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18話 新機能?

ご覧頂ありがとうございます。

 俺と静雄に秋山の三人は今商店街に向かって歩いている。

 この時間だと銀行の営業時間ギリギリに成りそうだが、頼まれたパタパタ(明細記入)だけならATMの利用で済むので、特に急ぎはしない。

 その為適当に話しながらの移動なのだが、秋山だけが少々早足で先頭をきって歩き、どうも先行して歩調が合わない。

 やはりコイツは何か勘違いしていそうだった。


「秋山そんなに急いで何をするつもりなんだ? 言っておくが特に時間制限がある訳じゃないぞ? やる気があるのは結構だが、何をすれば良いかお前本当に分かってる?」


「えっ? ……えっと、急いで石田が盗ってきたカードを新品とすり替えた後に、元のそれを壊すんじゃないの?」


「お前なぁ……盗ってきたとか、すり替えとかスゲー人聞き悪いだろ。せめて持ってきたか借りてきたにしろよ。まあ、秋山の言うように交換するのも一つの手なんだが、それだと中身空っぽで余計不自然だろ。何でお前はそう最初から、破壊的な発想しか出てこないんだ。何でも直ぐ壊そうとするんじゃない! そんなお前には『クラッシャー茜』と言う、俺が考えたリングネームをプレゼントだ、頑張れ」


「いらないわよ! 何よそのリングネームって、私はプロレス? 何かには出ませんし、あんたの言う事も聞く必要無いんだからね!」


「いや、プロレスじゃなくボクシングな。気に入らないなら『ブロークンナックル秋山』でも良いぞ! お前の拳は……まてっロープロープ! 落ち着け、今の俺がお前のパンチを受けたら、冗談では無く本当に死ねる!」


「ロープ何て私には何処にも見えないわね……。私の拳がご所望ならくれてあげる! そんなに死ぬ死ぬ言うなら、いっそこのまま死んでしまえば良いわ!」


 秋山がいかに喧嘩っ早いかを改めて理解したのは良いんだが、その為に今俺の命が風前の灯火となりつつある。

 既に秋山のキルゾーン内に入っている俺には、時間を稼ぐべく後ずさりする事しか出来ない……と言うか、何で俺はもう死ぬこと前提になってるんだ? 静雄も笑ってないで何とかしてくれぇ!

 俺の思いが通じたのかどうか微妙だが、興奮して今にも拳が暴発しそうな秋山の肩を、ちょんちょんと指で突き、静雄が周りを見ながらこう告げる。


「落ち着け秋山、明人も冗談で緊張を解そうとしてやっているのは分かるが、そう騒ぐな。また注目されているぞ」


「「えっ」」


 俺と秋山は至近距離にいたお互いから三歩分程離れ、周りを見て……確かに注目を浴びていた、通学路なせいもあって他の帰宅中の生徒や、普通の主婦やそこら辺の人も居る。慌てて構えを解いた秋山に対して、俺はホッと安堵のため息を吐く。

 流石に一日に三度目の流血は勘弁して欲しい、しかも原因は全てコイツ俺の鼻は既にグラグラだ!


「あんたのせいで、余計な醜態を晒しちゃったじゃない。こんな恥をかかされたんだから、飲み物くらいは奢って貰わないと、全っ然釣合がとれないわよ!」


「普段からの自分の行動に、責任って奴をお前は持っていないのか。……すまん、今更だったな。出来ているならやらんわな、ハァ、仕方が無い。これ以上肉体言語で会話されても、流石に俺の体が持たんわ」


 そう言って俺はヤレヤレと首を振りながら、財布を取り出し近場に在った自販機へ五百円玉を投入する。

 ……勘違いしては困るが、決してこれは秋山の暴力に屈した訳ではない! 俺も喋って喉が丁度乾いていたからである。

 まあ、これでコイツが大人しくなるなら大した出費では無い、これはリスク回避の為の純然たる投資なのだからって静雄、お前もちゃっかりボタン押すのかよ。

 ガタン ゴトゴト ゴトン

 自販機がつごう三回同じ音を鳴らせ、品物を吐き出しそれを三人共一本ずつ取ると、その場に一時静寂が訪れた。


「ふー、美味しかったわ。ご馳走様。で、これからどう動くのよ? 石田の考えが分からないと、動きようがないじゃない。プランは無いの? プラン」


「うーむ甘すぎたな、次買う時はいろ@すにしよう。んで、お前はぷらんぷらんって煩いな、俺は別に揺れてねーつーの。これからの予定なんて確り最初に言っただろ?」


「渇きは癒せたが……小腹が空いたな。ふむ、となると明人、最初は銀行か?」


「そっ、他は移動しながらで済むしな。別に構わないだろ? お前らも何か用事があったなら、そこにも寄って行こうぜ」


 そう言いながら、飲み終わった缶を自販機横に在るダストボックスに入れようとして、俺は何気な~くその缶をトレード窓で見てみた。

 うん、別に何の変哲もない缶に違いないし、所有者名も……あれ? そう言えばコレをゴミに出したらどうなるんだ? 俺は缶を投げ入れ、再びそれを窓で確認すると所有者名が、『石田明人』から『―――』に変わっていた。

