、無事なのか!? 火弧、氷蛇、答えてくれ!」


 友康と火弧に氷蛇の苦しそうな鳴き声は聞こえて来ても、見る事が出来ないので声の限りに叫んだのだが、返事は届かず耳に聞こえてくるのは、妖の操作した飛ばす方では無く、太さのある伸びる斬糸がシュルシュルと腕に戻って来る音だけだ。


 俺は自分では冷静に妖の行動の裏をかき、刀での一撃を見舞ったつもりだったが、そんなに容易く思った通りに策が成功する事は無く、逆に相手の懐に飛び込んだ事で、文字通り蜘蛛の巣に絡め捕られた、哀れな獲物状態に陥ってしまっていた。


「くふ。せっかちな坊だこと。それで気は済んだかえ? こうして我の下に来たからには、思う存分に愛でてやらねばのう。そのように睨まれては怖くて怖くて敵わぬわ。ほんに魂だけなのが惜しまれる……」


 くそっ! 折角伊周の仇である妖が目の前に居るのに、だがまだ意思さえあれば第三の腕となった“念動力”は使える。

 俺はこの妖の六本の腕を“握って”いた力を離し、背中側にまわってしまっている刀を持っていた両手から妖の死角で “そちら”に手渡し、それを悟られない様に、悔しそうな表情を作ってこう言う。


「くそっ! この髪を今直ぐ解きやがれ! さもないと酷い目に遭うぞ!」


「我の腕をどうやって掴んでいたかは知らぬが、緩めたようじゃの。その顔を見れば諦めた訳ではあるまい? ほほほ、これは面白い余興になりそうぞ。ならばやって見せておくれ? どう粋がろうとも身動きなど取れぬであろう。我を恐れずこれだけ活きが良いのなら、坊に肉の身体も備わってないのが口惜しいくらいよ」


 妖は楽しそうな表情を浮かべ、俺を締め付ける髪の圧力を強化してきた。

 圧迫感が増した事で、今のこの状態では指さえまともに動かせず、手も足も出ないとはまさにこの事だろう。

 その代りに、ここでは何も食ってない筈なのに腹の中身が出てきそうだ。


「ぐっ、そんな事言って、良いのか? 俺は本気を出しちゃ、いないんだっ! ぐおっ! へっ、怖くなって、絞め殺すか」


「くふ。本気を出して無いじゃと? 我と同じではないか? 坊とは相性も良いようだぞ。俄然その柔かそうな皮膚の下で、熱く脈打つ血潮をこの唇で愛撫しながら、牙で痛みを舌で快楽を与え舐めたくなったわ……しかし、坊は随分と丈夫な服を着ているのう。それは『制服』だったか? 普通であれば、既に我の髪に斬り裂かれておる。ほんに坊は面白いわえ」


 普通に考えて大人しく血を吸われる捕食者なんて居る筈ないし、俺にはそんな献血の趣味は無い。

 だいたいこのまま黙って食われてたまるか! 何とか身動きを封じる髪から抜け出してこの妖を倒すんだ! 伊周の仇を取らずにこんな所で死んでたまるかよ! 俺は絶対生きて明恵や親父と母さんの下へ帰るんだ!


「誰がっ、お前なんかに勝手にされてたまるかよ! 《アフ=カ・あ、ぐっ!」


「あふ? 苦しいのかえ? そう焦って喚き怯えなくとも良い。直ぐに口から漏れる坊の嬌声を聞く事になるでのう。誰も坊を咎めたりなどせぬから、我慢せずに安心して快楽に任せて喘ぐが良い。封じられていた間の慰めに、我をもっともっと楽しませておくれ。褒美は……褒美?」


 そう言って一度首を傾げた後、妖は俺の耳に顔を近づけ、吐息を吹きかけながら頬を一舐めすると、俺の身体を締め付けて来る髪の威力が増す。

 だが同時に、緩々と微妙な加減で服の上から身体を撫で摩る様に、這いまわる髪が在る事を感じ、不気味さに思わず悲鳴を上げそうになった。

 締め付けられる苦しさと、胸や首筋以外に背中や腹それに……だんだんと口にできない場所にまで髪が纏わりつき、嫌でも抵抗できない気持ちよさが脳に伝わり、考えたくないのにそこにばかり意識が集中して行く。

