表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/213

182話

ご覧頂ありがとうございます。


5/29 文章がおかしくなっていた箇所を修正致しました。

 暴走した石田君の放った風の槍が私のコートと服を引き裂きその結果、胸を見られた羞恥のせいで顔が熱くなったのも束の間、命令待機させていた連結符への停止させる事も忘れ力を解放してしまう。

 今は右手にデコボコな消火器を持つ彼の母親である英里子さんに、いったい何が起きたのか説明を求められ、仕方なく所々事実を伏せつつ目の前に広がる惨状をどう話そうかと、私は途方に暮れていた――





「……最近妙にコソコソしていると思っていたら、あの子がねぇ」


「彼も悩んでいたとは思いますけど、こういう場合近くに居る家族よりも寧ろ第三者の視点で考えられる他人や、経験者に相談する方がどう思われるか不安もあっただろうし、気持ち的に多少楽では在った筈です。とは言っても私の時は、親が既にそう言った仕事を持っていましたから、余り参考にはならないかもしれません」


「それでも……、偶然瀬里沢さんのお宅で会った事が切っ掛けで、近くに菅原さんのような方が居たからこそ、明人も助かった訳ですし。改めてお礼を言わせて頂きます。本当にありがとうございました」


「あ、あの、本当そんなに頭まで下げたりなんてしないで、お願いですから顔を上げて下さい!」


「そう? じゃあ頭あげちゃうわね。これからもご迷惑かけるかも知れませんが、明人の事どうかよろしくお願いします。……それで、話は変わっちゃうけど、お夕飯もう直ぐ出来上がるし、折角だから菅原さんも是非食べて行って下さいね?」


「え、ええ。まだ石田君に確かめたい事もありますので、私も遠慮なくお言葉に甘えさせて頂きます。その後で改めてこれからの事を聞いてみるつもりです」


 今こうして頭を下げとても真摯な対応を受けていると、先程起きた事が嘘のようにも感じ、思わず自分の記憶を遡ってしまうのも仕方のない事の筈だ……。





 ――息を荒げ消火器を片手で振り上げた英里子さんを見て、本当にどうしようかと頭痛がする思いだった。

 でも彼女は意外と状況を見て立ち直りが早く、会話の前に私と一緒に庭で全身を水と泥で汚した箱根崎君と石田君の容態を確認。

 あの時石田君が暴走する鍵となった異様な力の収縮を繰り返していた物が、庭に転がり落ちていたのを発見。

 それが病院で見た“勾玉”の仕業で、収縮を今も続けている事も分かり、こっそり《束縛符》に包み回収。

 途中明恵ちゃんが「お兄、またやった……」と呟きながらゴム長靴を履いて、泡の付いたスポンジを持ったまま廊下から出てきたけど、ガラスの破片も落ちていたりして危険なので、英里子さんに促されお風呂掃除に戻って行った。


 ……先程聞こえた「また」って、石田君はもしかして割と暴走しやすい?

 良く在る事なのだとしたら、少し早目に力を抑える事を教えるべきかと、事務所で預かったままの、『日野倉妃幸』の御霊の件も考え取りあえず保留にする。


 この庭と居間の惨状の殆どは私が最終的に仕出かした事なので、黙々と庭に流されたTV等の居間に在った電化製品や、その他の物を片付けていると居間に寝かせていた二人の内、先に箱根崎君の痛みに呻く声で意識が戻った事に気付く。

 箱根崎君が呻く理由が渦に巻き込まれたまま撹拌され、庭に投げ出されたせいで怪我が悪化していたのだと分かり、本日二度目の救急車を呼ぶ事になる。

 ……彼は本当に怪我や生傷が絶えない。


 その間に遅れて目を覚ました石田君は、周りと自分の状況に理解が及んでなかったので、暴走していた事もあって念の為少し離れ話をしてみたが、記憶があやふやらしく混乱していた。

 でも箱根崎君に怒鳴る様に呼ばれ何か受け取り、「忘れるなよ!」と釘を刺され担架に乗せられ運ばれて行くのをぼんやり見ていたが、彼と何を喋っていたのだろう?

 何の事か気になり聞いてみたけど、石田君には「よく分からんけど約束しちまったんだ」とそれ以上の事は教えてくれなかったので、病院へ箱根崎君の様子を見に行った時にでも聞こうと思う。


 一通り片付けた所でさあ話し合いと思ったら、英里子さんが石田君の後ろへ忍び寄り抱きしめ、頭を近づけて「こんなに心配させたんだから、明人には御仕置は必要ね」と言ったまま、巻きついていた腕がその意識を刈り取ったのを見て、彼がファミレスで彼女の事をとても恐れていた理由が分かった気がする。

 いとも簡単に「御仕置」の一言で、息子を落とす(意識のみ)母親なんて他では見られないだろう。


 私の父も大概な人だったが、彼女の技量はその辺の主婦が行うような素人技には思えなかった。

 なので、若干腰が引けた事は否定できないけど、私は彼女に問い詰められる前に居間の惨状の原因の一つとなった“勾玉”を取り出し、古物商としての設定がまだ生きているので、古い物には稀に変わった力が宿る事が在ると語り、それを見つけ出し封じていると少しの真実と嘘を交えて、これまでの経緯の説明を終える。


 ……色々仕事を請け負う事で、私も人を騙す事が随分上手くなったなと思わず溜息を吐きそうになった。





 んあ? 俺って確か家に帰って来て……? 居間で母さん達を見た後、箱根崎と廊下で会話して明恵に風呂掃除を頼んだ、そして恭也さんに腕輪の……あれ? 何故急に「おっぱい」って単語が頭に思い浮かぶんだ?

