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170話

ご覧頂ありがとうございます。

 頼み事って言われても、今俺はただでさえ明日に控えた命名式の準備がまだあるし、『日野倉妃幸』を示す手掛りを見つける事も出来て無い。

 箱根崎の話を受ける受けない以前に、余裕がないし正直困った。

 こうして一応自分から頼む手前のせいか、隣で目を瞑り両手を合わせて俺を拝んでいるのだけど、内容を聞いたら断れる様な雰囲気じゃ無さそう……。

 如何するべきか、俺の返事を待っているらしい箱根崎を見て悩む。

 そんな俺達二人を怪訝そうな表情で見ながら、看護婦さんと患者さんが通り過ぎこの状況が恥ずかしい。

 取りあえず一度ここから出る為に、話を振ってみるしかなさそうだ。


「えと、今直ぐじゃなけれ「こうして俺が頼んでんだぞ? しかも怪我まで負ってあの悪霊(オニ)を倒す手助けまでしたんだから、当然今直ぐ受けるよな?」……はい」


 くそー! それを持ち出されたらもう無理だろ! 汚い! これが善い大人のする事か! ……別に善くも無ければコイツは大人でも無かったんだっけ。

 腹立たしく思うが、俺の方が大人だと考え矛先を収める。


「そう言やよ。俺は途中で気を失っちまったから分からなかったんだが、アレを倒した後あの女はどうなった? それと結構な怪我人が出てんだろ? さっき医者に、どう言った経緯で怪我をしたか聞かれて焦っちまったぜ」


「あ~何と言えばよいやら、要点を上げていくと……」


 言質を取られたが、箱根崎は“頼みを受けると言う返事”が聞きたかっただけらしくあっさりと話題を変えて来た。

 と言うより、こてまでの経緯を説明しながら感じた事が、箱根崎の奴はその時頭に思い浮かんだ事を、そのまま口にしているような気がしたのは間違いでは無さそうだ。

 現に話している最中でちょくちょく口を挟んできて、ツッコミが入り説明を中断させられる。

 こいつは絶対学校の通知表の欄に、担任の先生から“人の話を聞かない”と書かれたに違いないだろう。

 しかも、話す方が好きな割に、それ以上に手が先に出るタイプではないだろうか?





「――で、今俺はお前のTシャツとズボンを借りてた訳だ。もっとも『惑わし』が解けたら、辺りは玉突き事故真っ最中には焦ったけどな」


「……通りで見た事のある服を着てやがんなと思ったら、俺のかよ。まあ構わねえが、俺のお気に入りなんだ汚すなよ? しっかし……どうも引っ掛かるな」


「何が引っ掛かるんだ? 俺は嘘なんか言ってないぞ?」


「そうじゃねえ。本当に悪霊を始末したんなら、『惑わし』の解ける時間が妙に遅すぎるんだよ、普通はパッと消えちまうもんだ。……待てよ、お前確か奴が“日傘”を媒介にって言ってたが、そいつはどうなった? 勿論もう消え失せたか精々ぶっ壊れてたんだよな?」


 俺と多少声のトーンを落とし気味にコソコソと話しながら、偶に顔を指先で掻こうとしては止めているのは、痒みでもあるのかな?

 しかし、パッと解けるねぇ……そう言えば何で伊周は術の解けるタイミングとか分かったんだろう?

 奪った日傘も気になるし、ちょっと『窓』の中覗いてみるか。

 箱根崎に荷物を確かめて来ると断り、一端待合席から出て人の目に着かない死角に入り『窓』を開いてみた。


「どれどれ日傘は……“普通にある”ってどういう事!? 消えるんじゃ無かったのか? ログの確認も」


 声に出して口走っちまったが、何と言うか枠内に入れて置くと俺からの干渉以外は変異を受け付けないのは知っていたが、本来なら箱根崎の言う様に消えるか壊れる筈? “だった”ようだけど、この中に入っていれば劣化や破壊も起きず、更に“所有権が十字路の悪霊から俺に移り換わり”その形を残していた。

 つまり、あの『惑わし』が直ぐに解けなかった理由は、あの時俺が所有者になり微弱ながら、結果的には即時に効果を失う事にならなかった?

 しかも、この情報からするとあの十字路の悪霊、まだ“本体が滅んでない”で存在している……。





「……あの日傘、俺の物になってたんだけど。どういう事?」


「はっ? お前何言ってんだ? 確認に行ったついでに頭の中身をどこかに落としてきたのか?」


「そうじゃないんだよ。耳の穴かっぽじって良く聞け! あの悪霊まだ滅んじゃいねぇ! 俺達が倒したのは所謂本人(?)じゃなく、日傘に自分の力の何割かを分けて遠隔操作をしてただけで、元からアイツはあの場所を動いちゃいなかったんだ!!」


「……マジ?」


「いい加減にしてください! ここは病院で騒ぐ場所では無いんですよ!」


「へぇ、二人ともボクを放って置いて、随分と愉快な話をコソコソとここでしていたんだ? 箱根崎君も石田君もここだと迷惑を掛けるし、ちょっと外でお話しようか?」


 俺が焦りながら箱根崎の元に戻り、今知ったばかりの情報を慌てて伝える。

 ……のだが、あまりの出来事に声の大きさを抑える事が出来ずに騒いでしまい、先程処置室で注意をしてきた看護婦さんに今度こそ怒られた。


 更に受付待合席で待たされていた恭也さんは、戻ってこない俺達の代わりに会計を済ませ処方箋まで受け取って来てくれていたらしい。

 それでも戻ってこない事に流石に痺れを切らしていた所で、俺が診察中待合所を行ったり来たりしたのを見て此方へ移動。

 そして顔を出したのとほぼ同じタイミングで重なり、今俺が吐いた話も聞かれた事で、とてもイイ笑顔をしたままの彼女に病院の外へ連行される破目になった。


 普段笑顔と言うものは、対する相手に嬉しさや楽しさ他にも色々と己の感情を伝える目で分かる情報だが、今は怒りを伝える手段に使われ俺は如実にそれを感じ取り体の在る部位が、何故かヒュンとして縮み上がっている。

 滲み出る気配がヤバイ! 一階の総合受付ホールに着いたら通路に居た人が道を開けるように左右に割れたよ!?