 こんな妖にいい様に弄ばれ悔しさが湧き、意識を逸らしたいのにその巧みな蠢きに翻弄される。


「あ、くっ、やめっ……ああ、くぅ」


「ほほほほ! とても良い。その苦痛と快楽に逆らう歪んだ表情……。もっともっと(この)ましき声を上げて我を昂らせておくれ? 隠さぬとも我には坊の動きが手に取る様に分かる。ほれ、坊も猛って気持ちが良かろう? 如何して欲しいか言ってみるがよい。我に素直に申せば、今よりも更に蕩ける様な悦楽を味あわせてやるわえ。そして、もっと褒めてたも……れ?」


 また妙な表情を見せた後に、思い出したかのように興奮した妖は、緑だった瞳を赤く光らせ、大きく開いた口から舌を伸ばし俺の耳朶を舐り、穴の中へとその濡れそぼった先端を入れて来た。

 風の刃を放とうとしても、体の各部から伝わる刺激のせいで口を開けば妖を喜ばしかねなく、耳を舐められる感覚に耐えながら強引に口を閉じる。

 まだだ、もっと近くに来させるに何か良い手は……やりたくはないが、奴の視界さえも奪うにはこれしかないか。


「あっ、くっ、耳は嫌だ、口が良い……」


「くふ。そうか、堪らぬであろう? 正直に申した坊には褒美をやらねばならぬな。ほほほ、下もいい様に猛り脈打っておるし、我の接吻を受けて我慢できるかのう? 耐えてみせれば、そのまま口と舌で舐り可愛がってやろう」


 散々好き勝手言いやがって! 勿体ぶらずに早くしやがれ! くそっ、俺のファーストキスが……。

 心の中でそう嘆きながら、妖の顔が近づくのを待つ。

 結構下が不味い状況なので、会話の内容からするとバレバレなんだろうけど、そこは俺にもプライドが在るので、見られる前にマジで早くして欲しい。

 俺の願いが通じたのか、それとも切羽詰まった顔をしていたのか、ギリギリな俺にはその答えを考える余裕は無かった。


 舌なめずりをする妖の赤く濡れて艶を帯びた唇が迫ると、鼻の頭を甘える様に俺に擦り着け、その滑々とした柔らかさに驚く。

 妖はそんな俺の表情を見て、微笑みながらとても嬉しそうに目尻を下げ、そのまま目を瞑りゆっくりと唇に吸い付き、互いにキスを重ねた。


 今だ! 念動力で鬼人大王・波平行安をそのまま妖の頭を突き刺せ!


 そのまま舌を巧みに使って俺の口を割って開けさせると、チロチロと確かめる様に中に侵入してその舌で歯茎と口内を舐め回し、唾液を送り込みながら俺の舌を包む様に絡み付いてきて唇を蹂躙される。

 余りの心地よさと初めての衝撃とその強烈さに、目の前が白く弾けた錯覚に陥り、心臓が破裂しそうな勢いで鼓動を繰り返し、俺はすっかり当初の目的を見失いかけ……暴発する。


 目の端から涙が零れ頬を伝って落ちそうになったところで、優しげな満面の笑みを浮かべた妖にベロリと舌で舐めとられた。

 念じた筈の念動力は俺の考えを裏切った……、でも、本当に心で想った事は裏切らずその通りに行動して見せる。

 俺の背中でカランと空しい音を立てて、刀は地面に転がったのだ。


「くふ。どうやら今度(・・)は我の勝のようだのう。どうであった我の初めては? 坊のその泣き顔は……異常に我の魂を揺さぶる、歪んだその表情が非常にそそるわえ。気持ち良かったであろう? これは坊と我だけの秘密じゃが……そのな、我は、今迄封じられていた筈なのに、何故か坊の事を前から知っている気がする。そして今、坊と一緒に居るだけで、とても心地良かったのだぞ?」


 ……こんなの、卑怯すぎるだろ!! 何故俺はあの顔を、あの嬉しそうな瞳を見ちまったんだ!! この笑顔を斬れる筈が無い。

 だって、俺はあの時こいつを倒す事よりも、ただ『ああ、可愛いな』って普通に心の底から想っちまった。

 友康が、妖の眼を見るなって言った意味はこの事だったのだろうか?

 でも、もう俺にはこの妖を攻撃するなんて事は無理だ。

 例え伊周の仇だったとしても、俺はただの妖ではなく一人の女の子だって意識してしまったんだから、この時本当に俺はこの妖に完敗してしまっていた。



つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