 ほ~、捨てたら所有者名が無記名になるのか……。


 それから俺は二人と適当に喋りながら、その辺に在った物を窓で見たり、それをトレードしてみたり確認しながら歩いていた。

 その会話の途中、静雄が急に立ち止まりこっちを見て首を捻る。


「その……少し良いか、明人?」


「ん? なんだ?」


「いや、今お前の鞄から覗いてるそれなんだが、いつ入れた?」


 俺は怪訝そうな静雄の視線の先にある、俺の鞄を見て焦った。

 ついつい、夢中になって適当に選びトレード決定した“毛がもこもこのスリッパ”が、鞄からはみ出ている。

 重さを感じなかった為たいして気に成らなかったせいで、それがはみ出ているのに全然気が付けなかったのだ。


「どうかしたの安永君? あれ? 石田あんたそのスリッパ拾ってきたの? さっきそこのゴミステーションに在った奴よね。毛がもこもこで、柄が家のにゃん太と似てるな~って思ってたのよ。でも、あんたの奇行には慣れたつもりだけど、それ、欲しかったの?」


「む、そうか……俺は気が付かなかったが、秋山が覚えていたのなら俺の勘違いのようだ。しかし不衛生だから、拾わん方が良い。気になるなら後でスリッパも見に行こう」


「あ、ああ。いやなんかこの毛のもこもこ感と、柄が良いな~って気が付いたら拾ってたぽい。静雄の言う通りばっちいから、捨ててくるわ少し先に行っててくれ」


 そう言って少し戻り、鞄から取り出し捨てようとして“触らなくても持ってこれる”なら“触らずに捨てる”事もできるのか? と考えトレード窓の枠に、さっきのスリッパを選択して入れる。

 交換する対象を選ぶのではなく、そのまま対象相手を“空”で操作してみるが、捨てる事は出来なかった。

 だが捨てられない代わりに“六カ所の枠の内一カ所を占領”する事で、枠に入れ選択した物を“直に持たずに枠に入れたまま運ぶ”事ができた。


 ふとした小さな疑問が切っ掛けだったが、ここで新たな『窓』の利用価値の高い使い方を、俺は発見する事に成功したのだ。

 すっかり有頂天になり、その発見の手立てとなったスリッパを枠から解除し、俺は鞄から取り出して強く抱きしめた。

 だが、そんな何かをやり遂げたかのような俺の達成感は、後ろから聞こえた冷たい声にかき消される。


「……遅いから見に来てみれば、あんたそんなにそのスリッパ捨て難いなら。もういっその事そまま持っていれば? ただし、あまり私達の近くには寄らないでね。バカが移りそうだから」


「明人、すまん。お前がそんなにそのスリッパを気に入っていたなど、俺には全く気が付くことが出来なかった。俺ももう不衛生だとか細かい事は言わん。我慢しなくて良い好きにしろ」


 秋山の顔には憐れみと諦めが窺え、静雄には生暖かい眼差しで見られて、俺は咄嗟に口を開く。


「ち、違うんだ! これには訳があって……別にこんなスリッパなんかどうでも良いんだからね!」


 焦った俺の口からは、以前読んだ事のあるアホ丸出しな台詞しか出てこなかった。

 そんな台詞を聞いた秋山と静雄は、二人で顔を見合わせると無言で歩きだし俺を置いて行く。


「ちょっ、待て。待てよおい。待ってくれ! 今のは違うんだ! ついうっかり変な事口走ったが、本当に深い意味は無い! マジでこんなスリッパどうでも良いし。ほら見ろ、こっち見ろ! 見れったら! なっ! ほらもう捨てた。捨てたから! ねえ、ちょ! おーい! 待てよー!」


 銀行に着くまでの暫くの間、二人は俺と離れて歩き一言も口を開く事は無かった。


新たに発見した、トレード窓の意外な使い方。

まだまだ話はつづく。

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