 普段大人しそうな人が怒ると怖いってこの……あれ? 恭也さんって、大人しい人の部類か? 箱根崎も包帯で見えない筈だが顔を青くさせていそうだった。





 そうこうしている内に、何故か近くのファミレスに入る事になり昼前でがらんとした店内の奥の席に案内され、「ご注文の品がお決まりになりましたら及び下さい」とウェイトレスのおば……お姉さんに言われ今に至るのだった。


「それで、ボクを除け者にしてあそこで何を話していたのか、全部教えてくれるんだよね?」


「「はい! 勿論です! 是非とも喋らせて下さい(欲しいっす)!」」


 運ばれてきたコップの水が、目の錯覚でなければ氷マシマシと言うか、中身が全部氷りつき、向かいに座る恭也さんから凍気を感じる(誤字じゃ無い)。


 笑顔は変わらずだが、ここで返事を間違える様なら静かに怒られると言うか、このまま知らぬ間に凍らされていそうで、俺達の答えはYES一択のみしかない。

 隣に座る箱根崎の口調が戻っているけど、改めて理解した事はコイツ下手な猫を被っているんじゃなくて、恭弥さんの躾によって既に調教済みになっている飼い猫の間違いだっ!

 俺達は互いに補強し合いながら、今朝の出来事から分かっている事全てを語る。

 不思議な事に、俺達が語り終わり恭弥さんが怒りの気配を収めるまで、一度もウェイトレスのおばさんは注文を取りに来ることも、様子を見に来ることも無かった。





「そうすると、今回の事故のせいで十字路の悪霊は多少力が削がれたようだね。滅ぼせなかったのは残念だけど、『勾玉』も手に入ったし暫くは様子見で問題なさそうで結構な事じゃないかな。ボクとしてはそんな事よりも、件の奪ったって言う日傘、キミのモノになったって言い回しがとても気になったんだけど、どういう意味なのかな?」


 恭弥さんは、アレから注文をして届いた紅茶を飲みながらそう言う。

 俺は寝坊したせいで朝を抜いてやたらと腹が減っていたので、かなり遅い朝昼兼用の食事となり頼んだ大量の食べ物がやっと来たので、忙しく口と手を動かし目一杯に頬張っていた。

 箱根崎は右手が利き手だから慣れない左手でフォークを掴み、顔を顰めながら頼んだカルボナーラと悪戦苦闘中だ。


「ふぉははは、ほっほはふほほは」


「……ごめん。キミは先ずその口の中の物を処理してからで、それと箱根崎君も右手が使えないのは大変そうだし、ここは色々と手伝って上げるのが師匠としてのボク役目かな? 席代わるかい?」


「はっ? いえっと大丈夫っす。これも集中力を高める修行に! ……おい、お前一人黙々と食ってないで少しは助けろよ。誰のせいで俺がこんなんなってんだ? なあ?」


「んん、っはー! 美味い! ……お前は何を遠慮してんだよ? チャンスだろ? 色々して貰えばいいんじゃね?」


「ばっ! 何を言ってやがっ! ……りますか。え? 手伝ってくれるんすか? いやぁ~悪いっすね。ちょっと取分けて下さいっす」


「……何だかキミら急に仲が良くなったね。やはり危険な相手に立ち向かった男性同士だと、生死を共にした分そんな風に打ち解ける物なのかな? 少しだけ羨ましいとボクは思うよ」


 恭也さんは件の日傘について突っ込ん出来たが、生憎俺は食事に忙しく咀嚼中だった。

 対照的に横の箱根崎は一向に食事が進まなく、絡めとったパスタもちょっとしか減って無いため、彼女が折角手伝おうと言って来たのに、コイツ断った上に俺に注文してきやがる。

 生姜の香りと醤油を含んだタレを舌で味わい、口の中に含んだ肉とご飯を飲み下し何とか一息ついた所で、恭也さんの提案は丁度いいと思ったから、かなり小声で受け入れろと言ってやったのに、折角の御褒美(?)を拒否しやがった。

 代わりに俺に食わせろとでも言う気か? まあ、取分けるくらいならしてやるけど、恭也さんの言うほど別段仲良くなったつもりは無い。

 早くしろと催促するかのような目でみて来るので分けてやったが、パスタは多い方が絡めやすくないか?

 まあ強いて答えるなら、何となくコイツの扱い方が分かっただけだな。


「え~と、あ、ちょっと失礼。ええとメールが……」


「ん? ああ構わないよ。ボクの方にも届いていたからね」


 俺の方は『窓』を操作するのに誤魔化す為スマホを取り出したのだが、上手く勘違いしてくれたみたいだけど、恭也さんにも届いてた?

 たぶん静雄や秋山達の事だろうと考え、そのままスマホも操作した所で俺は“やっちまった”と額に手をやり米神も抑えながら思うのだった


つづく

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