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158話

ご覧頂ありがとうございます。

 結局話し合いは続いて時間も遅くなったので、明恵は早々時間を過ぎ就寝となり自分の部屋へ戻らせた。

 シャハは明恵が居なくなると同時に、退出したので今は居ない。

 何か他にも理由があって、師匠と一緒に来たのだと思っていたが、どうやら明恵の石の使い方を見に来ただけのようだった。


 いつのまにやらすっかり仲良しさんのようで、その内あの空気の抜けるような音で会話をしていても、俺は驚かな……いや十分凄いし驚くだろうな。

 何より、シャハのあの甘い物に対する熱意と言うか貪欲さから、如何に甘い物に飢えているかが窺えるし、明恵もプリン好きな仲間が出来て嬉しいらしくガッチリとお互いの思惑が一致してそうだ。

 種族と言うか、世界を超えた甘味同盟ここに在りってか?


 とまあ、現実逃避気味に二人の事を考えたりしていたのだけど、師匠の考えていた計画(?)が崩れ去る恐れが、予定していた祝いでの振舞い品に在るのも問題だったのだが、話が進むにつれ今度は中身のジュースよりも、その容器の方が新たな悩みのタネとなっていた。

 正直数日前のハチミツの容器の件で、師匠の財布と精神にダメージを与えそうになったのに、命名式自体に俺も顔を出す必要が出た時点で、師匠にその責任を投げっぱなしが無理だと分かった事で、迂闊にあちら側へ渡す事ができなくなった訳だ。


「う~ん、もうさ別に祝い事だしオマケで渡しちゃっても良くね?」


「アキート、お主もう面倒になってきて適当になっとりゃせんか? お主はそれで良いかも知れんが、多少値段が落ちているとは言えあの器だけで大銀貨二枚の価値が在るのじゃぞ! そんな物を無料で大量に放出なぞ、お主はどこの王侯貴族じゃと思われるわい!」


「あはは、値段の確認をもう済ませているなんて流石師匠って、この前渡した五百ミリリットルのでそんな値段するのかよ!?」


 冷蔵庫越しに交わす会話でお分かりのように、変にペットボトルの物価価値が高いせいで、深く考える事を避けていた問題にぶつかったのだ。

 あちら側とこちら側の違いと言うか、技術水準の局所的な差が値段に直接影響して、俺が渡そうとしていた1.5リットルサイズの物は完全にアウト。


 価値の理由はあれ程軽くてある程度丈夫な入れ物であり、しかも蓋が確りと出来て逆さにしても中身が全く零れない容器など、あちら側ではそう簡単にまだ作る事が出来ないのである。

 師匠の話だと、確かに五つの要素を付与された似たような道具は有っても、それらは高価かつ希少で普通には中々手が出ない物らしく、この村で普段使われている入れ物で例えるなら、動物の胃袋を加工した物や木製の樽はまだ上等な方であり、他は土の要素を使って作られた陶器のような加工品が精々ぽい。

 これは一度師匠以外の人とも話をして、どんな生活をしているのか聞いてみる必要もあるかもしれないと俺は思った。


「それじゃあどうやって振舞い酒も渡そうか。お酒だって……そうだ良い物貰ったんだっけ。師匠これもちょっと見て貰えるかな?」


「何じゃアキート、お主酒は買い忘れたと……」


 家に入る前に田神さんから貰ったあのお酒を、ベッドの上に放置していた箱から取り出し中身を見せる。

 特に変哲のないパッと見は良くある、翠色っぽい半透明なガラスで出来た瓶で、手に取ると“ちゃぷん”と音が耳に届く。


「これこれ、何か箱に入っていて凄い高そうなお酒だったんだけどさ。だいたいこういったガラス瓶か、さっき話していた透明の容器に入ってるんだわ」


「……アキートや、ガラスはこちらにも在るが、少々その製法で寺院と職方で聊か面倒な事が起きていて、今は余り手に入らない希少な物なんじゃ。何度もそう五月蠅く言いたくはないのじゃが、何でお主はそう厄介な物ばかり集めて来るんじゃー!!」


「そんなの俺が知るかよー! だいたい何で寺院とその職人? は揉めてんだよ! 厄介な物を集めている訳じゃねえ! 厄介な原因が他に在り過ぎなんだ!」


 流石に二時間も話していると、ちょっと頭が煮詰まってきて師匠も俺もイライラしていたようだ。

 お互いそれが分かるので、一端呼吸を整え暫しの間黙る。


 それにしても、今の話からガラスがあちら側にも在るのは分かったけど、選りによって件の寺院と揉め事の本となっているらしいとは、俺もその職人も運が無いとしか言いようがない。

