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157話

ご覧頂ありがとうございます。

 何だか凄い話になって来たが、明恵が不思議そうな顔で「お兄、お店屋さんになるの?」と聞かれたが、軽く『そうだよ』なんて言って母さんに漏れても事なので、「アルバイトだよ。ほら去年の夏休み、俺が学校無くても朝から出掛けていた時があっただろ? あれと似たようなもんだな」と明恵がこの事を話題にしてしまっても、誤魔化せるように有耶無耶にしておく。


「そんな訳で金曜日に俺がやる事は、仕事をする上で働く場所へ顔みせと、簡単な面接みたいなもんか?」


「ふむ、皆に顔と言うか為人を知ってもらうのは間違いないが、面接とは中々大仰じゃのう。別に王城に出仕したりハレーク(貴族)に合う訳でも在るまいし、そう大層な事ではないの」


「え? 人を雇ったりする時に面接したりはしないの?」


「うん? 急に人が必要な時以外に、面接など要らんじゃろ? だいたい雇う前に紹介した相手が保証となり、その為人を聞く訳じゃし」


 面接はと言うか、“何故?”とばかりに俺の発言に首を傾げる師匠を見ると、俺と師匠の頭に思い浮かべる『面接』の意味合いが少し違う様な気もする。

 どうやら求人に関しては、あちら側だと普通は直接本人が赴く事は無さそうな雰囲気だったので、詳しく聞かずに流す事にする。

 俺がこうして弟子になったりしなければ、冷蔵庫と師匠の持つ『絵』が繋がったままだとしても、こんな風に色々と教わる事も無く、もっとビジネスライクな付き合い方に終始していたかも知れない。


 そう言う意味では俺はとても幸運だったと思う……余計な厄介事も引寄せちまったけどな。


「プリン問題は、俺が明後日顔を出す事で解決するなら、プリンその物は必要ない感じかな?」


「そこなんじゃが、参加した者全員に渡すのはダメじゃな。なんせ今では“幻の甘味”じゃしの、強いて上げるとすればその“特別”を口にするのは命名式の主役と村の主だった者達じゃろ?」


 と、ニヤリと笑う師匠の顔がとても腹黒く見えます。

 つまり、食べられる者はこちらが好きに選ぶと言う訳ですね? 流石師匠! そこで更に限定物だと名を広めて、価値を高めようって魂胆だな。


「絶対に食べられない物じゃ無く、特別な場合は手に入る可能性を作って置く……命名式を先例に、周りの反応を見て他でも活用すると?」


「うむ、それが良いじゃろう。なんでもそう簡単に手に入ると分かれば確かに便利だが、代わりに商品の価値が落ちてはのう……嗜好品は特にじゃな」


 今の俺の気分は、時代劇に出て来る腹黒い商人と悪代官の“そちも悪よのう?”って奴だ。

 ただ何か思い当たる節でも在るのか、師匠は独り言のように最後の台詞を絞り出すと、苦々しい口調と表情で髭を扱く。

 まあハチミツでさえあの値段だったし、そりゃ甘いってだけで特別な嗜好品になる筈だよな。

 それにプリンの美味さは、師匠の居る暑い地域だからこそ更に美味しく感じるのだろう。控えめな甘さに加え、独自の食感と冷たさは今まで食べた事のない未知を、脳と舌へ与える『幻の甘味』として売り出せるに違いない。


 ……あれ? そうすると俺が祝いの席で皆に振舞おうとした炭酸飲料は、それを上回っちゃう? 代わりの物を用意して振る舞うの止めちゃおうかな?

 そう考えて師匠に訊ねようとした所で、明恵が「あ~あ」と声をだす。


「ん? 明恵どうした? やっぱり壊れたのか?」


「んと、石が空っぽになった。また貯めるシャハ待ってね」


 明恵はそう言って電源? が落ちて動かなくなったゲーム機をシャハから受け取ると、張り付けていた透明に近い色を失った石を外して、右手に握りこみ「む~」と唸る。

 何かもっと儀式めいた事をして補充するのかと思ったら、何だか脇に体温計を挟んで熱でも測るみたいな様子な明恵の姿に、少し笑ってしまう。


 師匠もそんな明恵を面白そうに眺め、シャハは自分の教えた事を実践する明恵を応援する様に、一緒になって拳と言うか腕にまで力を込めてコブが出来ていた。

 ちょっと軽く息を止めるくらいの時間見つめていたが、明恵がそっとその手の中を覗き込み「できた!」と、嬉しそうに俺達にその中身の色が戻った小さな石を見せてくれる。

 ……バッテリーの充電より短い時間で貯まっていたけど、あとは遊べる時間がネックか? もう少し石が大きければ十分RPG物にも対応できそうだな。

 因みにこの充電方法は、命名式前の子には難しいらしい。

 それでなくとも、放っておけば自然に少しづつ貯まるそうだ。

 子供の玩具になるくらいの小さな石だから、それで済んでいるのだろう。


「へぇ~もう出来ちゃうなんて、明恵は凄いな。貯まった事が分かるには色の変化で測る感じなのか?」


「ん~ん、貯まるとピリピリっ! て教えてくれる」


 そう言ってまたゲーム機をシャハに手渡し、レースゲームを再開している。

 ピリピリ……? なんのこっちゃ? あっ! ピリピリってあれか静電気を感じるような感じか! そういや俺も初めて師匠に腕を掴まれた時は、電撃を受けたような痛みを感じたっけ、あれの優しいバージョンか?


