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179話

ご覧頂ありがとうございます。

 やっと事故の問題も片付いて、帰りにまたスーパーにでもよって明日の祝いに使うお酒を何とか仕入れられないか、店長に相談しに行こうと思っていたらまた問題発生だよ! 今日は本当に厄日だ! しかも飛び切りって奴が付くにに違いない。


 耳に当てたスマホから恭也さんの声と、オマケに隣に居る箱根崎が何か言っているが、今はそんな事よりも問題なのは明恵が俺と同じような体質になっていると仮定して考えてみる。

 それが恭也さんから兼成さんへ伝わり、俺が例の後継者候補を断った今だからこそ明恵を寄越せだなんて……アホな事言わないよな?

 どうにも不安しか思い浮かばないが、だからと言ってこのままって訳にも行かない、なんせ恭也さんは既に本丸手前とも言える俺の家に居るのだ。

 何か良い手が……。


「おい、さっきから返事もしないで何を黙り込んでんだよ? また何か厄介事か? 流石に俺も今日はもうこれ以上動きたかないぜ? いい加減怪我人を休ませやがれ!」


 こいつは人の気も知らな……いや、待てよ。

 どうせだからちょっと試してみるか? 今日一日、最初は最悪な出会い方をしたけど箱根崎と一緒に行動してみて、どうしようもない野郎だと思う事は在っても根っからの『悪』って訳じゃ無かったしな。

 ちょちょいとスマホのマイクのボリュームを弄って、よし準備はOKだ。

 俺は箱根崎に向き合うと、こいつの目つきの悪い瞳を見ながら訊ねる。


「なあ箱根崎、もしもだぞ? これはifであって仮定の事なんだが、お前の知る恭也さんがどう考えても間違いだと言える事を仕出かそうとしたら、同じ職場で働くお前はどうする? 黙って一緒に追従するか? それとも止めるか?」


「あ? 急に何真剣ぶって言ってんだ? んなもん在る訳ねぇだろ? 馬鹿やんのは俺やお前の仕事だからな。だからあの人が間違いなんか起こすかよ。けどよぉ…………もし、恭也さんが間違えたとしたら、そんときゃ俺がぶん殴ってでもあの人を止めてやらぁ!」


「ふーん。……そこで馬鹿やるのに俺が混ざる事は納得いかないけど、そうなんだ? そのセリフに二言は無いよね?」


「んだよ、その反応はよ! んな目でこっち見んじゃねぇ! 手前が行き成り訳の分かんねぇ事聞きやがったんだろがっ! 態々真面目に答えてやって損したぜ。今の俺の考えた時間分金寄越せ!」


「お前そこで最後に金請求するのかよ? 何か締まんない奴だな。……だってさ」


「あ? 何がだってなんだ? いいからタクシー代と恭也さんの居場所教え「そうだったんだ。箱根崎君、キミはボクが間違いを起こしたとしたら、殴ってでも止めようとするんだ? これは迂闊な事は出来ないなぁ~」へっ? …………あの、何と言うか、そのっすね? 今のっ、どこから聞いていたんすか!?」」


 箱根崎は今言った話が、恭也さんに筒抜けだった事に今更気が付いたようで、泡食った様にトーンの外れた声で言い訳の言葉を述べるが、吐いた唾は呑み込めないのだ!

 恭也さんは最初に電話に出たような雰囲気は消えて、普段の彼女らしさが戻って来たのでもう一度言葉を重ねておく。


「とまあ、そう言う訳だから。今からそっちに行くんで、くれぐれも間違いなんて起こさないでよね?」


「……キミが何をそんなに警戒しているのかボクにはさっぱり分からないけど、そうだね少し興奮しすぎていたみたいだし、自重しようと思う。それじゃあお茶をごちそうになっているから、二人ともボクの気が変わる前になるべく早く来てほしいな」


「あ、あのっすね。聞いてますですか? 恭也さん? さっき言った台詞は全部その、言葉の綾って奴っすよ? ねえ? 聞いてます?」


「箱根崎、お前何度目か分からんけども顔が近いし邪魔! じゃあそう言う事で」


 そう言って俺が電話を切ると、箱根崎は折れてギブスで固めて在る筈の右手まで駆使してスマホに向かって弁解をしていたが、ガックリと首を垂れ肩を落として背中を丸め今はどんよりとしている。

 すっかりやつれた雰囲気を醸し出し始め、一気に生気が無くなった様に思う。

 いったい俺の知らない二人の間に、何が在ったんだろう?

 具体的に想像する事はできないが、何となく昼間のファミレスでのあの冷やかな感じを思い出すに、案外こいつも苦労しているのかも知れない。

 と言っても全然同情はしないけどな! 好いた相手と二人っきりで尚且つ一緒の職場なんて爆発してしまえ!


