表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

174/213

173話

ご覧頂ありがとうございます。

 ここまで引っ張って来た箱根崎は、解放された腕を痛そうに左手で押さえているが、コップの中身は無事だった様でテーブルの上に確り置いていた。

 流石にライディングウェアに零すと目立ちそうだしな。

 恭也さんはそんな箱根崎を見もせず、具合を確かめるように手を握ったり開いたりしながら視線は俺の方を向いていて、先程の返事を待っているらしい。

 きちんと怒られて来いと言った事もあり、結果を知りたいようだ。


「それが、実はもうそこに来てて見つかっち「はっ? もしかしてさっきお前に声かけてた女がお前の母親かよ!? 随分と若くね?」……話に割り込むし、本当に邪魔ばっかり得意だな。少しは喋らせろ!」


「そうだね、箱根崎君の個人的感想は置いておいて、二人の話からすると石田君は母親に先に見つかった上に、もう店内に来て居る訳かな? これは一度ボクも直接挨拶で……ちょっと待った。キミが持っている物はもしかして!?」


「あ、これ? 例の十字路の悪霊から奪った奴だけど、こいつがもし手元に無かったら今頃散々な目に遭ってたわ。と言うか、元を辿れば奴さえいなけりゃこんな事にならなかった訳だし、貰っても当然だよね」


「……貰ってもって、キミ簡単そうに言うけど、それがどんなに非常識な事か分かってないよね? いいかい? 本来ならこの世に存在する筈の無い物を、誰の目にも見えて触れる程そこに在ると思わせる事が、どれだけ凄い事なのかキミは本当に分かっているのかい?」


 軽く説明しながら得意になって日傘で肩を叩いていた俺に、恭也さんは呆れを通り越した様な雰囲気でこの日傘から目を離さず熱く語る。

 箱根崎は「恭也さんだって見たら分かるっすよ。けど言う程その日傘、大してなんも感じないっすね?」と言って胡乱げに見て、日傘の事よりも恭也さんの関心が自分に無い事で不満そうだ。

 ただ改めて凄い事だと言われても、元々見えていた物だから杉浦さんだって拾ってこれた訳で(『惑わし』で操作されていたとは言え)、大して不思議とも思ってなかった。

 だから今更どう言う顔をすれば良いか俺には分からんし、精々便利な道具が偶然手に入った的な認識しか無い。

 ゲームに例えて言うなら、特に意識せずに倒した敵がレアアイテムを落とした様なもんか?


「それじゃあ、実際にコレ触ってみます? 持った感じは割と普通の傘と違いがないし」


「そ、そうかい? キミがそう強く言うなら断るのも悪いし、折角だから少しお借りするよ。何だか催促したようで悪いね」


 俺は特別何か感じると言う物は無いが、恭也さんなら何か他にも分かる事があるかも知れないと考え何気なく言ってみると、恭也さんのメガネが一瞬光ったような錯覚を覚えた。

 先程から恭也さんの目が日傘に釘付けなので、もしかしてこう言った物を見るのが好きなのかも知れない。

 俺は日傘を手渡すと、あまり母さんを放置する訳にはいかないので箱根崎に「お前は来るなよ」と一言言って、早めに一端向こうに戻る事にした。


 母さんの座る窓際の席に行くと、さっきは多少困惑した様子だったが『惑わし』の効果で誘導した認識はそのままのようで、ホッと安堵の息を吐く。

 よく見ると携帯を弄っていたので、父さんにでも俺と合流した事をメールで伝えていたのかも知れない。





「お待たせ。それで注文はもう済んだ? まだなら呼んじゃうけど?」


「もうドリンクバーを頼んでおいたわ。でも急にいなくなるし母さん驚いたわよ? あなたの引っ張って行った人凄い怪我をしていたみたいだけど、さっきの様子だと明人の知り合いなんでしょ? 顔まで包帯に巻かれている人なんて、母さん久々に見たわ」


「あ、うん。知り合いと言うか、顔見知り? 今朝の事故で俺と一緒に巻き込まれて病院に運ばれたんだ。最初は意識も無かったんだけど、幸い骨折のみで入院は必要ないっぽい。見かけに依らず頑丈な奴だわ」


「そうなの? なら早く怪我が治るといいわね。ただ、さっきの人何だか明人に怒っていたように感じたけど、何があったの? 事故に関係ある事なら母さんも話を聞くわよ?」


 そう言われて警察から連絡も入っていた訳だし、少しだけ事故の様子を話す事にして、一度ドリンクバーで飲み物を取りに行った後続きを説明をする。

 朝学校へ行く途中で顔見知りの箱根崎に会い、少し話をしていると事故に巻き込まれ自転車はオシャカになったが俺は軽傷で済み、車道側に居た箱根崎は乗っていたバイクが大破して、あの姿になった的な事を言う。

 そこで杉浦と言う婦警さんにも会ったけど、事故後はお互いに忙しく別れたのでどうなったかは分からない。

 警察から直ぐに連絡があったのも、そのせいかもしれないと締めくくる。

 俺は一言も嘘は言ってないので、母さんの直観とも言える嘘発見には引っ掛からずに話し終え、これまでの経緯も納得出来たようで、途中俺の話を聞いて表情を変えたりしたが、何とか一件落着……。





「大変だったのね。それで婦警さんはどうし「石田君! キミが離れた途端あの傘から陰気が噴出して何とか抑えようとしたんだけど、これ以上は無理だよ!」……明人、こちらの変わったお嬢さんは何方?」」


「えっと、さっき話した箱根崎の職場の上司の菅原恭也さん。偶々事故現場に様子を見に来ていて合流をしたんだけど……」


 と思ったのも束の間、今度は箱根崎の代わりに恭也さんが何やら傘がどうこう言いながら、少々動揺した様子で此方に来たのだ。

 折角母さんも落ち着いたのに、これ以上の厄介事は勘弁してくれよ!