 鍛冶や硬貨の鋳造等、生活に密着する物を抑えている寺院と揉めて、尚生き残っているその職方達も凄いと思う。

 どちらも無くてはならない者同士の筈だけど、一番迷惑を被っていそうなのは師匠のような商人だし、更には普通に暮らす人達に違いない。

 さっさと解決して貰いたいな……俺が余計な事で怒られない為にも。


 しかし、何なんだろう? 知らない間に俺の成す事する事、全て厄介に見舞われる呪いでも掛けられたのだろうか? でも思い当たる節が全然な……い。

 一瞬、あの稀に俺の頭の中に響くあのシステマチックな声が思い出された。


「ははっ、まさか……ね」


「うん? 何がまさか何じゃ? しかしそうなると、お主に物を頼む場合は一度必ず確認しなければ迂闊に出せんの。他に方法でも在れば苦労はせんのじゃが、当日アキートに封を開けさせ、手ずから配らせるか? それならば別段問題にはなりゃせんぞ」


「……ん? 封をこっちで開けて~か。でも、それだと振る舞うって感じじゃないし、折角子供達を祝いに来た人達を並ばせて渡していくなんて、何だか偉そうで、俺嫌だな」


「偉そうで嫌……か、まあ確かに振舞いと言う感じじゃなくなりそうじゃな。ワシも、もう少し捻りが足りんかったようじゃ。許せアキート」


 師匠は俺の言葉でその場を想像したのか、軽く頭を振って顔を手の平で拭う様に揉むとそう告げる。

 何だかんだ言いながら、俺の事を考え要望を聞き入れてくれる師匠の事を嬉しく感じた。

 けど、今の師匠の考えてくれた入れ物を渡さずに配る案は理に適っている。

 ただ何か上手く言えないけど、もう少しで喉元までいい案が登ってきているのに出てこなく、そんなもどかしい感じがして俺も両目を瞑り眉間を揉む。


 封を開けて皆に振る舞うのはいいんだけど、俺が配るのがダメなんだ。

 主役の子供たちに配らせる……何か違うな、それに一本ずつ封を開けて俺から手渡してなんて同じ事だし、まだるっこしい。

 いっそ全部一気に中身を出せれ……そうだ! ペットボトルごとじゃ無く中身“だけ”を送ればいいんだよ! 俺のトレード窓は、あの箱根崎の放った黒い砲弾だって枠に入れて、相手に撃ち返したじゃないか!

 ピコンと閃き浮かんできたこの作戦に、脳内で満場一致の全俺がGOと命令を下し思わず立ち上がる。


「これだ! あとは中身を受け取れるような大きな器が在れば!」


「こ、これ、アキート、何をそんなに一人で興奮しとるんじゃ。ワシにも分かる様に言ってくれんと、答えようがないぞ?」


「だから、振る舞う飲み物だって! 最初から悩む必要なんて無かったんだ。難しく考えすぎて馬鹿になっていたんだよ。簡単な事だったんだ!」


 俺は考え付いた事を師匠に話したところ、それならばと師匠と初めて会った時に渡された『底なしの水袋』を使えば大丈夫だろうと言われ、あの袋の許容量の多さを思い出してなるほどと思う。

 結構蛇口を全開気味に捻って水を入れたのに、十分近くも水を貯え込んだあの袋は凄い物だった。

 水道水は十秒当たり、大凡だが十二リットル/分なので(各家庭や、場所によって差があります)、一袋でだいたい百二十リットル近く入る筈だ。

 今師匠の手元にある物と、俺の部屋にある二つを使えば途中で追加して中身を足していけば、滞りなく祝いに来た人達に楽しんで貰えるだろう。


 唯一の問題と言えば、空になった後の沢山のペットボトルの容器くらいだが、これも多少は渡しても良いだろうし、その判断は師匠に任せればOKな筈だ。

 不要となった物に関しては、トレード窓の機能である『ゴミ箱』を使えば簡単に処理できる。

 ……気になるのは『ゴミ箱』から、黄泉に送られるとか妙な事を伊周が言っていたけど、たぶん奴なりの冗談だよな?


 師匠もやっと解決したかと、安堵の溜息を吐いていたけど、ベッドの上にある命名式で渡す予定の、まだ見せて無い品物たちをチラッと見やったが、今これも見せて良いものか大いに悩む俺だった。


つづく

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