「そう言う訳だから一緒に来て貰うぞ。だから悪いけどもう暫く付き合って貰うし、序だから恭也さんに土産の一つでも持って少しは機嫌でも直してもらうか」


「もう、お前の好きにしやがれ。こんちくしょぅ……」


 さっき俺の前で啖呵を切った男らしさは微塵も無く、すっかり萎れて語尾が掠れていた。本当に悪いとは思うけど口にはしない。

 このまま箱根崎には人質って訳じゃないが、一緒に付いてきて貰う事になった訳だし精々役に立ってもらおう。

 今の段階で、恭也さんが明恵に何か手出しする確率は低いだろうから、これでスーパーに寄って普通に酒も買えるし、秋山の真似じゃないけどまさしく一石二鳥って奴だな。


 そう思いながら、俺と箱根崎は事故現場から少し離れた場所でタクシーを拾うといつもの商店街へと先ずは寄る事にした。





 タクシーを入り口で待たせ、箱根崎を引き摺りながらスーパーについて直ぐに店長の所へ顔を出して相談し、人数が多めと言うと四リットル入りのウィスキーを勧められ、店長曰く「飲み易い」との事で購入を決める決定打となり、今持ち帰るには都合が悪いので二十箱買うから明日の朝五時頃に取りに来ることも了承して貰い、お土産には店内のフードコーナーに在るたい焼きを買って素早く店を出る。


 隣で半分寝かかっている箱根崎を一瞥した後、俺はタクシーで移動する最中にスマホを弄りながら改めて明恵の事を考えていた。


 たぶん家に着いてから問題となりそうなのが、明恵のソウルの器が解放された事で、本当に俺と同じ様な状態になっているかが一つ。

 残念ながら俺には恭也さんや、箱根崎の様に漏れ出す力なんて奴は今の所さっぱり見えやしないので分からない。

 でも向こうに見えて、こちらに見えないって言うのはかなりの問題であることは間違いないし、それで目を付けら巻き込まれるなんて迷惑千万である。

 実際に十字路の悪霊(オニ)には酷い目に遭ったしな。


 だから俺は兎も角、明恵の事を知られるのはもっと恭也さん……いや、“菅原の人間”を信頼出来てからだと思っていたのに、どうして最近はこう“突発的な事”ばかり起きるのやら。

 そう思案しつつ、今の内に静雄達には怪我は大した事無くかすり傷だとメール返信をする。


 あとの懸念事項はあの腕輪を見つけられた事がもう一つの問題だ。

 何処で手に入れたって聞かれても、アレは師匠から預かっただけの物だし、要返却だからと言えば余計な手出しはしてこないだろう……と思う。

 一番の問題は、俺の部屋にある冷蔵庫と師匠から貰った何個かの各要素の付与された道具に明恵の持つ魂の石等、こうして一つ一つ挙げてみると結構な数が在る事に溜息が出る。


 今の所師匠の事や、あちら側との繋がりを誰かに話す気は全く無いので暫くの間は現状を維持したい。


 どう考えても仮初の石を使ったソウルの解放は体調を崩すし、それ以外に何が起きるのか確証が無いから人体実験はしたくない。

 更に言えばこちら側では争いの種にしかなりそうもないので、広めるなどもっての外だろう。

 タダでさえ過剰とも言える威力の力を得てしまう可能性が高い訳だし、服が燃える程の火に包まれても熱さは感じても火傷一つしてないとか、もう俺はかなり異常な体質になっているし(ネズ公のお蔭でも在る訳だが)、世間にばれるのだけは絶対に避けたい。

 最悪どこかの実験施設でモルモット扱いなんて、俺は御免被る。

 扱い方を間違えなければ便利なのは否定しないけど、瀬里沢の事では手助けをして貰ったとは言え、俺の力を知った兼成さんも何だか怪しい上に、何か企んでいて今一つ信頼は出来ないと思うのが正直な感想だ。


 そもそも要素の力自体は、誰でも大小の差は在っても元から持っている物のようだけど、実際に現象として要素の力を行使するには呪を唱える必要があった筈。

 ……試しにノリの良い瀬里沢にでも唱えさせてみるか?


 兼成さんは、瀬里沢にはそう言った力の素質は無いと言っていたけど、俺の使う要素の力と兼成さん達が知る力とは、根本的な物が違う気がする。

 勝手に勘違いしている分には都合が良いので、黙っているつもりだ。


 だいたい同じ力を持っているなら、それを感じ取る事や視る事だってできてもおかしく無い筈だし、俺も明恵がソウルを解放した時には光みたいなものを見たけど、普段からその光が視えたりなんかは……「――さん、お客さん着いたよ? 隣の人も寝てるけど怪我をしているようだし、何なら肩を貸すかい?」


「あ、どうも。隣の奴は起こせば一人でも歩けますんで大丈夫。えと、少し考え事をしていて聞いて無かったんで。幾らですか?」


 どうも考え込み過ぎていたらしく、家の前に着きタクシーが止まった事にさえ気が付かないでいたようだ。

 ……俺ってこんなに何かを考えたり、周りが見えなくなるほどの集中力があったっけ?

 少しばかり自分に疑問を感じたが、首を傾げながらも運転手さんにお礼を言って代金を払うと、たい焼きを抱えた箱根崎を起こして俺は玄関の扉を開けた。


つづく

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