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163話

ご覧頂ありがとうございます。

 くそっ! 何時になったら箱根崎の野郎は相手の位置を掴むんだよ! 普段こんな風に体を目一杯酷使する事なんて無いから、絶対筋肉痛になるわ!

 つか絶賛乳酸が、特に太腿と脹脛に貯まってきてキツイ……。

 少しは体も鍛えろって、確かに静雄に良く言われていたけど、俺は肉体派じゃないんだよっ!


「だいたいだ、地味に避ける対象が増えてんだよ! 俺は命を賭けたドッヂボールなんてしたかねぇし、せめてルールを守りやがれ!」


 嬲る様に俺を狙って飛んで来る物体にイラつき、思わず悪態を吐く。

 最初に避けていた警光灯の破片に加え、何処から持って来たか知らんが出前に使う『おかもち』が飛んできて、一個当たりの避ける必要がある面積まで増えてやがる! もうこれ以上は避けられる気がしねー!

 いっそ風の要素で撃ち落と……ダメだ、早すぎて当てられる訳がない。

 それに飛んで来る物の速さが、心なしか徐々に加速している気もするし、そろそろ目が追い付かなくなってきて、と言うか疲れで足が縺れた!

 『おかもち』に気を取られ過ぎたせいで、このままじゃあの警告灯を避けきれない!


「トレードオン! 対象自転車! 来い!」


「なにっ! おい! 一体どうやった!? 俺の身を守る物がっ!」


 自転車は元々俺の所有物であり、多少等価交換の有効範囲の二メートルから離れようと、自分の物ならある程度は融通が効く。

 少し離れた所から箱根崎が何か文句を言っているが、無茶言うな!

 何とかギリギリセーフで腕の中へと自転車を呼び出し、派手な破砕音と共にぶつかった衝撃が腕にビリビリと伝わり手が痺れる。

 ……無理無理、あんなの直で当たれば一発ゲームオーバーだ。


 衝突した警光灯は粉々になって地面に散らばり、避ける対象が『おかもち』一つになったので、少しは余裕が出来るか?

 そう思ったところで、小走りに箱根崎が横に来て自転車の盾に隠れる。


「手前っ、危ねぇだろうが! 盾の無い俺に向かってアレが着たら、誰が奴を探るんだよ! 手前は囮の役割を確り果たせ!」


「はっはっ、箱根崎、いつまでだ? 幾ら、符の力を借りても、生身じゃ、限界があるんだよ!」


「……分かんねぇ」


「はっはあっ!? 分からん? だと!!」


 俺を囮に使いやがった癖に、まだ見つかってないのか……そんな箱根崎の絞り出すかのような声に一瞬頭へ血が上ったが、急激な運動後のせいで気持ち悪くなり直ぐ冷めた。

 それに考えてみりゃ、確かに一、二分位じゃ無理があるか。

 体感だともっと経ってる気もしなくないけど、俺にはそんなスタミナは無い。


「手前の陽気が強すぎて、陰気が掴めねぇんだよ! ちっとは隠せるようになりやがれ! だいたい何であの刀の化物があんな……を帯びてんだよ!」


 えっと? 陽気? 陰気? 隠せって……つまりは、俺の駄々漏れらしい力のせいで相手の位置が特定できないって事か? そんな事急に「やれ」と言われても、「はい分かりました」なんて右から左に出来る筈がない。

 相手の姿は全く見えないが、相手からは何処に居ても丸見えと変わらない自分が、如何に不利なのか改めて思い知らされる。


 しかも強敵を相手にして、突然眠っていた力が目覚めるなんて展開は漫画の中の戦闘民族だけで、実際にそんな事が起きるなら事故現場や戦時中に『超地球人』が生まれまくっているに違いなく、そんな現象が確認されでもしていたのなら、徹底的に人間と言う種は実験され尽しているだろう。

 現実は非常で、そんな奇跡は滅多な事じゃ起きやしない。

 もっとも俺の場合は「覚醒!」では無く、「隠せい!」なんだが。


「無茶言う、わっ!?」


「くそっ、もう持たねぇかっ! ミニパトまで走るぞ!」


 腕から下ろし、地面に立たせていた自転車へ俺達を狙った追撃が入り、符の効果も終に切れ始め、全体を繋ぎとめていたネジやらパーツが弾け飛び、最後にはバラバラになって地面へと落ち、ピンっやらカランなど様々な音を立て、極小単位で辺りに散らばる。

 不味っ! つい話をしていて、まだ『おかもち』が残っていたのに足を止めちまったせいで、自転車の盾も使用不能になっちまった。


 残る盾はミニパトくらいしかない。

 困った事にあそこには杉浦さんが居て、これ以上不可思議な事を見せるのも、

怖い目に遭わすのもって……今更か? 伊周も居る事だし彼女は安全なのは違いなく、気付けば既に箱根崎は走り寄りミニパトの陰に身を隠していた。

 素早いと言うか行動に迷いが無いので、俺なんかより動きが早く見える。

 やれやれ一息つく間も無いか、何はともあれ命あっての物種と言う訳だなって、……あれっ!?