 師匠もそれとなく画面を気にしたりしているが、どちらかと言うと流れて来るBGMに興味があるようで、ふんふんと偶にテンポに合わせて指を動かしていた。


 楽しそうにしている明恵と、しゃがんで手元が見えるように遊んでいるシャハの画面を軽く覗き見ると、シャハはどうやらルールは余り分かってないようだが、ゲームの操作には慣れたようで、デフォルメされたカートに乗った緑色のトカゲを使い、前方を走行する赤い帽子を被ったキャラに、コース上に置かれているアイテムで攻撃を放ち、見事にクラッシュさせコースアウトさせていた。

 スピードは余り出ていないが、他のキャラを排除するのが何気に上手い。

 これは最初に入れていたソフトの遊び方を教えたら、十分嵌りそうだな……基本的にデカいトカゲ(龍)を狩るゲームだけど。


「気になっていたんだけど、あのゲーム機、道具ね。実は壊れていてほったらかしにしていた物で、何であの石を使えば動くのか不思議なんだけど、師匠は理由が分かるか?」


「なんじゃ、あの道具は壊れておったのか? あの石は『魂の石』と言っておるが他に『アヴァラカキ』つまり、地はア・水はヴァ・火はラ・風はカ・空はキを示す。これに全てを統括する『識』が加わればソウルの器に成りえる物じゃ。その識を抜かした、他の要素が全て揃った物だからの。足りない物を補い『動かす』と言う『識』を与えられれば、動くのは当然じゃろ? もっとも意味も知らずに使っておる者が大半じゃがな」


 俺の質問に対して、どこか複雑そうな表情でそう語る師匠は疲れて見えた。

 それにしても意味を知らない? どういう事だ? 何故この石の意味を知らない人の方が大半なんだ?

 俺は師匠の語った話が信じられなくて、もう一度聞き間違いじゃない事を確認しようと顔を上げたが、意図に気付いていたようで口に出す前に手で止められる。


「ワシは昔この石を金に換え、事業に拡大させる前に寺院を訪ね、この石はどう言った物なのかを調べようとした。じゃが懇意にしていた知り合いに言われた事は『あなたは聖職者に列せられる事をお望みか』と、笑みは変えないが目は冷え切っておった。暗に何処の寺院に顔を出しても、同じと言われたようなものじゃったな」


「なんだよそれ、殆ど門前払いも良い所じゃないか。本当にその人は師匠と仲良かったのか?」


 思わず声に出してしまったが、返って来たのは師匠の悲しそうな笑みだけ。

 もしかすると、結構仲の良い友人だったのだろうか?

 少しだけ、自分の浅はかな言葉に嫌気がさす。


「だからワシは思い切って知識の探求者として名が知れる、“忌まれる全持ち”の居場所を探し出し密かに合う段取りをつけ、教えを乞うたんじゃ。ある程度の石の事と他にも知識を得たが、……お蔭で見返りに色々と長年、無茶な要求をされはしたがの」


 密かに接触と言う事は、それほど世間には知られては不味い相手なのか?

 “忌まれる全持ち”の(くだり)から更に疲労が増した表情に変わった事で、何某かその相手が面倒な人物だった事を窺える。

 こんな師匠の姿は初めて見るかも知れない。

 俺はこの話に出てきた相手には、これから先会わないで済む事を祈る。


 明恵と遊んでいたシャハもその名を聞いて反応し、画面から目を離したのか操作していたカートが何かに接触し、スピンをして停止する独特の音が聞こえて来た。

 この場でこうして教えてくれるのは、今居るシャハと俺、それに明恵は信頼と信用に値すると思われている? だとしたらこれ以上師匠が話さなければ、聞かない方が良い事なのだろうか?


「あ~つまり師匠がこの事を知っている方が、実は不自然と言うか知っている事を、迂闊に吹聴して良い話題じゃない事は分かった。だとすると本当にあの石は凄い物なんだな。そりゃ金になる訳だ」


「うむ、だがワシは当時こうも思った。寺院はその事をどうしても隠しておきたかったのではないのかと、日常的に使われ便利な道具として普及するのは良いが、それを詳しく知られ疑問が生まれるのは得策ではない。更に言えば、石を昔から功徳と称して集めている寺院に妙な疑いを持たれる事は、なにより避けたい筈なのも理由じゃろう」


 キナ臭いと言うか、余り触れない方が良い知識らしいので、これ以上の追及は止める。明恵に石を借りて調べようと思った事もあったが、問題が起きない限りはこれも保留かな?

 昔から好奇心は猫も殺すって言うし、けど誰が最初に言ったか知らんが猫を殺すってかなり酷い諺だよな。

 取りあえず、この妙な空気を変える為にも別の話題をだす事にした。


「あと、掘り返すようでなんだけど、プリンより甘い飲み物を振る舞うつもりでもう揃えたんだけど、師匠も一度口にしたアレどうしようか?」


「ほわっ! そうじゃった! あの時口当たりが変わっていて甘さより驚きの方が勝っておったが……今から振舞い酒だけに変える事はできんか?」


 師匠と俺が声に出した、“プリンより甘い飲み物”の言葉にシャハが鋭角な動きで、首をシュパッと音がしそうな勢いで振り向いて来たが、明恵が「ジュース? ここに在るよ」との台詞に体ごと反転し、嬉々? として微炭酸なオレンジジュースをコップで受け取るのを見ながら、師匠に頼まれていた酒の事も思い出し、何だかもうぐだぐだになってきて、気持ちばかりが逸った準備の段取りの悪さを思い知り、俺と師匠はがっくりと項垂れるのだった。


つづく

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