 俺って知らん内に大分溜まってたのか? 何で起きて直ぐおっぱい?

 そこは先ず……って違う! そうじゃなくて、何でずぶ濡れで居間に寝転がってた挙句、箱根崎がまた救急車に乗せられて行ったんだっけ?

 あ、なんか思い出してきた! 母さんが俺に御仕置きって耳元で囁かれた後からの記憶が無いんだ。

 大方また母さんに何かされたんだろうけど、本当に「御仕置き」に容赦ないよな。


 ハァ、先ずは電気つけるか……。


「えっと、こういう場合は状況確認が大切だって、静雄が行ってたな。体は節々が痛み、ここは俺の部屋で……着てる物が違う!? って、濡れたから着替えたんだっけ。えーと他はスマホが机の上、そう言えば勾玉無くなってら……『窓』開けば分かるか?」


 と言う訳で『トレード窓』を操作し枠内も確認した所、所有権は残っているので勾玉はどうやら家に帰る途中で落とした訳じゃ無く、近くには在るみたいだ。

 居間で俺が何故か暴走して水がどうたら言ってたから、その時落としたのかな?

 風の要素はかなり操作も上手くなったつもりだけど、俺って水の要素も使えるのか? まあこれは後で試してみよう。

 他は……日傘、伊周、呪いの短剣セット、鞄、手元から無くなった物は、勾玉以外にないな。

 最後にベッドの傍に在る目覚まし時計を確認、丁度二十時を過ぎたとこだ。


 いつの間にか体中に軽い打撲傷もあって痛怠いけど、腹も減ったし下に降りて何か食い物でも探そう。


「きっと母さんが何か作ってるに違いないし、明恵におかずを減らされていたら風呂掃除報酬のプリンは半分だな」


 善は急げとばかりに、そう独り言を呟きながら一階に降りようとした途端、内側にドアが開きドアノブを掴もうとしていた手に衝突した。


「あだっ! って、誰だ! ドアを開ける前に先ずはノックしろよ!」


「あっ! お兄起きてた! あのね、母に起こしてきなさいって、ご飯!」


 俺のもんくも何処へやら、明恵は俺が起きている事に気が付くと、嬉しそうにそのまま勢いよく腰に抱き付いて来た。

 勢いの乗ったタックルは、中々に威力が在ったが慌てて掴んだドアの縁でバランスを取り、倒れる事だけは防いだ。

 最近こいつも重くなってきたし、外じゃよく走り回ってるみたいで元気いっぱいらしく、朝起こしに来た時のフライングボディプレスはかなりの脅威だもんな。

 ……本当に今朝から酷い一日だったなと改めて思う。


「ああ、分かったから。それで今日の夕飯は何だった? 明恵はもうおかずを見たんだろ?」


「あのね、ささみフライだよ。母とお姉ちゃんが待ってるから、早く」


 ほほ~今日はささみフライか、ん? お姉ちゃん? 何故かまた頭の中に「おっぱい」と言う単語が、太字の明朝体で浮かんで来た。

 ……俺はけっこう重症かもしれん。


「明恵、お姉ちゃんってもしかして……お前を擽ってた人か?」


「うん! 明恵を捕まえる凄い人。お兄が起きる前、母から服借りて着替えてた」


 母さんから服を借りて着替えてた? 俺も全身びしょ濡れだったし、恭也さんも濡れちゃったのかな? ……あれ? 何故か誰かが中々にボリュームのある胸を揉んでいる風景が――


「!? 何で恭也さんは上着から胸を剥き出しで乳揉んでるんだよ!? あの人は痴女って言うか、俺はあの人にいつの間にか欲情していたのか!?」


「きょう屋さん? 父のんでる? よくじょー?」


 そんな純真な眼差しで俺を見ないでくれ! 俺はお前の視界に映っても良いような、お兄ちゃんじゃないんだ……。


「あ~何でもないからな? ……ほらご飯が逃げちゃうぞー! 突撃だ!」


「きゃー! ジェットコースター!」


 思わず口走ってしまった事を誤魔化す為に、明恵の両脇に手を入れ持ち上げ、そのままドタドタと階段を駆け下りた。

 善い子は危ないから真似しちゃダメだぞ? 特に明恵は俺以外にはさせん。

 俺はきっと疲れているんだと頭の中で誰かに言い訳しながら、明恵を小脇に抱え直し台所へと直行した。



つづく


揚げ物をする時は、近くに消火器を常備が英里子さんクオリティ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