「箱根崎、そっちへ行ったぞ! 避けろー!」


「げぇっ! 何でコッチに着やがったんだ!?」


 今度は俺じゃ無く、目標が何故か箱根崎へと変わり気付いた奴は、飛んできたそれをギリギリ横っ飛びで回避する。

 対象から外れた『おかもち』は、ミニパトにぶつかり潰れ鈍い音と、がらんどうな響きを立てながら地面に二度三度撥ね、転がり落ちた。

 今の箱根崎の避けっぷりは、見ているコッチの方が冷や冷やしたぜ。

 取りあえずは無事だった様なので、安堵の溜息が漏れる。


 杉浦さんも、今座席に座りながらさぞ驚いているだろ……そう言えば、最初の激突以来彼女の悲鳴が聞こえてこない。

 そう思って視線をまだ横たわる箱根崎から一端外し、ミニパトの運転席を見ると、全く何の感情も浮かべて無いように思える顔で、前だけを見つめる杉浦さんが居た。

 ……俺は確かに身を守れとは言ったけど、ここからじゃ姿の見当たらない伊周の奴が、彼女に何かやりやがったか?

 急に落ちたっきり全く動かない潰れた『おかもち』と言い、どうにも様子が変だ。


「……何故急に止まりやがる? 今止めを刺すには絶好の機会の筈だぞ? それなのに動きを止める理由がねぇ」


 箱根崎が上半身を起こし、転がったまま先程まで自分を狙っていた、ただの箱になった物を見て訝しそうにそう呟く。

 ただ不自然に静まり返る辺りを見て、未だに俺達がこの空間に切り離されたままである事に変わりは無かった。


「……流石に飛ばす力が尽きたとか? 箱根崎、今も何も感知できないのか?」


 逃げるのに出遅れ数歩離れた位置で、他にも俺達にぶつけられそうな物が無いか警戒しながら、箱根崎と杉浦さんの様子を見て声を掛ける。

 視界内に在ってぶつけられそうな物と言えば、あとは奴の被っていたヘルメットくらいだな。


「ああ、この分だと俺の勘違いで既に居ねぇのか? それとも単に時間切れか……流石に厄介な空間の維持に、馬鹿にならねぇ力を食ってるだろうしなぁ」


 辺りを見回しながら箱根崎が身を起こしてそう答え、地面に転がった時に体に着いた砂や土埃を払う。

 なるほど、制限時間が過ぎちまって奴さんの御遊びは終了した……?

 そう言われて俺も辺りを見回すが、まだ最初に感じた気配は消える事無く残ったままで、俺の感知している物と箱根崎が感じている物は、似ている様で別物なのかもしれない。

 今一俺はこれで終わりだとは思えなく、何より割と目立ちたがりな伊周が、何も言わず黙ったままなのがおかしい。


 箱根崎も自分の発言に自信をあまり持てないようで、盾となるミニパトからは離れず、転がっていた自分のヘルメットを拾い上げた時、それは起きた。

 どうやら俺も箱根崎も酷い勘違いをしていたらしい、ぶつける物が近くに無くとも『引寄せ』れば“事足りるのだ”と言う事を改めて知った気がする。


 そう、近くには何もぶつけられそうな物は無いため、警戒はしていても見えていなければそれも意味を成さない。

 俺の真横を通り左腕を掠めて行く圧倒的質量が、丁度ヘルメットを被り終え背中を向けていた箱根崎へ飛んで行った。

 それは紛れもなく車道に停めたままだった“奴が乗っていたバイク”である。


 飛ばしてぶつけるには大き過ぎて対象から無意識に外していたが、結局その辺にある物なら何でもよかったのだ。


「逃げろぉー! 箱根崎ぃーーー!!」


「なぁっ!」


 ぶつかる瞬間、振り向きざま避けきれないと察したのか、箱根崎は両腕を前に組んで右斜めに倒れ込みながら、バイクへ対峙したのが見えたけど、果たしてどれだけの効果が在ったかは分からない。

 そのまま半回転した状態になった箱根崎は、ミニパトの止まっていた車道とは別車線まで突き飛ばされ、更にそこで“別の何かにぶつかり”跳ね返って元の車線へと戻って来た。

 一体何が起きたのか理解できなかったが、兎に角慌てて地面に横たわる箱根崎へと駆け寄る。

 俺の左腕から伝わる出血と痛みだけは、これが幻では無く確かな現実だと告げていた。


つづく

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