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187話

ご覧頂ありがとうございます。


6/3 名称に抜けが在ったので修正致しました。

  ×ホール

  ○ホイール


6/20 部位名称間違えを修正致しました。

   ×ブレーキキャリバー

   ○ディスクローター

 ぽかーんと、俺は刀を構えてやや上空を睨む伊周の姿を見ていた。

 森で倒れていたと思い助け起こした子供は、その偽りの姿を見破られ伊周に斬り棄てられたはずだが、それもただの紙切れに変わり今目の前の地面に転がっている。


「主よ、今の儂の姿を見ればそろそろ気付いた事じゃろう。この場所は有体に言えば姿なきモノにも形を与える狭間であり、主がそのような格好だったのも精神だけを引き摺り込まれたせいじゃな」


「そうか! だから真っ裸でこんな場所に居た訳だ。すると俺が今感じている肌寒さとかは、勝手に俺が周りの風景から無意識に“そうに違いない”ってイメージした結果か……」


「うむ、少しは分かって来たようじゃの。無駄な消費にはなるが……まあ良い。主は変わった嗜好を持っているようじゃが、何時までもそう“ぶらぶら”させては見苦しいしの。何か手持ちの物を媒介に、適当な羽織の姿でも思い浮かべるがよいぞ」


「……ばっ!? 趣味じゃねえし、ぶらぶらは余計なお世話だ! 誰も好き好んでこんな格好してた訳じゃねえよ! ハァ、もういい。イメージが左右するんなら、分かり易い制服で良いか。けど、お前の言うその媒介って何でも良いのか?」


 刀を避けようと反射的に体が反応していたようで、フキで作った下着擬きはあっさり抜け落ちていたから、伊周にぶらぶらと言われても仕方が無かった。

 もう好きにしろと諦めながら、取りあえず普段着ている制服姿の自分を思い浮かべるが、媒介にする物なんて手持ちにない。

 その辺に落ちてる物や、最悪このフキでも使えばいいのかな?

 さっき中身を調べた鞄の中身は、何故かどれ一つ取り出せなかったし、手持ちの物では無理なのではと疑問が浮かんだ。


「そうさのう。儂のように本来姿の無い筈の物や、ある程度の力を持つ物でも在れば問題無かろうぞ。主程の男なら普段から何かしら持っていよう?」


「お前気楽にそう言うけどな、俺だってそうホイホイ……そういや部屋の中にあった見られてヤバい物は、全部袋に詰めて持って来たんだっけ」


 恭也さんに見つかっては不味いと思い、師匠から貰った物も全部持ってきていたので、伊周の言う力ある物と言う前提条件は全て満たしている筈だ。

 俺は袋の一番上に入れていた銀貨を取り出し、制服に変わる様にイメージすると手の中にあった銀貨の感触が消えると同時に、肌に触れる独特の肌触りを感じニヤリと笑みを浮かべる。

 まだ銀貨は在るので制服だけじゃ無く、他の着る物も次々に変化させ身支度を整えたが、この腰から出ている糸だけは消える事は無かった。


「おっし完璧だ! やっと原始時代から現代に戻った気がするわ。しかしこりゃ楽でいいな。イメージ次第で何でも出せるなら、もうなんでもアリだよな?」


「ほほう? その様に素早く着替えるとは……中々強い意思を感じるの。重畳重畳、それでこそ儂と契約を結んだ男よな。して、その口ぶりだと次は何を出す気じゃ?」


 伊周の合いの手に「フフフ」と態とらしい笑い声をだし、ちょっとばかり得意になって腕を組んで見たりする。

 俺ら以外にはどうせ知り合いも居ない事だし、少しくらい馬鹿をやっても平気だろう。

 普段じゃ出来ない事をして見るのも、今なら誰に咎められる訳でも無い。

 俺はそのまま勢いに任せて、ある物を無免許で動かすつもりだった。


「その質問を待っていた! 勿論何か乗り物をイメージして出すんだよ! 歩くよりも余程早く先に進めるし、それでこの糸を辿って行こうぜ」


「ふむ……主がそう言うならまあ良いか。儂の思い浮かべる乗り物と言えば馬になるが、今では馬では無くあの風の様に走る鉄の車でも出す気じゃろ?」


「伊周君、それを訪ねるのは野暮ってもんだ。まあ見てからのお楽しみってな!」


 俺はあの宮下さんの所で部品交換までしたお蔭もあり、試しに十字路の悪霊から手に入れたあの日傘を取り出し媒介として使い、構造も含めてイメージすると漆黒と銀の混ざり合った輝きを放つ、凶悪さと不気味なデザインが混合したバイクが姿を現す。

 ……決してこの外観は、俺が選んだ訳では無い事は先に述べておく。


「これは、本当に乗って走れるのか……?」


「随分と面妖な形の乗り物じゃの。そこに出した物は、儂があの小僧に手助けしてやった時に斬った物に少しばかり似ておるが。主よ、この様な物に乗って大丈夫なのか?」


 媒介元が悪霊の持っていたゴシック調な日傘だった事もあって、シックな仕上がりだがフロントフォークやヘッドライトが蜘蛛を連想させる作りで、筒状の部分が蜘蛛の足の関節のようだったり、蜘蛛の眼の様に全面に大きなライトが二つ、更にその横に小さ目の物が二つ付き計四つで構成され、ホイールも蜘蛛の巣をイメージした物に変わり、ディスクローターが牙のように伸びて尖っている。