 俺は手で顔を覆うと、ガックリと肩を落としそう思うのだった。





 ――あの後、恭也さんが日傘と一緒に此方へ来た事で、俺の持っていた勾玉の効果で漏れ出していたと聞いた陰気は収まり(と言うか吸収され)、よく意味は分からなくても、兎に角恭也さんの様子が落ち着いた事で、母さんも驚いてはいたが俺に説明を求めてきた。

 なので、お互いに軽く自己紹介を済ませ(仕事は調査会社的な紹介だったが)、今は俺と母さん、向い側に恭也さんに箱根崎を交え、四人が同じテーブルに集まったのだが、コップに入ったコーヒーを飲んでもどうにも気が休まらない。

 結局日傘に関しての説明は見て分かる様な女性物の上、アンティークな装飾の施された上質な作りだったので、調べて貰っていた事にして誤魔化した。

 余りというかかなり納得してはいなさそうだけど、何がどう変なのかが分からなければ突っ込みようも無いので、母さんも黙って飲み物を口に運んでいる。


 俺は話がややこしくなる前にさっさと移動し、別れた方が良いと感じたので先ずはかなりの件数着信が届いているのに、まだ一度も返事に出て無い警察には此方から連絡する必要があり、きっと事故現場に置いて来た自転車の事と、事故の経緯に杉浦さんの事を聞かれると思うと話す。

 だからこれ以上面倒な事になる前に箱根崎を伴って、一度顔を出しておいた方が良い筈だと説明し、母さんには早々にお帰り願った。


 母さんは最初渋っていたが、父さんにも伝えなきゃいけないし、もう少しすれば明恵も家に帰って来るから、家で待っていて欲しいと念を押す。

 一応箱根崎も事故の当事者であり、二十歳を超えた大人なので大丈夫ですよと恭也さんからの後押しもあって、どうやら一緒に警察署まで着いて行く心算だったらしい母さんを説得する事に成功したので、何とかファミレス前で二手に別れた。


 何故二手かと言うと、恭也さんに母さんの事を頼んだからだ。

 何と言ってもこの若さで事務所を持ち、仕事を請け負っている社会人であり常識を持った人であり同じ同性だと考えたので、俺と何故知り合いなのかも上手く説明できるだろうと考えお願いした……のは建前で、ぶっちゃけるともう頭がパンクしそうで、ブン投げたとも言える。

 きっと問題ない大丈夫に違いない筈……だとイイナ。


 ファミレス前で別れ、恭也さんにも一緒に行けと念を押すように言われたので、渋々着いて来る箱根崎を伴い俺達も移動する。

 先ずは履歴に残った電話番号へ掛け直したところ、やはり警察に繋がり怪我の有無と症状を聞かれ移動に支障が無いと分かると、先ずは現場に来て欲しいと言われたが、横で耳を欹てていた箱根崎が面倒臭そうに俺からスマホを奪い「骨折していて痛むから、少し遅れる」と言い、返事を聞かずに電話を切った。


「ありゃ。お前そんなに怪我が痛むの? 行くの止めとく? なんならタクシー使っても良いけど」


「いや折ったばかりだぜ? 痛むのは当然だろ? タクシーに乗るのはいいけどよ、そうじゃねぇんだ。今の話で直ぐに現場に来いって事はよ、きっと向こうはまだ事故の原因を特定できてねぇ。そんな所に俺らがホイホイ行ってみろ、どうなると思う?」


「……もしかして、待たせたから俺ら怒られる?」


「まあ、怒られるくらいならマシな方だな。全部ってこたぁ無いと思うが、疑われるかもしれねぇ。事故の原因が違うって証明も出来なきゃ、否定できる要素が無いんだしな。それにあのねーちゃんのミニパトも含まれてるから、先に俺らの名前が知られてたとして見ろ、下手をすれば全部俺らのせいにされちまう可能性だって、よ~く考えりゃ否定できやしねぇだろ?」


「じゃあ、どうするんだよ? もう行くって言っちゃったし……」


「だからちょいと俺とお前で、打ち合わせをしとかなくちゃな。言われた通り一応現場には行く。理由は事故証明書を貰わんと保険が適用されねぇし、何より新車買うのに金が掛かり過ぎるからな。だから最悪の事も考えといてよ、その便利な日傘も使えば上手くバックれる事もできそうだろ? こういう時こそ頭を使わねぇとな」


 そう言って頭をトントンと指差す箱根崎は、頬と唇が歪んでいるからたぶん笑っているんだろうけど、生憎包帯で包まれた顔はとても表情が読みにくい。

 事故証明書なんて物があると初めて知ったが、確かに箱根崎のバイクは悪いことをしたと思うし、今言われたように予め最悪の事を考えておく事は必要かもしれない。

 普段は馬鹿だが案外抜け目のない狡賢さを持ち、俺の知らない事を知っている箱根崎を今始めて年上だったんだよなと思いだした。


つづく


5/9 誤字修正致しました。

  ×分かれた

   ○別れた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