 他にもシートが髑髏のような蜘蛛の腹みたいな柄で、ハンドルもゴツゴツしていてマフラーやステップには棘が生えていて、何だか乗るのが痛そうな作りだ。

 若干毎週日曜の朝に放映している、特撮ヒーローの悪役的な何かが組み合わさっている気がしないでもない。

 ただ一応キチンと動きそうなので、何でも試してみるもんだと少しだけあの宮下さんの所で行った、油臭い苦労が報われた気がする。

 でも、俺の連想した筈のバイクはCBR400Fだったんだが……と首を傾げた。




 俺は今あの奇抜なデザインをした日傘が媒介元のバイクに跨りながら、風を切り左右に流れる草や木を睥睨し、偶に光る半透明な糸を辿り道なき道を進んでいる。

 腰に響くエンジンの鼓動や体に感じる加速感は十分なのに、地面から伝わる筈の振動が森の様相とは一切関係ないとでも言う様に、ほぼゼロに近いので運転していても現実感が薄かった。

 自分で運転していると言うより、生きた機械に乗せられているとでも言うような、奇妙な感覚を味わっている。

 進みたい方向に向かって動いてはいるが、「もっと暴れたい」そんな意思に近い物がバイクから伝わり、俺を試している様に感じて少しだけハンドルを握る腕に力を込めると、返事をするかのようにギュッと音が鳴った。


 後ろに乗せた伊周は俺の心中などお構いなしに「クカカカ! これは良い! 実に良いぞ! 主よどんどん先に進むが良い! 我等の前に立ち塞がる物は、全てこの儂が斬り伏せようぞ!!」とテンションを爆挙げし、数メートル先に在る傷害物を手に持った己自身を振い、次々と薙ぎ倒していく。

 まるで今までの鬱憤を晴らすかのような勢いのまま、伊周が破壊の限りを尽くすので、進路上に合った鳥居や祠に石像らしき物さえ真に読んで字の如く、一刀両断に斬り裂き吹き飛ばしたので若干引いた。


 途中何かの悲鳴や叫び声も聞こえた気がしたが、気のせいだったと思いたい。

 ……お前は曲がり形にも神が付く存在の筈なのに、それでいいのか? と言う言葉が喉元まで上がって来たが、俺は口に出さず飲み込んだ。

 今のヒャッハーな状態のコイツには、何を言ってもきっと無駄に違いない。

 流石刀の付喪神なだけあって、バイクの加速に負けない素晴らしい働きぶりを見せ(褒めて無い)、言葉通りに目の前の物を斬り伏せて行き、何かにぶつかるような不安は微塵も感じさせない程だ。

 この入り組んだ森の中を進む俺達は、差し詰め秩序の破壊者だった。


「これでも結構なスピードで走っているんだけどな。今時速五十キロだぞ? 流石にこれ以上は出せない。と言うか明確なイメージができんし……」


「フン、情けないが面倒な制約よな。閉じた世界故に仕方のないものよのう」


 これ以上は無理だと答えると、不満そうに鼻を鳴らし背中で伊周が呟く。

 俺がバイクの運転をした事は過去にほんの数回、多少の違いはあったが動かし方だけは問題無く分かったけど、これ以上のスピードは出した事が無いのでイメージが付いて来ないし、かと言ってバイクの意思に任せるのは不安だった。

 一応スピードメーターはもっと上もあるけど、今の俺に無意味な物でしかない。

 地面からの振動がそれ程大した事がないのも、舗装された道でしかバイクを動かした経験が無いからかと予想する。

 一応糸を頼りに進んでいるのだが、彼是二十分近くは走っている筈。

 そろそろ目的の相手に……って、どうやら終着点に着いたようだ。


 俺達の視界の先に、石で組み上げられたような階段が目に入った。

 ここまで煩くその存在を示していたバイクのスピードを落とし、マフラーから漏れる排気音がトロトロと緩まると、ブレーキを握りキュキュッとディスクローターの擦れる音が辺りに響き渡る。


「クカカカカ、愈々主と儂を斯様な場所へと連れて来た元凶と対面じゃな。儂の鬼人大王・波平行安が早う彼奴を斬らせろと唸りを上げおるぞ!」


「お前、言っている事が辻斬りも良いとこだからな? 危ないからそんな物騒なもんをブンブン振り回すなよ……」


 バイクから降り杭のようなスタンドを地面に突き立てながら、かなり興奮気味に刀を構える伊周に釘を刺すが、今のコイツは好きなだけ暴れて気分は最高潮のようだ。

 俺としてはさっさとここから出たいだけなので、この先に居るであろう相手と穏便に会話で済むなら、それに越したことは無いと思っている。

 なんせこんな場所には今まで来た事なんて無いし、相手は俺の精神(と言うか魂?)だけを引き摺り込み、尚且つソウルの器から力を盗むような奴だ。

 一筋縄では行かないかもしれないが、未知の危険を回避しようとするのは当然の考えだと思う。

 十分とは言えないが、念の為残りの銀貨を何時でも取り出せる等にポケットの中に入れながら、俺と伊周は石畳で出来た広い階段を上って行った。


つづく

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